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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
13 メルヴィル廃村編
143/269

143話 メルヴィル村(現状把握 続き)


ソフィーが落ち着いたので、改めて私からコスピアジェに挨拶をした。



「ご無沙汰をしております」


「息災のようで何よりですね。あなたのご活躍は伺っておりますよ」


「もったいのうございます」


「今日はどうしてここに来たの?」


「ここ、つまり旧メルヴィル村を再興できないか、という命を受けまして下見に参りました」


「あら。じゃあここも騒がしくなるのねぇ」


「コスピアジェ様。殺気が漏れております・・・」



また住処を追われる、ということで、不快に思ったのだろう。

だがコスピアジェの不快は我々にとっては殺気に相当する。


マキが尻餅をついてあわあわしている。

2羽の使い魔は金切り声を上げながら空へ逃げた。

マロンはひっくり返って白目を剥いている。

ソフィーは反射的に剣を抜こうとした右手を必死に抑えている。



「あら・・・」


「恐れ多いことでございますが・・・」


「元々人間が住んでいた土地ですからね」


「申し訳御座いませぬ。 ところでここは湿地に変わってから魔物が増えたと聞きました。ビッグトード、レッドニュート、ゾンビ、ゴーストがよく出ると聞いてきたのですが、噂とは異なりますね」


「ゾンビとゴーストは私が処分しました」


「お気に障られましたか」


「あいつら身の程を知らずに騒ぐから」


「・・・」 (黙って一礼した)


「ここも騒がしくなるわね。引っ越ししないといけませんね」


「重ねて申し訳御座いませぬ。お詫びの印と致しまして、私に出来ることをお申し付け下さいませ」


「あら。じゃあまた私の体の面倒を見て頂いちゃおうかしら」


「承りました」



それからコスピアジェの体を隅々まで鑑定し、ヒールを掛けていった。

前回のように古傷が原因で変形したまま固まってしまった痕は見受けられず、快調に過ごされているようだ。

関節のメンテナンス、特に書肺のメンテナンスは丁寧に行った。



「あなたって、どうして私のことをそんなに詳しく知っているのかしら」


「子供の頃に図鑑で見た記憶が御座います」


「ずかん?」


「はい。子供向けの書物なのですが、絵をふんだんに取り入れて、言葉では子供に説明しきれない部分を目で見てわかるように書かれているのです」


「そんな子供向けの書物に私が?」


「はい。正確に申しますとコスピアジェ様の解説ではないのですが」



そんなこんな話している内にコスピアジェの胴体を整え終えた。



「あなたに面倒を見て貰うと本当に若返るわ」



そう言うとコスピアジェは「タタタタタタタッ」と目にも留まらぬ速さで8本の足を動かして見せ、にんまりと笑った。


更に上半身のメンテナンスに時間を掛けた。

コスピアジェの上半身は老けている、やつれている、という感じは微塵も無いのだが、年齢不詳だった。

美女のような、美魔女のような。

それが若返った。

アイシャやアレクサンドラより若く見える。



◇ ◇ ◇ ◇



コスピアジェはすぐにここを去るという。


色々なことを聞きたい(アスピレンナとの確執とか、バフォメットとの関係とか、ルー族との関係とか、ラミア族との関係とか)が、出過ぎたマネをして機嫌を損ねるのはまずい。

