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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
11 聖ソフィア公国編
121/271

121話 共有


ロクサーヌの肖像画を貰い、老人宅をお暇した。

肖像画は借りると言ったのだが、返す必要は無いと言われた。



「こんな使われ方をするなら、この絵を描いた絵師も本望じゃろ」



最後までお互いの名前を聞かずに別れた。



「もしなにかあれば『名前は知らぬ、顔も忘れた』で押し通せるからな」



そう言われた。


サン=フーリエの冒険者ギルドに顔を出した。

暇そうな冒険者達がたむろしていたが、今度は絡まれなかった。


ギルド長に面会を申し入れた。

すぐに会ってくれた。



「で、どうだった?」


「会って頂けました」


「そうか。じいさん暇だったのだな」


「ええ。色々教えて頂きました。ありがとうございました」


「ロクサーヌについて調べて、これからどうする?」


「国に帰ってウォルフガングと相談してみます」


「ああ。それがいい。 帰りは気を付けろ。隘路で不審者を見かけたという情報がある」



もう一度ギルド長に礼を述べ、帰国の途についた。



◇ ◇ ◇ ◇



国境の難所に差し掛かっていた。

隘路に足を踏み入れたとき、不意に何かのビジョン(光景)が浮かんだ。


今のは何?


立ち止まってじっくり考えるには危険な場所だったので、一度戻ることにした。

聖ソフィア公国側に戻り、ひとまず危険地帯を抜け、どっかりと岩に座ったところ、肩にフクロウがとまった。

使い魔のアルだ。

重い・・・



さっきのは何だったのだろう。

しばらくアルと一緒にぼんやりとしていると、突然視界がぼやけた。

よく見るとぼやけたのでは無くて、ものが二重に見えていることに気付いた。

なにこれ・・・ 目がやられたのか?


いや・・・

二重に見えている景色が動いている。

誰かの後頭部が見える。


誰だこれ・・・・ 自分か!


そお~っとアルへ向き直ると、自分の顔が見えた。



「アル。これは君のビジョンか?」


「ホウ」 (そう)



なんとまあ。

私が努力するまでもなく、君の方から寄り添ってくれたのか。

凄いな、君は。


優しく肩を撫でながらアルを褒めていると、アルは空を見た。


ビジョンにパロ(オウムの使い魔)が映る。

遥か高空を飛んでいるパロが、まるで双眼鏡で見ているようにやたらと拡大されて精密に見えている。

見えすぎて頭が痛くなりそう。


そしてパロに意識を向けた途端だった。

不思議な光景が見えた。



鳥瞰図。



これはパロの視界を共有しているのだな。

パロの視界はまた何というか・・・

凄いな・・・

見えている範囲が極端に広い。

目が顔の両脇についているからだね。


やたらと視界が広いのに、ぼんやり見えているわけではない。

全てが精緻に見えている。

情報量が多すぎて慣れるのに時間が掛かりそうだ。




なになに?

ほうほう。

パロは広大な視野の中の一点に注意しろと伝えてくる。

そこに意識を向けると、急にその一点が詳細に見える様になる。


なるほど。崖っぷちに不審者がいるのね。

1、2、3・・・ 5人。

追い剥ぎ?

山賊?


あのまま進んでいくと、奴らの真ん中に突っ込んでいったのね。

ありがとう。

感謝。



しかしよくまああんな崖っぷちにねぇ。

少し脅かしてやろう。


そ~っと山賊の待ち伏せ地点に近づくと、スリングショットでヤツデの小箱を飛ばし、もうもうと白煙をまき散らすと同時に火を付けて差し上げた。


ボンッ!!


