167話 イルアンダンジョン2層
(オリオル辺境伯家令嬢 カトリーヌ・オリオルの視点で書かれています)
2年生に上がる前の3ヶ月のお休みの内、1ヶ月が過ぎました。
この間に私は体力が付き、水魔法・氷魔法を無詠唱で撃てるようになり、ダンジョン内で戦力にカウントされるようになりました。
誇らしいです。
腕を試したくてうずうずします。
アナスターシアもそわそわしています。
彼女も火魔法を無詠唱で撃てるようになりました。
私達の気持ちを汲み取ってくれたのか、今日から再びイルアンダンジョンに挑むことになりました。
パーティ編成は、
(第一パーティ)
前衛:スティールズ男爵(斥候)、シルビア先生(剣士)、マキ様(斥候)
後衛:カトリーヌ(魔法使い)、オルタンスお嬢様(魔法使い)、
アナスターシア(魔法使い)
スティールズ男爵は魔法を使わないのでしょうか?
訊ねてみたのですが、ごにょごにょと濁されました。
使えないのかも知れません。
貴族で魔法を使えないと汚点になりますので、隠したい気持ちはわかります。
(第二パーティ)
ウォルフガング、ソフィー様、ジークフリード、クロエ、ルーシー、マロン。
前衛後衛は決めていないそうです。
そんなパーティってあるのでしょうか?
イルアンダンジョンの2層に挑む前に、重要事項の伝達がありました。
イルアンダンジョンの2層は、延々とスケルトンに挟み撃ちに遭う階層だそうです。
これを防ぐため、2つのパーティが間隔を空けずに進むそうです。
「決して先行しすぎるな。間にスケルトンパーティに入り込まれると挟み撃ちに遭うぞ。常に第二パーティとの距離を維持しろ。前衛は先行し過ぎるな。後ろとの距離感を計るのは後衛の役目だ」
ウォルフガング様の注意を受け、第2層を進みます。
第2層は、普通のパーティにとっては厳しい階層です。
挟み撃ちに遭うので、前衛も後衛も無いのです。
でも私達は後ろから迫る脅威を第二パーティが排除してくれますので、前方の脅威に集中できます。
そしてスケルトンは気配を隠さず、足音高く近付いてくるので助かります。
オルタンスお嬢様と私とアナスターシアが待ち構えて狙い撃ちが出来るのです。
無詠唱で魔法を撃つ訓練。
魔法を連続して撃つ訓練。
氷槍の、水球の、火球の軌道のコントロール。
実戦訓練です。
魔物は確実に私達を殺しに来ています。
私達は魔物の殺気に当てられながら、必死に魔法を撃ちます。
パニックにならないこと。
1発で仕留められないときは追撃をすること。
絶対に味方に当てないこと。
常に魔力残量を把握し、攻撃魔法をあと何発撃てるか意識すること。
戦闘を3回も行うとクタクタになります。
休みたいです。
安全地帯はどこでしょうか?
安全地帯は3層まで行かないとないそうです。
酷いです。
撤退です。
でもこんな訓練を1週間も続けていると魔物を倒すのに慣れてきました。
魔物の殺気に当てられてもビクともしなくなりました。
そして平然と無詠唱で氷槍を叩き付けられるようになりました。
自分が無詠唱で魔法を出すことが出来るようになると、シルビア先生やアナスターシアが無詠唱で魔法を撃つタイミングがわかるようになってきました。
自分に力が付いてきたことがわかります。
「自分に自信が付いてきた時こそ気を付けてね。きっと何か落とし穴があるからね」
スティールズ男爵がそう言います。
ですが落とし穴も見抜けるようになったから、自信が湧いてくるのだと思うのです。
みなスティールズ男爵に曖昧に頷いて探索を続けました。
途中、第二パーティから声が掛かりました。
「珍しい武器を持ったスケルトンがいた。確認するからちょっと待ってくれ」
了解です。
こっちも丁度前方からスケルトンが近付いてきましたので退治しておきます。
ここで(ダンジョン探索にかなり慣れてきましたので)オルタンスお嬢様が前衛の訓練をされたいと仰いました。
オルタンスお嬢様とシルビア先生の位置を入れ替えました。
オルタンスお嬢様は、基本的には前衛におかれましても魔法攻撃を主体にされます。
敵に接近されたときは短剣と盾で対処します。
オルタンスお嬢様は前衛の中心に立ち、両脇をスティールズ男爵とマキ様が固めます。
オルタンスお嬢様に殺到するスケルトンをスティールズ男爵とマキ様が排除し、オルタンスお嬢様は常に正面の1体と対峙するスタイルになります。
やってみるとオルタンスお嬢様が実にスムーズにスケルトンを倒していきます。
私とアナスターシアもオルタンスお嬢様のサポートです。
氷槍と火球の遠隔攻撃であらかじめスケルトンの数を減らすのです。
うん。いい感じ。
そう思いはじめた時でした。
「後ろ! スケルトン!」
前衛のスティールズ男爵が声を上げました。
えっ!?
