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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
11 聖ソフィア公国編
117/270

117話 訪問準備


エマが新たに家族に加わってしばらく落ち着いた時間を過ごした。


ソフィーはエマの面倒を全て自分で見ようとしたが、サマンサ始め辣腕女性陣から諭され、赤子の世話は取り上げられている。



「貴族の妻女たるもの、御子に対する無限の愛情は注ぐも、世話は使用人にさせるものです」



仕方なくソフィーは体力の回復と体のキレ、魔術のキレに磨きを掛けている。


そして我が家の使用人にベビーシッター(兼乳母)が増えていた。



「マーラー商会の紹介で参りました。A級ベビーシッター、パトリシアでございます」



そうアンナから紹介された。

三十路の美しい女丈夫だった。

A級とは何か?

非常時に子供を守り切る特別の御手腕をお持ちとのことらしい。


貴族の子女や豪商の子女は政敵や裏社会の者に狙われやすく、特に赤子は自身に抵抗力が無いため、楽なターゲットだという。

従って、犯罪者から子供を守るためにベビーシッターを雇う。

彼女らは基本的に冒険者や騎士団員同様に個人的な武勇を持っており、様々な得物(暗器)を駆使し、賊を退け、拘束し、雇い主の名を吐かせる特殊技能職である。


どおりで冒険者のような匂いがしたわけだ。


冒険者と違うところは、追い詰められたとき、自身を盾にして子女を守り、敵を巻き込む自爆攻撃手段を隠し持っていること。

A級ベビーシッターともなるとその攻撃手段がえげつなく、たとえウォルフガングやソフィーであっても油断できないという。



パトリシアはエマに対して忠誠を誓う。

そのため、マーラー商会から離れる。

ウチでエマ名義の基金を作り、そこからパトリシアへお給金を支給することにした。

そういうものらしい。


ソフィーと相談の上、マーラー商会へ支払うパトリシアの紹介料は相場の3倍とした。



「どうぞご安心してお任せ下さいませ」



そう言ったパトリシアがソフィーをじっと見ていた。

色々と通じ合うところがあったらしい。


ことある毎に二人でボソボソ話している姿が見られた。



◇ ◇ ◇ ◇



アルマがひょっこり訪ねてきた。


かなりの騒ぎになった。



ウチは特に守衛がいる訳ではない。

用事がある人は誰でも入ってこられる。


アルマは村人の認識を誤魔化しながらイルアンの町中を歩き、誰にも不審に思われず、普通に入ってきた。

そこまでは良かった。



ウォルフガングが気配に気づき、緊急警報を発した。



「S級アラート! 全館緊急体制!」

「ウォルフガングとジークフリードとクロエは玄関ホール!」

「それ以外はエマの元へ集まれ!」



どんな魔法を使っているのが不明だが、ウォルフガングの緊急放送が全館に鳴り響いた。

自分の事を “ウォルフガング” と言っていることから緊急度合いがわかる。



即座にエマの周囲にマリアン(ハウスキーパー)、パトリシア(ベビーシッター)、サマンサ(産婆)がフル装備で集合した。

パトリシアは冒険者の神官のような装備だった。


マルティナ(シェフ)は火の始末ののち、エマの部屋に合流した。


ミカエラ、メリンダ(メイド達)はエマの部屋の前の廊下に陣取った。


新参のルーシーは訳がわからないままエマの部屋に駆け付けた。


ソフィーとマロンと私はエマの部屋へ行く前に正体に気づいたので、玄関ホールへ向かった。



ウォルフガングとジークフリードとクロエは気配の主へ突進した。

だが相手を見極めた途端、迂闊に動けなくなった。



「ホールに入る前にソードオブヘスティアを鞘から抜いていたんだ。それで助かった」



後からそう述懐された。



「奴の目の前で剣を抜いたら敵対確定だからな」



一呼吸遅れてホールに入ったジークフリードとクロエに「まだ剣を抜くな」と指示しながらアルマと睨み合った。



「随分物騒なものをお持ちなのですね」


「あんたに対してはこれでも足りないがな」


「・・・」



睨み合っているところに私とソフィーとマロンが駆け付けた。

アルマからはホッとした感じを受けたが、ウォルフガングは焦った。



「こっちへ来るな!」


「大丈夫です。 お久しぶりです。アルマ様」


「あら。もう私とおわかりですか?」


「はい。すぐに」


「光栄ですわ」


「ウォルフガング、剣を収めて下さい。アルマ様、殺気を抑えて下さい。指で印を結ぶのも無し」


「あら」



アルマはにっこりと微笑んだ。


アルマは前回見たときと違う姿をしている。

なんとも捉えどころの無いお方だ。



執務室へ通した。


お茶と茶菓子を出しながら、



「田舎故、このようなものしか御座いませんが、お寛ぎ下さい」



と勧めた。



「アルマ様が突然下界にいらっしゃるとは訝しゅう御座います。何か御座いましたか?」



