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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
11 聖ソフィア公国編
127/276

127話 ライムストーン公爵領始動


私はオーウェンの相談役(兼)連絡要員として、ハーフォードとヒックスを行ったり来たりしている。

ハーフォードに泊まる時はアンナのところに宿泊。


オーウェンの旧神聖ミリトス王国に対する寝返り工作は順調に進んでいる。

ミューロンからスタートし、あっという間にイプシロンに至るまでの地域(旧神聖ミリトス王国の1/4の面積、1/3の人口)がブリサニア王国に帰順し、さらにアノールに迫る勢いで蚕食している。


旧ミリトス教からの改宗も順調に進んでいる。

改宗先はティアマト信仰が6割、スキピオ教が4割だった。


マキは私に嫁ぐことが決まったが、オーウェンのヒックスにおける使命が軌道に乗るまではヒックスに常駐している。

レイ、ユミとの旧交を温めている。




旧神聖ミリトス王国の現状を説明する。

王族、中央官僚、騎士団、ミリトス教会総本山は完全に消滅し、臨時政府も立てられなかったことから、統一国家として機能していない。


南部はオーウェンの手によって神聖ミリトス王国から分離独立し “政治的安定と庇護を求めて” ブリサニア王国の傘下に入った。


北部はアレクサンドラの見立て通り、各地で王家の末裔を名乗る者が乱立し、それぞれ『神聖ミリトス王国正統政府』を名乗ったものだから一本化できず、分裂が進む方向へ向かっている。


中央部は完全に政治的空白地帯になった。




ブリサニア王国の方針は、


・神聖ミリトス王国北部は『入らずの森』という難所が横たわっており、

 統治に不向きであること。

・神聖ミリトス王国北部は土地も痩せており、人も少ないこと。


以上から、当面は南部の掌握を万全にし、北部は成り行きに任せることになった。



◇ ◇ ◇ ◇



半年後。

王令が下った。


旧神聖ミリトス王国のミューロンからイプシロンに至るまでの地域を正式に『ブリサニア王国ライムストーン領』と命名。

正式にブリサニア王国に編入された。

ブリサニア王国で最も広い領地となった。


領都はヒックスとした。


良好な領地経営が継続され、富が蓄積され、ミューロンの人口が増えたら、ミューロン遷都を検討する。


アノール周辺の中央部はブリサニア王国に編入するには時期尚早とされ、自治領として残された。


そしてオーウェンの功績を称え、オーウェンを侯爵から公爵へ陞爵した。


新たに生まれたライムストーン領をオーウェンへ与え、オーウェンは『ライムストーン公爵オーウェン』となった。


オーウェンの序列が上がった。



◇ ◇ ◇ ◇



オーウェンは元々ブリサニア王国の王都近郊に小さな領地を持っていた。

配置換えによって受領した新領地は格段に広く、王都近郊とは気風も異なる。

従って騎士団や行政機関の拡充が急務である。


そして今、退任するヒックスの代官からラミア族との付き合いについて引き継ぎを受け、憔悴している。

ラミアと付き合うのは武闘派でも顔色を失うのに、穏健派の公爵ではキツイよね。


他人事のつもりでいたら、マキから耳打ちされたらしく、私が呼び出された。

ラミア族に顔の利く奴と耳打ちされたらしい。



◇ ◇ ◇ ◇



「そなたはいったい何者なのだ・・・」


「私はマグダレーナ様の忠実なる側仕え(兼)護衛騎士(兼)イルアン監察官でございますが、アイシャ様とアレクサンドラ様から呼び出しが掛かれば即座に参上することを義務付けられている者でもあります」


「アイシャ様とは・・・」


「アイシャ様は古森の族長でございます」


「・・・」


「アレクサンドラ様は岩の森の族長でございます」


「岩の森・・・」


「ミューロンの街の近郊にある、木々の間に奇岩が立ち並ぶ異相の森です。ラミア族が支配する聖域でございます」


「・・・」


「着任のご挨拶をなさいますか?」


「それは・・・ どちらの森だ?」


「両方です」


「・・・」


「まだ準備が整いませんか?」


「・・・そうだ」


「ご挨拶をなさるときは私が同行致します。お呼び出し下さい」


「おお・・ すまんな」


「一度お時間のあるときに、ヒックスの冒険者ギルド長のリーをお呼びになり、ラミア族との付き合い方のレクチャーをお受けになるとよろしいでしょう」


「そうさせてもらおう・・・」




とは言ったものの、オーウェンは洗練された文官貴族なので、会談の前にアイシャとアレクサンドラの双方に対して、如才なく着任の挨拶状の送付と付け届けを抜かりなく行い、友好関係の第一歩を記した。



