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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
12 ダンジョン管理編
136/269

136話 イルアンダンジョン深層階の探索


(マキの視点で書かれています)


私はウォーカーの斥候。

E級冒険者です。

E級とは、辛うじてダンジョンを探索してもいい (かなぁ?)というレベルを指します。


具体的にはゴブリンとホブゴブリンには勝てます。

一対一ならばですが。


スケルトンにも勝てます。

一対一ならばですが。


重要なことですのでもう一度言います。

一対一なら勝てます。

一対多は無理です。


ウォーカーのメンバー内では最弱です。 おまけです。



そんな私が冒険者パーティ:ウォーカーの一員として、イルアンのダンジョンに潜っています。

ウォーカーのオーナーはビトー君です。

私はめでたくビトー君の妾2号になりましたので、自動的にウォーカーに所属することになりました。


こんな素人女がウォーカーに所属して、ダンジョンの深層まで潜っているという事実が他の冒険者に知られたら非難囂々です。



「そんな女は捨てて、あたしを妾にしてウォーカーに入れろ」



という女冒険者がいっぱい出てくるに違いありません。

私の存在は秘密です。


(ビトー君がウォーカーのオーナーと言うのも解せないのですが)


そんな私を一人前の冒険者にするべく、1層2層ではゴブリン、スケルトンと集中的に戦わせてくれました。

3層ではトレント、ストライプドディアーの探知のトレーニングをみっちりと積ませて貰いました。


そして4層以降はおまけとしてウォーカーにくっついて回っています。

けっしてはぐれないように、魔物の不意打ちを受けないように、ウォーカーの皆さんは私を中心にして動きます。

恐縮です。




4層の魔物はリッチ、マミー、ゴーストです。

わたしでは歯が立ちません。

皆さんの戦闘を見ていますが、レベルが高すぎて私の参考になりません。


なんとビトー君でさえ戦闘に参加しています。

ビトー君はゴースト退治の専門家とのこと。

私も何かお役に立てないか・・・ と考えてしまいます。




5層の魔物はオーガ族でした。

肌の色が緑色なのでちょっとイメージが異なるのですが、もし肌の色が青や赤なら「鬼」といっても差し支えないでしょう。

良い武器を持っていた(であろう)桃太郎はともかく、ここの鬼は犬や猿や雉子では退治できないと思います。

ですが、みなさんあっさり倒してしまいました。


変な表現になりますが、ウォーカーの皆さんは、気を抜いてはいませんが、5層までは変に緊張している人は一人もいませんでした。(私を除く)

マロンもそうでした。



「いつもの散歩だよ」


「注意するんだよ」



という感じでした。


ところが6層からは明らかに空気が違いました。

皆さん緊張して気が張り詰めているのです。

それが私にも伝わってきます。


とりあえず6層からが危険な深層階ということがわかりました。

だいたい最初に出てきた魔物からしてマトモじゃありませんでした。


全長10mの劇毒持ちの赤い蛇ってなんですか?

(実際に測定すると8mほどでした)


蛇と言えば真っ先にラミアの皆さんを思い出します。

アレクサンドラ様は凄く大きかった。

でも足下に見えている蛇ほど大きくはありません。

ビトー君に聞くと、どれほどレッドサーペントが強くても、ラミア族には絶対服従だそうです。


とにかくレッドサーペントです。

どうやって倒すのでしょう?


ソフィーさんとジークフリードさんとクロエさんとルーシーさんが準備をしています。

ソフィーさんが全員の準備が整った事を確認すると何かを始めました。


ソフィーさんと言えば空間に自在に氷の槍を出して、敵の死角から攻撃する魔法攻撃が得意ですが、今回は何か目立たないことをしています。

何をしているのかわかりません。

声を掛けて良いような雰囲気ではないので、黙って見ています。


私は風邪でも引いたのでしょうか? 肌寒さを感じ始めました・・・

靄っているように感じます。

これは霧ですね。

私の気のせいでは無かったようです。たしかに空気が冷えています。


・・・急激に寒くなってきました。 どうしたのでしょう?

ここにいるのは危険ではないのですか?


