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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
14 王国高等学院編(1年生)
152/281

152話 授業


例の騒ぎから学内が落ち着くまでしばらくかかった。

だが、徐々に落ち着きを取り戻していった。


事件が警告になったのか、オルタンスお嬢様、マキ、私は武闘派貴族から絡まれることはなかった。

他の穏健派貴族の子弟はわからない。


警備隊による学内の巡回頻度が上がった。

良いことだ。



◇ ◇ ◇ ◇



お嬢様と一緒に国語、歴史、地理の授業を受ける。



<国語>―――――


あの大事件以降、我々にからむ馬鹿はいなくなった。


だが国語は大変だ。

一つ一つお貴族様の言い回しを憶えていかねばならない。

国語だけで頭がパンクしそうになる。

だが、ここでマキが素晴らしい発見をした。



「文章を全部憶えるんじゃなくて、まずは単語だけ憶えようよ」



マキが言うには「この単語にピンときたら110番!」という単語があるという。

代表的な例を挙げると


「勇気」  => 蛮勇、馬鹿げた、愚かな という意味を持つ

「興味深い」=> 言葉と裏腹に、全く興味を持っていないケースがある

「良い」  => 言葉と正反対に「悪い」という意味で使われることがある

「○○の花」=> 何かの隠語として使われるケース多数。季節を指すケース、

女性を暗喩する例が多数

「王都」  => 中小貴族は王都に住むことに異常な執着を持つ。一連の文章の

中に、文脈に関係なく王都が出て来たら要注意

王都を離れる、旅をする、はネガティブな意味で使われる

「男」   => 女のケースあり



などなど。

最後の例は良くわからなかった。



「LBGTに関係ある?」


「ううん。こっちの世界はまだLBGTはイメージすらないよ。これは本当に「女」の隠語として「男」というケースがあるの」


「浮気相手のところに通う時の隠語かな」


「かもしれない・・・」



これで少しは光が見えるかな。



<歴史>―――――


神聖ミリトス王国から逃げて来たとき。

ミューロン川の渡船上で読んだブリサニア王国のPR文が地味にいい仕事をしているのでここに再掲する。



ブリサニア王国は約500年前に現れた一人の人間族の英雄によって建国された。

英雄の名はブリスト・スチュワード。


彼はミューロン川河口に広がる森を縄張りにしていたラミア族と戦い、引き分けた。

ラミア族からその並外れた武勇を認められ、河口の土地を割譲されて建国した。

英雄の名を取ってブリサニア王国と命名した。


ミューロン川河口に街を作り、ヒックスと命名した。

建国当時はヒックスが王都だった。


ブリサニア王国は建国以来、『西進』がテーゼ。

そしてノースランビア大陸の東大陸の半分を占めるまでになった。


版図が西に拡大するにつれ、王都がヒックスでは何かと不便になった。

そこで現在の王都ジルゴンを建設し、遷都を行った。


遷都は民族の記憶に残る一大イベントだったらしく、公式文書のあちこちに独特の記載が残る。


曰く 「遷都後○○年も経過したのに」

曰く 「まだ遷都の興奮も冷めやらぬ頃」

曰く 「まだヒックスに王都があった時代」



<地理>―――――


ノースランビア大陸の概要について講義を受けた。


ノースランビア大陸・西大陸には

 ローラン王国

 聖ソフィア公国

 リュケア公国

の3カ国がある。


ノースランビア大陸・東大陸には

 ブリサニア王国

 神聖ミリトス王国

の2カ国がある。


今、神聖ミリトス王国の崩壊とライムストーン公爵領の誕生がホットな話題であり、教授の話もこれに終始した。聴講する生徒も多かった。

私からすると、ブリサニア王国ではどのように感じているのかを知ることが出来て興味深かった。


私は神聖ミリトス王国が勝手に失政をしまくった末の自業自得と認識していた。

でも講義を聞くと、神聖ミリトス王国の悪辣な政策を、裏で糸を引いたブリサニア王国が転覆させた、というように聞こえる。

確かにミリトス教に牛耳られた政権はロクな政治をしていなかったと思う。

でもそれをブリサニア王国の間諜が裏で糸を引いて、ひっくり返したのだろうか?

