012話 (閑話)勇者たち1
財前蒼太は苛ついていた。
元の世界では親の権力のおかげで何をやっても許された。
金は元々ある。カツアゲなんてする必要は無い。むしろ金で仲間を作った。
女には気をつけろと言われたが、基本やりたい放題だ。
いい女は逃がさない。聞き分けの無い女を従順にさせる方法なんていくらでもある。
女の親が騒いでもすべて俺の親がもみ消す。
いちど女の旦那が出てきたときはびっくりした。
若作りが過ぎる。詐欺だ。
未成年淫行罪をチラつかせて逆に毟り取ってやったが。
女の親なんてチョロいもんだ。
親同士が話し合えばすべて “合意の上” だ。
最初から娘を差し出せば不愉快な思いなどしないのに。
馬鹿だ。
だがネットが曲者だった。
監視カメラの映像など、親の権力でいくらでも削除できる。
だが全く関係ない “通りすがり” や “名無し” が、俺たちが楽しんでいるところを盗撮してネットに上げやがった。
気付いたときには炎上していた。
そしてお節介な奴が人物特定しやがった。
暗黙の了解で日本のマスコミは見て見ぬふりをした。
だが外国のマスコミが報道しやがった。
野党が大騒ぎしやがり、日本のマスコミも取り上げざるを得なくなった。
警察が動けば親に連絡が来る。
だが警察は動いていない。俺は無実だ。
俺は少年法で守られているんだ。
野党の馬鹿どもは法律を何だと思っている。けしからん。
ほとぼりが冷めるまで海外留学しようとしたが、先進国はすべて入国を拒否しやがった。
俺を犯罪者扱いするとはふざけやがって。
仕方なく2部の学校に転校してほとぼりを冷ますことにした。
ところが異世界へとばされちまった。
まあほとぼりを冷ますにはちょうど良い。
俺もデカい人間になるために、ここらで経験を積むことも重要だ。
こっちで1年もドサ回りをして元の世界に戻れば俺もビッグになる。
だが異世界は全然融通が利かない。
スマホが使えない、充電できないって、原始時代かよ。
原始人が偉そうにしやがって。
使えない奴ばかりだ。
タイパが悪いんだよ。タイパが。
クソが。
◇ ◇ ◇ ◇
王宮では召還された勇者達(美島を除く)のレベルアップが始まった。
知らなければならないこと、身につけなければならないことが山ほどある。
魔王・魔族・魔物の知識。
ノースランビア大陸の地理。
各国(ローラン王国、聖ソフィア公国、リュケア公国、ブリサニア王国、神聖ミリトス王国)の情勢。
軍隊(騎士団)について。
適性のある魔法の勉強とレベルアップ。
適性のある武器の勉強とレベルアップ。
武器・防具・魔道具の扱い方。
王族・貴族に対する作法。
そして心肺能力の向上。
王宮関係者が何よりも驚き、そしてがっかりしたのが、召還された勇者達のひ弱さ、不器用さ、そして頭の悪さだった。
この者たちをどうするか、王宮では連日討論が行われていた。
さらにこの討論に拍車を掛けたのが、特定のメンバーの前科だった。
「この連中は本当に『勇者』でしょうか?」
「大臣よ。それはもう言わぬ約束じゃ」
「申し訳ありません。 ただ・・・ 私は悔しくて」
「ここにいる者はみな同じ気持ちじゃ。堪えてくれい」
「ははっ」
「鍛えればモノになりそうなのは何人だ」
「3名です ・・・訂正します。 “死んだ” 美島を除いて3名です」
「それだけか」
「はい。モノになるかどうか怪しい者が6名。見込み無しが5名です」
「見込み無しとはどういうことか」
「詳細鑑定で前科があることがわかっています」
「前科持ちとは・・・」
「確か前科持ちは・・・」
「はい。LUKがありません」
「うむ」
「LUKが無いとレベルアップが望めません」
「なぜそのようなものが召還されるのだ・・・」
(しばし沈黙が流れた)
「前科といっても色々ありますでしょう。情状酌量の余地は無いのですか?」
「ありません。酌量の余地は皆無です」
「大臣がそこまで言い切るとは・・・ いったいどのような罪を犯したのだ」
「『強姦』および『恐喝』です」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「確かその5名には・・・」
「はい。メンバーは財前蒼太、鯨井尚子、浅見エリカ、金田剛、朝倉エマの5名です。女が3名入っています」