ジークフリードさんとクロエさんとルーシーさんが6層への階段を降りていきます。

いよいよレッドサーペントと決戦を行うようです。

それにしても寒いです・・・


ジークフリードさんとクロエさんとルーシーさんがレッドサーペントの頭部に次々と剣を振り下ろしています。

レッドサーペントは抵抗していますが、その抵抗は弱々しいです。

あっ! レッドサーペントの首が落ちました。 討伐完了です。

しかし寒い。


異常な寒さはレッドサーペントの動きを鈍らせるためにソフィーさんが冷気を当てていたことが原因でした。




6層はジメジメしています。

空気も湿気を帯びています。

6層の探索はマロンが先頭に立ちました。

マロンならではの広範囲探知が必要な階層だそうです。


すぐにマロンが立ち止まり、合図をします。

まだかなり離れていますが、天井に何かいるそうです。


ウォルフ隊長の指示で、全員で魔物探知を行います。

マロン、ウォルフ隊長、ソフィーさん、ビトー君は探知したそうです。

ルーシーさんが探知できずに悩んでいる。

ジークフリードさんとクロエさんは 「無理」 と諦観している。


私はというと、非常にあやふやなのですが、「そこにいるから捜してごらん」といわれると、何か引っ掛かるものがあります。

ただ、目視できないのです。

本当に何かいるのでしょうか?


小声でビトー君に聞きました。



「天井に何かいるの?」


「いるよ」


「見える?」


「今は尻尾だけ見えている」



間違い探しをするつもりで目をこらして見ていると、何かが動きました。

体が見えました。

ちっちゃなトカゲ。

レッドサーペントを見た後だったので ”ちっさ” と思ったのですが、実際は50cmくらいあるトカゲでした。


でも目がおかしいのかな?

それとも2匹いるのかな?



「2匹いる?」


「いや、1匹だよ」


「でも・・・」


「足がいっぱいある?」


「うん」


「バジリスクっていうんだ」


「気付かないで近付くとどうなるの?」


「石化の呪いを掛けられる」


「石化・・・」


「試さないでね」


「誰が試すかっ!」



どうするのか見ていたところ、ウォルフ隊長とソフィーさんとクロエさんとルーシーさんでひそひそ相談しています。

誰が倒すかで揉めているみたい。

すっごいやる気を感じます。安心してお任せできそうです。


結局ルーシーさんが相手をすることになりました。

ウォルフ隊長がルーシーさんにバジリスクの位置を教えています。そういえばルーシーさんは探知できなかったのでした。


ルーシーさんは斥候のD級冒険者ですが、長剣と大盾を扱います。

どちらかというと剣士に近い前衛の斥候です。

どうやって戦うのか見ていましたら、突然水柱が吹き上がりました!!


大切なことですのでもう一度言います。

突然水柱が吹き上がりました。

水道管が老朽化していたのでしょうか?


