134話 (幕間)ダンジョン探索の合間
炎帝にリッチの対処法を教えた後、いったん全員でダンジョンの外に出た。
炎帝にとっては考えることが多そうだし、訓練もしそうだし、ウォーカーはマキを休ませなければならない。
ギルドに立ち寄り、大量の獲物を買い取って貰う。
炎帝の仕留めたブルーディアーやストライプドディアーもここで全部出した。
キャロライン(冒険者ギルドのフロント)に説明する。
「ここからこっちが炎帝さんの獲物です。こっちがウォーカーの獲物です」
炎帝はブルーディアーを持ち込むのは初めて。
ストライプドディアーも毛皮だけしか持ち運べなかったとのことで、肉や角を持ち込むのは初めて。
相当な金額を受け取って呆然としている。
ジョアンに聞かれる。
「なあ・・・ ブルーディアーをどうやって運んだんだ?」
「イリュージョンです」
「?」
「この背負い袋で運びました」
「どう見ても入りそうも無いのだが・・・」
「ですからイリュージョンです。手品ですよ」
煙に巻いた。
冒険者ギルドで炎帝と別れた。
炎帝一同、何度もウォルフガングに頭を下げていた。
自宅に戻ると案の定マキが倒れそうになったので、ソフィーの監視の下で風呂に入れ、果物だけの簡単な食事で済ませ、すぐに休ませた。
マキは2日間寝込んでいたので、その間に私とソフィーとマロンはエマとマロンの子供達と遊び、遊びながらエマに魔法の初歩を教える。
マロンの子供達も真剣に聞いている。
ジークフリードとクロエはどこかへ行った。
ウォルフガングとルーシーは冒険者ギルド、武器屋、道具屋、宿屋、酒場、食堂を点検した。全て順調だが、宿屋が満杯になりつつある。
ダンジョンが冒険者で溢れかえっている訳では無いのだが、何故だろう?
娼館は私が一人で点検に行った。
以前要請した「とにかく清潔にしろ」と「姫の手取りは立派なものにしろ」が守られていることを確認した。
シャワーも完備している。
景気を聞いたところ、館主が首をひねりながら述懐した。
「わたしもこの世界でそれなりに長いのですが、どうも今のやり方がスタンダードになりそうな気がしています」
「どうした? 何があった?」
「シャワーの有無が一流店の基準になっています」
「ほう」
「当然イルアンは全店シャワー完備です」
「好評か」
「シャワーは一流店の証ですので料金を高く設定し易いです。姫はもちろんこのやり方に大歓迎です。問題は客の方ですが・・・」
「どうした?」
「高いと文句を言うのですが、ほぼ100%リピーターになります」
「そうか」
「それどころか他の町からの客もかなり増えています」
「ほう。噂が広まっているのか」
「はい。それに・・・」
「どうした?」
「男爵様はご存じないと思いますが、この国にも折り紙付きの姫がおります」
「ふむ」
「その高名な姫達がこぞってイルアンに集まりつつあります」
「ほほう」
「来月には王都の名花と謳われる『月下美人』姫がイルアンに移ってくる事になっております」
「ほ~お」
「国内の高名な遊女達がこぞってイルアンに集結するのです」
「お主の手腕だな」
「客も領内各地から押し寄せるでしょう」
「それでか。宿屋が満杯になりつつある」
「受け入れの器に関しましては、我々は男爵様にお縋りするばかりでございます」
イルアンの経済規模が拡大するのは願ったり叶ったりだが、『ダンジョン都市』としてではなく、『歓楽都市』としてでは微妙だ。
取り敢えず宿泊施設のギルドに対し、休眠中の施設を宿屋として再利用の許可を出しておいた。
◇ ◇ ◇ ◇
ハーフォードから呼び出しがあった。
と言っても公爵からでは無く、アンナからだった。
ソフィーを誘うと一人で行けという。
仕方なく一人で行った。
マーラー商会ハーフォード支店へ着くとアンナ、サビーネだけでなく、会頭のマーラーとユミ(マーラー商会監査部)がいた。
最初から歓迎ムードだった。
何があったのだろう?
何だか良くわからない貴族同士の挨拶みたいな言葉を聞いていると、ユミがおかしそうに教えてくれた。
「何のことだかわかっていないでしょ?」
「うん」
「ビトー君のお陰でね、マーラー商会はすっごく大きくなったの」
「ふ~ん」
「ポーション、女性用下着、冒険者ギルド、武器屋、道具屋、それにシャワーヘッド」
「うん」
「特に本店とハーフォード支店の売り上げは凄いの」
「うん」
「ビトー君がポーションをもたらす前のマーラー商会と比較すると3倍くらいあるの」
「それは凄い」
「ビトー君はアンナさんを娶ったでしょ?」
「うん」
「アンナさんもお目出ただし」
「!!!」
「聞いてなかったの?」
(こくこく)
「もうー。ビトー君らしいと言えばらしいけど。それでね、ご祝儀を持ってきたの」
マーラー商会ハーフォード支店は、マーラー商会ハーフォード支社とし、ハーフォード支社で行う全ての商行為についてアンナ支社長に全権を託すそうだ。
サビーネは支店長に昇格。
そういえば最初はアンナとサビーネ2人で切り盛りしていたハーフォード支店だが、今は大勢の女性がキリキリと働いている。
アンナの支社長就任を盛大に祝った後、翌日マーラーとユミは帰っていった。
お土産にブルーディアーの毛皮を持たせた。