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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
10 風変わりな依頼主編
115/270

115話 ルーシー強化計画2


ソフィーは、見かけは全く変わらない。

だが心なしかゆったりとした服を着るようになった。


既にXデーに備えてマーラー商会からその道のエキスパート(サマンサ:40代と思われる女丈夫)が送り込まれている。


サマンサのアドバイスは、

・食べ過ぎ注意

・飲むな

・激しい運動は不可

・適度な運動は推奨

・風邪を引くな



ソフィーの反応。


食べ過ぎ?

普段から食事の量と質は気を配っている。

なぜ普段から?

ダンジョン探索中に食あたりになったときの絶望感ときたらもう・・・


飲むな?

酒?

普段から飲まない。

なぜ?

いつ緊急呼び出しがあっても良いように備えている。


激しい運動は不可で、適度な運動は可か・・・

よし、ダッシュはやめておこう。

走る、剣を振る、走りながら氷魔法を撃つくらいならよかろう。


「止めて下さい!!!」 (サマンサ)


なぜだ?


風邪を引くな?

うむ。ダンジョンに潜るときは一枚羽織れと言うことだな。


「違います」 (サマンサ)


ダンジョンは3層までしか潜らないぞ?


「駄目です!」 (サマンサ)


2層までにしておけということか。


「潜らないで下さい!!」 (サマンサ)



