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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
14 王国高等学院編(1年生)
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160話 (幕間)コジモ・ベルトゥーリ


(武闘派貴族ベルトゥーリ公爵家三男 コジモ・ベルトゥーリの視点)


ここ数年穏健派の躍進が続いている。

特にライムストーン公爵領の誕生は武闘派貴族の間では衝撃を持って受け止められた。

しかし父上が衝撃を受けられたのはライムストーン公爵領の誕生では無く、領地経営が順調だと知った時だった。



ライムストーン公爵。

元を正せば代々王都に在住していた宗教査問官。

領地経営とは無縁の貴族だ。

それが昨日まで敵国だった土地を与えられ、赴任した。

どう考えても上手くいくわけがない。


ところが蓋を開けてみれば破綻無く領地を経営している。


報告を粉飾することはある。

特に新領地の1年目の報告書に悪いことを書くわけにはいかない。

どの貴族でも経験があるだろう。

最初は誰もがそう思っていた。


だが父上が密かに密偵を放って調べさせたところ、ライムストーン公爵の安定した統治を慕って周辺の村や街から民が集まり、人口が増え続けているという。

そのため一時的に食料が足りなくなり、ハーフォード公爵領に食料を頼った時期すらあったという。



「これは本物だ」



父上が漏らした一言が事態の深刻さを物語っていた。



「我々は彼のものを見誤っていたのかも知れぬ」



宗教査問官を馬鹿にしているのではない。

重要な仕事だ。

ミリトス教会の跋扈は許してはならぬ。


だが宗教査問官と領地経営は似ても似つかぬ仕事だ。

何故上手くいくのだ?



一方武闘派はというと、最近はこれと言った成果を上げられていない。


神聖ミリトス王国への出兵を計画するも、長期的に占領を継続する策を立案する事ができず、王の信頼を失いかけたのが実情だ。

その時に意図的に調整された情報をライムストーン公爵に流し、王の前で恥を掻かせるようなことをしたらしい。

だが王は全てお見通しで、むしろライムストーン公爵を信任されるようになった。



父上の苦悩を見て、私も手をこまぬいているわけにはいかぬ。

お役目を頂戴しようと直訴したが、たしなめられた。



「お前は来年から王立高等学院へ通う。そこで己の技と知識を磨きながら幅広い人脈を作りなさい。仕事はそれからだ」



う~む。

まだ信用を頂いていないということか。

確かに何の実績も持たぬ者に大きな仕事は任せられぬ。

兄上達も学院をご卒業なさってから仕事を任されるようになった。


王立高等学院では、将来の私の立場を確固たるものにするべく活動することにしよう。

それを父上に頼らずにやってのけよう。



◇ ◇ ◇ ◇



私は、自分が王立高等学院に在籍する4年間に成すべき事を考えた。

有能な人材、特に中小貴族と広く交流する。

そのもの達を中核に自分の派閥を作り、大きく育てる。

ライバル派閥の評判を落とす。勢力を削ぐ。


このままでは漠然としている。

だがターゲットを明確化すれば具体的な策も浮かぶはずだ。

あまり気に病む必要は無い。


ライバルとは誰だ?

ライムストーン公爵か?

今、ライムストーン公爵の縁者は王立高等学院に在籍しているか?

来年はどうだ?


ハーフォード公爵の娘が王立高等学院に在籍する予定か。

ターゲットはこちらか。


穏健派から思わぬ伏兵が現れる可能性は?


いや、武闘派から私の右に出ようとする輩は出てこないか?


考え始めるとどんどん「もしも?」が出てくる。


今、色々想定したことは、来年王立高等学院へ入学したときに変わっている可能性もある。


結局どこがライバルとして台頭してきても対応できる計画が必要との結論に至った。




徐々に計画が形を成してきた。

舞台は荒神祭とする。

ここでライバルを叩き潰す。


武闘派までターゲットに想定したため準備が大がかりになりすぎたきらいはあるが、それだけにどこが出て来ても余裕で対応可能だ。

準備にはいくつか超えなければならないハードルがあったが一つ一つクリアした。

我なからよく出来たと思う。


ハードルをクリアする過程で将来同志になる候補が見えてきた。

王立高等学院へ入学する前から将来の腹心候補の人選を始められたのは良かった。

我ながら良い人材を発掘できたと思う。

家柄も良い。



◇ ◇ ◇ ◇



王立高等学院へ入学してからはピンチの連続だった。


何故武闘派が私の足を引っ張る?

いや、私のことをライバルと認めているのか。

だが随分とお粗末なやり方だ。

あれでは自爆攻撃では無いか。

しかも空振りだ。

これでは武闘派全体が馬鹿みたいに見える。

もう少し考えろ。



二度目の計画崩壊の危機。


エリオ・ラピーネ。

エリオは私の計画に賛同し、上級生であるにも拘わらず、色々と便宜を図ってくれた。

色々と、だ。


計画の鍵となる “動物” の情報はラピーネから貰った。

捕獲の舞台はピントゥー二伯爵領だが、ラピーネ領から人員も動員して貰った。

エリオには恩義が出来たと思っている。

将来私が武闘派を率いるときは、エリオが腹心になることが約束されていた。


それがどうしてあんなことになった?



だが必然的にターゲットは定まった。

ハーフォード公爵家令嬢 オルタンス・ハミルトン。

彼の者を荒神祭で叩き潰す。


穏健派の令嬢を相手にするにしては準備に力が入りすぎた感も否めないが、そこはまあ、許せ。何とか生き延びろ。




エリオが奴隷落ちしたとき、裏で手を回してベルトゥーリ家で買い取った。

ラピーネ家に対しては、いずれ名誉を回復させるので処断は見合わすよう伝え、了承して貰った。


危ない橋を渡っている自覚はある。

だが仲間と共に危機を乗り切ってこそ絆が深まる。

打てる手は全て打て。


荒神祭には王都騎士団の警護が付き、何かあれば即座に介入する事になっている。

これも当日の警護メンバーを入れ替え、我がベルトゥーリ領出身の者で固めることが出来た。


信じろ。

仲間を信じろ。

自分の計画を信じろ。




そして決行の日を迎えた。




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