112話 帰還
アルマと別れた場所から歩き始めてすぐ、かなり疲弊していることに気付いた。
ソフィーの訓練を受けるようになってから、訓練以外でこれほど疲れを感じるのは、初めてダンジョンの安全地帯で休んだ時以来だった。
異常だ。
ソフィーとマロンに聞くと、やっぱり疲れているという。
高位魔族と接触すると大量のエネルギーを奪われるらしい。
このまま行動するのは危ないと思い、ソフィーとマロンの意見も聞いて、丸1日休みに当てることにして野宿することにした。
食事を摂り、一日寝て、ようやく体に力が戻った。
古森に帰着してアイシャに復命。
しばらくアイシャに抱擁され、魔眼で隅々まで確認された。
「魔族と接触した痕跡はあるけれど、身体に異常は無いわね」
「はい。全員無事に戻りました」
「それでどうなりましたか?」
「すっかり快癒されました。全ての力を取り戻されたとのことです」
「そう・・・」
アイシャは手放しで喜んでいる風ではなかった
「それであなたは彼のものをどう見ましたか?」
「難しい質問でございます・・・ 私やアイシャ様とは全く異なる種族と見ました」
「私とあなたでは随分異なりますが?」
「はい。ですがバフォメット様を見てしまうと、私とアイシャ様は同じ種族と言っても過言ではなかろうと思えるほどでございました。
高位魔族は私達とあまりに違いすぎて恐ろしく感じました」
「何が違うと感じましたか?」
「精神の構造・・・ 社会性の欠如」
アイシャは私の言葉をしばらく吟味していたようだった。
ややあって口を開いた。
「アルマは一緒ではないのね」
「はい。固辞致しました」
「よく断りましたね」
「まだ死ぬには早すぎますので・・・」
「わかっていたのね」
「はい」
「もしアルマが付いてきていたらここで追い返すつもりでした」
「ありがとう存じます」
「私もアレクサンドラも恩に着ますよ」
「勿体ない御言葉で御座います」
ヒックスに帰還してマーラー商会へユミを尋ねた。
「全員無事に戻りました」
「よかったわー 何があったの?」
「ごめん。ちょっと話せないんだ。でも問題は片付いたよ」
「そう。アイシャ様案件だから仕方ないわね」
「うん」
会頭のマーラーに顔を出しておこうと思ったら、出張中で不在とのこと。
また寄るよー と言ってお暇した。
ハーフォードではマグダレーナ様にコソッと面会し、ソフィーのことを耳打ちした。
アンナにコソッと面会し、ソフィーのことを耳打ちした。
イルアンに帰還。
マリアンを呼んでソフィーのことを耳打ち。
「まあ! すぐにアンナに連絡し、その道のエキスパートを呼びよせます。お任せください」
「公表しないでね」
「心得ております」
ウォルフガングにだけは経緯を伝えた。
バフォメットの名が出たときは 「そうか・・・」 とだけ言った。
◇ ◇ ◇ ◇
子を授かった事は、関係者に少しずつ知らせていった。
元の世界の感覚ではなるべく秘密にする様な気がしたが、こちらの世界ではウォーカーにクエストを発注する可能性のある相手に知らせておくものらしい。
特にソフィーは主要メンバーなので、仕事の依頼をする/しないに関わる。
ソフィーがいないなら他のパーティに頼むか、という判断をするという。
真っ先に公爵夫妻から祝いの手紙と年俸の加増の連絡があった。
次に王都のマキからお祝いの連絡があった。
まだマキ自身の縁談は決まっていないらしい。
アンナはマーラー商会ハーフォード支店名で豪華目録を贈ってきた。
生まれてくる子供が男か女かによって一部の品を入れ替えて納品するらしい。
ソフィー自身の体調は驚くほど何事も無く、いつも通りイルアンダンジョンの魔物の間引きと冒険者ギルドの運営に力を入れていた。
特にイルアンの冒険者ギルドの運営については、メッサー時代と遜色ないほど磨き上げた。
ソフィーが言うには職員がマーラー商会出身なので、元々商売の基礎ができている。
ギルド運営の基本を教えれば、後はイレギュラー処理だけ経験すればよいらしい。
優秀!
ソフィーはウォーカーの魔術師としてイルアンダンジョンは3層まで潜っている。
ソフィーのことなので、多少体調が悪くても何食わぬ顔で動けてしまうのだろう。
ただし前衛はしなくなった。
ジークフリードとクロエの進境著しく、ソフィーが危険を冒して前に出る必要もなくなったことが大きい。
ソフィーは万一のこと(ゴーストのエナジードレイン攻撃による体への悪影響)を考え、4層以降は潜らない。
3層まででセーブしている。
4層以降はたま~にソフィー抜きで潜る。
◇ ◇ ◇ ◇
こちらの世界の常識によると、父親の能力は子供に遺伝する確率が高いという。
母親の能力は丁半博打らしい。
ということで、胎教のために(こちらの世界に胎教という言葉は無かったが)ソフィーはせっせと水魔法を使っている。
そして私は子供に治癒魔法の感覚を覚えさせるように、毎日ソフィーに治癒魔法を掛け続けている。
そんな日常がしばらく続いた。