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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
14 王国高等学院編(1年生)
150/269

150話 王立高等学院


王立高等学院への入学が決まってから実際に入学するまでの間、私とマキは歴史と地理の勉強に励んだ。

その授業が難しいからではなく、この国の常識と、おおよその貴族の領地を憶えておこうという考えだ。


勉強の傍ら、クエストを受けたり、イルアンダンジョンで実戦訓練をしたりした。



イルアン冒険者ギルドに立ち寄り、ミノタウロスとトロールの代金と皮を受け取ると共に、ミノタウロスとトロールの皮を使ったレザーアーマーの製作をお願いした。

皮が強靱過ぎて縫製には特殊な機械と技が必要で、ヒックスのマーラー商会本店に送るとのこと。出来上がりは先になる。



「代金は?」


「・・・」



アドリアーナ(ギルド長)とカレン(会計)が言い難そうに黙っている。



「どうしました?」


「大変申し上げにくいのですが・・・」


「なんでしょう?」


「御代の代わりに少し皮を分けて頂けないでしょうか?」



了解した。

それから「どのくらい皮が欲しい?」という質問に端を発し、レザーアーマーのデザインを決めて余りの皮を明確にしておいた。

結局ミノタウロスの皮からはソフィーが着用する袖まであるデザイン性と機能性に凝ったレザーアーマー1着分を取り、残りはマーラー商会の取り分。

トロールの皮は複数あったので1枚丸々マーラー商会に。

残りはレザーアーマーを作れるだけ作って、と依頼。

御代は皮で相殺。

とした。



指名クエストはライムストーン公爵から来た。

メッサーのスタンピードで飛び散った魔物(キラーアント、オーク、コボルト)対策について、助言を請いたいという。


ヒックスなり、ミューロンなりの冒険者ギルドで助言できないのだろうか??

そう思っているとウォルフガングが教えてくれた。



「恐らく今までは、目障りになった時点でラミアの皆様が蹴散らしていたのだ。ヒックスやミューロンの冒険者ギルドが主導して、キラーアントの巣やオーク集落を討伐したことがないのだと思う。だから助言できないのだ」


「ゴブリンの集落の討伐はしていたようですが」


「ゴブリン集落とオーク集落では全くの別物だ。それに今回はスタンピードで大量に湧いたため、ラミアの皆様の目の届かないところがたくさんあるのだろう。

アレクサンドラ様はメッサーから湧き出たキラーアントは放っておけと言ったのだろう? だがヒックスやミューロンの冒険者ギルドでは、ダンジョンから出たアントなのか、元々いるアントなのか、見分けも付くまい」



私も見分けられないですが。


ウォルフガングは、


50体以下。

100体以下。

100体超。

キングの有無。

クイーンの有無。


で難易度を分け、それぞれ冒険者パーティで対処する時の規模、騎士団で対処する時の規模の目安を伝えた。




ヒックスから戻ると王都へ向けて出発する時期になっていた。

マキにせっつかれながら準備をして、慌ただしく出発した。

この日出発したのはマキ、私、マロン、アル。

マロンとアルは警備要員。

我々は一足早く入寮し、オルタンスお嬢様を迎える準備をしなければならない。


王都に着くと王立高等学院へ直行した。

正門で貴族証を見せるとすんなり通してくれる。

ちなみにマキも男爵夫人として貴族証を持っている。

マロンも事前申請してあり、ペットとして入構した。

アルは勝手に入った。



寮に着くとお出迎えがあった。



「お早いお着き、ご苦労様で御座います」



出迎えてくれたのはマーラー商会ハーフォード支社の精鋭達、マリアン(家政婦)、マルティナ(シェフ)、ミカエラ(メイド)、メリンダ(メイド)、レベッカ(メイド)だった。

公爵にお願いして、寮使用人はマーラー商会ハーフォード支社から派遣するように調整して貰っていたのだ。

一通り再会を喜びあったのち、新顔を紹介してもらった。

マリアンが、小柄(160cmくらい)で年齢不肖の女性を呼び寄せた。


「彼女はレベッカと申します。以降、ベッキーとお呼び下さい」


「お初にお目に掛かります。レベッカと申します。スティールズ男爵と御夫人に忠誠を誓います。お見知りおきを」


「ソフィーから聞いております。あなたの着任を頼もしく思います」


「有り難き幸せにございます」



スッと引っ込んだ。

うん。

ソフィーに聞いていた通り、有能そうだ。


早速マリアンの案内で寮内を点検して回る。

オルタンスお嬢様の部屋、我々夫婦の部屋、使用人の部屋、マロンとアルの拠点、そして小貴族の駆け込み部屋、厨房、食堂、会議室、納戸、玄関ホール・・・ 案内されたところは全て鑑定して回った。

