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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
11 聖ソフィア公国編
122/269

122話 密談


「お主の情報によると、ミリトス教会は今も昔もたった一人の魔族に牛耳られていると言うことになる。 計画は早まるやもしれぬな」



オーウェンが何か不気味なことを言う。

計画とは何ですか。


ここでオーウェンからブリサニア王国の計画を聞く。



「昨年ヒックスで起きたこと(ミリトス教会の暗躍)、ハーフォードで起きたこと(やはりミリトス教会の暗躍)は、王宮は重大な問題と捉えている。

どうやら陛下はミリトス教会に対し、決定的な打撃を与えることを考えておられる。王の御意志を拝察したケイン国務大臣とコスワース騎士団長は、お主に諫められて一時断念されていた神聖ミリトス王国への武力侵攻を計画しておる」


「オーウェン様も同行されるので?」


「私は武はわからぬ。私は信仰面で側面からサポートすることしかできぬ」


「それはどのような?」


「戦争で生活を破壊された民衆を慰撫しつつ、ミリトス教からティアマト信仰へ転向を勧めるのだろう」


「・・・」


「そなたはどう思う?」


「申し上げ難う御座います」


「どういうことかな?」


「まず武力侵攻の具体的な計画を伺っておりませぬ故、判断できかねます。また、私に話して良いような内容でもございますまい」


「なあに。私もマキ子爵も文官だ。ここにおられる公爵も計画に与っていない。我々穏健派は戦事の会合には呼ばれぬ。

 私も計画の詳細は知らされていない故、秘密は共有されていない。内々で自由に議論しても良かろう。

で? どこが難しいと考える?」


「神聖ミリトス王国は広うございます」


「うむ」


「もし漠然と王都アノールを占領することを目指されるのであれば、止めた方がよろしいかと」


「何故かな」


「補給が続きませぬ」


「なぜ続かぬと思う?」


「サン=スキピオ王国がコスピアジェに降伏した戦いで、リュケア王国は援軍を計画したのです。しかしどうしても補給計画を立てられず断念しました。同じ事が起きるはずです」


「現地徴発すれば良いではないか?」


「それをされたら神聖ミリトス王国の民はブリサニア王国を目の敵にするでしょう。反ミリトス教会どころではありませぬ」


「むむ・・・」


「補給以外の問題として、アノールに隣接するメッサーでは魔物が暴れるでしょう。アンデッドも大量に発生するはずです。貴重な騎士団を消耗させるのはもったいないと思うのです」


「我々(穏健派)ならどうするべきと考える?」


「最終的な目標と、直近の目標を分けて考えましょう」


「・・・」


「最終的にミリトス教会を撲滅する。これは良いのです。ではミリトス教会を撲滅するにはどんな方法があるか? ここから地に足を付けて考えないと、何が何だかわからなくなります」