それに、何より先にこの地のことを訊かねばならぬ。

なにしろコスピアジェは長年この地の主だった訳で、コスピアジェ以上の事情通はいない。


自分で描いた旧メルヴィル村の地図を広げ、コスピアジェに確認しながら書き足していく。



村の北側。

かつて人間の居住区があったところ。

元々標高が高かったが、地龍の呪いで更に標高が上がった。

直近の水龍の呪い時にも水は被らなかった。

これは朗報。



村の中央部~南側。

かつて麦畑が拡がっていたところ。

地龍の呪いで土地が沈降したのではない。

回り(北と西)が高くなったので、相対的に窪んだように見えるだけ。

地形から、周辺に降った雨水はここに集まる。

そして湿地になりやすい。

コスピアジェが言うには元々水捌けは良くない土地だった。

麦の栽培に適しているかは疑問。



村の南端。

コスピアジェの巣があったところ。

どういう具合かわからないが、標高が高い。

直近の水龍の呪い時にも水は被らなかった。



村の西側。

比較的標高が高い。

ある程度先に進むと崖になっており、その先は海。

真っ逆さまに海へ落ちているのでは無く、段差がある。

海岸段丘かな。



村の東側。

昔作られた水路と堤防が走っている。

堤防の上に魔除けの木の並木がある。

魔除けは効いている。

ゾンビ、ゴースト、ビッグトード、レッドニュートは魔除けの木に近付かない。



村の東を流れる水路について。

元はグラント川から農業用水を引く為の水路だった。

(一応グラント川まで水路が続いている)

ただし、途中の標高が上がってしまい、逆高低差で水が流れない。

昔の公爵が更に深く掘ろうとしたが、掘れなかったため、放置された。

(ここはコスピアジェの推測)

結局この水路を流用・強化して、魔物の足止めの『お堀』とした。



「変ですね。土魔法で掘るだけでしょうにねぇ」


「そうねぇ。論より証拠ね。あなた、掘ってみたら?」



コスピアジェに水を向けられたマキが水路の横に立っている。

そしてノームの短剣を抜いて切っ先を水路の底に向けている。

しばらくそうしている。



「何してるの?」


「水路の底を掘ろうとしている」


「掘るってどんなイメージなの?」


「土をどかすイメージ」


「なるほど。それでどう?」


「全然動かない」


「??」


「底に岩盤が露出しているみたい。岩盤ごと動かさないと動かないわね。岩盤の大きさは・・・ この村全体かしら・・・」



なるほどね。

すぐ下に岩盤があり、水を通さないので湿地になっているんだ。

前の世界の削岩機みたいなものがあれば掘れるのだろうが、土魔法では岩盤には歯が立たないようだ。つまり水路の逆高低差は解消できないことがわかった。



出没する魔物について。

ビッグトード、レッドニュートは湿地に住み着く魔物なので、ふんだんにいる。

コスピアジェが姿を見せると一斉に隠れるので、今は隠れているだけ。

実際はかなりいる。

農業を再開するならある程度数を減らすのだろうが、絶滅させない方が良い。

奴らの主食はイナゴとスライムなので、一定数を維持させた方が良い。


ゾンビ、ゴーストは水龍の呪いの死者のなれの果て。

旧メルヴィル村の死者だけでない。

メルヴィル村が廃村になって以降、よそから流れ着いたり、ここに捨てられた遺体が多数。

二度ほどコスピアジェが全滅させたが、ある程度時間が経つと新たに湧いてくる。

実はコスピアジェの巣があった村の南端の小高い丘が、ゾンビ、ゴーストが湧き出るポイントで、ダンジョン化している。

コスピアジェが門番をしていた。

恐らくここに土左衛門殿が多数流れ着いたのだろう。

私が去ったらダンジョン化するぞ、とコスピアジェに警告された。

コスピアジェの強力な魔力でダンジョン化を抑え込んでいたらしい。

ダンジョン化した時の規模は『小』。難易度は『初級』。



コスピアジェの友達。

ここに住み着いてからコスピアジェに友達が出来たという。

珍しい魔物だったので観察していたところ、スケルトンに殺され掛けていたのを助けて友になった。

特殊技能の持ち主で、水龍の呪い時に旧メルヴィル村が水に沈んでコスピアジェが困らないように、水量調整をしてくれるという。

そんなことが可能なのだろうか?


