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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
16 王国高等学院編(2年生)
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177話 2年生のはじまり


2学年の始業式が行われた。


1学年から2学年の間にいなくなる生徒がいた。

私達は「通い」の穏健派貴族の子弟・子女とはあまり交流がないので詳しくはわからないが、かなり退学者が出たようだ。


一方武闘派もかなりの退学者を出している。

派閥の頭領が失脚すると学校に居づらくなるらしい。

すぐに他の派閥へ乗り換えることは忌み嫌われるという。


ということで、2年生の始業式に訪れる父兄はグッと減った。




始業式が終わり、ハーフォード公爵夫妻を寮までお連れしようとしていた矢先、大柄で上品な貴族が近付いていた。



「これはハーフォード公爵。おお、マグダレーナ様もご一緒で」


「おお、ベルトゥーリ公爵。ご機嫌麗しゅう」



これが我々の命を付け狙うベルトゥーリ公爵ね。

その後ろに有象無象の小物がいっぱいいるね。

私とマキは3歩下がって下命を待つ体勢を取り、乙女隊は絡まれる前に寮へ戻らせた。



「寮まで駆けっこよ!」


「負けないわよ!」



休暇中にイルアンでキッチリ鍛えたので走る姿が様になっている。

逃がすまいと彼女らを包囲する動きもあったが、あっさり突破して行った。


さて問題のベルトゥーリ。

ウチの公爵夫妻をつかまえて話し込んでいる。

ただし、難解な貴族用語(貴族用語検定2段相当)を駆使しているので私とマキには何を言っているのかわからない。

かなり失礼なことを言っているらしいことは、その下卑た表情を見ればわかる。


ウチの公爵夫妻はにこやかに応対している。流石貴族だ。

だが、だんだんと取り巻き連中が集まってきたので私達もウチの公爵夫妻の後ろに付いた。

すると取り巻き連中が私とマキを挑発し始めた。



「昨年の荒神祭のあれはオークではない。ゴブリンにオークのマネをさせていただけだろう」


「さあ、私どもはそれを判断する立場にはありません」


「その証拠にすぐにゴブリンの死骸を片付けたろう。恥知らずめ」


「片付けたのは王宮騎士団でございますね。あなたは・・・ル・テリエ子爵ですね。ル・テリエ子爵が領地を掛けて王宮騎士団を恥知らずと罵っていると。そう団長にお伝えしておきましょう」


「ぐぬぬ。そこまでいうなら雪辱戦をしてはどうか」


「ええと、言っているのはあなたであって私どもではございません。ウチは穏健派なので。あなたこそ武闘派の一翼を担われる大貴族。あなたの息子にでもさせたらいかがですか?」


「うちの息子に出来ないとでも思っているのか。馬鹿め」


「ならば論より証拠。させてみてはいかがでしょう?」



あちらでも同様のやりとりがされており、やんわりと断る公爵。

公爵がのらりくらりしている間にマグダレーナ様が私を手招きした。

ひそひそと相談。



「そろそろいいかしら?」


「この様なことがあるだろう事は、陛下のお耳には?」


「入れてあるわ。陛下も楽しみにされているわ」


「陛下のスタンスは?」


「表向きは貴族同士の争いとなる。何も起きぬうちに王が止めるとなると政治的にまずい。事後は上手く収める、と」


「どこまで許されるのです?」


「特に制限はしないと」


「既に私は情けを掛ける気は微塵も無いのですが」



マグダレーナ様はにっこりと微笑んだ。

かなり怖い微笑みだった。



公爵の隣に行く。

ベルトゥーリのおっさんがターゲットを私に変え、やたらと私を挑発する。

2年生にも荒神祭をやらせる、それに出場しろ、と言っていることはわかる。

でも難しすぎる表現なのでそれ以外が理解できないんだよなぁ。

相当失礼なことを言っているらしく、周囲の武闘派貴族共が笑っている。

普通は笑いを堪える所だろうが、声を出して笑っている。

わかんないよ~と、ぽわぁ~んとした表情で聞いていたら、ウチの公爵が必死に笑いを堪えていた。


公爵に合図(もうちょっと話を長引かせてください。最終的には受けるで大丈夫です)しながら、私は私のルビコン川を渡ることにした。

頭を掻いたり、袖のホコリをそっと払ったりしながら、素知らぬふりをして袖に隠し持ったタクトをベルトゥーリ公爵へ向けた。


1射。2射。


そして奴の話の終わり際。

荒神祭を承知したウチの公爵に向けて嫌な笑みを浮かべたベルトゥーリ公爵に、今日最大出力の3射目を浴びせた。


一瞬ベルトゥーリ公爵は妙な顔をした。目に見えない圧を感じたのだろう。

でもなにもない。


ついでにベルトゥーリ公爵の後ろにいた、ベルトゥーリ公爵家の家の者らしき連中にも浴びせておいた。



両公爵が踵を返して寮に戻る際。

背後で叫び声が上がった。

ベルトゥーリ公爵が倒れたらしい。


後ろで騒いでいる。

こちらに向かって詰め寄ろうとする小貴族ども。



「何をした!」


「何か?」


「何かではない! 公爵が・・・」


「儂は何ともない。騒ぐな」



すぐにベルトゥーリ公爵は立ち上がり、ホコリを払っている。



「武の神髄を究めていらっしゃるベルトゥーリ公爵閣下に私ごときが何か出来るわけがないでしょう。常識でお考え下さい」



小貴族どもはベルトゥーリ公爵の無事を確認するとすぐに戻っていく。



「公爵!」

「公爵!」

「父上!」



あれはコジモ・ベルトゥーリとその取り巻きだな。

遠目でわかりにくいがベルトゥーリ公爵は顔が赤らんでいる様に見える。

軽度の火傷かな?