水柱は天井に叩き付けられ、周囲に水が飛び散りました。

全員ズブ練れになるかと思いきや、水しぶきは私たちの方には飛んできませんでした。

ルーシーさんが不規則な水しぶきの動きまで制御していたみたいです。

そして前方の床に直径1mくらいの巨大な水球がありました。

水球の中でトカゲが蠢いています。

水球の膜を破って外に出ようと足掻いていますが、出られません。

そのうち水球の中で窒息して死んでしまいました。


バジリスクに毒が無いことを確認して、私が魔石を取り出しました。

バジリスク。

足が8本もある、ちょっと気味の悪いトカゲでした。


魔石はかなり大きくて透明なきれいな石でした。

この魔石は、属性は無いのですが魔力充填機としては非常に優秀らしいです。


6層はレッドサーペントとバジリスクが出てくる階層でした。

1体1体の魔物が強すぎるせいでしょうか。

この階層ではあまり魔物と出会いませんでした。



6層の階層ボスは毒々しい真っ赤なトカゲでした。

全力で「私、毒持ってます」をアピールしています。

ヤドクガエルみたい。

名前はクリムゾンリザード。

爪、歯、唾液、体表のぬめり、血、肉。全てに猛毒を持っています。難敵です。


全員が役目を持って動きます。

ビトー君と私は毒を受けた人を後ろに引き摺って下げる役。

ウォルフ隊長、ジークフリードさん、クロエさんは相手の攻撃を受け止める役。

ソフィーさんが攻撃の主体。

ルーシーさんは誰かが危なくなったときに水の柱でクリムゾンリザードを遠ざける役。

マロンは全体を見渡して、クリムゾンリザードが予想外のことを仕掛けたときに警告を発する役。



戦いは極めて安全に行われたように感じました。

レッドサーペントと戦ったときのように、ソフィーさんはクリムゾンリザードを冷やし始めました。

ボス部屋という閉鎖空間なので、魔法の効果がわかりやすく目で追えます。

クリムゾンリザードが靄に包まれました。

部屋の温度が急激に下がっていきます。



「もういいよ」



ソフィーさんが合図をしたときは、クリムゾンリザードは凍り付き、体中真っ白に霜が降りていました。


ダンジョンの魔物は死ぬと魔石を残して死体はダンジョンに呑まれるのですが、クリムゾンリザードの場合はちょっと特殊で(多分毒が強すぎるのでしょう)、ダンジョンもなかなかクリムゾンリザードの死体を呑んでくれません。

ダンジョン任せではなく、クリムゾンリザードの魔石を取るには、死体を解体しないといけません。

でもクリムゾンリザードには全身にたっぷりと毒があります。

どうやって取り出すの?


ビトー君がクリムゾンリザードの死体の腹をジリジリと焼いてくれました。

魔石が剥き出しになりましたので、ダガーの先で掻き出して回収。

ビトー君が魔石とダガーを水魔法で出した水で洗ってくれました。3回も。


ところでビトー君は水魔法も使えるのですか?

そうですか。


魔石は大きくて透明でうっすらとピンク色をした石でした。

この魔石はとんでもなく優秀で、治癒魔法『キュア』を使えるそうです。

しかも繰り返し使える。

入手した冒険者は決して手放さず秘匿するとされ、市場に出ることはありません。

もし市場に出たら大白金貨(1億円)でも買えないそうです。




そして7層に入りました。

7層はアンデッド層です。


初めて7層に入るルーシーさんと私は、グールの恐ろしさについて事前に散々レクチャーを受けています。


鼻が曲がるなんていうのは序の口で、


「目が痛い」

「鼻が痛い」

「鼻がもげる」

「何か喋ろうとしたらゲロを吐く」

「全身の毛という毛が逆立ち、毛穴が一斉に開く」

「粘液が服に付いたら溶けるかも知れない」

「手に粘液が付いたら自分の手を切り落としたくなる」

「もし粘液が顔に付いたら気が狂う自信がある」

等々。


みなさんグールのことしか言わないのですが、グール以外の魔物はいないのでしょうか?



いました。

ゴーストみたいな魔物。

レイスと言うそうです。

ゴーストが死霊であるのに対し、レイスは生き霊だそうです。

ちなみにレイスを討伐しても何も出ません。魔石すら落としません。 けち。

レイスを出現させた魔物(人間?)のいるところへ行けば魔石があるはずです。

ただ、それがどこだかわからないのです。


レイスを倒す役目はビトー君でした。

ビトー君は見慣れない装備に変わっています。

斥候ではありません。

そして魔法使いっぽい杖でバンバン火球を撃っています。

あらかた火球でHPを削った後、デ・ヒールでとどめを刺していきます。

レイスが2体以上いるときは、レイスに小麦粉をまぶして火を付けて燃やしていました。

レイスって燃えるんですね~

実体があるのか無いのか良くわからない魔物でした。




そして遂に私もグールに相見える瞬間が訪れました。


歴史的瞬間でした。

聞きしに勝る・・・ とはこのことです。


まずグールが近付いてくるときは空気が変わります。

私ですらわかります。

微かな臭気が漂うのでしょう。


異様な緊張がパーティを支配します。

そしてメンバー全員が無言で武器を構え、盾を構え、杖を構えます。

例外はマロンです。

マロンの武器は牙ですが、絶対に口を使いたくないでしょう。


遠くから何かを引き摺るような、湿ったような、何とも言えない音がします。

そっちの方向を見ると、全身の肉が腐って溶けかけた二足歩行の物体がいます。

グールを目視した瞬間、鼻を板で殴られたような衝撃が来ました!

