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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
13 メルヴィル廃村編
148/271

148話 ハーフォード(報告)


宝珠となったダンジョンコアを背負い袋に入れ、廃ダンジョンになった洞穴から外に出るときれいな夕焼けだった。

心なしか空気も爽やかだ。

昼飯抜きだったんだ、と初めて気付いた。

周囲の気配を探るが、もうアンデッドの気配は無かった。


初めてダンジョンに挑んだマグダレーナ様は疲労の色が濃く、天幕に戻るとすぐに休んで頂いた。




翌日。

マグダレーナ様とクリスティーナには引き続き休んで貰い、私は地図を作成。

マキは私の側に残って貰い、記憶の補完。

他のメンバーは周囲の索敵に出た。


午後になってメンバーが戻ってきた。



「ダンジョン跡にはアンデッドの気配は無い。中にも潜ってみたがいないな」


「西の崖沿いにもアンデッドの気配は無いぞ」


「北の居住地跡にもいないわ」


「キャスターの棲む池まで見てきたがいないな」



アルとパロには湿原の上を飛んで貰ったが、異常なしだった。

湿原が乾き始めているらしい。


情報が出そろったところでマグダレーナ様へ報告。



「ダンジョンを鎮め、アンデッドが湧き出ていないことを確認しました。

この宝珠がその証でございます」



マグダレーナ様は宝珠を手に取ってしばらく見ていた。

チラッと私の顔を見る。

物欲しそうだ。



「公爵家へ献上致したく存じます」


「よろしいのですか?」


「はい。個人で持つには重すぎると存じます」



はい。献上。

マグダレーナ様やクリスティーナに見られる前なら個人で隠し持つ事も検討するが、見られてしまった以上、献上しないと政治的野心を疑われるだろう。

宝珠とはそれほどの物だ。

それよりも問題はこっちだ。



【レイピア】

無属性の細剣

柄に精緻な装飾が施されており、持ち主の紋章が刻印されている

鞘に宝石が嵌まっている

金銭的価値が高い



どう見ても紋章はハーフォード公爵領の紋章。

そして例の腐った奴が持っていた剣。


ただし、私の記憶ではイルアンのダンジョンに放り込んで置いたのに、なんでメルヴィルのダンジョンから出て来たのかわからない。


マグダレーナ様に見せる。



「ダンジョンの中で遭遇したスケルトンが持っていた物です。紋章が公爵領のものに似ております」



手に取ってじっと見つめるマグダレーナ様。

確かに柄に公爵領の紋章が刻まれているが、持ち主の名前は彫られていない。

つまり奴の持ち物かどうかは判断つきかねる。

うやむやで終わる。


・・・はずだった。


クリスティーナの証言が無かったら。



「これ・・・ ジェームス子爵様の剣です」


「何故わかるの?」


「子爵様にこの剣を向けられた事がございます。忘れるはずがございません」



想像以上に屑だった。



「何があったのです?」


「自分の女になれと言われました・・・ お断りしましたら・・・ 剣を抜いて私の喉元に突き付けられました。 剣も、鞘も鮮明に覚えております」



想像以上に屑だった。



「クリスティーナ・・・」


「偶然御方様が私を呼ばれるために部屋に入ってこられたので、私は助かりました。私以外にも何人も脅されておりました」



想像以上に屑だった。

財前顔負けだな。



「ビトー。これは私が預かります」


「はっ」


「ビトー。これはダンジョンで出土したのですね」


「はい」


「スケルトンが持っていたのですね」


「はい」


「どのようなことが考えられますか?」


「ダンジョンで死んだ者はダンジョンに吸収されますが、護符を持っていると吸収されないケースがあります。その時はアンデッドになります。

武器を持ったまま死んだ場合、アンデッドは生前の武器をそのまま携行します」


「つまりあのスケルトンがこのレイピアの元の持ち主なのですね」


「その可能性が高う御座います」


「わかりました」



翌日。

湿地の状況を確認する。

水はほぼ捌けた。

もう乾き始めている。


この土地が麦作に適した土地かどうかわからないが、取り敢えず冒険者で無くても調査可能になった。


クエストは完了と判断し、ハーフォード帰還することにした。



◇ ◇ ◇ ◇



再び公爵邸の秘密会議室。

顔を突き合わせているのは公爵、騎士団長、マグダレーナ様、クリスティーナ、ソフィー、マキ、私。



まず私から口火を切る。



「この度、御方様がメルヴィルダンジョンの踏破者になられましたこと、そしてメルヴィルダンジョンを鎮められましたことをこの場でご報告申し上げられることは、欣快の至りでございます」



会議室はしばらく静寂に包まれた。

やがて公爵が口を開いた。



「すまぬ。もう一度言ってくれぬか」


「御方様がメルヴィルダンジョンの第一踏破者の名誉を担われたこと、そしてメルヴィルダンジョンを鎮められたこと。 この場でご報告申し上げます」


「なんだとっ! マグダレーナ、お前っ!!」



マグダレーナ様は澄まし顔で黙っている。


バーナード騎士団長がポツリと漏らした。



「私ですら一度も踏破していないのに・・・」



艶然と微笑まれるマグダレーナ様。

(煽るな、煽るな)