「・・・」


「いくら国名が神聖ミリトス王国だからといって、アノールを占領してもミリトス教会を撲滅したことになりませぬ。この2つは全くの別物です」


「・・・その通りだ」




それから無音空間を出して、6人で額を寄せ合って検討を始めた。



「アノール陥落時にミリトス教会総本山も壊滅しました。つまり総本山は既に潰れています。アノールを占領してこれ以上何が得られるとお考えなのでしょう?」


「政治的プロパガンダだな。次に神聖ミリトス王国を治めるのはブリサニア王国である、と内外にアピールするのだろう」


「それは結構ですが、民が信仰を変える行動には結び付きませぬ」


「ふむ。では神聖ミリトス王国の民をティアマト信仰へ改宗させる妙案はないか?」


「何とも返答のしようがございませぬ」


「どういう意味だ?」


「オーウェン様が手を砕いて改宗させるのは難しいと思うのです」


「ティアマト信仰への改宗は難しいか?」


「難しいと思います」


「ティアマト信仰は魅力が乏しいかな?」


「ではございませぬ。

神聖ミリトス王国におけるミリトス教の浸透状況は、全人口の50%です。つまり国民の半数は上手に導けば最初からティアマト信仰へ靡いてくれるでしょう」


「うむ」


「現在ミリトス教を信仰している残りの半数が難しいでしょう」


「なぜだ?」


「信仰心の厚い者、そして特に信仰年数が長いものは難しいと考えます」


「女神アスピレンナは、実は魔女アスタロッテだった、と説明してもか?」


「はい。むしろ我々が説明したら聞く耳を持ちますまい。そして、誰が教え諭しても難しいでしょう」


「なぜそう思う?」



ここから先の説明は難しい。

元の世界にもあった。

とっくの昔に役目を終えたはずの『○○主義』。

しかし用語を変え、看板を変え、『○○主義』を信奉し続ける人は一定数いた。

「何故?」と訊いてもまともな答えは返ってこなかった。

むしろ憎しみを込めた目で睨まれた。

そのとき、何となくわかったような気がした。



「私が考える、大変に情けない、どうしようもない理由をお話ししますが、許して頂けますか?」


「何を言っている。そなたの意見を聞きたいのだ」


「では述べます。

己の一生を掛けて信じてきた “教え” が否定されるのです。これまでの己の人生が全否定されるのです。

それを受け入れられる人間がどれだけいますでしょうか?」


「・・・」


「理性では己の信仰は間違っていたと理解するでしょう。しかし感情では受け入れられますまい」


「・・・」


「むしろ頑なに信仰を持ち続けようとするでしょう。それどころか布教活動に精を出し始めるでしょう」


「己の信仰が間違っていたとわかってもか?」


「はい。 むしろ世間に対して逆恨みすらするでしょう」


「逆恨み?」


「はい。 過ちを知らなければ、心穏やかな一生を過ごせたのに、と。過ちを知らされたばかりに自分の人生は目茶目茶になってしまった、と」




オーウェンはしばらく考えていた。



「どんな手があると思う」


「即効性を望まれるなら、信者を一人残らず殺すしかありますまい」


「それは出来ぬ」


「私もそう思います」


「ではどんな・・・」


「王の望まれる『ミリトス教会に決定的な打撃を与える』のは、急には出来ませぬ。急に行うと反発を招きます。ゆっくりと勢力を削り、少しずつ潰していくしかありますまい」


「どんな方法がある?」


「大まかに言いますと、

まずミリトス教会を弱体化させる。信者を減らす。

次に時期を見計らって、それでも残った教徒を潰していく。

の2段階です」


「弱体化させると簡単に言うが、具体的な方法はあるのか?」


「宗教戦争です」


「何?」


「宗教戦争、つまり宗教同士で争わせるのです」


「そちの言う意味がわからぬ・・・」


「軍が強権を発動して常駐して改宗を押しつけますと、国家対民衆の図式となります。これは大変に厄介なことになりますし、おそらくミリトス教徒は地下に潜って信仰を持ち続けるでしょう。そして民衆は隠れミリトス教徒を “外国の侵略に抵抗する義賊” として奉るでしょう」


「ふむ」


「そこで国家は手出しをせず、別の宗教にミリトス教会を叩かせるのです」


「なに?」


「もしティアマト信仰が非常にアクティブな活動をされているなら、ティアマト信仰の信者にミリトス教会の威信を落としめさせるのです」


「ティアマト信仰は穏やかな信仰だが・・・」


「では、名称は何でも良いのですが、例えば『真・ミリトス教』とか『ネオ・ミリトス教』なるものを立ち上げて、彼らにさせるのです」


「教義はどうするのだ」


「聖ソフィア公国にスキピオ教という土着宗教がございます。教義は西大陸における火の山(スキピオ山)の神格化です。実はこれはミリトス教の前身の宗教です。そのまま丸パクリでよろしいかと」


「・・・」


「ミリトス教会の犯した数多の犯罪行為を深く反省し、『信仰の原点に立ち返る』とでも言えば、納得する者はかなりいるでしょう。そして彼らにミリトス教会を糾弾させるのです」


「・・・」


「ミリトス教会は悪事に事欠きません。元々の神の教えから逸脱した堕落した教義とか、効かない治癒魔法で膨大な謝礼を要求して患者が奴隷落ちした事例とか、各国に魔物退治を煽っておきながら自ら手を砕いて魔物退治をしたことなど無いとか、そもそもミリトス教会総本山が魔族に乗っ取られていたとか、壮麗な大聖堂を建築するために信者に過度の献金を迫っていたとか・・・」


「・・・」


「これらはいずれも事実です。事実ほど広めやすいものはありませぬ。糾弾の最中に “つい” 力が入ってしまうこともありましょう。それを見て見ぬ振り・・・ というか、裏で支えてやれば良いのです」


「・・・」


「我々が直接手を下す必要はありません。むしろ民衆が自ら立ち上がり、既存のミリトス教会にNOを叩き付ける、といった図式がよろしいかと」


「・・・」


「また、教団というものは実に身を隠すのが上手です。当局がどれほど摘発しても見落とされる隠れ信徒やアジトは一定数発生します。今回のヒックスやハーフォードの顛末をみれば明らかでございましょう」


「・・・」


「我々ではどうしても目が行き届かない部分があるのです」


「・・・」


「蛇の道は蛇と申します」


「なんだ、それは?」


「我々では気付かない隠れ神殿も、隠れ信徒も、他の宗教家が見れば一目瞭然、と言うことがあるのです」


「・・・」


「宗教の詮索は宗教に任せるのがよろしい。微に入り細を穿って隠れ信徒を炙り出してくれるでしょう。何よりも我々の手を汚さなくて済む、というのが大きい」


「・・・」


「こうしてミリトス教会の勢力を削っていき、頃合いは良しと判断されたとき、残る信徒を一斉検挙すればよろしいかと」


「お主の提案がその通りいくのかどうか、私にはわからぬ。 だが・・・」



オーウェンは考え込んでいた。


ひとまずオーウェンとマキに任せることにした。




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