不審な点はない。


2点面白い事がわかった。

玄関ホールに隠し部屋がある。

我々夫婦の部屋に隠し屋根裏部屋があり、そこから外に抜けられる。



寮内の確認後、私がやったこと。

玄関ホールに『オーガキングシリーズの全身鎧』を飾った。

マルティナにブルーディアーの巨大肉塊とストライプドディアーの巨大肉塊を渡し、厨房の冷凍庫に入れてもらった。

使いどころはマルティナに任せた。



自分達の部屋を一通り片付けて、一息ついたところでマキから聞かれた。



「ベッキーさんって初めて見たけどどんな人?」


「私も会うのは初めてだよ。マーラー商会から派遣されたメイドさん」


「追加のメイドってこと?」


「うん。ただのメイドじゃない。彼女は表向きはメイドだけど、警備員を兼ねて貰っている。そして暗殺について造詣が深い」


「・・・どうしてそんな人がいるの?」


「マーラー商会は巨大企業で、しかも多国間で商売をしているから、色々な場面に遭遇するんだ。稀にだけど、誠意だけでは解決しないことがある」


「だからといって・・・」


「彼女は殺し屋からオルタンスお嬢様と我々を守る役目を任せられている」


「殺し屋って・・・ いじめが高じて我々を殺そうとするの?」


「可能性はある」


「ホントに?」


「うん。オルタンスお嬢様は要人だよ」


「うん。まあ、そうだけど・・・」



マキは前の世界の常識で話をしている様に感じたので、深く説明するのは止めた。



「ソフィーさんが絡んでいたみたいな話をしていたけど・・・」


「ソフィーがベッキーの腕を確認しているんだ。相当な御手腕をお持ちらしいよ。これで私とマキのオルタンスお嬢様の護衛任務の負担は軽減するよ」


「そうねぇ」



◇ ◇ ◇ ◇



寮にオルタンスお嬢様が入られた。

全員顔合わせの後、まだ時間があるので、お嬢様を伴って構内各所を見て回ることにした。


まずは自寮の周辺から。

学校敷地内に自前の寮を立ててもよい区画があり、大~中貴族に割り当てられている。ハーフォード公爵領の寮もここにある。


自前の寮は全ての貴族が持つわけではない。

経済的に余裕のある貴族が持つ。

武闘派貴族の寮が目立つのかと思いきや、2つしかない。

穏健派貴族の寮は・・・ 我がハーフォード公爵領のものしかない。

何のことはない。貴族自前の寮は3つしかないのだった。


他の貴族はどうするのかというと、「通い」だったり「学院が用意する共同の学生寮」を使う。

共同学生寮には穏健派の子弟、武闘派の子弟が両方入る。

いじめの温床である。

共同学生寮を遠くから見る。

貴族の子弟が使うにしては驚くほど汚い。

壁に頭の悪そうな落書きがされている。

管理人はいないのだろうか?