紹介してもらう事にした。



メルヴィル村の北側の台地に生える森を抜けて先に行く。

急に視界が開け、はるかかなたに黒森が見える。

メルヴィル村と黒森の間は平坦な地が拡がっている。

人の手の入っていない荒野だ。

ちなみにこの地はハーフォード公爵領ではない。

グラント川が蛇行しながら南流しているのが見える。

遠くにルーン川が見える。

手前に池か沼のようなものが見える。



「あそこよ」



コスピアジェは池に向かってどんどん進んでいくので、急いで後について行った。

コスピアジェは池の畔につくと、足で水面をちょんちょんと突っついた。

ほどなく池の真ん中にぽかりと浮かび上がる者がいた。

こちらに泳いでくる。

そいつは水から上がると全身を震わせて水滴を落とし、コスピアジェに挨拶をした。


鑑定した。



種族:キャスター

年齢:11歳

魔法:-

特殊能力:潜水

脅威度:Gクラス



魔物と言うよりは動物。

巨大なねずみといった感じ。


コスピアジェが我々を呼び寄せ、一人一人挨拶をした。

驚いたことに、人の言葉こそ話せないが、人の言葉を聞き分けて理解することが出来る。

声と匂いと輪郭で人間を識別する。(目はあまり良くない)

ソフィー、マキ、私だけで無く、マロン、アル、パロも友人登録して貰った。

ちなみに彼らは彼らの言語があり、意思疎通している。


コスピアジェに聞くと、彼らは地上では動きが鈍いため、水中で暮らして難を避ける。

常に逃げ込める水場を確保するため、自前の池が必要。

そのためにダムを造る。

この池が水龍の呪い時の水位量調整池になるという。

目の前の池はそんなにデカく無いのだが・・・

私の考えを読み取ったらしく、コスピアジェが私を呼び寄せた。



「この角度から見てご覧なさい」



言われた角度で見る。



「まさか・・・」


「そのまさかよ」



ある一点にダムを造ると、今見えている荒野が広大な湖に変わる。

グラント川が溢れたとき・・・ ここに水が流れ込む。

遊水池になるのか。

凄いスケールだ。



キャスターの食事は木の皮、葉、魚、昆虫など雑食とのこと。

食生活と高い知性以外はほぼビーバーと理解した。


私からお願いして使い魔登録をさせてもらった。

名前は『キャス』で登録した。

すぐに密な意思疎通が可能になった。



「君のこの池は、もう少し大きくして、水位を上げることはできるかな?」


「できる」


「それによって君の生活が不便になるかな?」


「ならない。むしろ安全になる」


「どのくらいで出来るかな?」


「1ヶ月」


「いつか頼むかも知れない」


「わかった」


「君が欲しいものはあるかな?」


「おいしいごはんと可愛いおよめさん」


「お嫁さんは手配できないけど、これ、たべるかな?」



干し肉を差し上げたら狂喜して食べていた。

それも古くなってカチカチの奴。

水分が抜けて硬くなりすぎ、人間ではちょっと歯が立たないくらい硬い肉が至高なのだそうです。


なるほどね。

人間とは歯の出来も、あごの出来も違うのね。



◇ ◇ ◇ ◇



コスピアジェは去った。

去り際に手持ちの干し肉を全部持たせた。

お返しにお土産を貰った。


前回はメッサーダンジョンの出土品をいっぱい貰ったが、今回はゾンビやゴーストやスケルトンの落とし物のうち、コスピアジェの興味を引いたものが残されていた。


結局アスピレンナとの確執については恐ろしいので訊ねなかった。



【タリスマン】

緑色の宝石を中央に配し、宝石をスカラベに見立てたお守り

スカラベは生と死の象徴


水龍の呪いの犠牲者が持っていたものと想像されるが、詳細不明。

少々魔力を帯びているのが怖い。

呪いの道具になりそうだ。



【ダガーオブウンディーネ】

水の精霊の加護を宿したダガー

水属性を持つ者が装備すると力を引き出せる

水柱、水球、水壁、氷柱、氷槍、氷弾、氷壁等、水系の魔法を装備者の周囲に

自在に出すことが出来る

水魔法の効果UP、水魔法の魔力消費半減

ダガーそのものの攻撃力は、普通のダガーと同じ



ソフィーに【ダガーオブウンディーネ】を渡そうとしたら、



「お前が持っていろ。お前も僅かながら水魔法を使える。それを大幅に強化するアイテムだ。私はこのくらいのことなら今でも出来る」



私が持つことになった。




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