ソフィーは2~3日大人しくしていたが、やがて一言。



「つまらない。やっぱり潜る」



魔法使いの格好で、ダンジョンの3層まで潜っていた。

とは言え、徐々にソフィーがダンジョンに潜る頻度は減った。



◇ ◇ ◇ ◇



ソフィーと入れ替わるようにルーシーがウォーカーに入った。


ダンジョンで実戦訓練を開始した。


まずは何と言っても魔物探知。

スケルトンの探知は順調だった。

あまりにも順調なので聞いてみると、前回遭遇した位置を大体憶えているらしい。

なるほど。

ウォルフガングとソフィーが認めるのもわかる。

地味に優秀じゃないか。


トレントの探知は手こずった。

これは仕方が無い。

場数を踏んで憶えるしかない。


ストライプドディアーの探知はもっと手こずった。

これには少々驚いた。

私は逆だった(トレントは難しく、ストライプドディアーはスムーズに探知した)。

得意/不得意ってあるもんだ。

3層で徹底的に索敵を鍛えて貰った。


実は宝箱の探知が一番手こずった。

ルーシーの持つ宝箱のイメージと実際の宝箱が違いすぎて、どうしてもしっくりこないらしい。

いまだに完全に探知出来ない。


実戦の剣の技術も磨いた。

私のときと同じ。

両脇にジークフリードとクロエがついて、正面の敵とだけ戦う。



「ビトーさんよりよっぽど剣の腕は確かよ」



そうクロエに指摘されてへこむ私。



3層の階層ボス、ブルーディアー戦は囮として頑張って貰った。

完全に魔法攻撃を無効にされることに驚いていた。



4層のアンデッド階も経験して貰った。

対ゴーストは私の独壇場。

対マミー戦に張り切って貰った。


マミーはE級冒険者にはキツイ相手だ。

ウォルフガングは経験のためにルーシーを前衛に配置した。

会心の一撃を入れても反撃されることに驚くルーシー。

毒を受けるルーシー。



「もう駄目、死んじゃう・・・」



泣きながら後退するルーシー。

すぐにキュアとヒールを掛けて全快させる私。



「もう一度行ってこい!」



我が身に起きたことに呆然としながら戦列復帰するルーシー。




ルーシーにとって4層のアンデッド層はよほどの衝撃だったらしく、地上に戻ってからしみじみと述懐された。



「ゴーストって本当に物理攻撃が通じないのですね」


「そうだねー」


「マミーの耐久力は信じられません。私の攻撃は全然効いてないみたいです」


「いや。効いてるよ。スタミナお化けなんだよ」


「全然手応えがないんです・・・」


「毒爪で反撃してきたでしょ。あれはマミーが焦っている証拠だよ」


「そうなんですか・・・ って、ビトーさん!」



ルーシーが私の肩を掴んでガクガク揺さぶる。



「4層で私に掛けた魔法!!」


「はい」


「何ですか! あれは!」


「キュアとヒールです」


「キュアって・・・」



ハイテンションだったルーシーが急激に落ち込んでいった。



「どうしたの?」


「・・・いくらですか?」


「?」


「キュアって特級ポーションと同じですよね」


「はい」


「白金貨・・・」


「・・・」


「お金ありません・・・」


「はい」


「私の体を御所望されますか?」


「いいえ。ウォーカーの戦闘斥候として所望します」


「でも・・・」



ウォルフガングが笑いながらルーシーの頭を叩いた。



「治療費は気にするな」


「でも・・・」


「ウォーカーのメンバーは全員ビトーの治療の世話になっている。これでルーシーもウォーカーの一員になったということだ」


「・・・」


「ウォーカーはビトーのパーティだからな。ビトーがいいと言えばいいんだ」


「本当に?」


「本当さ。だがビトーの治癒能力については秘密だぞ」


「はい・・・」



◇ ◇ ◇ ◇



ルーシーはダンジョンに潜っていないときは勉強している。


ダンジョンの知識、魔物の知識、冒険者ギルドの役割、経営のノウハウ、イルアンの街の経済・・・ こういった事について勉強している。


実はこれは普通ではないらしい。



普通の冒険者は、クエストをこなし、ダンジョンに潜り、魔物を討伐し、素材を売り、魔石を売り、金を儲け、酒を浴びるように飲み、女を、男を求め、その辺で大体満足する。


冒険者としての腕は立つが、それ以上踏み込まない。

言葉は悪いが「脳筋」である。


悪口を言っているのではない。これが普通なのだ。

ウォーカーでいえばジークフリードやクロエが該当する。



数は非常に少ないが、これに飽き足らない冒険者がいる。


まず魔物に興味を持つ。

次にダンジョンに興味を持つ。

冒険者ギルドに興味を持つ。

冒険者を取り巻くカネの流れに興味を持つ。

ダンジョン都市について興味を持つ。

そして調べ始める。


いつの間にか冒険者側ではなく、ギルド運営者側の目線を持つようになる。

これは冒険者としての腕前(A級とかB級とか)は関係なく、知的好奇心や想像力の有無による。

ウォーカーでいえばウォルフガングやソフィーが該当する。


そしてダンジョンを管理する冒険者ギルドには、このような人材が絶対に必要なのだった。



アドリアーナは優秀なギルド長ではあるが、魔物とダンジョンに関しては知識として知るのみで、実感としては知らない。

前例をなぞり、文献を参考にできるうちは問題ないが、新しい事態に直面したときに、自身の判断に確信が持てない時がある。

冒険者の実力を測るときは特にそう感じる。



今、アドリアーナは冒険者になりたがっている。



「あなたはマーラー商会の中堅商会員で、ギルド長でしょ」



そう言われて周囲から止められて悔しがっている。

心底冒険者を経験したいようだ。



そしてルーシーはこちら側の人間だった。

ウォルフガングやソフィーの後継者になりうる数少ない冒険者だった。

そしてイルアン冒険者ギルドに必要な人材だった。

これは大切に育てなければならない。



ウォルフガングとソフィーは持てる知識を惜しみなくルーシーに注いだ。

ルーシーは貪欲に吸収していった。



ルーシーは最初に出会った頃の “自分に自信が無い、おどおどした感じ” が消えた。

かといってやたらと自信に満ち溢れて場を仕切りたがる雰囲気でもなく、常に一歩引いて全体を見渡している。

良い感じだ。



ルーシーは(ウォルフガングやソフィー同様に)イルアン冒険者ギルド職員に頼りにされるようになった。

ギルドの人数が足りないときはソフィーと一緒にフロントに立ち、あるいはナオミの隣で魔物の解体をしている姿が見られるようになった。



◇ ◇ ◇ ◇



鉄壁がこそこそとルーシーに接触する姿が見られるようになった。



斥候無しでダンジョンを攻略するなど無理に決まっている。

ダンジョンに慣れた冒険者なら自明の理だが、ここにきてようやく鉄壁もわかってきたらしい。


ルーシーはウォーカーに鍛え上げられ、冒険者スキルが飛躍的に上昇したことが傍目からでもわかる。

歩き方一つ見てもわかる。

目の配り方一つ見てもわかる。

ダンジョン内では自信に満ちている。


そしてどうやらルーシーは3層をクリアしてしまったらしい。

その先どこまで行っているのか予想もできない。

ということに薄々勘付いたようだった。


鉄壁にとってライバルである炎帝がいない今が3層攻略のチャンス。

しかし鉄壁は擬態系の魔物を正確に探知出来ない。



「ルーシー、おまえにもう一度チャンスをやろう」



上から目線で恩着せがましく言ってきた。


ルーシーはすぐに答えず、自分一人で対処せず、すぐにウォーカーのメンバーを呼んだ。


頭の良い娘だ。




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