何だろう、この違和感と既視感。



次。

校舎。

校舎は学年毎にある。

何故か1年生用の校舎が一番大きく、学年が進むにつれて小さくなる。


庶務課を訪問して入学の挨拶をしつつ、事務のお姉さんに理由を聞いてみる。



「それはですね、学年が進むにつれて学生数が減るからですわ」


「退学しちゃうんですか?」


「そうね」


「どうして辞めちゃうんですか?」


「理由はいろいろですね」


「お金が続かない、とか?」


「それもありますわ」


「いじめに耐えかねて、とか?」


「・・・」



お姉さんはにっこり笑って答えなかった。



◇ ◇ ◇ ◇



王都騎士団・王立高等学院警備隊詰所を表敬訪問。

隊長、副隊長、直長(警備は24時間体制なので4直2交代制で行われている)が勢揃いしていた。4直長が勢揃いしているのは珍しい。

まだ新学期が始まっていないので、交代勤務が始まっていなかった。


ハーフォード公爵領の者と自己紹介すると、快く詰め所に招き入れてくれた。

皆さんと談笑する。

王都騎士団なら武闘派なのかなと思っていたが、そうでもないようだ。

出身地を聞くと、皆さん国内のあちこちから集められていた。

それとなく武闘派貴族のことを聞くと、「あの連中とは一緒にして欲しくないな」とのことでした。

失礼しました。


ここで気になっていたことを訊いた。



「揉め事を決闘で解決するって許されているのですか?」


「学内で決闘は許されていない」


「でも武闘派連中は二言目には「決闘だ」と言いますよね?」


「学内では決闘は認められていない。何かやらかせば私闘になる。取り調べを行い、問題が認められれば放校だ」


「決闘を迫られたときの正しい対処法はどのようなものでしょう?」


「警備隊詰所へ駆け込みなさい」


「奴ら数を頼んで被害者を取り囲んで逃がさない様にすると聞きました」


「その時は、道を切り開く分の実力行使は認められている」


「納得致しました」


「その方も護衛となると大変だな。いつでも頼ってくれ」


「ありがとう存じます」



それからダンジョン談義になった。

皆さん全員が、ハーフォード公爵領イルアンに出現した新しいダンジョンに対する情報を、そして特にリッチに対する情報を渇望されており、詳しく聞かれた。

はて、どこまで話そうかと一瞬悩んだが、オルタンスお嬢様が言ってのけた。



「このビトーとマキは4層を踏破しておりますわ」



騎士団全員が色めき立った。

私とマキの株がストップ高になった。

それから王都騎士団・王立高等学院警備隊によるイルアンダンジョン攻略検討会になってしまった・・・


オルタンスお嬢様ぐっじょぶ。


直長から『挟み撃ちエリア』での訓練希望が出された。

隊長からはリッチ戦を所望された。

あなた方、お役目があるでしょうに。



◇ ◇ ◇ ◇



王国の誇る各学科の教授陣を表敬訪問した。


学院で習う正規教科は、

国語(貴族教育含む)

数学(四則演算ができればOK。ピタゴラスの定理くらいはやるらしい)

歴史(この国の常識が隠されている)

地理(外国についてはそれなりに詳しく。貴族領地については詳細情報無し)

音楽(貴族のたしなみ)

体育(剣術、槍術等々)

魔法(4大魔法の実践教育)


それぞれに教授がおり、科目の概要を教えてくれた。

我々がハーフォード公爵領から来たとわかると激励してくれた。

穏健派をまとめて欲しい、とも頼まれた。

毎年、穏健派貴族の子弟が櫛の歯が抜けるように減っていくのは学内でも問題になっている、と聞かされた。



補助教科は、

魔道具学  (魔道具の作り方)

ダンジョン学 (そのまま)

魔物学   (魔物の分類、素材としての利用価値、弱点等)


こちらの教授陣は、教育者というよりも研究者といった感じだった。

我々が表敬訪問すると大変に喜んでくれた。

補助教科は正規教科よりも一段下に見られており、学生からも馬鹿にされやすい、とこぼしていた。

いつでも研究室に来てくれ、と言ってくれた。

私はどちらかというとこっちの教科の方が好きなのだが。


正規にも補助にも経営学はないらしく、マキが不満顔。



我々がハーフォード公爵領の者とわかるとダンジョン学の教授が色めき立った。



「ハーフォード公爵領の者だったら一度はイルアンダンジョンに潜った経験があるだろう?」



いや、そんなわけないじゃないですか。

我々はお貴族様ですよ・・・

・・・

嘘はいけない。



「はあ、入口を舐めた程度です」


「本当かっ! リッチを倒したという話が伝わってきている」


「それは【炎帝】というぱーてーですぅ」


「そなたらはどうなのだ」


「無理ですっ!!」 (きりっ!)



実際問題として、私とマキではリッチを倒せない。

嘘は吐いていない。


途中から魔物学の教授が合流しておかしな事になってきた。

ブルーディアーは魔法を無効化できる/できないで教授間で論争になり、質問を振られた。

こっちをガン見している。

嘘はいけない。



「無効化します」


「何故知っている?」


「見たことがござい・・・ 『このビトーとマキは4層を踏破しておりますわ』 」



お嬢様っ!!


それから擦った揉んだの末、私とマキは炎帝の荷物持ちとして見ていただけだ、と言って信じて貰った。

実際、私とマキでは絶対にブルーディアー討伐は無理だ。

岡目八目で研究だけは進んだと言い訳して、ブルーディアーの倒し方を詳細に説明して、納得して貰った。



◇ ◇ ◇ ◇



寮に戻ると、改めてオルタンスお嬢様から指示が出た。



「穏健派の中小貴族の子弟は殆どが通いです。しかし学生寮に入寮する者が3名います。平民で学生寮に入寮する者が2名います。

さきほど学生寮を下見してきましたが、きっと耐えられなくなるでしょう。

穏健派の子弟の拠り所はハーフォード公爵寮だけです。

逃げ込み希望は全て受け入れるように。

その準備をして下さい」



早速部屋割りを直した。

オルタンスお嬢様は個室であることは変わらないが。

オルタンスお嬢様の学友兼側仕え兼護衛の私とマキは、二人で1室。

寮で働く使用人(マーラー商会ハーフォード支店派遣)も二人部屋。

それ以外の部屋はいつでも開放出来るようにした。


ずいぶん小貴族や平民に気を配られるお嬢様だなと思っていたら、将来を見据えてとのことだった。

オルタンス様は次女なので公爵家に残らない。

外に出たときの人脈を作っておく。

特に平民の金持ちとの関係を築いておくとのこと。



12歳とは思えない立派なご見識です。




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