アイシャから呼び出しを受け、私が古森へ駆け付けると、



「このたびヒックスへ着任したライムストーン公爵との面会の機会を設けよ」


「ではアイシャ様の御予定を確認させて下さい」


「いつでもいいわよ」



ということはすぐ来いと言うことだな。


貴族に対してすぐ来い、と。

言い難いな・・・

でもアイシャ様だからな。

国王陛下より恐ろしいお方だし。



アイシャとオーウェンの顔合わせのセッティングを行った。


アイシャの言葉をそのまま伝えたところ、オーウェンも「すぐ来い」という意味に受け取った。

オーウェンは泣きそうな顔をしていたが、これは名誉なことだ、と諭した。



「おそらくブリサニア王国の歴史上、ラミアの族長と会談する貴族は、始祖ブリスト・スチュアート以来でありましょう。

更にラミアの側から会談を要請されるなど、古今無双の名誉と言うべきでありましょう」



アイシャが言うには100年ぶりの領主着任かつ、勝手に着任し、勝手に去って行く連中と異なり、古森に敬意を払ったので、人物をよく見ておきたいとのこと。



私はオーウェンに対し、アイシャは魔眼持ちでこちらが考えたり思ったりしていることを見抜くので、決して不埒なことを考えないように注意した。



「不埒な事って何だ?」


「例えばラミアの武力を利用してやろうとか、ラミアを使って他領との交渉を有利に進めようとか」


「そんな恐ろしいこと考えるわけがなかろう・・・」


「オーウェン様が武闘派貴族でしたら考えませんか?」


「う・・・」


「怪しいでしょ?」


「私は何を思えば良いのだ?」


「挨拶の文言はもう出来ておられるでしょう?」


「うむ。 両種族の友情と繁栄を称え、未来永劫この友好が続くよう全力を尽くす旨を述べる予定だ」


「よろしゅうございます。その通りのことを心の底から思い、ラミア族の幸せと自分の幸せの重みは同等である、くらいのことを強く思っておけば大丈夫です。

それから同行する護衛や文官の人選にはご注意下さいませ」


「どういう意味だ?」


「ラミア族の脅威度はご存じでしょう? 会談には何人もラミアが参列しますので、人によっては『この世の終わり』と思う人もいるようです。

パニックを起こされると面倒な上、友好関係にひびが入るやもしれません」


「う・・・」


「お困りの時はマキに相談して下さい」


「なぜだ?」


「マキも古森のラミア族と顔が繋がっております故」


「・・・」


「どうしても人選に難儀されるときは私をお呼び下さい。私のパーティが護衛になりましょう。ハーフォード公爵に派遣をお願いして下さい」


「わかった。そのときは頼む」



◇ ◇ ◇ ◇



アイシャとオーウェンの会談は、古森の中の円形広場で行われた。


参列者の人選はマキ主導で行われ、人間側の参列者は オーウェン、騎士団長、マキ、レイ、ユミ、私、ソフィーの7名。


ラミア側はアイシャ、エリス以下、20名の精鋭が参列した。



オーウェンは内心相当な恐怖を感じていただろう。

だが恐怖をグッと押し殺し、堂々たるスピーチを行った。


(人間族が把握している範囲内ではあるが)ラミア族の歴史を紐解き、数多あるエピソードの中から勇気ある決断と輝かしい勝利を称え、ヒックスの人間族にヒカリオルキスをもたらしてくれたことに深い感謝を表し、末永く両者の友好関係が保たれるよう力を尽くす旨を述べ、スピーチを締めくくった。


オーウェンのスピーチは一分の隙も無く、美しく推敲されていた。

メモなど見ず、ラミア達から視線を外さず、熱い口調で語った。

さすがは上級貴族。

思わずうなった。


アイシャも評価したようで、



「そなたのような英邁な人傑がヒックスの領主に着き続けてくれることを望む」



と言った。

破格の評価だという。

会談は大成功と言って良いだろう。



オーウェンは生まれて初めてラミアの族長にまみえ、人生最大の恐怖を感じていた事は間違いないが、オーウェンよりももっと恐怖を感じていた者がいた。


ライムストーン騎士団長。


騎士団長は自身も高い武力を持ち、なまじ相手の実力が見えるため、オーウェンよりも精神的ダメージは大きかった。

ヒックスに戻ってすぐに倒れ、高熱を発し、3日間うなされていた。


岩の森の訪問には同行できなかった。



◇ ◇ ◇ ◇



貴族用の豪華スクーナー船に乗り、ミューロン川を渡った。


ミューロンの町で容儀を整え、岩の森を訪問し、アレクサンドラと会談した。

会談場所は岩の森の南の外れにある、奇岩が円形に並んだ場所だった。


人間側の参列者は オーウェン、マキ、レイ、ユミ、私、ソフィーの6名。

騎士団長はダウンで不参加。


ラミア側はアレクサンドラ、ペネロペ以下、20名の精鋭が参列した。

岩の森のラミア達は、私が口を酸っぱくして言ったので、この日はブラを付けてくれていた。

ちょっとホッとした。



アレクサンドラは居並ぶラミア達の中でも二回りは大きい。

オーウェンはアレクサンドラの巨大さに圧倒されていた。

だが、ひとたび挨拶が始まると、人が変わった様に朗々たる美声でラミア族と人間族の友好関係の維持発展に尽力を尽くす旨を述べた。




ここで面白いことがわかった。


ヒックスの住民は近隣の森にラミア族が住んでいることを知っていたのに、ミューロンの住民は近隣の森にラミア族が住んでいることを知らなかった。

従って岩の森とミューロンの交流は、オーウェンが始祖と言うことになった。



オーウェンはミューロンの街に戻るとすぐに市長、冒険者ギルド長、商業ギルド長を呼び出し、岩の森にラミア族の聖地があること、友好関係を樹立したこと、交易を望んでいる情報を共有した。



「ラミア族との交易をどのように進めるか、ヒックスの商業ギルドと冒険者ギルドにノウハウがある。話を通してあるので聞きに行け」



そうオーウェンに言われたミューロンの商業ギルド長、冒険者ギルド長が川を渡った。


その後、岩の森とミューロンも交易を始めることになった。

岩の森にはヒカリオルキスのような交易の目玉となる商品が見つけられていない。

これから徐々に、ということだろう。


一方ラミア達は「これで人間の酒を飲める」と喜んだ。




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