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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
13 メルヴィル廃村編
146/270

146話 メルヴィル村(想定外・対策実施中)


メルヴィル村へ行く途中、ハミルトンで一泊した。


マルコ(男爵、村長、マグダレーナ様の兄君)を表敬訪問した。

マルコがマグダレーナ様を諫めてくれることに一縷の望みを掛けていたが、期待はあっけなく霧散した。



「マグダレーナ様はどちらに行かれるのですか?」


(マルコはマグダレーナ様の兄上ですが、マグダレーナ様の方が位が上なので敬語を使われています)


「メルヴィルです」


「魔物退治に行かれるのですね」


「ええ。その通りですわ」


「くれぐれもお気を付け遊ばされるよう」


「兄上もハミルトンをよろしくお願いしますよ」


「心得ております」



むしろ後押しするかのごとき口ぶりだった。

マルコはハミルトンの村長で、収穫の指揮は当然だが、畑を荒らす魔物が出たときは自ら前線に立ち、魔物討伐の指揮をする。

そのマルコがあのような口ぶりをするとは思わなかった。

さては・・・



メルヴィル村まで向かう道すがら、マグダレーナ様と侍女の実力を聞いた。


マグダレーナ様は『王国高等学院』を、女子卒業生の首席で修了されており、男子も含めると全体で3番目の成績だった。

学院始まって以来の才女として名を馳せ、そこいらの貴族の子弟では太刀打ち出来ない実力をお持ちであらせられた。

その実力を認められ、水面下で王家との縁組みも検討されていたが、本人の「故郷のお役に立ちたい」との希望からハーフォード公爵に嫁いだ経歴をお持ちだ。

恋よりも家柄よりも故郷の(領地の)発展が大事。

貴族の鑑のような女性だ。

水球、水刃、水壁を操る水魔法使い。



侍女はお名前をクリスティーナといい、やはり『王国高等学院』を優秀な成績で修了されている。平民出身。

マグダレーナ様の12年後輩にあたるが、12年の時を経てなお語り草になっていたマグダレーナ様に憧れ、マグダレーナ様の侍女を志望した。

火球、火槍、火壁を操る火魔法使い。



メルヴィルに到着されたらマグダレーナ様は陣頭指揮を取られるおつもりだろうか?

お二方をどのように遇すれば良いか悩む。



◇ ◇ ◇ ◇



夕刻。メルヴィル到着。

前方に堤防が見えた地点で馬車を止める。

パロ(オウム)、マロン、ウォルフガング、ジークフリードが偵察隊として先行する。

現地に残っていたアル(フクロウ)と合流。

ここまでの大まかな状況を聞く。


原始ダンジョンからは少しずつ魔物が湧き出しており、現在はゾンビ8体、ゴースト12体、スケルトン9体が徘徊している。


ちょっと良いか、アル。

ゾンビの数が、先日聞いたときより減っている気がするのだが?

湿地に嵌まって動けなくなって魔力切れで死んだ?

ほう。

湿地。良い仕事をするじゃないか。


ところで対魔樹の並木のこちら側には魔物はいないな? 

並木を突破した魔物もいないな?


よろしい。

並木道の東側に天幕を張る。



食事。

我々だけなら口糧で済ませてしまうが、マグダレーナ様とクリスティーナがいるのでそれでは味気ない。

マキ監督の下、私がキリキリ働く。

まずは付け合わせの温野菜(塩ゆで)。

飲み物には野菜と果物のフレッシュジュース(人力ミキサー)とお茶。

メインはブルーディアーのステーキ(塩胡椒のみ)。

肉汁にオニオンもどきのみじん切りを合わせ、炒め、塩で味を調えてソース代わり。肉にでも温野菜にでも掛けてくれ。

パンはお好みでと言いたいところだが、この世界には素っ気ないハードパンしか無い。

保存が利くのでクエストには向いているのだが、ちょいと味気ない。


ブルーディアー。

あなどれん。

素人が焼いたにしては、元の世界の基準からみても凄く旨い。

マグダレーナ様とクリスティーナもかなり満足されているようだ。



◇ ◇ ◇ ◇



肉の匂いに誘われたのか、それとも我々がいることに気づいて生き血を求めて押し寄せてきたのか。

ゾンビとスケルトンが対魔樹の並木に群がってこちらをガン見している。

だがその一線からこちらに入って来られないでいる。

ゴーストはそもそも対魔樹のそばまで来られないようだ。


食事の後片付けを終える頃。

周囲はそろそろ暗くなりかけたが、ゾンビとスケルトンは誰一人お帰りにならない。

時折ゾンビがうめき声を上げ、スケルトンが歯をカチカチ言わせるのが耳に付く。


これでは落ち着いて寝ることが出来ないので、マグダレーナ様とクリスティーナがお休みになる前に掃除をすることにした。


ソフィーがゆっくりとロングソードアクセルを抜き、優雅な仕草で切っ先をゾンビ、スケルトン共に突き付けた。

そして無言で氷槍の嵐を叩き付けた。


一瞬でゾンビの群れ粉砕。

スケルトンの群れ粉砕。


ゆったりと剣を鞘に収め、ソフィーはマグダレーナ様に向き直り、跪いて報告した。



「拙い技ではございますが、御方様の宸襟を悩ます無作法な者どもに打擲ちょうちゃくを与えました。どうぞ今宵は安らかにお休み下さいませ」



マグダレーナ様大感激!

