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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
12 ダンジョン管理編
137/269

137話 イルアンダンジョン8層


7層階層ボス(ワイト)部屋に、いかにも宝箱といった宝箱があった。

前回は出なかった。

この流れで行くとトレジャーボックスビーストだが・・・

鑑定すると宝箱だった。

罠は・・・ なし。


開けてみる。

鞘に収まった一振りの剣が鎮座している。

長剣よりほんの少し短い。

脇差しだろうか。


手に取って鑑定。

銘がある。


【Rainstorm】


霧を発生させる、冷気を呼ぶ、水を出す、氷の針を飛ばす、といった水魔法使いのための刀。

振れば切っ先から水をほとばしらせる様が驟雨のごとき。

別名【村雨】


ルーシーに装備の確認をしたが、リーチが短くなるので今のままで良いとのこと。

私の背負い袋に収納した。



私にはここまで下層階(8層)の魔物の気配は感じられなかったが、何かあるのだろうか。

ウォルフガングに聞くとワイトとは別の気配があるという。



「ワイトと同じくらいの気配がある。8層へ続く通路にワイトに似たサイズの奴がいるはずだ。いきなり戦闘になるかも知れないぞ」



ウォルフガングの言葉が呼び水だったのだろうか。

8層に繋がる通路から何者かが近付いてくる足音が聞こえた。


灰色の巨大な魔物が1匹、通路から「ぬっ」と顔を出した。

人型、二足歩行。

身長はワイトと同じくらい(2.5m)ある。

頭はゴツゴツとした丸坊主。

肌は岩のように堅そうだ。

もし頭に角があれば鬼と言っても良いだろう。

手に棍棒を持っている。


早速鑑定。



種族:トロール

年齢:1

魔法:-

特殊能力:-

脅威度:Bクラス



ウォルフガング、ジークフリード、クロエ、ソフィー、ルーシーで囲む。

鑑定結果を知らせると、ウォルフガングが細かな指示を出した。



「前衛は剣士4人とルーシー。無理はするな。残りは後衛。

足切りは余裕があったら試しても良い。ただし必ず効くと思うな。

ルーシーは危ないときは水で強制的に間合いを取れ。

ビトー、マロン、マキは怪我人を後方に運んで治療」


「「「「 了解 」」」」



それからトロールとの戦闘が始まった。

5人の戦いは安定している。

トロールの棍棒による攻撃は躱すか、盾で逸らすかしている。


ウォーカーの攻撃は剣による攻撃、魔法による攻撃、両方併用しているが、深追いをしない。

ジークフリードの目潰しは効果を上げていると見えて、トロールの攻撃の精度が落ちている。

しかし決して深追いをしない。安全第一。


ブルーディアー戦を思い出す。

違うのは魔法攻撃をプラスしているので、割と早くトロールのHPを削れている。

結局10分弱でトロールを倒し切った。


トロールの皮はレザーアーマーの材料として珍重されるとのことで、死体がダンジョンに呑まれる前に背負い袋に収納した。

棍棒は2m近い。無骨すぎて、重すぎて、使いようが無さそうなので、試しに1本だけ持って帰ることにした。


なんとなく考え込んでいると、ウォルフガングが聞いてきた。



「どうした? 浮かない顔をして」


「生意気を言いますが、魔物が弱いのではありませんか?」


「ほほう。どういう意味か?」


「7層のワイトと8層のトロール。ワイトの方が強いのではありませんか?」


「そうだな。両者が直接戦えばワイトに分があるだろう」


「ならば8層の魔物が7層に進出しかけているという話はどうなのでしょう?」


「ああ、7層の様子を伺っているのはトロールだけではないのだろう」


「他にいると?」


「そう考えるのが自然だろう。それにおまえはトロールが弱すぎると思っているのか?」


「ええ。私では歯が立ちませんが」


「HPはトロールの方が遥かに持っている」


「そうですが・・・」


「恐らく【炎帝】が相手をするにはトロールの方が厄介だぞ」


「そうなのですか!?」


「そうだ。次にトロールが出て来たらよく見ていろ」




8層へ続く通路を歩き、階段を降りる。

8層は洞窟風で天井が高い。露骨に巨人階をアピールしている。

魔物の気配のする方へ進む。


通路でトロール1体と遭遇した。



「ウォルフ、今度は私一人にやらせてくれ」



そうソフィーが言う。

ウォルフガングが無言で頷くと、ソフィーはトロールの胸に氷槍を1本撃ち込んだ。

どの程度のダメージを与えられたか見ている。

トロールは一瞬ひるんだ。

恐らく骨が折れているのだろう。胸の中央が凹んだ。

だが氷槍は刺さらず、粉々に砕けた。

トロールの皮。

優秀なレザーアーマーの材料だ。


トロールはそれなりのダメージを受けてはいるはずだが、我々に近付いてくる。

