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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
13 メルヴィル廃村編
141/270

141話 ハミルトン村(事前準備)


(ソフィーの視点で書かれています)


ルーン川を渡った。


ルーン川に架かる橋は幅広く、欄干が低い。

不思議な形の橋だ。

ビトーの指示らしい。

使いやすいことは確かだ。

上で馬車がすれ違える橋など滅多にない。

だが欄干が低すぎて不安を覚える。

旅人はみな自然と橋の中心部を渡る。



ハミルトン村の村長を表敬訪問した。

ハミルトンに来ているのはビトー、マキ、マロン、私だ。

ビトーは伝書鳥も連れてきている。


ビトーは村長に挨拶する前に、メンバーに口酸っぱく注意した。



「村長のマルコ様は大変に腰が低く、皆に等しく丁寧な言葉使いをされますが、男爵位をお持ちの歴とした貴族です。そしてマグダレーナ様の兄君でいらっしゃいます。

 決して気安い言葉使いをされないように」



マルコは一見農家の親父か革職人か、といった風貌だった。

だが実際に言葉を交わしてみると紛れもない貴族だ。

一風変わった貴族だが、貴族であることは間違いない。


ビトーが代表して挨拶をする。



「マルコ様。ご無沙汰をしております」


「ビトー様。その節は大変お世話になりました。ハミルトン村が今あるのはビトー様のお陰で御座います」



どもども、どもども、と頭を下げ合っている。

お前たちは商人か。

マルコは農民のような、職人のような、貴族のような、商人のような、なんとも掴みにくい人物だ。


驚いたことにマルコはマロンとしっかり抱き合って挨拶を交わしていた。

知り合いらしい。

マロンに認められているのだから悪いやつではないのだろう。


ビトーはマルコの役に立ったことがあるらしい。

後で吐き出させなければなるまい。



◇ ◇ ◇ ◇



我々は村長宅の一室を借りて、そこに詰めている。

そして村長宅の書庫から旧メルヴィル村の記録を引っ張り出して調べている。

記録は系統立っておらず、内容も年代もバラバラだ。

どんどん読んでいく。

ビトー、マキ、私の3人掛りで、力ずくで読み込む。


地味に驚くのがビトーもマキも資料を読めることだ。

貴族や商人なら読める。それ以外はまず読めない。

たとえ読めても内容を理解できない。

だが2人とも内容を理解している。

この2人はどこで教養を積んだのだろう。


3人の読んだ内容を持ち寄って前後の繋がりを明確化して、整理する。

その結果、わかったことを4人で共有する。(マロンにも聞かせる)




