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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
02 メッサー冒険者ギルド編
17/268

017話 初クエスト

クエスト(Quest)は直訳すると『探求』だが、この世界では冒険者ギルドで公示される『危険を伴う業務依頼』を指す。

そして危険度に応じた報酬が支払われる。


冒険者ギルドは種々雑多なクエストを扱っている。

まず挙げられるのが、ダンジョンで入手が期待される特殊な武器、レアアイテム、宝石類の納品。

これは王侯貴族、大金持ち、大商人から依頼がある。

報酬は非常に高額だが、それに比例して入手が困難である。


対象が特殊な武器の場合、大抵は入手した冒険者が自分で装備する。

この場合、同じ武器を2つ以上見つけないとクエストを達成できない。

従って、通年で依頼が出っぱなしになる。

いわば冒険者ギルドの『クエストの顔』である。


レギュラークエストは、だいたい次の4つが挙げられる。


鉄、銅、銀、金、ミスリルなど金属のインゴットの納品。

これは鍛冶屋から通年で依頼がある。

インゴットは精錬する必要がないため、高額で取引される。


魔物の肉の納品。

これはダンジョン産、非ダンジョン産を問わない。

肉屋、料理店から通年で依頼がある。

脅威度の高い魔物の肉は美味かつ滋養があるとされ、取引額も高額になる。


魔物の素材(角、牙、皮、毒、肝など)の納品。

これもダンジョン産、非ダンジョン産を問わない。

武器屋・防具屋から通年で依頼がある。

脅威度の高い魔物の素材は取引額も高額になる。

貴族の玄関を飾ったり、高級ポーションの材料になる。


薬草の納品。

これもダンジョン産、非ダンジョン産を問わない。

薬草などポーション屋が自主的に採取を行えば良さそうな物だが、魔物が徘徊する土地に生える薬草は、採取自体が命がけになる。

従ってポーション屋から通年で依頼があるし、依頼が出ていなくとも珍しい薬草が手に入れば喜んで買い上げてくれる。

脅威度の高い魔物が徘徊する土地にしか自生しない薬草、瘴気漂う雰囲気にしか自生しない薬草などは高額で取引される。


これらのクエストは冒険者ギルドが依頼者と受注者(冒険者)の仲介をする。

受注可能な冒険者レベルを告知し、我こそはという冒険者に受注して貰う。



冒険者ギルド自身が依頼主になることもある。

地域で増えすぎた魔物の駆除、有害鳥獣の駆除、メッサーダンジョンの魔物の間引きなどが該当する。

これらはギルド自身の判断で行われる。


特定危険生物(脅威度Cクラス以上の魔物)を発見したときは冒険者ギルドから王宮へ報告する。

駆除は騎士団が行うが、稀に王宮から駆除の依頼を受けることがある。

駆除の報酬は王宮から出る。



◇ ◇ ◇ ◇



突然だが、冒険者は個人商店である。

社長であり、一兵卒である。

個人で危険な仕事を受注し、成果を上げ、報告し、成功報酬を受け取る。

受注に必要な武器・防具・道具・飯・服・足・保険は与えられない。

全て自前である。

確定申告までしたらパーフェクトだが、納税に関しては冒険者ギルドの手数料の中に含まれるので、源泉徴収されている。

年度末に冒険者が頭を悩ませる必要は無い。

武器・防具・道具・ポーションなどの消耗品は必要経費として認められない。


これはパーティを組んでいても変わらない。

冒険者はパーティの中の個人商店である。孫請けになるだけである。

そして冒険者パーティは、イザというとき皆で助け合う互助会ではない。


ちなみに私とマロンはパーティだ。

対外的には私は『パーティ:ひとりぼっち』だが、実質一人と一匹である。

自慢じゃ無いがウチのパーティは互助会である。

クエスト中も、クエスト外も、お互いを助け合う。



◇ ◇ ◇ ◇



明日、人生で初めてクエストを受けてみようと思う。

そう決意して闇治療を終えた後、明日公示される予定のクエストを見ていた。

安全なのは薬草採取だ。

幸か不幸か危険地帯の薬草採取は無い。その分報酬は安い。

そして冒険者ギルドの昇級査定にあまり貢献しない。


早くE級冒険者になるためには、少し危険度の高いクエストを受けたほうが良い。

ダンジョンの魔物の間引きは効率が良いとされるが、G級でダンジョンに入るのは自殺行為。ギルドに止められる。

すると必然的に魔物退治系の最低ランクのクエスト『メッサーの街とメッサーダンジョンの間の草原でゴブリン間引き(3体)』を選ぶことになる。



皆さんはゴブリン間引きなど成功して当然と思っておられる。

ゴブリンといえば、鼻をほじりながら片手であしらう魔物と思っていらっしゃる。

「ゴブリンなんて何匹殺してもレベルは上がらねぇ」とうそぶかれる。


だがここは冷静にならねばならぬ。

私はG級冒険者。ゴブリンは脅威度F級の魔物。

私はゴブリンより格下だった。

装備の差でかろうじてゴブリンに勝てる、かなぁ? という感じ。

そして「こりゃまずい」と思ったら、すっ飛んで逃げるのだ。

そのために逃げ足を鍛えてきた。

明日は『逃走系冒険者』の名に恥じぬように振る舞わねばならぬ。



◇ ◇ ◇ ◇



朝一でギルドのホールにいく。マロンは外で待機。

ホールは冒険者でごった返している。

みなパーティメンバーと相談しながら食い入るようにクエストを見ている。


本日のクエスト。

当初の予定通り、メッサーの街とメッサーダンジョンの間の草原でゴブリン間引き(3体)を選んだ。


受付(師匠)で申告。

師匠から注意。


「マロンと一緒だな」

「はい」

「なら3体までなら大丈夫だ。同時に4体以上出たら逃げるんだよ」

「はい」


冒険者やパーティの実力を把握し、適宜アドバイスを送る。

時には受注を諦めさせる。

冒険者ギルドの受付は特殊技能だと思う。



◇ ◇ ◇ ◇



良く晴れた日である。

青空が広がり、立派な雲が湧いている。

広大な緑の草原がゆるやかに起伏し、その中を街からダンジョンに向かう一本道が伸びている。遠くに森が見える。

日本では北海道くらいでしかお目に掛かれない雄大な景色だ。


日差しが強い。

その割には涼しい。

・・・今、夏なのだろうか? 秋なのだろうか?