続いてソフィーは左膝に氷槍を撃ち込んだ。

トロールはバランスを崩して倒れた。

痛みは感じているようだ。足を引きずりながら近付いてくる。


続いてソフィーは右膝にも氷槍を撃ち込んだ。

再びトロールはバランスを崩して倒れた。今度は立ち上がれない。床に倒れたままこちらを見ている。

棍棒を投げてきた。もちろん当たらない。


トロールはソフィーを見ている。

パニックを起こしていない。

まだなにかを隠しているのは間違いない。なんだろう。


トロールが上体の力だけで跳ね上がるような動きを見せた。

トロールがソフィーに飛びかかるのと、ソフィーが氷槍を落とすのと、ほぼ同時だった。

何かがトロールの手から離れて転がっていった。

その途端、トロールが暴れ始めた。

初めて見せるトロールの焦り。

誰でもよいので掴み掛かろうとしたので、ソフィーが氷槍の雨を降らせてとどめを刺した。そして喉をかき切った。



トロールの手から離れた物を見た。

見た目はシンプルな長剣だが鍔が大きい。妙なバランスだ。

鞘はトロールの腰に刺さっていたので抜き取って納めてみる。

なるほど。

トロールにとっては短剣か。

人間にとっては長剣だが。


鑑定すると【トロールの短剣】と出る。


特殊能力は無い。

更に鑑定すると面白いことがわかってきた。


トロールは通常は力任せに棍棒を振り回す。

トロールの短剣もその様に扱われる。

従ってトロールの短剣は極めて頑丈な作りをしている。

誤って岩を叩いても刃こぼれしない。

ほぼノーメンテで“棍棒のように”使える剣だった。



次に出て来たトロールはジークフリードとクロエで相対した。

ジークフリードは剣戟の合間に目潰しを駆使し、クロエは剣戟と同時にウインドカッターを駆使して丁寧に戦う。

確かに二人の攻撃は通っている。ダメージを与えている。

だがトロールの皮膚が硬い。

「やったか!?」 と思った会心の一撃が骨まで通っていない。


クロエのウインドカッターもかなり威力を持つが、骨まで達する傷は負わせられない。

剣に風を乗せても届かない。

慎重にコツコツ削るしか無い。


ウォルフガングの言う意味がだんだんわかってきた。

10分間、20分間、一度も判断を間違えず、HPを削りきるのは至難だ。

こちらの精神も削られる。

ワイトはこれほど堅くない。

ワイトはこれほどHPを持っていない。

(催眠の呪いにさえ掛からなければ)ワイトの方が遥かに与しやすい。


ジークフリードとクロエで倒し切り、二人がぐったりして休憩しているところでウォルフガングと話した。


「理解しました」


「そうか」


「ブルーディアーの上級版です」


「そうだ」


「私がここにいる理由もわかりました」


「頼りにしているぞ」



通路は一本道だった。

魔物が潜む部屋は無く、通路が拡がった場所にトロールがたむろしていた。

有り難いのはトロールが1体ずつ出て来てくれること。

油断せず、ウォーカー全員で当たることにした。

合い言葉は「慎重に」から「慌てるな」に変わっていた。



安全地帯を見つけた。

いつもの青白い扉を開けるとパーティが3つも入れば満員になりそうな広さ(狭さ)だった。

これほどの深層階へ来るパーティは少ないだろうからこの程度で十分なのだろう。


ジークフリードとクロエの疲労の色が濃かったので、腰を下ろして食事を摂り、二人をヒールで癒やし、ぐっすりと寝て貰った。

他のメンバーも熟睡した。

マロンには申し訳ないが、耳だけ起きていてもらった。


ソフィーの訓練の賜物で、私は心身共にアクセル全開の状態で目覚める。

だがルーシーとマキがもう一つだったので、軽く食事を摂り、軽く動き、体を目覚めさせる。

全員の調子を確認し、探索を開始した。



安全地帯のすぐ近くに8層のボス部屋があった。

全員剣を抜き、いつでも魔法を打てる状態になっていることを確認し、扉を開けた。


赤黒い巨大な魔物が1匹いた。

人型。二足歩行。

身長はトロールと同じくらい(2.5m)ある。

頭に巨大な角が2本あるので、それを含めると3m近い。

それだけなら赤鬼と言えなくもない。

顔が特徴的で鬼の顔ではない。動物の顔だ。

手に斧を持っている。


早速鑑定。



種族:ミノタウロス

年齢:15

魔法:-

特殊能力:-

脅威度:Bクラス



ウォルフガング、ジークフリード、クロエ、ソフィー、ルーシーで壁を作る。

ソフィーが指示を出してきた。



「ビトー、鑑定」


「はい。 ミノタウロス。15歳。脅威度B。特殊能力と魔法はありません」



上記鑑定結果を知らせると、ウォルフガングが細かな指示を出した。



「前衛・後衛ともにこのまま。一撃で倒せると思うな。足切りは封印。ルーシーは誰かが危ないときは水で強制的に間合いを取れ。ビトー、マロン、マキは怪我人を後方に運んで治療」