ブリサニア王国は建国500年。

ハミルトン村とメルヴィル村は、建国当初はブリサニア王国傘下ではなかった。

ブリサニア王国建国当時はヒックス(神聖ミリトス王国との国境の街、国土の東端)が首都だったので「俺たちは関係ないよな」のスタンスだったようだ。

ブリサニア王国の国土が拡がり、ジルゴンに遷都をする直前に正式に傘下に入っている。

傘下に入ってからは、ハミルトン村とメルヴィル村は一貫してブリサニア王国の食料庫であり続けた。


メルヴィル村の最盛期は1000戸を数えた。

ハミルトン村より一回り小さい。


メルヴィル村の通常の収穫量は、ハミルトン村の3/4ほどだったようだ。

この差は農地の広さに起因しているのか、別の要因があるのか、ビトーからマルコ男爵に訊いて貰ったが良くわからないらしい。



約70年前。

地龍の呪い(大地震)が発生。

ハミルトン村とメルヴィル村では過半数の家屋が倒壊した。

しかし幸いなことに倒壊による死者は少なかった。

ここまでは一緒だった。


メルヴィル村は居住地(北側)の土地が隆起して、農地(南側)の土地が下がった。

グラント川からメルヴィル村へ農業用水を引いていた水路(メルヴィル村の北側)が壊れ、水が溢れた。

メルヴィル村の周辺が一面水浸しになった。

それまで麦の一大産地だったのだが、水に浸かって麦は腐ってしまった。

当時のハーフォード公爵は騎士団を派遣し、土魔法使いが堤防を作ったり排水路を作ったりしたが、その度に余震が発生し、工事は中断した。

グラント川からメルヴィル村へ水を引く水路の復旧工事も中断した。


一方ハミルトン村は地龍の呪いの影響は、家屋の損壊だけだった。



地龍の呪いの翌年。

水龍の呪いが発生した。

ハミルトン、メルヴィル両村で死者、行方不明者が1500名を数えた。

ハミルトン村は水が引いた後は元に戻ったが、メルヴィル村は排水が思うように出来ず、湖面に浮かぶ小島の様相を呈した。農地は一面水に浸かった。



(このあたりの経緯は短い期間内に何度も災厄が襲っているので、読み解いては見たものの、イベントが前後しているかも知れぬ。ビトーとマキの間で論争があった)



水龍の呪いで人が死に、家畜が死に、畑が水に浸かり、メルヴィル村の生産力が極端に落ちたため、当時の公爵の方針でメルヴィル村の村民はハミルトン村へ移住することになった。


公爵は、再出発の条件が整ったらメルヴィル村を再興するとしていたが、結局それ以降ハーフォード公爵領としてメルヴィル村の復旧に力を入れることは無かった。

その後、旧メルヴィル村近辺で魔物やアンデッドの目撃情報が寄せられるに至り、放棄地の扱いとなった。

事態を重く見た公爵によって、ハミルトン村とメルヴィル村の境に土手を築き、水路(おそらく空堀だろう)を穿ち、魔物除けの仕掛けを施してメルヴィル村を隔離した。


そしてメルヴィル村は人々の記憶から失われていった。



元々メルヴィル村の麦の収穫量はハミルトン村の3/4ほどだったが、地龍の呪い直後のメルヴィル村の収穫量は例年の1/2。

これは不作のレベルを越えている。飢饉のレベルだ。

水龍の呪い後のメルヴィル村の収穫量は例年の1/4。

もはや歴史書に出てくるレベルの大凶作で、餓死者がかなり出たに違いない。

水龍の呪いの死者、行方不明者は1500人と記録が残っているが、ここに餓死者が含まれているのかどうかわからない。

餓死者を別カウントとすると(恐らくそうだろう)メルヴィル村は全滅レベル。

当時の公爵の撤退の判断は正しかったと思われる。



水龍の呪い後の魔物増加について。

増加した魔物はビッグトード(馬鹿でかいカエル)とレッドニュート(馬鹿でかいイモリ)だ。

アンデッドはゾンビとゴーストを見たという。


ハミルトン村とメルヴィル村の間にある魔物除けは、堤防に仕掛けが施されているらしいが、これは今も有効に働いているのか確認した方が良いだろう。



◇ ◇ ◇ ◇



古い情報ではあるがメルヴィル村の概要を掴んだので、次は実際にメルヴィル村まで行ってみる。


メルヴィル村はハミルトン村より西へ、グラント川を渡って更に西へ3日ほど行った距離にある。


グラント川を越えてしばらくは麦畑の中の道を進む。

道は整備されており、日常的に村人が使っていることがわかる。

つまり魔物はいない。


野宿をしながら行く。

夜はマロンとビトーの使いフクロウが番をするので安心して眠れる。

伝書鳥を使い魔にしようとは、わが夫ながら変な奴だ。

だが使える。



西へ進んで2日目の夕方になると道の両側の畑がまばらになる。

3日目には畑は消え、前方に小高い丘が見えてくる。

近づいて見ると丘のように見えたのが堤防だった。

堤防の高さは2mくらい。堤防は南北に延びている。

堤防の上に等間隔に低木が植えられている。


堤防に近付くとほのかな香りがする。

不思議な匂いだが悪い匂いではない。

ビトーに鑑定させる。



「土手の上の木から香っています。香木のようですね。 鑑定結果は


種族:サンダルウッド(宿り木・香木)

