133話 イルアンダンジョン4層ボス部屋
(炎帝のリーダー・ジョアンの視点で書かれています)
4層のボス部屋の前にいる。
何故かビトーが着替えている。斥候の装備では無い。
魔術師っぽいのだが、何だろう?
ウォルフガングが4層のボス部屋のレクチャーをしてくれる。
ここにはリッチ1体とマミー4体がいる。
もうそれを聞いただけで炎帝の手に余るとわかる。
いったいブリサニア王国にリッチを倒せる冒険者が何人いるというのだ?
いや、冒険者以外でも良い。
騎士団を入れても構わない。
リッチを倒せる者は片手で足りるのではないか?
そう聞くと、ウォルフガングが苦笑交じりに教えてくれた。
「別に一人で倒せと言っている訳ではないんだ。チームで倒せば良いのだ。敵もチームを組んでいるのでな」
それを聞いて少し落ち着いた。
だが、それでも炎帝でリッチを倒す道筋が見えない。
ウォーカーはどうやってリッチを倒しているのだろう?
種族:リッチ
年齢:―
魔法:火・水・風・土
特殊能力:人語理解
脅威度:Bクラス
「リッチは手練れの魔法使いだ。殆どの魔法を無詠唱で撃ってくる。魔法の発現も早い。但し魔法以外のことをしながら魔法を使うことはできない。連続して魔法を撃つことも得意ではない。付け入る隙はそこだな」
「どんな手があるというのです?」
「一つ目は奴が魔法を撃つ前に肉薄してしまい、剣圧で圧倒して倒しきってしまうことだ」
「な~るほど。アリですね」
「一つ忠告すると、リッチは常に風魔法を身に纏っているようだ。なかなか剣が通りにくいのだ。剣の腕が確かでないとこの手は使えぬ」
「・・・」
「二つ目は何らかの方法で奴の気を散らして魔法に集中させないこと。そして奴を混乱させた状態で、剣圧で倒しきること。これも剣の腕が必要だ」
「・・・」
「三つ目は、魔法を撃つ早さ、威力、回転数でリッチを上回ること」
かなりハードルが高いが、あるいはリッチを倒せるのかも知れない、と思う。
ウォーカーはどの方法でリッチを倒しているのだろう。
聞いてみた。
「儂の場合、扉を開けると同時にリッチに肉薄する。剣戟でリッチを魔法に集中させずにいる間に他のメンバーがマミーを倒す。
マミーを倒したら全員でリッチを囲んで袋叩きにする」
「ジークフリードとクロエがリッチに相対するときはリッチに目潰しを掛ける。掛け続けてリッチが魔法に集中できないようにする。
その間に他のメンバーがマミーを倒してから、全員でリッチをフクロにする」
「ソフィーなら真っ正面からリッチと魔法勝負をするのではないかな?」
「ああ。物量でねじ伏せてやる」
「ウォーカーの戦いを見せて頂いてよろしいですか?」
「ああ。そのつもりだ」
そう言うとウォルフガングはビトーに合図をした。
ビトーが扉の前に立ち、隊列を確認した。
「いつも通りですね?」
「ああ」
「自分のターゲットはわかっていますね」
「「「 おう 」」」
ビトーがウォーカーのメンバーに何かを確認した。
そしてビトーは扉に手を掛け、カウントダウンをして一息に押し開けた。
ビトーは扉を開けるとそのまま前方に倒れ込んだ。
ウォーカーの面々がビトーの上を飛び越えて、部屋の中に突っ込んで行った・・・
行ったよな?
空を飛んでいないよな?
一瞬で消えたように見えたが。
ウォルフガングとソフィーの動きが目で追えなかった。
ジークフリードとクロエの突進は辛うじて目で追えた。
ルーシーの動きは目で追えた。
我々も中に入る。
ウォルフガングは火の出るような剣戟をリッチに浴びせている。
リッチが削られている。
リッチは防戦一方で魔法を撃つどころでは無いようだ。
ジークフリードとクロエがマミーを一対一で圧倒している。
ソフィーはマミーを瞬殺して、もうリッチを削りに掛かっている。
ビトーがすぐに起き上がり、ルーシーのサポートに回っている。
ビトーは火球を撃っている・・・?
なぜビトーが火球を撃てる?
マミーの包帯が燃え上がってマミーが苦しんでいる。
ジークフリードとクロエもすぐにマミーを倒し、ジークフリードはリッチへ、クロエはルーシーのサポートに回った。
結局リッチは1回も魔法を撃つこと無く死んでいった。
いや、既に死んでいたのだがら「死」ではないか。
存在自体が無くなった。
後にはリッチの魔石とマミーの魔石が残された。
そしてリッチの杖が転がっていた。
今、私はちょっとしたパニックに襲われている。
本当にリッチを剣で倒した。
リッチに魔法を撃たせなかった。
リッチは4大魔法を全て扱うと言われているが、特に火魔法を得意とする。
その火魔法を撃たせなかった。
そうさせた最大の要因がウォルフガングの突進と剣戟。
ウォルフガングの本気を初めて見た。
あれがB級冒険者上位なのか。
一瞬でリッチに取り付いた。
リッチが魔法に拘っていたら、一瞬で首をはねられていた。
ジークフリードとクロエもB級に昇格したという。
わかる。
二人とも相当強い。
一対一でマミーを圧倒して、毒の唾も吐かせずに倒しきってしまう。
だが、同じB級と思えないほどウォルフガングの動きは突き抜けていた。
ソフィーは何をした?
マミーを瞬殺していたが・・・
誰か見た者はいるか?
シルバが青ざめながら答えてくれた。
「氷の槍を大量に浴びせてマミーを粉砕していました・・・ B級試験のとき、あれを自分に向けられていたのかと思うとちょっと・・・」
「ルーシーはどうだった?」
ヴェロニカが答えてくれた。
「マミーの足止めが狙いだったのだと思います。自分一人で倒そうとはしていませんでした」
「だが彼女はD級斥候だぞ。マミーを抑えられたのか?」
「彼女は長剣を使っています。それでマミーの間合いを外せるみたいです」
「ほとんどC級じゃないか・・・」
リッチとマミーの屍がダンジョンに呑まれていくのを見ながら、ウォルフガングに確認する。
「今のはリッチに魔法を撃たせずに肉薄するやり方ですね」
「そうだ。炎帝で出来るか?」
「出来ません」
「炎帝だったらどうやってリッチを倒す?」
「火魔法の撃ち合いで圧倒するつもりです」
「そうだな。リッチの魔法スキルはわかるか?」
「わかりません」
「ソフィー?」
「私がマミーを倒した魔法は見たか?」
「見ました」 (とシルバが答えてくれた)
「あれと同じくらいの回転と強度の火魔法を撃てばリッチを制圧できる」
「・・・」
「一人でやる必要は無い。3人くらいで制圧すれば良い。あとの3人でマミーを退治するのだ」
炎帝のメンバーの魔法の連射速度と総魔力量を確認しなければならない。
ダンジョンの外に出たらやることが増えた。
だが我らのスキルアップの道筋が見えた気がする。
対ブルーディアーで剣の腕を磨き、対マミーで魔法の腕を磨き、ウォーカーにバックアップをして貰いながらリッチと勝負をする。
道筋が見えれば訓練にも力が入り、上達は早い。
よし。やってやる。