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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
02 メッサー冒険者ギルド編
14/268

014話 冒険者登録

その日の治癒が終わり、一人ゆっくりとお茶を飲んでいると、ギルド長が治療部屋に入ってきた。


「おまえはこの国の人間ではないな?」

「どうしてそう思います?」

「この国ではミリトス教徒の中でも特に信心深く、女神の祝福を受けたものだけが治癒魔法を使えるようになる。本当かどうかは知らんが、ともかくそういわれている。だがおまえは女神の祝福を受けていないな? 」

「なんでそう思います?」

「匂いが違う」

「加齢臭がしますか?」

「馬鹿野郎。 胡散臭さ、如何わしさ、下品さが無いっちゅうことだ」

「・・・」

「治癒魔法を使える奴はミリトス教徒だ。この国ではそう言われている。そして例外なく人品が卑しい。だがお前は教会に取り込まれていないどころか呪いまで受けているという。こんなのはこの国では前例がない。そして最近召喚勇者の噂を聞いた」

「・・・」

「わかっている。それ以上は聞かぬ」

「・・・」

「おまえの存在はいずれ教会に嗅ぎつけられる。そして必ず命を狙われる。だから逃亡の準備をしろ」

「メッサー冒険者ギルドの闇治癒院は店仕舞いですか」

「そうだな。おまえがA級冒険者の実力を持っているなら継続を考えないことも無いが、今のおまえじゃいずれ殺される。教会に嗅ぎ付けられてからじゃ遅いのさ」

「わかりました。 ・・・まず何をすれば良いのですか?」

「冒険者登録しろ。G級からスタートして、国内を自由に移動しても不審に思われないE級を目指せ」

「わかりました。どのくらいでE級になれるものですか?」

「すぐにはなれん。G、F級は初心者なので一定期間は遠出もできないし、ダンジョンにも潜れない。だから普通は昇級の近道はない。ソフィーに相談しろ」

「はい」



◇ ◇ ◇ ◇



師匠に相談した。

師匠はもう少し詳しく教えてくれた。


治癒魔法はミリトス神の慈悲を体現した魔法なので熱心なミリトス教徒しか使えない、というのが定説だった。

最近では、熱心なミリトス教徒かつ女神の祝福を受けた者だけが使える神聖極まりない魔法、とされている。

2つとも条件が当てはまらない私の存在は、ミリトス教の根本を揺るがしかねない冒涜とのこと。


現在、ミリトス教会に治癒を依頼する者が減り、教会の実入りが激減している。

そりゃ治癒を依頼したら確実に奴隷落ちするなら誰も依頼しないでしょ、と言ったら今まではそうでもなかったとのこと。


もともと冒険者は教会を毛嫌いしている。

だがそれ以外の民衆(商人・職人など)は教会の治癒を頼っている。

親の治療費の代わりに娘が娼館に売られる、なんて話がゴロゴロしているらしい。

江戸時代の貧乏長屋みたいな話だ。

その教会の飯の種が最近減っている。

地下じげの情報網でウチの闇治癒院の価格体系と評判が徐々に共有されるにつれ、「教会の治癒料金はあまりにも高すぎる上、効かない」と悪評が広まったのだ。

教会が不審に思い、探っている。


現在教会は召喚勇者の中に新たな治癒魔法使いが現れたのではないか、と疑心暗鬼になっているらしい。



私を冒険者にしようという話はギルド長から師匠へ通っており、すでに師匠は策を練っていた。

師匠は私を短髪にし、髪を灰色に染めて年齢不詳にし、服装で雰囲気を変えた。


「ピアス、鼻輪、耳輪、入れ墨はどうだ?」


と聞かれたが、勘弁して貰った。


冒険者ギルドの片隅で細々と治癒していた気さくでひ弱な闇治癒士ビトーのイメージはなくなり、年齢不詳の冒険者ビトー・スティールズが出来上がった。


次に冒険者の職種選び。


治癒を生かすなら僧侶だが、教会に目をつけてくださいと言っているようなものなので却下。


剣士ならつぶしが利くが、私の場合、別の意味で不自然なので却下。

剣士とは男なら身長190~200cm、体重100kgの大男たち、女なら身長180~190cm、体重80kgの大女たちが、巨大な両刃剣と大盾を楽々と振り回す世界だ。

私は100年修行してもそんな肉体派にはなれないし、身長も170台半ばからもはや伸びないだろう。横にはいくらでも成長するだろうが。


残るは魔術師か斥候。

教会からの逃避行を考えると、基本的に私は単独行になる。

この場合、斥候のほうが “らしい” という。


魔法使いはB級、C級といった上級者ならソロ冒険者がいるが、G級魔法使いのソロなど皆無とのこと。また私は攻撃魔法の素養が無いので魔術師は向いていない。


この世界の斥候は、罠探知、罠解除、魔物探知だけで無く、軽鎧を身にまとい、時には前衛に立ち、刃物で魔物と渡り合うセミ武闘派である。

一人前の斥候になるには、それなりの装備と技術と体力と経験が必要らしい。



ちょっと疑問があった。


「師匠は剣士ですよね?」

「そうだ」

「水魔法使いではないのですね?」

「そうだな」

「なぜですか?」


師匠はしばらく考えてからこう言った。


「お前がダンジョンに潜るようになればわかる」



◇ ◇ ◇ ◇



G級からE級への昇級計画。


「お前のような出来損ないをE級までカチ上げるのは容易なことではない。死ぬ気で付いてこい」


まず師匠から簡単にE級にはなれないと釘を刺され、ハードに鍛えると宣言された。

具体的に何をするのか?