年齢:75歳

魔法:-

特殊能力:生育時も木材加工後も独特の香気を発する

    一般に魔物はこの香気を苦手とする

     特にアンデッド系はこの香気を苦手とする

脅威度:-


です。

なかなか優秀な樹木ですね。

『ナンヨウヤマボウシ』という木に寄生しています」



これは私も初めて知った。

少し切り取って貰っていった方が良いだろう。



堤防の上に登ってみる。

堤防は南北に一直線に築堤されているので、人工的に作った物とわかる。

これは土魔法で作ったのだろう。

土手の向こう側(西側)は深く掘られており、水路になっている。

水路とは言っても堀の底に僅かに水が存在する程度。

水路も土魔法で掘ったようだ。


水路の更に西は一面湿地が拡がり、遠くに島が見える。

島は樹木がビッシリ繁茂している。



「すご~い。古墳みたい」



マキが妙なことを言った。

コフンとはなんだろう?

後でビトーに聞くことが増えた。



堤防の上が安全なので、今日はここで野宿することにした。


ビトーの発案で、焚き火を囲みながら皆が思い思いのことを喋った。

以前もやった “ぶれーんすとーみんぐ” とやららしい。



「どんなに些細な事でもいいので、皆さんが気付いたことを話して下さい」



そうビトーが言うので全員が気付いたことを話した。

マロンですら話した。

マロンが言うには雑多な魔物の匂いがあるらしい。

レッドアイ(蜘蛛)、イナゴ、スライム、ホーンドラビット、ストライプドディアー、ビッグトード、レッドニュート、ゾンビ等々。

その中で、聞き捨てならない名前があった。


『ボア』


脅威度Cの猪の魔物だが、1頭でいることは無い。

必ず群れでいる。

従って実際の脅威度はB以上。

名前の出た魔物の中で、イナゴに次いで畑を荒らす奴。


私一人ならともかく、このメンバーを守りながら遭遇したくはないな。




最後にマキが発言した。



「湿地の水はこの水路に排水すればいいんじゃない?」


「そうだね。湿地の解消は割とすぐに出来そうだね。ソフィーはどう思う?」


「湿地の解消は出来るだろうが、そもそもなんで湿地になっているのだろう。水が涸れて農業を諦めたのではなかったのか?」


「そうですね。もともと水はけの悪い土地でしょうか?」


「確か麦を作っていたのだな? 収穫はどうだった?」


「ハミルトンの3/4ですね」



ふ~ん。




翌朝。

ビトーの使い魔を使って空から村を見る。

土地の広さはハミルトンと変わらないという。

ということは単位面積の収量が3/4ということだ。良い土地ではない。


湿地を迂回して島へ行ってみる。

島は乾燥している。

水は? ない。

井戸を掘った痕跡がある。涸れている。

そもそも深くまで掘っていない。

へんな土地だね。

島の南側は湿地なのに。


ビトーの使い魔を使ってもう一度空から見る。

高低差は識別できるのだろうか?

できるらしい。


使い魔によると、湿地の周囲(つまり村の周囲)は標高が高い。

ということは、

・元々この土地は水が集まりやすい

・水が出ると人為的に排水しないと水が溜まる


麦には向いていない土地だな・・・




マキは土魔法使いなので、マキに命じて湿地から水路へ水を落とす溝を作らせた。

いい感じで湿地の水を落としている。


空から湿地を観察していた使い魔がビトーの肩に舞い降りた。

ビトーと話をしている。

やがてもう一度空へ舞い上がった。


もたらされたのは凶報かも知れない。

湿地の南端に強い魔力を感じるという。


地龍、水龍の呪いを受けた土地だから人も家畜も魔物もいっぱい死んだ。

考えたくないが原始ダンジョンかも知れない。


ハーフォード公爵領にダンジョン2つは困るだろう。




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