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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
11 聖ソフィア公国編
120/270

120話 温泉


話し込んでいる内に夜になっていた。


今夜は泊まっていけと言われ、好意に甘えることにした。


夕食時。

背負い袋から新たに【レントの誉れ】を出して栓を抜いた。

毒味をして、老人に勧めた。



「さすがはブリサニア王国の酒じゃ。この国ではこれほどの酒は造れん」


「匠はいないのですか?」


「いないことは無い。じゃが収穫を酒に回せるほどの豊作の年は少なくてな」



それから飢饉談義と貧乏談義に花が咲いた。


なんでも『やたらと鮮やかな朝焼けが続くと飢饉になる』という言い伝えがある。

老人の生きてこられた70余年の間に1度だけ鮮やかな朝焼けが続いた年があり、やはり酷い飢饉になったという。



「そなた。意外と貧しい生活に詳しいのだな。見直したぞ」



いやあ。私なんてまだまだヒヨッコですよ。



◇ ◇ ◇ ◇



翌朝。


質素な朝食を御馳走になりながら、この国が病に強い国であることを思い出した。



「ご老人。この国は病に強いという評判を聞いてきたのですが、何か心当たりはありませんか?」


「病か・・・」



老人はしばらく考えていた。


朝食が終わるころ、老人に小旅行に誘われた。



「わしもこれが答えかどうかはわからぬ。あんたの目で判断してもらおう」




老人は私をスキピオ山に連れていった。

整備された登山道があるわけでも無く、結構キツイ山登りだった。

ソフィーに鍛えられていなければ不安を覚えただろう。


私がすいすいついてくるのを見て、老人は驚いた様子だった。



「お主、何か鍛えているのか?」


「これでも冒険者ですから」


「冒険者と言っても色々あるのじゃろう?」


「ええ。 剣士、槍士、魔術師とかありますね。私は斥候です」


「斥候は身軽な職種なのか?」


「そうですね。一番身軽ですね」


「この国の冒険者共はこの程度の山道もなかなか登れないのじゃ」


「ご老人はスイスイ登りますね」


「儂は慣れておる」




老人はさらに山を登った。


そして湖のほとりに出た。


木は全く生えていない。

剥き出しの岩肌。

そこいら中に転がっている岩石。

荒涼として荒々しい風景。

その中で妙な迫力と色彩を放つ乳白色の湖。


蔵王や白根を思い出した。



老人は湖の畔に向かって歩いて行く。

老人の向かう方を見ると、粗末な小屋が掛かっているのが見えた。


小屋は温泉と簡易宿泊設備だった。


ボロボロの扉を開けて中に入る。

湯は白濁した硫黄泉(と思う)。

泉質や効能が書かれた看板は無いが、いかにも効きそうな色と匂いがしている。


食料・水を持参して、ここに逗留して湯治をしている者が4人見られた。




「こんな湯治場は他にもあるのですか?」


「ある。スキピオ山の山麓から沸き出す湯は多い」



聖ソフィア公国が病に強い国というのは、きっと温泉のお陰なのだろう。


我々ものんびりと湯に浸かった。

湯に浸かりながら老人と話した。



「あんたは肖像画をどうするつもりだ」


「ロクサーヌとアスピレンナは同一人物だと、徐々に人々に浸透させていきたいと思います」


「なにか意味があるのか?」


「きっとあると思います」


「どんな?」


「ロクサーヌは200年前の人です。アスピレンナは今の人です。つまりアスピレンナは人間じゃないということです」


「女神か?」


「女神ではないでしょう。女神だったら200年前に取り巻き連中がそう宣伝しているはずです」


「だったら何だ?」


「わかりません。寿命200年を超える人型の魔物といえば、どんなのがいるでしょうね・・・」


「女神アスピレンナはロクサーヌだと世間に知らしめて、その後どうする気じゃ」


「ミリトス教会の権威を下げようと思います」


「何とな?」


「ロクサーヌ=アスピレンナは邪神である。そしてミリトス教を使って人々を破滅の道へ誘う。それを公表して、大陸全土でロクサーヌ=アスピレンナとミリトス教が衰えるように仕向けたいと考えます」


「反ミリトス教キャンペーンをするのか?」


「さて、どうでしょう」


「200年前にロクサーヌが消えた後じゃ。サン=スキピオ王国全土で反ミリトス教キャンペーンが沸き起こった」


「どうなりました?」


「教会は一丸となって対抗した。ロクサーヌに操られたことを認め、国民に謝罪して、元の教義に戻ることを誓った。そしてロクサーヌを異端と認定したのじゃ」


「すぐに国民に受け入れられましたか?」


「いや。10年掛かった」


「10年間暗闘があったのですね」


「・・・そうじゃ」


「よく国民に受け入れられましたね」


「そうじゃ。その辺の人の心の機微というものは一筋縄ではいかん」


「そうですね」


「お主は10年を無駄にする気はあるのか?」


「いいえ」


「ではどうする気じゃ?」


「専門家に任せるつもりです」


「宗教戦争の専門組織があるのか?」


「いいえ。ありません」


「お主の言うことがわからぬ」



にっこり微笑んで煙に巻いた。



◇ ◇ ◇ ◇



下山途中。


老人の案内で登山道から横に逸れ、獣道のような道を辿った。


やがて入口を木の枝で隠された洞窟に案内された。

ロクサーヌに乗っ取られる前の「原始ミリトス教」時代の聖地だという。


原始ミリトス教は当時のロクサーヌ一派に目茶苦茶にされたが、この洞窟には隠し部屋があり、そこに古の経典が隠されているという。


そんな古文書を見せて貰った。

スキピオ山をただひたすら敬うことが鎮護国家に繋がる、という教義だった。


スキピオ山の噴火による災厄から我が身を守るために生まれた宗教、という老人の説は正しいようだ。


山頂のカルデラ湖が御神体で、そこにミリトス神がおられるらしい。

あの火口から二度と災厄を振りまかないように、どうか神様お鎮まり下さい、という素朴な宗教だった。


その中に古いロクサーヌの肖像画があった。

最初に老人に見せて貰った肖像画はかなり美化して描かれているが、こちらは素の肖像画だ。


間違いない。女神アスピレンナだ。



◇ ◇ ◇ ◇



もう一つの疑問を老人に聞いてみた。



「ご老人。何故ロクサーヌはコスピアジェに因縁を付けたのでしょう?」



老人はしばらく昔を思い起こそうとしているようだった。



「しかとはわからぬ・・・ 古文書にもそれらしい記述は無い」


「そうですか」


「これは口伝じゃが、もともとロクサーヌとコスピアジェはいがみ合っていた訳では無い」


「・・・」


「じゃが、どこかのタイミングで不倶戴天の敵に変わった。理由は伝わっていない」



面白い。


もし次にコスピアジェに会うことがあったら聞いてみよう。




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