やや控えめな爆発音が聞こえると、山賊の潜む場所あたりに炎の塊が出現した。

叫び声を上げながら、バラバラと海へ落ちていく山賊達。

南無。



◇ ◇ ◇ ◇



イルアンに戻った。


ウォルフガングとソフィーとルーシーに情報共有。

ロクサーヌ=アスピレンナの肖像画を見ながら、さてどうすんべ、と皆で思案。



「アイシャ様やアレクサンドラ様やバフォメット様やアルマ様は既に知っているという事だからなぁ」


「アルマ様はお前に調べておけと言ったんだろう?」


「そりゃきっと『これ以上馬鹿みたいにアスタロッテに乗せられるな』と人間の国に注意しろ、いうことだろうな」



結局公爵と共有して、広め方を相談することにした。



◇ ◇ ◇ ◇



ハーフォードの公爵の邸宅の一室。

公爵とマグダレーナ様と私とソフィーで額を寄せ合って呻吟中。


ちなみにエマはパトリシア始め精鋭達に任せている。



「お主の持ち込む情報はいつも予想の遥か斜め上を行くな」


「申し訳ありませぬ」


「それでも誰よりも早く一級の情報を入手する公爵の評判は、王都でかなり上がっておりますのよ。感謝致しますわ」


「マグダレーナの言う通りだ。私はこの国では穏健派でな。どちらかというと評価されにくい立場なのだ。だが最近はそうでもない」


「公爵のお役に立てて何よりで御座います」


「しかし、この情報の扱いはちと考える」


「王都に女神アスピレンナの顔を知っている方はいらっしゃいますか?」


「オーウェン殿だろう。オーウェン殿以外は知らぬだろう」


「オーウェン様は穏健派ですか?」


「そうだ」


「閣下とオーウェン様は近しいご関係でしょうか?」


「そうだ。ハミルトン家とバリオス家は共に穏健派でな。もともと仲は良い。そしてマグダレーナの呪いを解いてくれた時より、更に関係を深めるよう心懸けておる」



◇ ◇ ◇ ◇



公爵の王都行きに同行することになった。


同行者はマグダレーナ様、ソフィー、私、護衛多数。

ソフィーと私はマグダレーナ様の護衛騎士の位置付け。



オーウェン筆頭宗教査問官を訪問。

オーウェンの爵位は侯爵(バリオス家)だった。


オーウェン侯爵、マキ子爵と面会した。


どもども。

どもども。

ご壮健そうで。

いやいやそちらこそ。



公爵は、説明は私に任せると言った。



「閣下がお主に説明させるということは、今日の話題は武寄りなのかな?」


「ミリトス教会絡みでございます」


「ほうっ!」


「我が国においてミリトス教は禁教であることを知っていて尋ねるのですが、閣下のお手元にミリトス教の経典や解説書、手引き書、口伝などは残っておりますか?」


「ミリトス教が禁教になるまでにはそれなりに手順を踏み、時間が掛かった。その間にミリトス教の教義を解明しようとミリトス教の経典・口伝・解説書などを集めた。それが残っている」


「ご自身でお調べになったことは?」


「宗教査問官ならば一通り勉強する。まず敵を知らねばならぬからな」


「そこに女神アスピレンナが起こしたとされる奇跡について記載はありますか?」


「いや、ないな」


「聖女ロクサーヌが起こしたとされる奇跡について記載はありましたか?」


「いや、ない。 まて。お主、なぜロクサーヌの名を知っている?」


「後で説明致します。もう一つだけ。ミリトス教と治癒魔法に関する記載はありましたか?」


「いや、ない」



やはりな。



「では皆様にこれを見て頂きたいのです」


「ふむ、アスピレンナの肖像画か」


「ではないのです」


「・・・誰だ?」


「200年前。サン=スキピオ王国が崩壊する原因となった、ミリトス教会の聖女と謳われたロクサーヌという者の肖像画です」


「なんだと・・・」



それからオーウェンとマキと公爵が同時に口を開いたので、何が何だかわからなくなった。

公爵が笑いながら 「一度に一人ずつ」 といって 「では子爵から」 とマキに振ってくれた。



「間違いないわ、これは女神アスピレンナよ。

ビトー君はすぐにアノールの王宮から追放されたからあまりアスピレンナを見ていないでしょうけど、私たちは見る機会が多かったから憶えている。この顔の輪郭と耳の形は間違いないわ」