この世界の季節はどうなっているのだろう?

後で師匠に聞こう。


これほど雄大で美しい風景の中に魔物なんているのだろうか?

と思っていたら、いた。

マロンが見つけた。

マロンが小声で注意を促し、鼻先で指す方向に何かがいた。

マロン、あれは?

ゴブリン?

そう・・・

あれがゴブリンか。


割と普通にいた。

注文通り3体。

なんというか、常識が異なり過ぎていて怖い。



早速鑑定する。


種族:ゴブリン

年齢:3歳

魔法:無し

特殊能力:無し

脅威度:Fクラス


ゴブリンは漢字で「小鬼」とか「醜鬼」とか書いたと思う。

人間の感覚からすると言葉通り小さくて醜い。

身長1m強。

武器として棍棒を持っている。

見た目は年寄りのような子供。

顔色は緑色で、額に短い角がある。

もし顔をしかめていたら、う○こを我慢している時の顔色だ。

でも3体とも陽気に笑いながら歩いている。

特筆する点は無いとはいえ、危険度Fクラス。

間違いなく私より強い。

装備品の差でわずかに私が優位に立つと思う。1対1なら。

3体同時に出てくるとは困った。

師匠の忠告ぎりぎりだ。


うっかりとゴブリンを見続けてしまった。奴らに気付かれた。

奴らは奇声を上げながら走ってきた。

あの足の早さなら、マロンと私なら走って振り切れる。

1対3の戦い。

どうしようかな、面倒だな、逃げようかなと思ったら、1体はマロンが引き受けてくれるという。

腹を決めた。やってみよう。


ショートソード2本。鞘から抜いて両手に持つ。

皮鎧、よし。

小盾は左腕に装着されている。よし。

鉄甲、よし。

マロンの首輪、よし。


では初クエスト、行ってくる。



◇ ◇ ◇ ◇



ゴブリンが3体倒れている。

私は息が切れ、四つんばいになってゼーゼーいっている。

口から何かが出て来そうだ。

マロンがうれしそうにフンフン言っている。

ショートソードを握る手が震えている。

指が固まってしまい、手からショートソードを離せないでいる。


初クエスト。

初戦闘。

初殺生。


最初は冷静なつもりだった。

だが1体目のゴブリンと激突した後から無我夢中になり、わけがわからなくなった。


断片的な記憶しか残っていない。

その記憶をつなぎ合わせると、戦闘はこんな感じで推移したらしい。


ゴブリンは横一列になって走ってきた。

私は真ん中のゴブリンに向かって、わざとゆっくり歩いた。

マロンは私の左後方にいた。

ゴブリンは私を囲むように散開し始めた。


距離20m。

突然マロンが左端のゴブリンに向かって猛ダッシュを掛けた。

私も真ん中のゴブリンに向かって全速力で走った。

真ん中のゴブリンが棍棒を振りかぶったのが見えた。

次の瞬間、私は右に向きを変え、真ん中のゴブリンと右端のゴブリンの両方に目でフェイントを掛けつつ、右端のゴブリンと交差するコースを走った。

ここまでは明確に記憶がある。

ここから記憶が怪しくなる。


すれ違いざまに右端のゴブリンを右手に持ったショートソードで突いた。

手入れをしておいた甲斐があった。

奴が着ていた粗末な服ごと体を貫いて、剣先が背中まで突き抜けるほどの突きを入れたはずだ。

ゴブリンがどうなったか確認せず、ショートソードを引っこ抜いた記憶がある。


ここからは記憶がパッパラパーである。

気づいたら、右手で持ったショートソードで真ん中のゴブリンを地面に押さえつけ、左手で持ったショートソードを何度も何度もゴブリンに叩き付けていた。


ゴブリンを地面に押さえつけたのは闇魔法の遠隔操作だと思う。

なぜなら闇魔法のレベルが3に上がっていたから。


ゴブリンはとっくに死んでいて、周囲にゴブリンの肉片、骨片、血が飛び散っていた。

遠隔操作のお陰なのか、私は返り血を浴びていなかった。

ゴブリンの血は赤かった。


マロンは左端のゴブリンの喉を噛み裂いていた。

死体の上に乗って得意げに私を見ていた。


虚脱した・・・

久しぶりに口から魂が出たと思った。

しばらく動けなかった。


ダガーを抜いて小さな魔石を回収したが、苦しかった。

魔石は淡い緑色だった。



◇ ◇ ◇ ◇



元の世界では釣りが趣味だった。

釣った魚を自分で締め、捌き、調理し、食べた。

百尾は捌いたと思う。

魚を捌いた経験があるので魔石取り出しにおける技術的な障害は無かった。

だが身長1m強の人型の魔物の遺体を解体して魔石を取り出すのは、なかなか精神にくる。

膝が笑う。


魔石の回収後、死体を焼くのが途轍もなくしんどい。




冒険者ギルドへ戻り、師匠(受付)に結果報告。


師匠から


「治癒の依頼がある。用意しておけ」


と言われた。




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