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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
13 メルヴィル廃村編
147/269

147話 メルヴィル村(対策変更・ダンジョンボス)


【レイピア】を拾い、さて先に進むか、引き返すか、相談しようと後ろを振り返ると、ウォルフガングが目を皿のようにして前方を見ている。


釣られてウォルフガングの見ている先に視線を送ると、ちょっと不思議な扉? 門?でっかいフタ? があるのが見えた。



イルアンのダンジョンを思い出す。

ダンジョンの階層ボス部屋には扉があった。

しっかりした扉だったり、ボロボロの扉だったりした。

今見ている扉は第1層の階層ボスの扉だろうか?


それにしてはウォルフガングの反応がおかしい。


確かに今見ている扉は何かがおかしい。

何がおかしいのか、最初は良くわからなかった。

皆が無言で扉を見ているので私も見ていると、そのうちにわかった。

扉の表面から魔力の揺らぎが見えるのだ。



「ウォルフ。あの扉は何ですか?」


「ダンジョンボスの部屋だ」


「え~~っと」


「まずこのダンジョンは原始ダンジョンではない。歴としたダンジョンだ。既に刺激されていたようだ。そしてその扉の向こうにはダンジョンボスがいる。そしてダンジョンコアがある。 攻略するぞ」


「え~~、その前に、ですよ。 マロン?」


「ばう」


「ゾンビ、ゴースト、スケルトン以外に魔物がいるって言ってたね?」


「ばう」


「何がいるのかな?」


「ギュワン」


「・・・」


「ギュワン」


「ボア・・・ かな?」


「ばう」



ボア。

つまりイノシシの魔物。

体重があって頑丈だ。

脇差しやショートソードアクセルでは歯が立たないだろう。

武器を【トロールの短剣】(別名:人間から見た大鉈)に変えた。



「ボアか・・・ 1匹でいると思うな。 ジークフリードとクロエは前衛」


「「 はっ 」」


「ソフィーとクリスティーナはマグダレーナ様に付け」


「「 はい 」」


「ビトーは儂の後ろに付け」


「はい」


「マキとマロンは負傷者を後ろへ下げろ」


「はい(ばう)」


「では行くぞ。ビトー、扉を開けろ」



リッチの部屋に入るとき同様に私が扉を開け放ち、そのまま前方に倒れ込む。

私を乗り越えてウォルフガング、ジークフリード、クロエが部屋に飛び込む。

私はすぐに飛び起きてウォルフガングの後ろに付く。


敵は!?

いたッ!

デカいっ!

全長2m。

黒いイノシシの魔物。

我々を見ている。


ウォルフガング、ジークフリード、クロエがじわりと包囲し掛けたとき、それは起きた。



「バウッ!」



マロンが警告を発した。

その途端、ボアが分身した!