「ダンジョン踏破者など、国内に一人もいないだろう・・・」


「1層のみのダンジョンでしたので、なんとかなりましたわ」


「「 攻略は容易だったのか(ですか)? 」」


「あくまでもダンジョンです。しかも初見です。簡単に踏破できるような生やさしい物ではありません」


「むう」



それからメルヴィル村の地図を広げ、ダンジョンのハザードマップを広げ、公爵とバーナード騎士団長が指でなぞりながらダンジョン談義。

興奮が冷めるのを待って説明した。



「最初は原始ダンジョンだと思って潜っておりました。 ・・・ええ。そう思い込んでおりました」


「魔物はスケルトン、ゴースト、ゾンビの順に出て来ました。アンデッドの多いダンジョンでございました」


「私達は原始ダンジョンだと思っておりましたので、変化の兆しを探っておりました。しかしそこにあったのはダンジョンボスの部屋でした」


「原始ダンジョンにはボス部屋はありません。つまり通常のダンジョンだったのです」


「・・・はい。ウォーカーが前衛・中衛・後衛と隊列を組み、マグダレーナ様は中衛として潜って頂きました」




「本当にマグダレーナはダンジョンに潜ったのか・・・」


「もちろんですわ」


「マグダレーナはボス部屋にも入ったのか?」


「もちろんですわ」


「ダンジョンボスは・・・」


「レッドボアでしたわ」


「ボアか・・・」


「あら、あなた、ボアなら簡単だと思っていらっしゃる?」



ギロリと睨むマグダレーナ様。



「バーナード騎士団長。あなたお一人でレッドボアを倒したことはおあり?」



汗・・・

大量の汗・・・



「ボス部屋の主はレッドボアとボア2頭でした」


「レッドボア以外にもいたのか!」


「激しい乱戦でした。ビトーは死にかけましたわ」


「なんだとっ!」


「ビトーで無ければ死んでいたでしょう」


「・・・」



マグダレーナ様の活躍は・・・ 当然なし。

貴族の淑女たる者、己の手を汚さず成果を拾わねばならない。

だがクリスティーナの活躍は報告した。



「クリスティーナ殿は野営地にて、21体のゴーストを退治致しております」



そしてダンジョン攻略と機能停止の証。

マグダレーナ様が宝珠を取り出された。



「これは・・・」


(ごくり・・・) 誰かが盛大に唾を飲み込む音が聞こえた。


「マグダレーナ、これは・・・」


「あら、何を仰っているの? あなた。 ダンジョンの機能を停止させた証と言えばこれしか無いじゃありませんか」



公爵、バーナード騎士団長ともに食い入るように見ている。



「マグダレーナ、これは・・・」


「ビトー男爵から譲って頂きました」


「「 なんだとっ!! 」」


「ハーフォード公爵家重代の宝器と致します」


「おお・・・」


「ブリサニア王国に公爵家は4つあるが、宝珠を持つ公家は1つもない。これは秘中の秘ぞ・・・」




忘れてはいけない。

メルヴィル村の農地の状況報告。



「湿地の水切りをしてまいりました。徐々に土が乾いていくと予想致します。

あの土地は浅いところに岩盤があるため、水が深く染み込まず、表層に溜まりやすい特性があります。つまり湿地になりやすい地質です」


「湿地のままでは作物は作れぬ。しかしあの土地は水を引けぬ。水を切ったら切ったで乾燥するのだ・・・」


「そこで水を引く算段が必要になります」


「用水路か?」


「はい」


「グラント川から水を引こうとしたのだが、どうしても越えられない箇所がある」


「上流側の水位を、ほんの少し上げましょう」


「・・・お主は何を言っている」



キャスターの話をした。

キャスターが、グラント川から水路へ繋がる辺りに棲息しており、ダムを造って自前の池を持っている。

キャスターに依頼してダムを嵩上げし、池の水位を上げると、水路へ水を通すことが可能になる。


公爵はキャスターの習性は知っていたが、高い知能を持ち、人間と協業できるとは知らなかった。




メルヴィル村。

かつては麦を作っていたが、実際のところ麦作が向いているのかどうかわからない。

私は米作の方が良いと思う。

連作障害もない。

ただ、機械化されていない米作は手間が掛かる。

簡単には勧められない。


判断は公爵麾下の農業の精鋭が出してくれることになった。



【レイピア】についてはマグダレーナ様に一任。

会議が終わった後、公爵と二人きりで会議室に残った。

顔が怖かった。



◇ ◇ ◇ ◇



後日、私に褒美を取らせるという話が出たが・・・


子爵に?



「いえ、爵位が上がると身軽に動けなくなります。私はどちらかというと領内政治より、此度のように領内各地の泥臭い案件を片付けていくのに向いていると思います。

領内移動、国内移動の際、便宜を図って戴けると有り難く存じます」




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