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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
14 王国高等学院編(1年生)
153/269

153話 体育の授業


マキのテストが終わると生徒達の間からどよめきが上がった。



「次っ!」



すぐに声が掛かり、私が立とうとすると、おっとり美人先生から声が掛かった。



「あなたは最後」



そして平民のテストが始まった。

平民は全員短剣と小盾を選んだ。

テストは何事も無く進んだ。


さて。

終わった、終わった。

今日も良く働いたな。

おうちに帰ろう・・・


おっとり美人先生に背後を取られ、顔を寄せられ、耳元で声を掛けられた。



「あらあら、帰っちゃうの?」



震え上がった。


とんでもない。

腕を見極めて頂きとう存じます。

はい。



「あなたの装備を取ってきて貰ってもいい?」


「あの・・・ 実剣ですか?」


「そうよ」



じっと、おっとり美人先生の顔を見る。



「あなたなら大丈夫でしょう?」


「・・・取りに行って参ります」



おっとり美人先生。

寮に装備を取りに戻る私と一緒に来た。



「走って」


「はい」


「もっと速く」


「はい」


「全力で」


「はい」



ダッシュで帰った。

おっとり美人先生、あっさり付いてきた。



「これで全力?」


「はい」


「喋る余裕はあるのね」


「実戦では走りながら剣を振り、呪文を唱えないといけませんので」


「ふふっ」



寮について一声掛けて扉を開けた。

マリアンが出迎えてくれた。



「ただいまー」


「お帰りなさいませ」


「装備を持ってすぐに学校に戻るよ」


「行ってらっしゃいませ」


「先生。ご紹介します。こちらは我が寮の司令塔、マリアンです」


「うちのビトーがお世話になっております。これからも御厚情賜りますよう、よろしくお願い致します」


「まあ・・・」



素早く装備を装着し、玄関へ戻った。

マリアンとおっとり美人先生が談笑していた。


校庭までダッシュで帰った。


さあ、テストしましょうか。

と思ったら、場の雰囲気がおかしい。

皆、皿のような目でおっとり美人先生と私を見ている。

マキが「やっちまったか・・・」と言う顔で見ている。


ああ・・ ダッシュを見て驚いたのね・・・



あっという間におっとり美人先生がフル装備をしてきた。

軽鎧・長剣・大盾を装備。剣士の出で立ちだ。

体は大きくないのだが、長剣・大盾装備。

きっとなにかある。


私はいつもの斥候の出で立ち。

ショートソードアクセル、脇差、ダガーオブウンディーネ、ダークレザー、スモールシールド、隠密のシールドを装備。


脇差を捧げ持ち、名乗りを上げる。



「ハーフォード公爵領男爵。ビトー・スティールズ。御検分をお願い致します」


「女爵 シルビア・フォージャー」



おっとり美人先生、お貴族様だった。



「参ります」



そう声を掛けて脇差で撃ち込んだ。

シルビア先生、一見のんびりと見えるような動きで避けた。


これは脇差の剣筋を見て避けているのではない。

私の動きを先読みして避けている。

ソフィーと同じ。

相当な手練れだ。


もう一度打ち込んでみた。

同じだった。

真っ正直な攻撃は通用しない。


では稽古を付けて貰うつもりで行こう。


動きを読まれる時の対策は2通り。

動きを読ませないか、動きを読んでも捌ききれない攻撃にするか。

後者だ。

両手の剣を同時に突ける体勢で飛び込む。

同時にダークレザー、隠密のシールドに魔力を流す。


シルビア先生がハッとした。


飛び込みざま、シルビア先生の大楯を蹴った。

大楯を蹴り飛ばし、隙が出来たところに剣を2本突き立てる。

1本は受け流されても、もう1本で「1本」を取る攻撃。


だが、大楯を蹴った足が妙な感触を伝えてきた。

何も考えず、大楯を蹴った勢いそのままに、思い切り斜め前方に飛んだ。

着地と同時に地面を転がり、更に前方へ飛び込みつつ転がり、中腰で剣を構えた。


シルビア先生は最初に私が着地したところにいた。


やっぱり・・・