抜け道はない。正統派に鍛えてやる、とのこと。


簡単なことだった。

基本は徹底的な走り込み。

素振り。

そして体術。

魔法はおまけと思え。


「おまえはソロ前提だから、少しでも形勢が不利に傾いたらすぐに逃げろ。そのためにスタミナと走力だけは人一倍身に付けておけ。逃げ足を磨け」


師匠の下命が下った。



◇ ◇ ◇ ◇



『逃走系冒険者』としての育成が始まった。

まずはスタミナと走力。

敵から逃げる前提なので、とにかく走れなければならない。

メッサー郊外の草原に連れ出され、走ることを命ぜられた。


走る。走る。走る。走る。

草原なので起伏があり、足下も凸凹だ。非常に走りにくい。


走る。走る。走る。

師匠の檄が飛ぶ。


「ちんたら走っても生き残れないぞ! 魔物はおまえに合わせて走ってくれないぞ」


走る。走る。


「おい、こっちに来い」


師匠の前に走って戻るといきなり拳骨を喰らわされた。


「おまえ、足の裏で地面の凸凹を探りながら走ってるだろ?」

「はい」

「それじゃ魔物に追いつかれる。地面の凸凹を無視して走れ」

「え・・・ 捻挫しそうな・・・」

「魔物は地面の凸凹なぞ無視して走る。だいたい四つ足だから走りやすいんだろう」

「私は・・・」

「魔物と同じに走れないと逃げ切れんぞ」

「・・・」

「頭で凸凹を考えるのは止めて、お前の足裏と足首を信じて任せちまえ」

「はい」


師匠の言うことは正しい。

肉食動物に追われる草食動物は足場を気にしながら逃げたりしない。

私の場合、全力でクロスカントリーをどこまで走れるか、である。

忍者のようである。


必死に10分間走った。

途中、2度ほど転んだ。

ゲロを堪えながら3分休憩。

800mダッシュに取り組む。

これは正真正銘の全力疾走。


「おお、いいじゃないか」


3本目の途中でブッ倒れてゲロ吐いた。


「なんだ、もう終わりか。死ぬ気満々だな」


出すもの出してから800mダッシュ×10本。


「やればできるじゃないか」


口から魂が出たかと思った・・・

足首が熱い。

マロンが喜んで付き合ってくれる。

おまえ凄いな。



次は全速力でどこまで走れるか。

2分で倒れた。


「死んだな。残念だったな。ちったぁ見込みがあると思ってたんだがな」


師匠の煽りに反応もできなかった。



◇ ◇ ◇ ◇



装備を揃えた。

武器はショートソード×2。

防具はレザーアーマー、スモールシールド、籠手、脛当。

防寒対策として帽子、ローブ。

その他の装備として背負い袋、ダガー。

相当な重さになる。

フル装備で走る。

全力に近い10分走。

師匠の檄が飛ぶ。


「装備を捨てて逃げるかー」


800mダッシュ×10本。

耳からエクトプラズムが出たかと思った・・・



◇ ◇ ◇ ◇



剣の稽古。


師匠に言われるままロングソードとショートソードの両方を素振り。

今更ながらロングソードとショートソードの違いに驚く。

私の体格だとロングソードに振り回されてしまう。

ロングソードが重くて長くて走る時の邪魔になる。


攻撃を受ける側からロングソードとショートソードの違いを知るため、師匠にロングソードとショートソードの両方を振ってもらう。

ロングソードの剣戟を受けると、盾で受け止めても、ロングソードの大質量から繰り出される衝撃が来る。しっかりと構えていないと受け止めきれない。

一方ショートソードによる剣戟は簡単に受け止められた。


これには考えさせられた。

私はショートソードをメインの武器にする。

単純な剣戟では相手に簡単に受け止められ、即反撃されてしまう。

ショートソードによる攻撃は “撃つ” では駄目なのだと理解した。

相手の守りを掻い潜り、防具の隙間を狙って相手の体に肉薄しないと自分が危ない。

それだけの速さと小回りが必要だ。


ショートソードだけで生き残るのは無理と判断した。

ショートソードの素振りと平行して、暗器の技術を習う。

鉄甲、鎖、飛刀など。



盾の稽古。


師匠に7分の力で剣を振って貰い、盾で受ける。

もちろん木刀だ。

なかなか受け切れず、ボコボコにされる。

3度ほど死んだ。

大盾ならともかく、小楯では到底受け切ることはできないと理解した。

かといって大盾を担いで走り回るのは困難だ。


自分なりの工夫として、地面を転げまわって逃げることにした。

地面を転がる訓練をした。

慣れるまで結構痛い。

頭を打たないように注意することと、肘・膝を守る装備が必要だった。

師匠とマロンが不思議そうな顔をして見ていた。


地面を転がる私を見て思うところがあったのか、師匠が柔術の稽古を付けてくれた。

タックル、逆手、絞め技、関節技など。

寝技はものすごくスタミナが必要だった。

目から鱗だった。

寝技のトレーニングをすると、あっという間にスタミナが切れた。

柔道やレスリングの選手って凄いのだな、と改めて思った。




「おまけだ」


ギルド長はそう言って冒険者証をくれた。


登録場所:メッサー冒険者ギルド

名前  :ビトー・スティールズ

種族  :人間族

クラス :G級冒険者

職種  :斥候




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