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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
12 ダンジョン管理編
130/270

130話 炎帝


私、ビトーの仕事は(特命や呼び出しが無ければ)イルアンの街を発展させ、人口を増やし、商売を盛んにし、税収を増やすことである。


そのためにはダンジョンを適正に管理し、冒険者あらくれを呼び寄せ、宿屋・酒場・食堂・娼館・武器屋・道具屋を繁盛させつつ、少々羽目を外させつつ、上手に治安を維持することが求められる。

バランスが取れれば自然と人が集まり、経済規模が大きくなり、税収が上がる。

その中心にあるのはダンジョンであり、冒険者ギルドだ。


ダンジョンを適正に管理するとはどういう意味か?

それはダンジョンの各階層を、


「頑張れば攻略できる」

「ちょっと無理すれば攻略できる」


と冒険者に感じさせること。


ダンジョンが高難度ならなるべく詳細な魔物の情報を出し、安全地帯の情報を出し、冒険者が十分な事前準備が出来るようにする。

逆に低難度なら情報を絞る。既に情報が出回っている場合は「冒険者のレベルアップ用として最適」と売り込む。


当初情報を抑えていたのはイルアンダンジョンが低難度だからではなく、ハーフォードの冒険者が己の実力を知らず、無茶をするからだった。

功名心を煽らないように情報を絞っていたが、ここに来てようやく通常のダンジョン管理になりつつある。


イルアンのダンジョンの厄介なところは、4層でリッチという強すぎる階層ボスが出てくること。

ここをどうやって中級冒険者達にクリアさせるかについては、まだ手探りである。



◇ ◇ ◇ ◇



最近はマーラー商会ハーフォード支店による冒険者ギルド・武器屋・道具屋の経営が順調で、マーラー商会本店からどしどし若手が移ってきている。

ウォルフガングとソフィーが冒険者ギルドの面倒を見る事も少なくなり、何かあってもルーシーに任せることが出来るようになってきた。


そこでアイシャ情報に従って、ウォーカーで深層階(8階)の手入れをしようと計画していたとき、懐かしい顔を見た。

久しぶりに冒険者パーティ『炎帝』がイルアンを訪れた。

今回は腰を据えてダンジョンを攻略するという。


冒険者ギルドに顔を出した後、すぐにウォーカーに会いに来た。


今のウォーカーと顔合わせ。

ルーシーとマキを紹介。

ルーシーを見てジョアンが



「あんたは・・・」


「ええ。元『鉄壁』の斥候です」


「ウォーカーに移ったのか?」


「はい。ビトー様に拾って頂きました」


「なに?」



それから彼女がウォーカーに加わった経緯を説明した。

ヴェロニカ(炎帝の斥候)が何とも言えない顔をしていた。


ジョアン(炎帝のリーダー)がじっとルーシーを見ている。



「あの・・・ なにか・・・?」


「あんた何級だ?」


「最近D級になりました」


「それは・・・」


「はい。ウォルフガング様に鑑定して頂きました」


「ウォルフガングのめがねに適うD級斥候を『鉄壁』は手放したのか・・・」



ルーシーはちょっと困った顔をしている。



「まあ、そういうことだ」



ソフィーが口を挟むとそれ以上質問されなかった。



私は良くわかっていなかったのだが、一般に『○級』と言われる評価は戦闘能力を表す。剣士や魔術師の評価軸としてはわかりやすい。

一方斥候の場合、パーティで攻撃力を期待されているかと問われるとそうでもない。

攻撃力を評価されてパーティに加わっても、索敵がお粗末では本末転倒である。

だが索敵を評価する評価軸が無い。

ここが斥候の評価の難しいところである。


ウォルフガングに認められた『D級斥候』の意味は、剣士のD級並みの攻撃力を有し、斥候としても一定水準の索敵能力を有している、ということである。

そしてその能力はウォルフガングが実地イルアンダンジョンで確認済みという意味である。

これからイルアンに挑もうとするパーティなら、喉から手が出るほど欲しい。




炎帝もさすがにマキのことは知らなかった。

ジョアン(炎帝のリーダー)から不思議な顔をされた。



「ウォーカーは斥候が足りないのですか?」



ルーシーもマキもマロンも私も斥候だからね。その質問はわかる。



「そうではない。(ウォルフガングが私の頭を叩きながら)コイツの元に集まるのが斥候ばかりだった、ということだ」



それから冒険者パーティ『鉄壁』の3層初攻略の話題になった。



