表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
13 メルヴィル廃村編
145/269

145話 ハーフォード(中間報告)


今、公爵の館の秘密会議室にいる。

いや、いかがわしい会議室ではない。

盗聴防止が施された会議室という意味。


部屋の中にはマグダレーナ様と私とソフィーとマキがいる。

そしてたった今、公爵と騎士団長が入室された。



「申し訳ないけど、もう一度最初から話してくれる?」




最初我々はマグダレーナ様にお目通りを願い、「中間報告で御座います。まず御方様のお耳に入れておきたく」と言ってアウトライン(コスピアジェを除く)を話したが、マグダレーナ様はすぐに公爵と騎士団長を入れる判断をされた。



「想定外の事がありましたので、中間報告をさせて頂きたく、よろしくお願い致します」



そう前置きをしてテーブルの上に現メルヴィル村の地図を広げた。

公爵、マグダレーナ様、騎士団長がガバッと身を乗り出してきた。

地図を指でさしながら言葉で補足していった。



村の北側(旧居住区)は高台になり、水龍の呪い時にも水に浸かりにくい。


村の中央部~南部(旧耕作地)は、土地は下がっていない。

しかし周囲が高くなったので相対的に下がった。

そのため周囲に降った雨水はここに集まりやすく、かつ地下に岩盤があって水を通しにくい。湿地になりやすい。

魔物 (ビッグトードとレッドニュート)が棲息する。

麦の栽培に適しているかは疑問。

湿地の水を水路に切る措置はしてきた。


村の南端(旧耕作地の南端)は高台になっており、水龍の呪い時も水に浸かりにくい。

ここに魔力溜まりがある。

継続的にアンデッド系の魔物(ゾンビ、ゴースト、スケルトン)が湧いて来ることを確認した。

そして最も重要な情報。ここは原始ダンジョン化していた。

ひょっとすると今頃ダンジョンになっているかも知れない。


村の西側は比較的標高が高くなり、その先は崖。その先は海。


村の東側は、かつて作られた水路と堤防が健在。

魔除けの並木も健在。

魔除けの並木は特にアンデッド系に対して有効。

水路はグラント川まで続いていることを確認。


村の北側の更に北。ハーフォード公爵領外にキャスターが棲んでいる。

友好関係を結んでおいた。



◇ ◇ ◇ ◇



公爵と騎士団長が真っ先に原始ダンジョンに食いついた。



「新たなダンジョンだと!」


「はい」


「領内に2つ目のダンジョンか・・・ 騎士団長、どうなのだ?」


「対処困難です。どちらかは放置になりましょう」


「むむ・・・ しかしイルアンの前例を見るとダンジョンは領地を豊かにする」


「それは同意致します。しかしメルヴィルではハミルトンに近すぎます。領内最大の穀倉地帯のすぐそばにダンジョンでは・・・」


「むう・・・ ダンジョンで何かあったときは収穫を諦めることになるのか」


「はい。騎士団ではイルアンでの有事を想定した編成をしております。これが領内2つ目のダンジョンとなりますと、編成を倍にして、ハミルトンに常駐が必要になりましょう。予算は倍以上になります」


「むむ・・ 騎士団長、それは待ってくれ」


「はい。ですので破壊してしまわなければなりますまい」


「ダンジョンの破壊? そんなこと可能なのか?」


「前例が無いわけではありません」


「どうするのだ?」


「ダンジョンの最深部まで潜り、魔力溜まりを破壊するのです」


「・・・」


「・・・」


「バーナード、お主がそれをするのか?」


「・・・」




こっちを見るな、と言いたいところだが・・・

結局ウォーカーに頼ることになるよね。


それから喧々諤々とした議論になった。

ダンジョンの管理だ、破壊だ、儲けだ、発展だ、スタンピードだ、収穫期だ、討伐だ、アンデッドが悪いのか? アンデッドじゃなければよいのか?