痛いっ!!

息を止めているのに痛いっ!!


いつまでも息を止めていられません。

そろそろと息を吐き、息を吸おうとすると・・・

痛いっ!!

ああっ!!

目も痛い!!

涙がどばーっと出て・・・ ある記憶が蘇りました。



私の家は貧乏でした。

底辺もいいところでした。

そんなギリギリの人たちが住むボロ長屋に住んでいました。

ご近所には、生活保護でやっと暮らしている一人暮らしのお年寄りが何人かいました。


TVは毎年夏になると「過去○○年で最も暑い」と煽りますが、その年の夏は本当に暑かった。

クーラーなんてありません。

遂に耐えきれなくなったお年寄りがはかなくなりました。


住民同士交流のある長屋だったら良かったのですが、そうではなかったため・・・

私も含めて、住民達は何か変だなと思っても我慢できなくなるまで放置し・・・

ようやく我慢できなくなって公的機関に連絡したときには・・・



グールの臭いはその時に臭いを何倍にもしたものでした。


グールは3体いました。

ウォルフ隊長が火壁でグールを囲んでしまいました。

そのまま燃やし尽くすようです。

ウォルフ隊長に拍手です。

そのまま悪臭まで燃やしてください。



ビトー君が私の手を強く握りました。

ビトー君の向く方を見ると・・・ グールが1体歩いてくるのが見えました。


私は涙を流しながらグールの進行方向に土壁を出しました。

貧弱な土壁でしたが、グールが土壁を避けてこちらに進んできたところにビトー君が火炎を放射していました。

ビトー君が火魔法でグールを捕捉したのを確認し、私は土壁を消しました。



7層は6層以上に魔物の数が少ないように感じました。

やはり1体1体の魔物が強すぎるせいで、なわばりを広くとるみたいです。


グールにはもう一度遭遇しただけで、7層の階層ボスの部屋まできました。

ですが、そのもう一度が大変でした。


グールが時間差で現れるので、行けども行けどもグールに付き纏われるような錯覚を憶えます。

また、通路内に悪臭が残り、常にガス攻撃を受けているようなもので、体力・気力の消耗が激しいのです。


特に皆さんの気力の方が心配になりました。

ビトー君も含め、明らかにメンバー全員が苛つき、ヤケを起こしそうになるのを必死に自制しているのがわかりました。



そんなテンションでボス部屋に突入するのは非常に危険だと思うのですが、ジークフリードさんが扉を「バ~ンッ!!」と開け放ち、「出てこいや-っ!!」と怒鳴りながら部屋の中に入っていってしまったので、私たちも入らざるを得ません。


そこには大きな老人がいました。

老人は巨大でした。2mはゆうに超えているでしょう。

老人は薄気味悪い笑みを浮かべ、何かをしてきました。

感じからして何かの魔法を掛けられたようです。

ですが、なにも起きません。いつも以上に冷静に相手を見ました。


服はボロボロ。

穴の空いた服の下に肋骨が浮き出ているのが見えます。

ガリガリに痩せさらばえています。

頭髪がまだらに抜け落ちていて、とても貧相です。

頭髪は少なければ少ないほど髪型に気を付けなければなりません。

清潔感を持たせないと。


老人は私たちを見ていますが、私たちには何も起きません。

老人の笑いが凍り付いたようでした。


ビトー君がおもむろに小麦粉の入った小箱を老人にぶつけ、火を付けました。

ちょっとした爆発が起きました。

老人が悲鳴を上げて床を転げ回っていると、ウォルフ隊長、ソフィーさん、ジークフリードさん、クロエさん、ルーシーさんが無言で老人に剣を振り下ろし始めました。

皆さんの目が怖い。


グール戦の鬱憤を全てぶつけているみたいでした。




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