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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
11 聖ソフィア公国編
118/270

118話 聖ソフィア公国


国境の回廊を抜けて聖ソフィア公国に入った。


聖ソフィア公国側にも小さな町があり、入国管理をしてくれる。


冒険者向けの安宿に投宿し、使い魔達にご飯を食べさせる。


夜は、使い魔達は宿の屋根でお休み。




私は宿の一室で聖ソフィア公国のおさらい。


聖ソフィア公国は元の国名をサン=スキピオ王国という。

サン=スキピオ王国は、国の象徴であるスキピオ山の麓で興った。


スキピオ山はノースランビア大陸の西大陸の中央にある巨大な休火山で、頂上にカルデラ湖がある。

風光明媚らしい。


国力はノースランビア大陸の5王国中、最下位。

これは国土が最も狭く、その国土も山地が半分ほど占めているためである。


国のシンボルはスキピオ山。

付近に温泉がいっぱいある。火山地帯だ。


そして200年前にコスピアジェ(アラクネ)に因縁を付けた件以来、ダントツの弱小国に落ちた。


今はかつての王族の末裔が細々と国を運営している。



200年前の事件の再確認。


聖ソフィア公国の前身のサン=スキビオ王国が、偶然コスピアジェの巣を見つけ、討伐に動いた。

しかし討伐に向かった1個連隊(1000人)は全滅した。


コスピアジェが王都へ侵攻し、王都守備隊(1000人)と近衛兵(100人)が城に立てこもった。


コスピアジェは、王都の住民を城内に追い込み、城の大門を全て封印して飢餓を誘った。


3ヶ月に渡る籠城戦の間、近衛兵・王都守備隊による反撃は全て失敗した。


コスピアジェは王族の自決を迫り、住民の蜂起を促した。


コスピアジェは王の6親等までの死と引き換えに王都を解放した。


王都が解放された後、サン=スキビオ王国は壊滅し、聖ソフィア公国として再スタートを切るまで10年を要した。


この間、他国はコスピアジェとことを構えることを避け、サン=スキビオ王国へ侵攻することは無かった。



◇ ◇ ◇ ◇



サン=フーリエ。

聖ソフィア公国の首都。

その規模はハーフォード領の領都くらい。



サン=フーリエの冒険者ギルドへ行く。

小さな国。ダンジョンも無い。

当然ギルドは小さい。


朝のクエスト受注ラッシュ時間帯を避けていったはずなのだが、その割には冒険者が残っている。

仕事が無いのだろうか。


一斉にこっちを見る。


早速絡まれる。



「おう、兄ちゃん。この辺で見ない顔だな」


「俺たちに挨拶もなしかい」


「おじさんに一杯奢っちゃくれねえかい」


「うははは」



この感じ。

なんだか懐かしい感じ。

だが外国なので難しいやりとりは省略。



「済みません。ちょいと急いでおりまして。 ガルシア殿は在席かな?」



最後の呼び掛けは受付嬢に向けて、ちょいと大きい声でした。

受付嬢は黙って後ろに引っ込んだ。

冒険者達は黙り込んだ。



後ろから大男がのっそりと出て来た。


サン=フーリエの冒険者ギルド長・ガルシア。

やはり2m超の偉丈夫。

年齢不詳。頭髪は1本も無い。

顔面の古傷が凄みを出している。



黙ってウォルフガングの手紙を渡す。

私の顔をじろりと見てから手紙に目を通すガルシア。

黙って “ついてこい” と合図をして後ろに引っ込むガルシア。



「すみませんね」



冒険者達にそういって、ガルシアの後に付いて奥へ入っていった。



◇ ◇ ◇ ◇



「まあ、すわれ」



そう声を掛けて、自分はギルド長用のデカイ椅子にどっかりと座るガルシア。



「それで、ウォルフガングは息災か?」


「ええ、極めて快調ですよ。昔の勘を取り戻しつつあります」


「例の件からどうやって逃れたんだ?」



スタンピードの話になると他人に聞かれたくない。


ちょいちょいとガルシアを呼び寄せ、頭を突き合わせるようにして、無音空間を出した。



「おまえ・・・」


「盗聴防止です。スタンピードの話はあまり他人に聞かれたくないので」


「おお・・・ そうか」



それからウォルフガングはスタンピードに巻き込まれなかったこと、そのときは既にブリサニア王国に逃れていたことを話した。



「なぜメッサーの封印をしなかったのだ?」


「ウォルフガングは毒を受けていまして、生死の境を彷徨っていたのです」


「なんだと・・・ あのウォルフガングが毒だと・・・ 信じられん」


「レッドサーペントの不意打ちを受けまして。サーペントは殺したのですが、牙が掠めたらしいです」


「ウォルフガングはメッサーのギルド長だろう? ギルド長がなぜレッドサーペントが棲息しているような場所に行く?」


「襲撃を受けた場所はアノールからメッサーへ戻る帰り道です」


「そんなところにレッドサーペントがいるわけが無かろう!」


「それがいたんです。ミリトス教会が飼っている暗殺専門のレッドサーペントが」



ちょいと長い沈黙があった。



「・・・ウォルフガングはミリトス教会と事を構えたのか」


「ミリトス教会側が勝手に逆恨みしただけですよ」


「それでどうなったのだ?」


「ウォルフガングは私が救い出してブリサニア王国へ逃がしました。その後ダンジョンを管理する者がいなくなってスタンピードが発生しました」


「ちょっと待て。ウォルフガング以外に誰も職員はいないのか?」


「いたのですが、ミリトス教会に殺されたり、襲われたりしました」


「・・・」


「ミリトス教会はダンジョンを封印する鍵や手順書も破壊して燃やしたらしいです。何もかもイヤになって、死にたくなってスタンピードを起こそうとしていたのかも知れませんね」


