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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
02 メッサー冒険者ギルド編
18/269

018話 初クエスト後

初クエスト後、闇治癒士として通常営業した。


治癒の間、クエストの興奮が醒めなくて困った。

変なこと(厨二病チックなたわごと)を口走りそうになる。

手が震える。

膝が震える。

わけもなく涙が滲む。

じっとしているのが難しい。


大怪我を負っているお客さんに気遣われてしまった。

お客さんが1人でよかった。

お客さんはダンジョン内で背後から魔物の不意打ちを受けたらしい。

後頭部から背中に掛けてかなり深い傷を負っていた。

傷を鑑定し、体内に魔物の爪や毛が残っていないことを確認。

傷が深すぎるので洗浄は中止。

ヒールを掛けて行く。

呪いが解けたので「ヒールってこんなに効くんだ」と、感動するほど良く効く。

傷が塞がってゆくのを見ながら「そ~~っと」ヒールを掛け続け、傷跡も消し、最後に鑑定して異常が無いことを確認し、お客さんを送り出した。



◇ ◇ ◇ ◇



お客さんの帰った後の治癒室で一人震えていた。


初めてゴブリンを殺した。


元の世界では、子供の頃に虫やザリガニを殺した。

ある程度大きくなると釣りが趣味になり、魚を殺した。

エサのゴカイやジャリメ、ミミズを殺した。

鉢植えの植物を枯らしたこともある。


職場の飲み会で居酒屋へ行って、イカの姿刺しなる物を食べた。

イカは生きていた。

ピクピク動いて色が変わった。

胴が切り離され、頭と足だけになっても、イカは逃げようとしていた。

笑いながらそんなイカを食べた。

よく考えたら地獄だ。

だが何とも思わなかった。


10億個の乳酸菌が生きていることが “売り” のヨーグルトもガツガツ食べた。

胃酸の海で乳酸菌大虐殺だ。

やはり何とも思わなかった。



初めてゴブリンを殺した。

マロンが1匹。私が2匹。

マロンは何とも思っていない。

私はショックを受けている。



お客さんが帰って治癒室を片付ける。

が、なかなか片付けが終わらない。

何から片付けていいかわからない。

動悸が収まらない。


そわそわしていたら師匠が入ってきた。


「あ、お客さん帰りました」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「あの・・・ なにかありました?」