・・・ように見えた。


それから色々なことがいっぺんに起きた。


最初に見えていた黒いボアは真っ直ぐウォルフガングに突進した。

新たに現れた黒いボアがジークフリードに突進した。

そして最後に赤いボアが出て来た。

赤いボアはクロエに突進した。


赤いボアは黒いボアより一回り大きかった。


乱戦になった。



クロエを押し退けて、赤いボアが私に向かって突進してきた。

自分以外の戦闘を気に掛ける余裕などなかった。



◇ ◇ ◇ ◇



事が終わった後で冷静になると、イノシシ系の魔物というのはどうにも厄介な相手だ、という当たり前の感想しか湧いてこない。


ボアは全身を筋肉と分厚い脂肪と分厚い毛皮と泥で覆い、革鎧を何枚も重ね着したようになっている。

私程度がショートソードアクセルでクリーンヒットさせても、到底骨まで通らない。

そしてスピードがあり、耐久力があり、小回りが利く。


ボアの武器は牙。そして体重を活かした体当たり。

そのような攻撃を仕掛けてきた。


ボアの突進を受け止められたのはウォルフガングだけだった。

ウォルフガングはオーガシールドでボアの突進の向きを逸らし、首の後ろにソードオブヘスティアを打ち下ろした。

一撃で脊柱まで断ち切った。



ジークフリードはボアの突進を受け止めきれなかった。

オーガシールドでボアの牙は防いだが、体勢を崩され、押し退けられ、背後への道が開いてしまった。

ジークフリードの後ろにいたのはマキだった。



クロエはレッドボアの突進を受け止めきれなかった。

ウォルフガングでも難しかったかも知れない。

オーガシールドでレッドボアの牙は防いだが、簡単に押し退けられてしまった。

後ろにいたのは私。


この時私は命の危険を感じてゾーンに入っていたらしく、スローモーションを見ているような感覚があった。


レッドボアはクロエを無視して真っ直ぐ私に突っ込んできた。

加速がつき始めており、身を躱す時間が無いことは理解した。

この時私の脳裏にあったのは、


『万剣も帰すれば只ひとつの太刀なり』


レッドボアの牙にトロールの短剣を当てに行った。

振り下ろそうとは思わなかった。

両手でしっかり柄を握っていた。

短剣の刃が牙に食い込んでいくのが見えた。

牙の中程まで食い込み、それ以降は刃の侵入速度が遅くなった。


むしろそれが良かったのだろう。

トロールの短剣が支点になって私の体が浮き上がった。

体が浮いたところでレッドボアの体当たり喰らった。

車にはねられたような衝撃とともに宙を舞い、壁に激突し、私の戦闘は終わった。


もし踏ん張った状態でレッドボアの体当たりを受けたら、ズタボロの血袋になっていただろう。



◇ ◇ ◇ ◇



そこから先の戦闘の経過はソフィーに聞いた。


レッドボアは私を弾き飛ばしたが、その時の衝撃で牙が折れた。

奴もパニックになったらしく、よく前を見ないまま突進した。

進路上にいたのはマグダレーナ様だが、当然ソフィーがその前にいる。


ソフィーは本邦初公開の秘技を見せた。


『氷剣山』


巨大な氷槍を壁状に並べ、レッドボアの体当たりを待ち構えて串刺しに仕留めた。

それでもまだ死に切れず、もがいているレッドボアに対し、氷槍の連続射撃で止めを刺した。



ジークフリードを押し退けたボアは、そこで目標マキを見失った。

一瞬動きが止まったボアを、ジークフリードとウォルフガングが袋叩きにして仕留めた。


マキは【ブラインダー】の効果で認識されにくくなっており、ボアは目が悪かったことから、完全にいない人になっていた。



◇ ◇ ◇ ◇



戦闘が終わった。


ソフィーが、壁際でボロ雑巾と化している私を拾い上げ、ボス部屋の中央に運んでそっと寝かせてくれた。



「誰か・・・ 怪我人はいませんか?」



メンバーにそう聞いたら、



「怪我人はお前だけだ。お前が一番重傷だ。馬鹿」



そう言うと、ソフィーは私の頭をポカリと殴ろうとした。

が、途中でその手が止まった。



「死んだかと思った・・・」



ソフィーにぎゅうと抱きしめられた。



「イデ、イデ、イデ・・・・」



背中が痛い。

重度の打撲だ。


肋骨が軋む。

差し込むような痛み。

何本も折れているらしい。


その他は?

左腕が折れている。

壁に激突したときに頭を庇った奴だ。

頭部のダメージは? ない。

内臓のダメージは? ない。

筋肉、腱にダメージは? まあ、容認できるレベル。


よし。

では、ヒールっと。


え~と。

ソフィーさん?


・・・


しばらくソフィーに抱きしめられていた。



◇ ◇ ◇ ◇



急にボアが増えたように見えた理由を聞いた。

床面に凹みがあり、ボアの泥浴び場になっていた。

そこに潜んでいたらしい。

賢いじゃないか。



レッドボアとボアを背負い袋に仕舞いながら鑑定した。



種族:レッドボア

年齢:3歳

魔法:-

特殊能力:-

脅威度:Cクラス



種族:ボア

年齢:5歳

魔法:-

特殊能力:-

脅威度:Dクラス



レッドボアはボアの上位種で、ブルーディアーと脅威度が同じ『C』だった。

ブルーディアーは魔法攻撃を無効化する特殊能力があったが、レッドボアには何も無い。それなのに脅威度はC。

ミノタウロス戦のときにも感じたことだが、特殊能力抜きで高い脅威度を持つ魔物は本当に強いな。


おそらくウォルフガング、ソフィー、ジークフリード、クロエは、好き勝手に動いてよいのなら上手にあしらうのだろう。

だが私やマキといった弱者を守りながら戦うとなると、そうはいかない。

パーティというのも難しいものだな。



そして今回のクエストの最終目的。



「ウォルフ。ダンジョンコアはありますか?」


「ああ。そこの祭壇だ」



ボス部屋の壁の一部が窪んで祭壇になっており、その上に直径が50cmほどもある宝珠が鎮座していた。

宝珠から淡い光が脈打ちながら溢れ出ているように見える。

魔力を帯びた光だ。

これがダンジョンの心臓であり、頭脳なのか・・・



鑑定する。



種族:ダンジョンコア

年齢:5歳

魔法:-

特殊能力:ダンジョンを形成する

脅威度:-



「どうやって破壊するのです?」


「祭壇から動かす。そして剣で打ち壊すか、炎で炙れ。 お前がやれ」



言われたとおり両手で宝珠を抱え(割と軽い)、祭壇からそっと下ろした。

そして炎杖を構え、火炎放射で炙り始めた。


5秒ほど何事も無く、「あれ・・・しくじったかな?」と思い始めたとき、宝珠がカッと強い光を放ち、魔力の脈動が止まった。

これで良いらしい。

改めて鑑定すると、



種族:宝珠

年齢:-

魔法:-

特殊能力:生命

脅威度:-



と出た。


何でしょうね「特殊能力:生命」って。

死んでも1回限り生き返ります、とでも言うんですかね。




「マキ・・・」


「うん。もう探してある」



さすがはマキさん。話が早い。

全然宝箱に見えない宝箱を既に探し当てていた。


宝箱は2つあった。

2つともマキに開けて貰った。

出て来たのは、



【アミュレット】

神木から作られたお守り

アンデッド除け



【豊穣のブローチ】

デーメテールの力を宿したブローチ



素っ気ない説明だな。

だが【豊穣のブローチ】は記憶がある。

確か一つ持っていたような気がする。

メッサーダンジョンで拾ったような気がする。


まあ、いいか。




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