ブリサニア王国の間諜といえば、メッサーダンジョンの下見に行って消息不明、という微妙な話しか知らない。



「そうなの?」



マキが小声で訊いてきたので、小声で



「わからない」



と返しておいた。

実際、わからない。



ブリサニア王国の主要産業は一次産業(農業)。

主要農産物は麦。


二次産業は勃興中。

鉱山開発と製鉄に注力している。


第三次産業・サービス業という概念はない。

ダンジョンを中心とした経済活動は、ここに分類しても良いかも知れない。


ブリサニア王国は、南部は温暖で地が肥えている。

北部は寒冷で地が痩せている。

これは神聖ミリトス王国も一緒だった。

ノースランビア大陸の東大陸に共通した特色らしい。



信教について。

国の大方針として『水の女神:ティアマト』を祀ることを推奨している。

御神体は大河とその水源(ミューロン川、ハーフォード川、ニルヴァ川、バイン川の4大河川とその水源)で、各所に祠がある。


ミリトス教は禁教とする。

先のハーフォード公爵領における変以降、国全体でミリトス教徒の立ち入り自体を禁じている。

一時的な滞在や通行も許可しない。

潜入が明るみに出ると死刑一択。


この規制が多少ルーズに運用されているのがライムストーン公爵領。

神聖ミリトス王国から編入されて日が浅いので、改宗がまだ進んでいないため。



◇ ◇ ◇ ◇



その他の正規教科について、下見を兼ねて少しずつ顔を出した。



<数学>―――――


四則演算くらいならね。


マキ。中卒の私に訊くな。



<音楽>―――――


リュート。

誰に何と言われようと私は不器用だ。

美人先生におだてられてもそれは変わらない。

マキも全然駄目。


音楽は実家に余裕があって小さい頃から彫琢を受けていないと駄目だな。



◇ ◇ ◇ ◇



さて。


体育の授業。


場所はだだっ広い校庭。


私は漠然と わっしょい、わっしょい と走り回るのか、それとも おいっちにっ、さんっしっ とラジオ体操を想像していたのだが、全然違った。


戦闘のスキルを磨く授業だった。

魔法は無し。

肉体の鍛錬。

剣や槍の鍛錬。


学校で、戦闘のスキルを授ける授業が行われる。


12歳のガキンチョに戦闘のスキルを授ける。


う~む。

常識が異なりすぎて呆然とする。



先生は4人。

肉体派爽やかイケメン先生。

穏やかなじいちゃん先生。

シャキシャキの下町小町先生。

年齢不詳おっとり美人先生。


授業の仕組みはこうだ。


1.まず生徒は自身の得意な武器を申告する。

(得意な武器というのが何とも・・・ 山賊の学校かね?)

2.先生と模擬戦を行い、技量の診断テストを行う。

3.技量毎にグループ分けを行い、グループ毎に訓練を行う。



初日は生徒の技量を見て終わる。

イケメン先生が木刀と大楯を装備し、「では一人ずつ見ていくぞ。我こそはと言う者から来なさい」というと、武闘派貴族の子弟が「俺が、俺が」という感じでテストを受けていく。


なんでこんなにやる気に満ちているの?

オルタンスお嬢様に訊くと、貴族の3男、4男になると家を継げる可能性が無いため、王宮騎士団か、王都騎士団への就職を狙ってアピールしているそうだ。


私は変な顔をしたのだろう。

逆にお嬢様から訊いてきた。



「なにか変?」


「ええと。武闘派貴族の子弟たちですよね?」


「そうね」


「王都騎士団に接しましたが、高度に洗練されているように感じました。脳筋の武闘派貴族では務まり難いと思うのですが・・・」


「よく見ているわね。その通りよ」



貴族子弟はプライドばかり異様に高く、そのくせひ弱すぎて、王宮騎士団、王都騎士団で使い物にならないケースが多いらしい。

ままならないですね。



生徒の実力鑑定は次々に進む。

貴族の子弟は100%長剣と大盾を選ぶ。

武闘派、穏健派を問わず選ぶ。


テストも終盤になり、武闘派貴族の子弟は全員テストを終えた。

穏健派貴族と平民が残った。

オルタンスお嬢様が立った。

お嬢様は短剣(木剣)と小盾を選んだ。

貴族の子弟子女で短剣を選んだのは初めてだった。

ちょっと場がざわめいた。


お嬢様はイケメン先生と剣戟を始めた。


お嬢様の技術は防御に特化している感じがした。

小盾と短剣。

両方ともイケメン先生の打ち込みを逸らすために使っている。

相手から1本取るような打ち込みをしようとは考えていない。

軽い剣、軽い盾なので息が切れることもない。

そういえばそれまでの貴族の子弟は全員息切れしていた。



「よし、次」



次に立ったのはマキだった。

マキも短剣(木剣)と小盾を選んだ。

場がざわめいた。

なぜなら短剣2本、小盾2個を装着したから。



「よぉ~し。少しは歯ごたえがありそうだな」



マキは無言でイケメン先生に打ち込んだ。

イケメン先生は大楯で簡単にマキの打ち込みを受け止め、すぐに大剣でマキの胴を払いに来た。

だがマキは「ひょい」と躱した。



「ほう・・・」



イケメン先生は目を細めてマキを見据えた。

じり・・・ とマキがイケメン先生を中心に回り始める。

生徒達が固唾を呑んでいるのがわかる。


マキがスピードを上げてイケメン先生に斜めに接近した。

イケメン先生がマキに合わせて体の向きを変え始めると、ある地点でマキが飛びかかった。

イケメン先生がのけぞって距離を取った。

お互いの剣が交錯したように見えたが、剣と剣、あるいは剣と盾がぶつかったような音はしなかった。


二人は距離を取って睨み合った。



「そこまで」



おっとり美人先生が声を掛けた。


さっとマキが下がり、剣を納めた。

イケメン先生は一呼吸遅れて剣を納めた。




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