目を輝かせてお菓子をもぐもぐ食べながらアルマが言うには、アノールから姿を消したアスタロッテの痕跡がちらほら見られるようになった。

潜伏先から移動開始した気配がある。


バフォメットが力を取り戻したことはわかっているようだ。

従って、今までのようにバフォメットを捜すのではなく、むしろバフォメットから姿を隠す動きをしていると思われる。

簡単に見つかる痕跡は陽動であろう。


バフォメットから距離を置こうとするならノースランビアの西大陸に潜伏すると思う。

もしアスタロッテが西大陸に移動してしまったら、以前勧めた聖ソフィア公国における調査は微妙だ。

アスタロッテは自分の過去をほじくられることを好むまい。


ということで、調査する気があるなら急げ。




今日のアルマは清楚な感じがする。

だいぶ私の好みに寄せてきているようだ。


上目遣いで責められた。



「私に子を授けて下さらないのですか?」


「いや、ですから・・・」


「アンナ殿にはお情けをお掛けになっておられるではないですか」


「こんなところでそんなことを・・・」



責めるような目で見られて震え上がる私。



「まあ、そのくらいで勘弁してやって下さい」



ソフィーが助けてくれなかったら私は干からびていた。


アルマは山盛りのお菓子と酒をお土産に貰い、ほくほくしながら帰って行った。

お菓子が珍しいのかな。



◇ ◇ ◇ ◇



と言う訳で急遽聖ソフィア公国へ行くことにした。

自ら進んで国外へ出るのは初めてだ。



「今回のようなことがありますので、ウォーカーはイルアンを離れないで下さい」


「わかった。だがお前一人で行くのか?」


「う~ん。マロンはどう?」


「 (ブンブン) 」


「行かない? そう。 マロンもお腹が大きい?」


「ばう」


「いつの間に! やるなお主、うりうり」



首をグリグリと掻いてやると照れ笑いするマロン。

以前から思っていたが、君は犬ではあるまい。



「ソフィーはエマと一緒に残っていてください。私は伝書鳥を2羽連れていきます」


「わかった」



ハーフォードに出向いてマグダレーナ様に情報を入れておこうか迷ったが、知らせてしまうとマグダレーナ様が何か予想外のことを始めてしまう気がしたので黙っておくことにした。



◇ ◇ ◇ ◇



ブリサニア王国と聖ソフィア公国の国境はピレ山という山になっている。

山脈である。


山の麓に街があり、そこまで馬車が出ているので、ガタゴト揺られていく。

街の名は山の名を取ってピレという。


いつも通り私はソロ冒険者の斥候の出で立ちで乗り合い馬車に乗っている。



伝書鳥(オウムとフクロウ1羽ずつ)はつかず離れず馬車に付いてくる。

彼らは(彼女らかな?)私の使い魔にした。

指示は人の言葉で伝えられる。

これは言葉を理解しているのでは無く、主がして欲しいことを言葉の感じから鳥が察する。

そこで以心伝心で伝えられるように訓練中。



名前を付けた方が早く使い魔として使いこなせるようになるというので名付けた。

オウムを『パロ』、フクロウを『アル』とした。

そのままだな。




背負い袋の中に1通の手紙が入っている。

ウォルフガングからサン=フーリエという街の冒険者ギルド長宛ての手紙。

以前、メッサーでウォルフガングが面倒を見てやったことがあるらしい。



ピレの町には小さな冒険者ギルドがあるので、冒険者証を聖ソフィア公国でも使えるようにしてもらい、一泊する。


使い魔達には焼肉を与えた。




翌朝。


まずは出管へ行って天候の確認をする。

これは国境を越える道が脆弱なためである。


道は海沿いを行くが、山が海に迫っている。

細くて路肩が崩れかけており、危険極まりない。

大昔の新潟の “親不知” かな。


海が荒れたら通行止め。

海の魔物に襲われたら逃げ場がない。魔物のおやつになるしかない。


そんな道が10kmほど続く。

徒歩でしか越えられない。



今日の天気予報は快晴。

風も穏やか。

ということで、何人かの旅人の後を付いて行く。



私は上空から使い魔に道中を確認させながら行く。

この旅の間に彼らの視界を共有できるくらいにレベルを上げたいところだ。




一応海の魔物に備えて、マルティナ(シェフ)に持たされた『地獄玉』を握りしめる。

聖ソフィア公国へいくと言ったら持たせてくれた。


味覚の無い魔物には効果が薄いが、味を感じる魔物には強烈に効くらしい。


「何でできているの?」と聞いたら「秘中の秘です」と言われた。


肩凝りを癒やして、顔のくすみを取って、美人度3割増しにしてあげたら、「内緒ですよ」と言って教えてくれた。


キャロリバ(辛い奴)、スコーピオンテイラ(辛い奴)、生姜、胡椒、山椒、その他諸々を粉砕し、塩と少しの脂で練り固めた団子らしい。


「これって食材なの?」と聞いたら 食材であり、武器でもあるそうだ。



「ほんの少し削って鍋にするとおいしいんですよ」



備えあれば憂い無し。

地獄玉を使うこと無く国境を越えた。




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