「女3名、どんな役割だったのだ? いや、これは興味本位の発言じゃった」
「かまいません。女は同性であるということで被害女性を安心させ、薬物を飲ませて意識を失わせる役目でした」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・それで?」
「ええ。この場で申し上げるには相応しくない犯罪を重ねていました」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「犯罪によって得た利益は、鯨井尚子、浅見エリカ、朝倉エマに流れていました」
「・・・」
「・・・」
「・・・鬼畜の所業じゃの」
「殺してやるのが功徳というものでしょう」
「騎士団長から、わが国においても同様の犯罪に手を染める可能性が極めて高いと報告が上がっております」
「確かにあの者どもが女官を見る目付きは・・・」
「わが国でそのようなマネをさせるわけにはいきません。すぐに処置を」
「うむ。策はあるか」
「幸い、といってよいものかどうか・・・ 奴らはやたらとダンジョンに潜りたがると聞いております」
「ほほう。それは重畳」
「それなら我らの経歴にも傷は付きませんな」
「ワシは賛成に1票を投じる」
「ワシもだ」
「私も賛同致します」
◇ ◇ ◇ ◇
勇者に対する礼儀作法の講義。
出席しているのは 日下大、久米倫太郎、道端レイコ、山前仁、山崎香奈子、村上凛、香取麗華、田宮マキ、及川由美子の9名。
財前蒼太、鯨井尚子、浅見エリカ、金田剛、朝倉エマの5名は出席していない。
この世界では15歳から酒を飲める。
サボリ組は朝から王宮の下士官食堂で酒を飲んで騒いでいる。
望むままに酒を提供する側もいかがかとは思うが・・・
「異世界まで来て座学なんてたりー、バッカじゃん」
「座学やめてスマホ使えるようにしろよー そしたら見てやっからよー」
「早くダンジョン行きてー 魔物ぶっ殺しまくって宝箱ざっくざくだぜ」
「なにそれー 宝箱いいー」
「宝箱つったらエ○ス○シー出んじゃね? マウスに栓してヘイトにきめるぜw」
「ひょー 出たらあの金髪きめられっかなー」
「あんたホントに金髪好きね」
「あのでっけえケツサイコー」
「なにそれー」
「それよりーー この世界、ネイル屋ないんだけどーーー」
「あー あたしー そろそろ髪染めてーー いー店なーいー?」
「ダンジョンの中、スマホ使えるんじゃない?」
「いーなーそれ。早くいこー」
監視者が鑑定水晶を使って詳細鑑定を続けている。
◇ ◇ ◇ ◇
勇者たちを驚かせ、ウンザリさせ、そして従順にさせたのは宗教の講義だった。
講師はフリット大司教を筆頭に、フース司教、ハンス司祭以下ミリトス教総本山の精鋭講師陣。
これは財前達もサボることは許されなかった。
最初の講義をフケていたところを捕まり、教室へ連れ戻されそうになったところで暴れだした。
講師陣から見れば、有り難い神の教えを拒んで不遜な態度を取るのは悪魔に魅入られている何よりの証拠。調伏しなければならない。
財前グループ5人を腕利き講師陣20名で取り囲み、悪魔退散の呪が刻まれた堅い木の棒を構え、声高に悪魔調伏の呪文を唱えながら包囲を狭めていく。
「てめえらキモイんだよ」
「ガタガタうるせえよ、辛気くせえこと言ってんじゃねぇよ、ボケ」
「だっせー、なにそれー」
「わたし知んな~い」
抵抗すればするほど悪魔に魅入られた証拠が積み上がっていく。
フリット大司教の合図で、講師陣は一斉に財前グループに襲いかかり、悪魔退散棒で財前グループを一人残らず叩きのめし、5人全員の手足を縛り上げ、フリット大司教の前に引き摺りだした。
一人一人姓名を読み上げ、神の教えに対する冒涜の証拠を一つ一つ列挙し、念入りに調伏していった。
大男の調伏役の講師が、調伏の呪文を唱えながらグローブのような手で平手打ちをしていった。
悪魔が退散したと確信できるまで、何度も何度も平手打ちを繰り返した。
女子は泣き叫んでも許されなかった。
大量の鼻血が出て、歯が折れて、顔が変形しても許されなかった。
財前に至っては鼓膜が破れ、大小漏らし、嘔吐もしたが許されなかった。
財前グループは全員顔がまん丸に腫れ上がり、誰が誰だが見分けが付かなくなった。
以降、宗教の講師にだけは卑屈に接するようになった。