ソフィーとの訓練では着地点を見破られ、追いつかれ、散々踏みつけられ、蹴り飛ばされた。

シルビア先生からも同じ匂いがした。


盾の感触・・・

シルビア先生は風使いだ。

小柄で筋力に劣るも、風の力で長剣・大楯を使いこなす。

鎧が軽鎧な理由もわかった。

そしてシルビア先生と私の力は隔絶している。



「あきれた・・・」



本当にあきれた表情で私を見ながら、シルビア先生は剣を鞘に収めた。



「もういいわ。テストは終わりよ」



そう言われた私は剣を納め、シルビア先生の元へ行き、跪いた。



「テストとは言えご夫人に剣を向けたこと、どうかお許し下さい」


「ふふっ 妙なところが律儀なのね。 許します。ですがオルタンス様、マキ、それからビトーは私のクラスとします。よろしいですね」


「お・・ おい、良いのか? シルビア」



イケメン先生が訊いてきたが、シルビア先生は頷いた。



「彼らは私でないと満足のいく指導が出来ないでしょう」



◇ ◇ ◇ ◇



それからハーフォード公爵領の者は、体育の授業はシルビア先生のご指導を受けるようになった。


シルビア先生のご指導はソフィーの訓練より軽いが、正直言って、王立高等学院で教える標準的な体育の指導からかけ離れていたと思う。

メニューは、ソフィーが冒険者を鍛え上げる時のそれと似ていた。

さすがに強度は軽かったが。

王立高等学院まできて冒険者を目指す馬鹿もいないだろう。


本音を言えば、夜間に叩き起こされる訓練が無いので楽だった。


だがオルタンスお嬢様にとっては天地がひっくり返るほど辛かったと思う。

お嬢様は訳がわからないままハードなカリキュラムに付き合わされた。

寮に戻ってからお嬢様の全身にヒールを掛けて支え続けた。

全身にヒールを掛けるとお嬢様はすぐに眠ってしまわれた。

マキはともかく、私に寝顔を見せるとは貴族子女にとってどれほどハードな授業だったのか想像できる。



だが先生は先生で驚いていた。

お嬢様は毎回息絶え絶えだったが、マキと私が軽々とついてくることが理解できないらしかった。



「軽々とじゃありません。かなりハードです」


「嘘はカルトの始まりよ。そんな軽口が叩けるんだから、まだまだいけるわね」


「勘弁して下さい」



マキと私にはもう一段強度を上げた授業を課された。

オルタンスお嬢様は死んだ目で見ていた。

それでもソフィーの訓練よりは楽だった。



授業が進むにつれて、シルビア先生は我々にはかなり打ち解けてきた。


体育の授業が始まって2ヶ月が過ぎ、オルタンスお嬢様も徐々に授業になれてきた頃。

シルビア先生の出自を聞くことが出来た。


ローラン王国出身。

ローラン王国とブリサニア王国の国境に隠里がある。

そこにエルフの血を引く者がひっそりと暮らしている。

先生はエルフ族の血が1/4入っていて、それなりに長生きで、修行もかなり積んだとのこと。冒険者をしていた時期もあり、B級まで取得した。


私のことも調べており、ブリサニア王国に入ってからの行動は、メルヴィル村のことを除いて、ほぼ全て網羅されていた。

神聖ミリトス王国時代のことはわからないようだった。



「あなたからは貴族の匂いがしないわ。でも平民でもない。なにかしら? 冒険者の匂いはする。一時期イルアンに住んでいたと言うことはダンジョンにも入ったのかしら?」



答え辛い。



「ここで話した事は学院には報告しません。私は独り者ですから誰にも話しませんよ」



元々何の取り柄も無い下層民だったこと。

生きていく為に冒険者を志したこと。

イルアンダンジョンには潜ったこと。

を話した。


冒険者証を見せた。



「D級なんだ」


「ええ」


「あれだけ動けてD級とは随分低いわね。魔法も扱うのでしょ?」


「ええ、まあ」


「イルアンダンジョンはどこまで潜ったの?」


「イルアンと言えば【炎帝】が有名ですが、同じくらいです」


「それって凄いじゃない」


「私は荷物持ちです。さすがに私ではリッチに歯が立ちません」



それからシルビア先生は、オルタンスお嬢様にはそれとなく力を抜いて、私とマキはキッチリと鍛えてくれた。


何はともあれ、王立高等学院在籍中に体が鈍らなくて良かった。




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