「「「「 了解 」」」」



それからミノタウロスとの長い戦闘が始まった。

5人は慎重の上にも慎重に戦っている。

ミノタウロスの斧による攻撃は必ず躱す。

盾で受けないように細心の注意を払っている。


攻撃は剣による攻撃、魔法による攻撃、両方併用しているが、深追いをしない。

ジークフリードの目潰しは効果を上げていると見えて、ミノタウロスの攻撃の精度が落ちている。

しかしウォーカーの前衛は決して深追いをしない。

ミノタウロスの間合いの中に居続けない。

安全第一。


ウォルフガングが火壁を出さない。

ソフィーも氷壁を出さない。

理由があるようだ。


ミノタウロスには物理攻撃も魔法攻撃も通る。

だが与えられるダメージが少ない。

ミノタウロスの皮膚はトロールの皮膚よりも硬い。

剣と魔法、両方を駆使してコツコツ削る。

削れている。

よし。

このまま、このまま。


・・・


油断した訳ではない。

高をくくった訳でもない。

だが、目に見えぬ隙ができたのだろう。

ミノタウロスの反撃を受けた。


ミノタウロスがクロエに向かって斧を振り下ろし、クロエが避けた。

ミノタウロスは攻撃を躱されてバランスを崩し、そのまま前のめりになって床に両手を付いた。そしてその態勢から頭の角を振り回した。

角はクロエの横で戦っていたルーシーを引っ掛けた。


「ギャッ!!」


ルーシーは咄嗟に盾で防ごうとしたが、湾曲した角の切っ先が盾の内側に入り、盾を持つ左腕を引っ掛けた。

悲鳴を上げて後ろに倒れ込むルーシー。

ルーシーに襲いかかろうとするミノタウロス。

間髪を入れず氷槍を叩き付けるソフィー。

火槍を叩き付けるウォルフガング。


すぐに戦線を建て直した。

その間にマロンが飛び出し、ルーシーを引き摺って後方に下がった。

ルーシーが落とした盾をマキが拾って後方に下がった。


すぐにルーシーを鑑定したがかなり深い傷だ。

左腕をスパッと切られており、太い血管を破られている。血が噴き出ている。

すかさずヒールを掛ける。何重にもヒールを掛ける。

傷は塞がったが、腱や血管が正常な形に戻るように、また、万一毒が入っていてもカバーできるようにキュアも掛けた。


ルーシーはすぐに戦線復帰しようとしたが、今は4人でバランスが取れている。

ウォルフガングの指示で少し待ってもらった。


その後、ミノタウロスの角を使った変則攻撃が幾度か繰り返されたが、全員安定して躱した。



戦いは20分を過ぎ、ようやくミノタウロスにダメージが蓄積してきた。

動きが鈍くなってきた。

ウォルフガングが落ち着いた声で指示を出す。



「このままだ。このまま安全に削るぞ。 後衛、奴が捨て身で飛び込んで来ることを想定しろ。いつでも散開できるように用意。さあ、あと20分だ」



ミノタウロスは狡猾だった。

ダメージが蓄積しているのは確かだった。だが動きが鈍くなったのは擬態だった。

クロエに向けてゆっくり振り下ろした斧の軌道を途中で強引に変え、猛スピードで横に振った。そこにいたのはジークフリードだった。

ジークフリードは咄嗟に盾で受けた。

が、盾を割られ、斧の先端が体に届いた。

ジークフリードは鎧を着ていたが、斧の先端は鎧を切り裂き、胸をえぐった。


「!!!」


ジークフリードは声にならぬ声を上げ、戦線離脱。

すかさずルーシーが後に入った。


ジークフリードの傷は今まで私が見た傷の中でも最も深い物だった。