◇ ◇ ◇ ◇



寮に戻ると公爵が全員を集めた。


乙女隊。

モニカ、ラクエルの平民子女。

マリアン以下寮使用人。

ソフィー、クロエ、マロン。


アルとパロは外で監視。



公爵から説明があった。

新学年が始まって早々ではあるが、明日荒神祭を行う。

しかも2年生を対象とする。


建前としては、

昨年の荒神祭の成功を受け、古の荒神祭を復活させる。

対戦する魔物はオーク、ハイオークとする。

ただし1年生にいきなりオークは難しかろう。

昨年を経験した2年生で行う。

オーク複数体を相手にする(3体:ハイオーク1、オーク2)。


参加するのは領地次第だが、昨年の成績優秀チームは必ず参加。

不参加は不名誉の証とし、爵位を一等降格させる。

当然ベルトゥーリ公爵の子息も参加。



既にベルトゥーリ公爵から王立高等学院にアプローチされており、了承済み。

これは王宮でも確認済み。

今の王立高等学院の学長はベルトゥーリ公爵領出身者。



「何か質問はあるか?」



公爵の言葉にソフィーが1つ提案をした。

公爵は大いに頷いた。



◇ ◇ ◇ ◇



今、王都騎士団・王立高等学院警備隊のキャメロン副隊長、タイラー直長と私とマキが闘技場の入口の前に立っている。


中に入ろうとすると邪魔をする者がいる。



「明日の荒神祭まで誰も通すことは出来ぬ」


「お前は誰だ。なぜ警備隊のフリをしている」


「貴様こそ誰だ」


「私は王都騎士団・王立高等学院警備隊副隊長キャメロン、こちらは直長タイラーだ。貴様こそ誰だ!!」



職務を侵されたと判断された副隊長の怒号が響く。

相手はビクリとしてぼそぼそと言い訳を始めたが、名前は述べない。



「ふむ。ベルトゥーリの者か。よく憶えておく」


「それならそこの2人の方こそ怪しいではありませんか」


「何が怪しい? わたしはこの2人の進言を受けて明日の荒神祭の準備に問題が無いか確認しに来たのだ。 お役目である。そこをのけい!」



お役目と言われ、しぶしぶ横に退く小物。

どうやら貴族ではない。

ベルトゥーリの奴隷か家臣らしい。

こちらを思い切り睨んできた。



「前回のことがありますからね。事前に魔物を見させて貰いますよ」


「貴様、不正をする気かっ!」


「まさか。どこかの誰かじゃあるまいし。副隊長と直長と一緒に見ますよ」


「・・・」



副隊長と直長と一緒に闘技場地下の檻を見て回る。

オークとハイオークが檻の中からこっちを睨んでいる。


副隊長に聞く。



「これ、どこのオークかわかりますか?」


「バイン山脈だな。耳の形が特徴的だ」


「またピントゥー二ですか」


「・・・」


「あそこの幕の掛かった大きな檻は何ですか?」


「知らぬ。私は見たことないな」


「一緒に見ませんか?」


「そうだな」



「まて」



ん?

入口の奴隷の声じゃない。

どこかで聞いたことがある声だな。



「見ることを禁ずる」


「これはベルトゥーリ公爵。こんなむさ苦しいところにようこそ」


「・・・」



ふん。順調に顔色が悪い。



「檻から離れろ」


「気分がお悪いのですか?」


「檻から離れろ」


「顔色のほうが・・・」


「もう一度だけ言う。檻から離れろ」



ベルトゥーリ公爵の後ろからベルトゥーリ騎士団員が大勢出て来た。



「オークは危険だ。明日まで暴れぬよう儂が見張っておる。邪魔をするな」



◇ ◇ ◇ ◇



キャメロン副隊長の合図で地上に戻った。



「ベルトゥーリ公爵の言動については上に報告する。ベルトゥーリ騎士団が忍び込んでいることもだ。だがあの檻には何がいたのだ? あいつらは何を隠している?」


「オーガです」


「何だと!!」


「オーガです」


「何故わかる」


「オーガと対峙したことがございます。あの檻の主の息づかいはオーガで間違いありません」


「なぜオーガがいる?」


「明日の荒神祭で使うためでしょう」


「荒神祭でそんな危険な魔物を?」


「ええ。これは学院のTOPまで買収されていると見て良いでしょうね。副隊長様は先に同僚へ情報共有し、その後、上司へ報告をお願いします」


「おう。わかった」


「これはくれぐれもお願いしますが、上司の反応が思ったより鈍かったとしても越権行為はしないで下さいね。本件は妙にきな臭いので。副隊長様は見たこと聞いたことを報告する。それだけ」


「おまえ・・・」



キャメロン副隊長とタイラー直長は、まじまじと私とマキをみた。




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