「・・・ちょっと来い」


師匠の部屋に連れて行かれた。


「気づいてるか」

「・・・え」

「おまえ、初陣の兵士のような顔をしているぞ」

「・・・」

「苦しいだろ」

「・・・」


抱きしめられた。




師匠は信じられないほど美しかった。

アフロディーテが降臨されたらこんな感じだと思った。

師匠はやはり師匠だった。

何度挑んでもやさしく受け止められ、したいようにさせてくれ、しかし最後は撃沈に次ぐ撃沈。

何度目かの轟沈のあと、巨大な双丘に顔を埋めて眠ってしまった。



翌朝何事も無かったかのようにフロントに立つ師匠を見て、この人には一生頭が上がらないことを悟った。



◇ ◇ ◇ ◇



クエストを終えたら装備の手入れ。基本だ。

自分の命が掛かっている。


マロンの首輪、問題なし。汚れを落とす。

レザーアーマー、問題なし。汚れを落とす。

スモールシールド、問題なし。汚れを落とす。

ショートソード(右)、刀身に曇りがある。おそらく骨を切った跡だと思う。

ショートソード(左)、剣先の刃が潰れている。頭が真っ白になってゴブリンの頭蓋骨を叩きまくったからだろう。

その他の装備、問題なし。


ショートソードを研ぐ。

ショートソード(右)は軽く研いだだけで曇りが消えた。

ショートソード(左)は刃を出し、寝刃合わせで調整する。


自分の装備の手入れが終わったら、師匠の巨大な両刃剣の手入れをする。


最近師匠は夜中にフラッと出かける。

どうやら魔物を相手に辻斬りをしているようなのだ。

死体は巧妙に始末しているが、マロンが見つけた。

はっきり言わないが、師匠は現役復帰を考えているようだ。

師匠の両刃剣を見るとうっすらと曇っている。骨を切った跡だろう。

丁寧に磨き上げた。



◇ ◇ ◇ ◇



初クエストでゴブリンの魔石3個を持ち帰った。

色は薄緑。大きさは小粒。属性無し。特殊能力無し。

最低ランクの魔石。俗に言うクズ魔石だそうだ。

殺されてクズ呼ばわりではゴブリンも浮かばれない。


ギルドの買い取り窓口の評価は1個あたり銀貨1枚。

あわせて銀貨3枚(約3000円)で引き取ってもらった。

3000円というと安いと思うだろうが、こっちの世界の物価水準から言うとそれなりに使いでがある。

そしてクズ魔石という割には引き取ってくれる。

ということは用途があるのだろう。

何に使えるのか師匠に聞いてみた。


「いい目の付け所だ」


と褒めてもらった。

ほとんどの冒険者は魔石を獲ってきて売るだけで、何に使われているのか知らないし、知ろうともしないという。


簡単に言うと魔石は魔力の蓄電池(兼)魔道具。

火・水・風・土の属性の魔石と、無属性の魔石がある。

火属性の魔石に魔力を通すと自分の魔力+魔石が持つ魔力分の火魔法を使える。

自分に火属性がなくても、火属性の魔石を使えば小さなファイヤー程度(焚き火を起こす程度)なら使えるのが最大のメリットだ。


ちなみに火属性の魔石は、小さくても種火用として根強い人気がある。

水属性の魔石に魔力を通すと自分の魔力+魔石が持つ魔力分の水を得られる。

ダンジョンに潜る冒険者パーティで、水属性メンバーがいないときは重宝する。

水筒代わりかな。


「すると風と土は微妙ですね」


と言うと、


「戦闘用だ」


との答えが返ってきた。

風属性の魔石を使って「ウィンドカッター」を唱えれば、それだけ巨大な切り裂き風魔法を使うことができる。初級者でも上級者並の攻撃魔法を使えるという訳だ。


「いいこと尽くしじゃないですか」


と言うと苦笑された。


「冒険者で風属性、土属性の魔石を持ち歩く奴は一人もいない。火属性、水属性の魔石を持つ奴は、多少はいるだろう。なぜだと思う?」


わからなかった。

お前はメリットしか見ていない。デメリットを見ろ、と頭を叩かれた。

師匠と一問一答しているうちに、ようやくわかった。

冒険者が魔石を持ち歩かない理由はスペースの問題とカネ勘定だった。


使った魔石の魔力は空になる。これだ。

魔石は使った後はデッドウェイトになる。

持ち帰るのは面倒だ。

迷宮内でお宝をゲットしたらどうする?

空になった魔石を捨てて、お宝を持ち帰ることになる。

しかし使い捨てアイテムにしては高い。

(それなりの容量のある風属性、土属性の魔石は結構なお値段になる)


火や水は命に直結するから最低限必要な小さな魔石を持って行くが、風や土は冒険者自身の攻撃手段でカバーできる。

最初から魔石を持たなければ余分の食料を持てる。迷宮内の探索期間が延びる。

私はゴブリンのちび魔石しか見ていないので気づかなかったが、脅威度の高い魔物の魔石は大きさ重さともに立派らしい。持ち歩くにはちょっと・・・というわけだ。


ここまではわかった。

ではなぜギルドはクズ魔石を買い上げるのか?

師匠の回答は明快だった。


「まとめて騎士団が買い上げるよ」

「騎士団は大々的に馬車を使うから魔石も大量に運べる」

「騎士団の作戦には大量の魔石を使う。使って空になった魔石を捨てて、魔力充填済みの魔石にどんどん取り替える」

「資金力が違うのさ。ケチって戦に負けたんじゃ本末転倒だからな」

「風属性や土属性の魔石は水兵や工兵が大量に使うらしいぞ」


ところで私が狩ってきたゴブリンのちび魔石はなにに使うのです?


「大量に集めて大容量の魔力充填器として使うようだ」


なるほど。勉強になりました。

ところで光属性、闇属性の魔石はありませんか?


「あったら教会が黙ってないだろ」


そりゃそうだ。




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