(慌てるな)

(私が慌てたら皆が不安になる)


自分にそう言い聞かせて治癒を行った。

うむ。

見る見るうちに肉が盛り上がって傷を塞いだ。筋繊維も元通りだ。

キュアも掛けた。

ところが完治したはずだったがジークフリードは調子が悪そうだ。

ウォルフガングの命令で待機して貰った。



そして20分後にミノタウロスが倒れた。

ただし目に光がある。


「近付くなよ」


ウォルフガングの注意が入る。

そして


「ビトー」


ウォルフガングの指示が出る。

細かな指示は無いが、何を命じられたのかはわかる。

自分に認識阻害を掛け、こっそり近付き、ミノタウロスの喉をかき切った。



改めて鑑定すると、ミノタウロス自身が価値ある素材の塊だった。

角、皮、肉 そして斧 内臓も高級食材。

しかも薬用にもなるという。

丸ごと背負い袋に収納する。


そして隠れ宝箱に気付いた。

マキに探して貰う。

その間に前衛の皆さんに休んで貰う。



「マキ、ゆっくりでいいよ」


「どうして?」


「その間にみんなに休んでもらうから」


「そっか、でももう見つけちゃったよ」



マキは魔物探知よりも宝探しの方の才能があるらしい。

あっという間に見つけてしまった。

罠の解除も上手で、これまたあっという間に解錠してしまった。


中に入っていたのは鞘に収まった一振りの剣。

銘がある。



【Naga】

蛇神の加護が付いた長剣

霧、寒気、水、氷を自在に操る



どうやら【Rainstorm】と対らしい。


しかしナーガとは・・・

アイシャ様案件っぽいな。


【Naga】と【Rainstorm】。

いかにも水龍の呪いによって生み出された魔剣らしい。

取り敢えず背負い袋に収納。




全員で車座になって打ち合わせ。

特に誰かが誰かを説得するまでも無く、全員の意見は一緒だった。


「探索はここまで」


ちなみにジークフリードの調子の悪さは魔法の使いすぎで魔力切れを起こしたせいだった。ミノタウロスにずっと目潰しを掛け続けていたとのこと。

君のお陰でミノタウロスは100%の力を発揮できずに退治されたぞ。



安全地帯まで戻り、食事を摂り、更に半日休んだ。

その間、ソフィーとウォルフガングにしみじみと述懐した。



「魔法を使えない。毒も持っていない。それなのに脅威度B。なんという凄い生き物なのでしょう」


「やっとわかったか」


「はい」


「火壁、氷壁を使いませんでしたが」


「奴は耐久力に物を言わせて火に焼かれながら突破してくる。こちらから見えにくい分だけ不利になる。氷壁も一緒だ」


「そんな魔物もいるのですね」


「だがこれだけ慎重に戦っても2人も怪我人を出した。リーダーである儂にとっては重い事実だ」


「私の様な弱者を守りながら8層まで潜ったのですから事前準備は十分だった、ということです」


「そうとも言える」


「ミノタウロス・・・ 水龍の呪いで牛がいっぱい死んだのでしょうね」


「15歳と言ったな」


「はい」 


「15年前の水害のなれの果てか」



各自しばし黙考していた。




ダンジョンは帰りが勝負。

全員に言い聞かせ、全員に認識阻害を掛け、出口まで一気に突っ走った。




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