そしてソフィーを激賞された。



「今まであなたを疑って本当に申し訳なく思います。あなたの技は貴族女性の鑑です。私も少しでもあなたに近づけるよう励むことに致します」



クリスティーナは元平民だけあって、感情の発露が素直だった。



「ソフィー様! なんて素晴らしい! ソフィー様ほどの魔法使い見たことが御座いませんっ!!」



ソフィーは一瞬でクリスティーナのアイドルになってしまった。



◇ ◇ ◇ ◇



興奮も落ち着き、『明日は早いので』ということでマグダレーナ様とクリスティーナは早めに床を取って貰った。

ウォーカーがローテーションで不寝番。



真夜中を過ぎた頃。

私は寝ていたが、妙な気配で目が覚めた。

不寝番はジークフリードだったが、皆を起こしている。


ゴーストが対魔樹の並木まで来ていた。

その数21。

昼間は対魔樹の近くまで近寄れなかったが、幽霊らしく、夜になると元気になって近寄れるようになるらしい。

なんとか我々から精気を吸おうとしてひしめいている。

心なしか空気がひんやりしている。

ゴーストどもが手当たり次第に周囲のエネルギーを吸っているせいかもしれない。



さあて、どう料理しましょうか、と考えていたところ、マグダレーナ様とクリスティーナが起きてきた。

妙な気配でマグダレーナ様が目覚めたらしい。


マグダレーナ様がクリスティーナに一言ふたこと話すと、クリスティーナは天幕の中から杖を持って出て来た。

これはクリスティーナの実力を見るチャンス。

お任せすることにした。



クリスティーナは杖を構えてしばらく集中していたが、やがてはっきりとした声で呪文を唱えた。



「聖なる炎よ。我に仇成す者どもを焼き尽くす弾となれ・・・【ファイヤーボール】」



よく訓練されているようで、立ち姿、杖の構え、詠唱、全てが堂に入っていた。


ゴースト共に向けた杖の頭の先に火球が生まれ、ぐんぐん大きくなる。

呪文の詠唱後、一呼吸おいて火球がゴーストの群れに向かって発進した。


このあたりのスピード感は絶妙で、ソフィーが氷槍を撃つのとは全く異なる。

クリスティーナの火球は「発進!」という言葉が一番合っている。


杖の先から放たれた火球は、カタパルト上を進むがごとくゆっくりとスピードを上げ、飛翔して、ゴーストの群れの中に飛び込んだ。

そしてクリスティーナは杖で火球の軌道をコントロールし、21体いたゴーストを次々に火球に呑み込ませていった。


こんな使い方もあるんだ。

目から鱗だった。


今度は私がクリスティーナの魔法を激賞した。



その後しばらく様子を見て、魔物が近付いてこないことを確認し、マグダレーナ様とクリスティーナにお休み頂いた。



◇ ◇ ◇ ◇



夜が明けた。

散乱している魔石を拾い集め、朝食の準備。


朝は軽く焼肉サンド。肉は昨夜のブルーディアーのステーキ。

料理と言うにはおこがましいほど簡単な物だが、肉が凄い。


マグダレーナ様とクリスティーナがこそこそ相談しているのが聞こえてしまった。


(公爵家の厨房に引き抜きましょうか)

(そうねぇ)