結局最後はダンジョンの破壊停止に傾き、ウォーカーに任せるしかあるまい、という結論に流れようとした。


しかしマグダレーナ様の抵抗凄まじく、公爵と騎士団長に対し一歩も引かなかった。

思い詰めたような異様な目をされており、やがて公爵と騎士団長も黙ってしまった。


このままではまずい。


そして、実はウォルフガングとソフィーはダンジョンを制圧出来ると踏んでいた。

それはこの会議が始まる前にパロ(オウム)が報告に来たからだった。


パロによると、我々がメルヴィルを離れた後でゾンビが湧いて出た。

数は12体。

第2次スタンピード開始らしい。

スタンピードで12体って、コスピアジェの予測通り、極めて規模の小さいダンジョンであることは間違いない。

ただし、よく間違えるのだが、規模の大小と魔物の強さは比例しない。

そこは油断しない。


ゾンビは対魔樹の並木で撃退され、仕方なく足を取られながら湿地をうろついていることがわかった。



そこで恐れ多いことながら、私がマグダレーナ様の説得に当たった。



「御方様。発言のお許しを頂きたく」


「もちろんです」


「議論が発散しましたので、話の要点を整理させて頂きとう存じます。まず大前提は『ハミルトンという領地経営の要の近くにダンジョンがあるのはまずい』でよろしゅう御座いますか?」


「そうです」


「閣下も騎士団長もよろしゅう御座いますか?」



2人とも無言で頷く。



「従って、ダンジョンは極力破壊したい。しかし破壊が無理だったらイルアン同様に管理したい。 よろしゅう御座いますか?」



3人とも頷く。



「ではまずダンジョンを刺激して、原始ダンジョンから通常のダンジョンへ変化させなければなりませぬ。壊すにせよ、運営するにせよ、議論はそれからです。 よろしゅう御座いますか?」



3人ともあいまいに頷く。



「原始ダンジョンを刺激して変化を促すのはウォーカーの専売特許と考えます。領内はおろか、国内を探しても、その経験を持つ者は他におりますまい」


「「「 ・・・ 」」」


「そこで、まずはウォーカーがダンジョンを刺激してこようと存じます。 ここまではよろしゅう御座いますか?」



公爵と騎士団は明確に、マグダレーナ様は嫌そうに頷いた。


公爵からご下命を賜った。



◇ ◇ ◇ ◇



早速ウォーカーの宿舎へ戻り、全員を集めた。


ハーフォード公爵領に2つ目のダンジョンが生まれつつあること、非常に規模が小さいこと、出来れば潰してしまいたいこと、今から原始ダンジョンを刺激しに行くが、ひょっとすると既に通常のダンジョン化しているかも知れないことを共有した。

この話をしたとき、メンバーは誰もはしゃがなかった。

淡々と準備を始めた。


つくづくこのメンバーで良かったなと思った。



◇ ◇ ◇ ◇



マグダレーナ様の護衛として誰を残すかを話し合っていたとき、不意にマグダレーナ様と侍女がウォーカーの宿舎へ入って来られた。


何とマグダレーナ様は婦人用の鎧を着用され、腰にレイピアを挿しておられた!!

鎧はお仕着せではない。

ちゃんと着こなしている。

侍女も同様の装備をされていた。


マグダレーナ様に一番高級な椅子に座って戴き、ウォーカー一同マグダレーナ様の話を聞く態勢を取った。

思わぬ事を言われた。



「此度のメルヴィル行きは私も同行します」



マグダレーナ様は引き留め、戒めを聞き入れなかった。

それどころか声を荒げて



「あなた達、いつもいつも私の言葉をないがしろにしてっ! たまには私の我が儘を聞きなさいっ!」



一言も無かった。


公爵と騎士団長の反対は力でねじ伏せてきた、と言われた。

どれだけ剛腕なのだ?



◇ ◇ ◇ ◇



翌朝。

現地でマグダレーナ様に快適に過ごして頂くための天幕、寝台、寝具、着替え、什器、魔法コンロ、炊事道具一式、食料、洗面具等々をマグダレーナ様の馬車に積み込み、ハーフォードを出発した。


馬車にはマグダレーナ様と侍女が乗車し、私とマキが御者。

二人とも斥候の格好だが、マキの【ブラインダー】についてはマグダレーナ様に散々食いつかれた。

同様の物が出たときは献上するように、と念を押された。


マグダレーナ様と侍女は既に鎧に身を固めておられる。

他のメンバー(ウォルフガング、ソフィー、ジークフリード、クロエ)は騎乗して馬車の周囲を固める。

マロンはやや先行して前方を警戒。

パロ(オウム)が上空から広域監視。




エマとカールはハーフォードの宿舎でパトリシアの庇護下に置かれた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