「奴らにどんなメリットがある?」


「さすがにわかりかねます。アノールにあったミリトス教会総本山も壊滅しましたからね。なにもかもイヤになってしまった説は、かなり有力だと思っているのです」


「王宮は何をやっていたんだ。王都のお膝元だろうが」


「あの国はミリトス教が国教ですからね。教会は好き放題やっていたと聞いています」


「・・・あの頃から全然進歩してねえじゃねえか・・・」


「実はその話を伺いたいのです」



ガルシアは目を閉じてしばらく黙っていた。



「この盗聴防止はしばらく使えるか?」


「はい。問題ありません」


「ではウォルフガングの頼みだ。一丁話してやる」



◇ ◇ ◇ ◇



(ガルシアの話)


サン=スキビオ王国とコスピアジェがやり合ったときの経緯を聞きたいのか。


どこから?

最初のきっかけからか。


当然俺は当事者じゃねえし、生まれてもいねえ。


だがその俺が腹に据えかねる。


いまだにこの国が最貧国から抜け出せない理由があの事件よ。


けしかけたのはミリトス教会だった。

ミリトス教会の聖女ロクサーヌに煽られたんだ。



「ロクサーヌって誰ですか?」



ミリトス教会に現れた聖女と言われている。


聖女って何なのか、何をしたら聖女と認められるのかはわからん。

とにかくその聖女が悪魔の化身を倒せと言い始めた。


最初はロクサーヌが何を言っているのかわからなかった。


悪魔の化身の絵を見せられた。

確かに禍々しい魔物の絵だった。

そこに描かれていた魔物がアラクネだった。

だが、アラクネはアラクネだ。悪魔じゃない。


ところがロクサーヌの言葉に賛同する者はあっという間に増えたらしい。


特に王宮内は悪魔退治一色だったという。


何故アラクネが悪魔の化身なのか? アラクネが国に対して何をした?


誰も気にしなかったらしい。

狂ってたんだ。


蓋を開けてみれば騎士団は全くアラクネに歯が立たなかった。


相手を見たときに鑑定したはずなのに、彼我の戦力差を把握したはずなのに、何の工夫も外交努力もしなかったらしい。


馬鹿丸出しで絶対強者に因縁を付けて叩き潰されたんだ。



「200年も前のお話しなのに、昨日のことのようにお話しをされるのですね」



当たり前だ!

そのせいでこの国は極貧国に落ちたんだ。


今でもノースランビア大陸のなかで、ダントツの最貧国だ。

いまだに作柄が悪い年は餓死者が出るんだ。


あれさえなければ助かっていた命はどれだけあったと思う?



あの魔物は、騎士団をけしかけた王家とロクサーヌだけが許せない、そう言ったんだ。

こいつらを差し出せ。そうすれば庶民には恨みはない、と。


その言葉を聞いたとき、当時の人々は憑き物が落ちたような気がしたらしい。

なんでアラクネを倒そうとしたのだろう?

アラクネは我々に何も災いを及ぼしていないだろうって気付いたらしい。



(なるほど。やはりコスピアジェは魔眼の持ち主だ。それも一度に大勢の者の意思を操れるほどの強烈な魔眼の持ち主なんだ)



王族連中は混乱の極みだったと聞く。


憑き物が落ちて正気に戻ったものの、今度は自分の命で不始末を贖えと言われたんだ。


責任があることはわかっちゃいるが、そもそも国民を踏みつけて生きているような連中だからな。

どうにか他人に責任を押しつけようと必死だったらしい。



「責任と言えば、一番責任があるのはロクサーヌですよね?」



ああ。


そうなんだが、ロクサーヌはとっくの昔にとんずらを決め込んでいたらしい。

以降、姿を見られることはなかった。

完全に雲隠れを決め込んだ。



「信者の家に匿われていたとか?」



いや、ミリトス教信者は一人残らず拘束して家捜ししたからな。

転ばなかった奴は全員火炙りだった。

隠れ続けることは不可能だ。



(そんな状況から逃れたと言うことは、ロクサーヌも強力な魔眼の持ち主なのだろう。つまりロクサーヌは・・・予想はしていたけど、直接対決ではどうにもならないな)




「ロクサーヌについて調べることは可能ですか?」



ガルシアはしばらくうなっていたが、紹介状を書いてくれた。



「これで会ってくれるかどうかはわからん。上手くやれ」



そう言って家の場所を教えてくれた。




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