◇ ◇ ◇ ◇



クロエとアル(フクロウ)を除いたウォーカーのメンバーは、原始ダンジョンへ接触を試みる。

マグダレーナ様はウォーカーから十分に距離を開けて、後詰めとして付く。

クロエとアルとクリスティーナはマグダレーナ様の護衛。



マグダレーナ様にも聞こえるように、ウォルフガングが指示を出す。


「これより原始ダンジョンへアタックする。

ターゲットは初層のみ。

初層の途中までだ。

ダンジョン内の魔物を狩り尽くす必要は無い。間引く程度だ。

ゴーストとゾンビとスケルトンが出てくると予想されるが、それ以外の魔物にも注意せよ。

一応地図を作成するが、これは後日改編される物だ。

地図作成はビトー、お前だ」


「 了解 」


「隊列は、

前衛、儂、ビトー、ジークフリード。

後衛、マロン、ソフィー、マキ。

後詰め、マグダレーナ様、クリスティーナ、クロエ。

上空からパロとアルが監視だ」


「「「「 了解 」」」」


「ソフィー、何か気付きはあるか」


「ございません」


「行くぞ」



対魔樹の並木を横切り、堀を越え、ダンジョンに近付く。


ゾンビ4体、スケルトン5体が熱烈お出迎え。

ゾンビは両手を前に出し「ヴオオオオオ・・・」と喚きながらゆっくりと近付いてくる。

スケルトンは棍棒を振りかぶり、「カタカタカタ」と歯を噛み合わせながら素早く近付いてくる。


スケルトンはウォルフガングとジークフリードが剣で叩きのめし、その隙に私がゾンビをデ・ヒールで倒していった。



原始ダンジョンの入口に近付く。

目印のため、近くに生えている灌木に布を巻く。


ダンジョン内の臭いを嗅いでいるマロンに聞く。


「ゾンビは?」 いる。

「ゴーストは?」 いる。

「スケルトンは?」 いる。

「それ以外」 いる。


「予定通り前衛は儂、ビトー、ジークフリード。 後衛はマロン、ソフィー、マキだが、中衛にマグダレーナ様、クリスティーナを入れる。 入るぞ」



◇ ◇ ◇ ◇



洞窟はウォルフガングが立って歩ける位の高さがあった。

天井まで3mほど。

横幅は4mほどだ。


イルアンのダンジョンより狭い。

ウォルフガングやソフィーが剣を上段に構えると絶対に天井につかえる。

3人が横に並ぶと剣を振り回すことが出来ないため、2列縦隊に変えた。


前衛 :私、ウォルフガング

中衛1:ソフィー、マキ

中衛2:マグダレーナ様、クリスティーナ

中衛3:クロエ、マロン

後衛 :ジークフリード、アル、パロ


こういう練習を散々しておいて良かった。



マグダレーナ様、クリスティーナは、ダンジョン攻略は初めてとのことで(そりゃそうだ)、相当緊張されている。

特にクリスティーナは『何かあったら自分が身代わりに・・・』と譫言うわごとのようにつぶやいていた。

尋常でない汗をかいている。



ダンジョン内はほのかに明るい。

だが初めてのダンジョンなので、何一つ見落とさないように、私がハーピーの羽根の灯りを掲げながら洞窟内を進む。


天井も壁も床も土を固めただけのようだ。

つまりこのダンジョンには土がある。

ジークフリードを連れてきて正解。



通路を進む。

すぐにスケルトン(4体)と遭遇。

ここのスケルトンはスケルトンナイトに率いられていない。

従って弱い物イジメはしない。

正面の敵にぶち当たってくるだけ。

ただし、今、私とウォルフガングが前衛にいる。

結局私に攻撃が集中するのだった。



「1体はお前に任せる」



ウォルフガングの一言で、私は正面のスケルトンを退治した。

まあ私もこの程度はね。

通路が狭いので一度に相手をするのは目の前の1体。

これは助かる。

デ・ヒールを使うでも無く、剣と盾で倒していく。


スケルトンの得物は1体だけ剣を持っている奴がいたが、あとは棍棒だった。



全て退治して魔石を拾っているとなにやら気配がある。

ゴーストか。


魔石拾いを中断して、灯りにしているハーピーの羽根を近づけて、発光を強くする。

消え入りそうな悲鳴を上げてゴーストが逃げ惑う。

一体ずつデ・ヒールを当てていった。


どれ、スケルトンとゴーストの魔石を拾うか・・・


何やら気配がする。

今度はゾンビか。

3コンボだな。


脇差しとショートソードアクセルの先で「ちょん、ちょん」と突っつきながらデ・ヒールを掛けていく。

バタバタ倒れていく。

アンデッドは既に死んでいる奴が魔力で動かされているだけなので、魔力を抜いてやればすぐに死ぬ。


動きの遅いアンデッドは、闇魔法使いにとっては与し易い相手なのだ。



やっと落ち着いて魔石を拾わせてくれそうだ。

と思ったら、妙に豪華な剣が落ちている。

スケルトンが持っていた奴だ。


鑑定する。


【レイピア】

無属性の細剣

柄に精緻な装飾が施されており、持ち主の紋章が刻印されている

鞘に宝石が嵌まっている

金銭的価値が高い



鑑定結果は見たまんまだった。


しかしこの剣は見たことがある。

早くもアンデッド化したのかな。

でも何でイルアンじゃなくて、ここメルヴィルで出て来たのだろう?


まだまだダンジョンやアンデッドに関してはわからないことが多い。




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