なになに??
後ろって・・・
そお~っと振り返るとスケルトンがいました。
私の目の前に。
スケルトンの向こうに第二パーティが見えました。
どうしてそこに魔物がいるのですか?
第二パーティは?
「マキッ!!!」
「前は任せたっ!」
「了解ッ!」
マキ様が踵を返して一瞬で私とスケルトンの間に入りました。
そしてスケルトンの振り下ろす剣をご自身の盾で弾き、スケルトンの胴を思い切り蹴り飛ばしたのです。
私はただマキ様の背中を見ているだけでした。
マキ様が、
「シルビア先生っ!!」
と大声を掛けると、シルビア先生はのっそりとアナスターシアとスケルトンの間に入りました。
でも前方からも「ガシャンガシャン」とスケルトンが近付いてくる音が聞こえるのです。
私はどちらを向けば良いのかわからずおろおろするばかり。
アナスターシアもオルタンスお嬢様も呆然として、思い思いの方へ動こうとしています。
するとスティールズ男爵の声が聞こえました。
「カトリーヌとアナスターシアは背中を合わせてね~ ♪」
「オルタンスお嬢様は私の隣へどうぞ~ ♪」
張り詰めていた物がいっぺんに抜けるような、とでも言えば良いのでしょうか。
何とも言えない間の抜けた声でスティールズ男爵が言うのです。
でもそのお陰でパニックに陥りかけた第一パーティは一瞬で静まりました。
冷静に敵を見定めることができたのです。
後ろから襲ってきたスケルトンは3体。
数の不利など物ともせず、マキ様とシルビア先生が抑え込んでいました。
そしてマキ様が2体、シルビア先生が1体倒しました。
前から襲ってきたスケルトンは4体。
オルタンスお嬢様が水球を出して、一番遠いスケルトンに向かって撃っていました。
3体のスケルトンがオルタンスお嬢様に殺到しかけましたが、スティールズ男爵がスケルトン達の前に立ちはだかって両手に剣を持って「チョンチョン」とスケルトンを突っつくと、「ガラガラッ」と崩れ落ちました。
一体なんのスキルでしょう?
お嬢様の水球が激突してのびているスケルトンナイトはスティールズ男爵がバラバラにしていました。
◇ ◇ ◇ ◇
「第一パーティと第二パーティの間はさほど離れていなかったけど・・・ 出たね」
「誰か出た瞬間を見た人はいますか?」
「見た。地面から湧いて出たな」
「そうなんだ」
「下を見ながら歩かないといけないの?」
「壁から出て来てもおかしくないぞ」
「湧く瞬間、気配はありましたか?」
「気配はあった。だが壁か床かはわからなかった」
ウォーカーの皆さんは何かの実験を眺めているかのような話しぶりでした。
ウォーカーの皆さんの話を聞いていると、パニックになった私は馬鹿みたいでした。
でも本当に楽観視しているのでは無く、私が落ち込まないように励ましているのだということがわかります。
・・・私、頑張ります。
==<ウォルフガングとソフィーの会話>====
「あの動き・・・」
「事故を期待していましたね」
「では予定通り」
「承知」