続いてオーウェン。



「アスピレンナの肖像画は踏み絵用のものを何枚も所持している。この絵と同一人物と言い切れる。 ビトー男爵。この絵の入手過程の説明を」



私は、ミリトス教の成り立ちを知りたければ、サン=スキピオ王国が崩壊した経緯を調べよ、とアドバイスをされたことを話した。


聖ソフィア公国へ赴いて調べたところ、元々ミリトス教は火の山を御神体として祀る素朴な土着宗教だった。


200年前に聖女ロクサーヌという者が現れて圧倒的な奇跡を見せ、ミリトス教会を掌中に収めた。

だが、その “圧倒的な” の内容が、聖ソフィア公国に残されたミリトス教のどの経典にも、口伝にも残っていない。

サン=スキビオ王国の公文書にも口伝にも一切記載されていない。


不思議なことに、記録上、ロクサーヌは何もしていない事になっている。

「奇跡だ、奇跡だ」 と騒いだ連中が書いた伝書の中にも無い。


なぜロクサーヌがコスピアジェ討伐を言い出したのか、理由がわからない。


サン=スキピオ王国がコスピアジェ一人に敗北し、国が崩壊したのは周知の事実だが、ロクサーヌは雲隠れして追求を逃れている。


そして聖ソフィア公国で古文書、伝書を調べるうちに、この肖像画が出て来た。



私が話し終わるのを待ちきれないようにオーウェンが口を開いた。



「ロクサーヌは200年前の人間だ。それが何故アスピレンナとそっくりなのだ?」


「そこがこの謎の核心です」


「アスピレンナ=ロクサーヌの正体は何だ? そちは知っているのではないか?」


「このような問題は当て勘でお答えしてはなりませぬ。証拠を揃えないと」


「うむ。だが、見当が付いているのと全く知らぬのでは、対応は180度異なる。知らぬままでは今後の我らの行動に支障が出る。思わぬところで足をすくわれることもありうる」



オーウェンはそう言ってじっと私を見る。


目をそらす。

じっと見る。


暖炉に火が燃えているのを確認し、私は紙片にさらさらと文字を書き付けた。

そして皆に顔を寄せるように合図した。



オーウェンが目を見開いて固まった。


公爵とマグダレーナ様には事前に話していたが、それでも一目見て目をそらした。


マキはわからないようだった。


私は紙片を暖炉の火にべ、完全に焼けて灰がバラバラになるのを確認した。




しばらくしてオーウェンが口を開いた。



「お主、それをどこで気付いた」


「言えませぬ」


「・・・」


「そもそも酔っ払いの戯言かも知れぬのです。しかし酩酊状態で天啓を得た可能性もあります」


「・・・」


「しかし・・・ 言われてみれば・・・ と思うところもあるのです」


「どんなところだ」


「何もしていないのに、人々が勝手に『奇跡が起きた』と信じるところ。

何も見ていないのに、人々が『何かを見た』と錯覚するところ。

これは大規模な催眠術でしょうか。

それを可能とするのは魔眼でしょうか。

そして200歳を超える寿命と容姿が変わらない理由」


「ううむ」


「それにまだ謎があるのです」


「何だ?」


「なぜロクサーヌはサン=スキピオ王国をそそのかし、コスピアジェに仇成そうとしたのでしょう?」


「それは私が答えられるかも知れぬ」


「なんですと?!」


「あの頃はサン=スキピオ王国は魔族撲滅を目指しておってな、バフォメットを倒す術を研究していたことがわかっている」


「何でそんなことがわかるのです?」


「サン=スキピオ王国から我が国に調査団が来ている。我が国だけでは無い。各国に調査団を派遣している」


「・・・」 (先を促す)


「彼の国が魔王を倒すための方法を色々と調べていたことは間違いない。そしてコスピアジェに共同研究を持ちかけ、断られ、逆恨みしたらしい。

調査団が漏らしていたのを聞いた者がおり、記録が残っておった」




逆恨みねぇ。

どうやらロクサーヌ=アスタロッテの感情や行動は、人間に近いようだ。




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