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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
02 メッサー冒険者ギルド編
15/271

015話 解呪

師匠と柔術の訓練中。

体格差、筋力差、技術差で師匠にあっけなく背後を取られ、師匠の巨大な乳房・・もとい、胸板を背中に押しつけられる形でのけぞる体勢にされ、首を絞め上げられていた。


「ギブ・・・ギブ」

「・・・」

「師匠、ギブですってば」

「・・・」


師匠の腕を叩いてアピールする。

師匠は力を緩めてくれたが、離してくれなかった。

両足で私の胴をがっちりホールドしたまま私のつむじを掻き分け始めた。


「あの・・・ 臭かったですか?」

「おまえ脳天に刺青でもしてるのか。 なんの願掛けだ?」

「それは・・・」


師匠に事情を話すとギルド長立会いの下、急遽私の脳天を検分された。

二人の前で正座させられ、頭頂部の毛を刈られ、じっくり見られた。

二人でぼそぼそ話をしている。


「これってアレですよね」

「そうだな」

「初めて見ました」

「儂も壁や紙に書かれているのは見たことがあるが、こうして人の体に刻印されているのを見るのは初めてだ」

「これ完成してないですね」

「よく気づいたな。書きかけってところだ。おそらく半分も効いていないだろう」



3人でギルド長室へ移動する。


ギルド長は部屋に鍵を掛け、盗聴を防止する魔術具を起動した。


「さて、もう一度良く見せてもらおうか」


じっくりと脳天を検分された。

ギルド長と師匠がダブルで確認しながら私の脳天にある刺青を紙に書き写していく。


「よし、これでいいだろう」


と書き写したものを見せられたのだが、意味のわからない幾何学模様だった。


「これ、なんですか?」

「ま、特徴的な呪いの刻印だな」

「それって・・・」

「ここが呪いの受け口になっている」

「ここで受けた呪いを展開する部分がここだ」

「つまり、確かにおまえを呪っている奴がいるという証拠さ。この刺青がそいつの呪詛を集めているのさ」

「ということは・・・」

「この刺青があるかぎり、おまえは呪われっぱなしという訳だ」

「誰が呪っているのかわかりますか?」

「まあな。この印は特徴的だからな。組織の名刺のようなもんだ」

「枢機卿・・・」

「それ以上言うな」



◇ ◇ ◇ ◇



3人で解呪の方法を考えた。

私が「呪いを返したい」といったら、2人から否定された。


「気持ちはわかるがな。絶対にやめておけ」


単純に返すと呪った人間に倍以上の威力で呪いが返るらしい。

もちろん返すだけの技術があればの話だが。


「それは痛快ですねぇ」


と言ったが、やはり2人からそろって否定された。


「呪いを返すということは『こちらはお前が呪っていることを知っているぞ』ということを、公式に表明したことになる。そしてお前が生きている証明でもある」

「教会が商売のために組織的に誰かを呪っている、ということが公になる」

「奴らがそれを許すわけが無かろう」

「次は殺し屋を雇うぞ」

「それでも埒があかなければ、神の名を騙って公然と殺しに来るぞ」

「『神に謀反した呪われた者を殺せ!』とか言いくさってな」

「信者が全員敵になるぞ」

「どんな汚い手を使ってでもお前を殺しに来る。そのとき王宮はお前を庇ってくれるのか?」


そう問われると返す言葉も無い。

ギルド長曰く、呪術者その人に返すのは下策。

周辺に薄く “散らす” のが上策とのこと。

その方が、呪術者が返されたことに気づきにくく、呪術者を長期間欺くことができる。

さらに呪術者の周辺に “薄く” 呪いを撒き散らすことで、組織を弱体化させることができる。(濃いとバレやすいが、薄いとまずバレないらしい)


なかなか黒いやり方で素敵だ。

なんというか「おぬしも悪よのぉ」というセリフが浮かんだ。

ただし、あくまでも呪いを散らすことができればの話。


ギルド長と師匠は何が必要なのかわかっているようだった。

私は何も教えてもらえないまま、ひとまず解散した。



◇ ◇ ◇ ◇



3日後の深夜。

再びギルド長室に3人が集合した。

3日前には無かったモノがギルド長のデスク上にある。


・かなりの量の人間の毛髪

・羊皮紙(13名の神官の名前が書かれている)

・羊皮紙(無地)

・麦わら一束

・頑丈なガラス瓶とコルク栓

・大量の油紙

・蝋

・縄


髪の毛はミリトス教会総本山の神官が通う理髪店のゴミ箱から拝借したもの。

羊皮紙に名前の書かれた13名は、髪の毛を拝借した日に理髪店を利用した神官たちの名前だ。つまり毛髪はこの13名のもの。

結構な顕職が含まれている。

これらはギルド長子飼いの冒険者に集めさせたらしい。



ギルド長の指示で、私は脳天の刻印を「剥がす」ことになった。

落とすのではなく、剥がす。

落とすと呪いが術者に戻るので駄目といわれた。


師匠の提案で、刻印を「頭皮のシミ」と見立て、汚れを浮かせるイメージで状態異常回復魔法を掛けることになった。


自分の脳天に手をかざしてキュアを掛ける。

ギルド長と師匠が食い入るように私の脳天を見つめる。


「浮いてきたよ」(師匠)


掛け続ける。


「いい感じだ。続けろ」(師匠)


更に掛け続ける。


「頭皮に印は残っていないな。完全に浮いたぞ」(ギルド長)


ギルド長が、そっと無地の羊皮紙を当てる。


「うん。写し取ったぞ」(ギルド長)


ここまで20分掛かった。


「念のためもうしばらく掛けときな」(師匠)


更に10分間、状態異常回復魔法を掛け続けた。

治癒魔法レベルが0→5へ跳ね上がった。



あとはギルド長も師匠も手馴れたものだった。

事前に打ち合わせ済みだったらしく、二人とも何も言わずにテキパキと作業を進める。

師匠が13人の神官の毛髪を編み込みながらわら人形を作った。

ギルド長がわら人形に『13人の名前が書かれた羊皮紙』と『呪いの刻印を写し取った羊皮紙』を縫いとめ、毛髪でぐるぐる巻きにして羊皮紙が外れないようにして、ガラス瓶に入れた。

神官の毛髪は半分残してある。

ガラス瓶はコルク栓を閉め、上から蝋で密閉し、油紙で何重も覆い、縄で厳重に巻き上げた。


ここからは私の仕事だった。

半分残った神官の毛髪を焼いて灰にした。

髪を焼くと臭いねぇ。


灰とガラス瓶を持って、マロンと一緒にミリトス教会総本山の裏山を深夜の散歩と洒落込んだ。

かなり奥に入ったところで、とある木の根元にガラス瓶を埋めた。

木は大きすぎず、小さすぎず。樹勢の良い樹をマロンに選んでもらった。

木の根元に灰を撒き、上からたっぷり水をまいて灰を木に吸わせた。

これで新たな呪いの道が完成したはずだ。


マロンは私が呪われていることを理解しており、夜中に呪詛が送られてくることも知っており、今私が何をしているのかさえ理解しているようだった。


全ての作業を終えた後、マロンはすぐに帰ろうとせず、ガラス瓶を埋めた木の周りをウロウロしていた。

夜明け前、マロンはじっと木を見上げた。


やがて、


「わうっ!」


と一声発すると、私に帰るよう促した。


治癒レベルは「5」のままだった。

成功といって良いのではなかろうか。




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