「ソフィーさんから『3層ボスは魔法が効かない。剣だけで倒せ』って言われていました。ブルーディアーだったのですね」


「そうだ。動きは鈍いがHPは山のように持っている。それに巨大だ」


「どうして鉄壁は1名がやられたのでしょう?」


「焦ったり、面倒臭くなったら駄目だ」


「どういう意味です?」


「ブルーディアーは多少攻撃を受けてもビクともしない。だから捨て身の戦法を取る」


「捨て身って・・・?」


「攻撃を受けながら巨体で相手を押し潰そうとするのだ」


「・・・」


「だから常に退路を確保しながら少しずつ削るのだ。位置が悪いときは削らずに仕切り直すのさ」


「どのくらい時間が掛かりますか・・・」


「ウォーカーで2~30分といったところだな」


「30分・・・」


「それを面倒臭がったり、ヤケになったりすると鉄壁の槍士のようにやられるぞ」


「・・・本当に30分も続けるのですか?」


「訓練と思えばどうと言うことはあるまい」



炎帝の間からぼそぼそ話し声が聞こえる。


「訓練と思えばって・・・」

「ウチの中で30分以上実戦を続けた経験のある者はいるか?」

「やっぱりウォーカーって・・・」




「ところでウォーカーはどこまで攻略したのですか?」


「7層だな」


「7層って・・・」


「思ったより進んでいないだろう?」


「そんなこと・・・」


「メンバーが欠けていてな。深層階に潜るのは控えていたんだ」


「ご一緒させて頂いてよろしいですか?」


「ジョイントか? かまわん」


「ウォルフガングに隊長をお願いします」


「わかった。副隊長はお前、ジョアンだな」


「はい。足手まといにならないよう気を付けます」


「いや、ウチも初級者を抱えているのでな。経験を積ませなければならん。そっちの世話になるかも知れぬぞ」


「この人数で階層ボス部屋に入れますか?」


「ここのダンジョンの部屋で、人数制限にあったことはないな。今後も無いと言うことにはならないが・・・ ところで炎帝は研鑽を積めたのか?」


「いえ。護衛任務ばかりでしたので・・・ ああ、でもヴェロニカは斥候の研鑽を積めたと思います。トレントとストライプドディアーと勝負させて下さい」


「ああ。期待しているぞ」




ということで明日から炎帝と一緒にダンジョンに潜ることにした。


ジョイントを組むということで、改めてお互いのメンバーを紹介しあった。


【炎帝】

ジョアン  魔術師  C級 (火) リーダー

シルバ   魔法剣士 C級 (火)

トーレス  魔法剣士 D級 (火)

ゴルディ  魔法剣士 D級 (火)

サンチェス 魔術師  D級 (火)

ヴェロニカ 魔法斥候 D級 (火)


【ウォーカー】

ウォルフガング 魔法剣士 B級 (火) リーダー

ソフィー    魔術師  B級 (水)

ジークフリード 魔法剣士 B級 (土)

クロエ     魔法剣士 B級 (風)

ルーシー    戦闘斥候 D級 (水)

マロン     斥候   D級

マキ      斥候   E級 (土)

ビトー     治癒斥候 E級 (光)



「クロエさんもB級になったんだ」

「クロエさん強かったもんな」


「厳しかったわよ~ 『リッチを倒せ』って言われたときはどうしようかと思っちゃったわよ~」


「済みません。よく聞こえなかったのですが・・・ 何を倒したのですか?」


「リッチよ~ もう! 酷いよね」


「・・・」

「・・・」

「・・・」



ぼそぼそ相談する炎帝のメンバー。



「・・・ここのリッチは弱いのかな?」

「そんなわけあるかっ!」



ヴェロニカが私に食いついてきた。



「ビトーさん、あなたあんなに強いのにE級なの?」


「はい。E級です」


「なら私なんかF級じゃない・・・」


「冒険者証を持っているのですからヴェロニカさんはD級ですよ。火魔法も使えますし」


「火魔法なんて・・・って、ビトーさん、あなた治癒士なの?!」


「はい。少し治癒ができます」


「少しってどのくらい?」


「ポーションを飲むくらいです」


「私が怪我をしたときは癒やしてくれるの?」


「もちろんです」


「お金払えないよ・・・」


「メンバーは無償です。その代わりE級なので大抵の魔物には歯が立ちません。守って下さい」


「はぁ・・・もうっ! ウォーカーって!」



ヴェロニカは何か言いたそうだが、上手く言葉にできないようだった。




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