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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
02 メッサー冒険者ギルド編
11/269

011話 冒険者たち

翌日にはクロエさんの足の腫れも引き、足を引き摺らずに歩けるようになった。

ジークフリードさんに付き添われ、自分の足で帰っていった。

御代は姐さんが受け取ったらしい。


二人にはこちらが恐縮するほど感謝された。

特にジークフリードさんは床に額を擦り付けんばかりだった。

自分は元の世界でこれほどお医者様に感謝したことはあっただろうか?

そう考えると複雑な気分にさせられた。


今回の蛇対応。

冒険者目線で言うと「ありえない」らしい。(姐さん談)

教会治癒士によるキュアは論外。

キュアを使える者が出てくる前にヒールしか使えない奴をたらい回しにされる。

その結果、手遅れになる。

そして患者が死んでも、ヒールの代金も含めてキュアの代金を遺族から毟り取る。


冒険者は、普通は解毒ポーションを使う。

・・・と簡単に書いたが、解毒ポーションは白金貨1枚(約1000万円)する。

これを常に持ち歩けるのは騎士団かA級冒険者くらいしかいない。

B級冒険者は、解毒ポーションを買う前に装備にカネが消える。

C級冒険者以下は生活費に消える。


姐さんはB級冒険者としては上位にランクしていたので経済的な余裕はそれなりにあったが、それでも解毒ポーションを常備できなかったという。

蛇が多く出るダンジョンに潜る時はパーティで1本装備するが、それ以外の時はクロエさんのように、中級または上級ポーションで毒の回りを抑えながら解毒ポーションを買い求めるそうだ。

その場合、かなりの確率で後遺症が残ってしまい、冒険者としての活動をあきらめざるを得ない場合も多い。


今回のクロエさんのような場合、蛇に噛まれた足は普通なら2~3ヶ月は使い物にならなくなる。その間に生活が破綻する。

冒険者としての活動をあきらめざるを得ないケースに該当する。

彼らが感謝するのは当然だ。

との姐さんの説明だった。



◇ ◇ ◇ ◇



ヒールを唱える前に傷口を洗浄したい。

その設備が欲しいのだが。

そう姐さんに言うと、


「冒険者なら水くらい自分で出せ。パーティに1人は絶対必要だ」


なるほど。

でも私は冒険者では無くて治癒魔法使いなのですが・・・

そして水魔法の素質は無かったのですが・・・


「水魔法は簡単だ。誰でもできる」


そう言うと姐さんは水魔法の講義をしてくれた。


水魔法。

一言で言うと大気中の湿気を冷却し、結露させるイメージ。

最初は手のひらに水を結露させる練習。

慣れてくれば空中に水球を出現させることができる。

近くに川や池があると湿気が多いので大規模水魔法が使える。

その一方、砂漠では効率が悪い。


姐さんのレクチャーは非常に分かりやすい。実戦向きだ。

氷魔法が水魔法に分類される意味もわかった。


それから毎日2時間。

姐さんにスパルタで水魔法を鍛えられた。

そして3日目に傷の洗浄程度の水量なら出せるようになった。

姐さん凄い!

姐さん改め、師匠と呼ぶようにしたが、師匠は師匠で驚いていた。


「お前、飲み込みがいいな」


水魔法は比較的簡単な魔法だが、それでも素質無しがこんなに早く使えるようにはならないらしい。

やはり前の世界の知識で結露のイメージがあったからだろう。



◇ ◇ ◇ ◇



師匠の魔法指導の的確さに驚き、冒険者はどうやって魔法を憶えるのだろう? と興味を持った。

冒険者は下賤の身なので魔法を憶える場所はミリトス教会では無いはずだ。

師匠に聞いてみた。


この世界の子供は3歳になると鑑定を受ける。

貴族はミリトス教会で、庶民は冒険者ギルドで。

冒険者ギルドの無い田舎の子供は、親に連れられて冒険者ギルドのある街へ行く。

そこで鑑定を受け、魔法の適性を見る。

才能のある子供は3歳から冒険者ギルド秘伝(?)の指導法で魔法の訓練を始める。

才能のないものは別の道を志す。


私は22歳で適性を知って魔法の訓練を始めたので、こちらの世界の人に比べると19年分の修行の遅れがある。

こりゃ絶望的だな、と思っていると師匠から面白いことを言われた。


「魔法のキモは魔力の流れを制御することと、魔法発現のイメージだ」

「はい」

「イメージは十人十色だ」

「ええ・・・ ええっ!?」

「おまえは私の水魔法のイメージを褒めてくれたが、全員あのイメージで成功するわけでは無い。むしろ成功例の方が少ない」

「そうなのですか?」

「本来なら成功者の話をなるべく多く聞いて、自分にしっくりくるイメージを選ぶべきなのだろう。だが最初に聞いた方法に固執して、魔法を使えないまま人生を棒に振る者も多い」

「・・・」

「おまえは魔法を習い始めてすぐに2つの魔法を使えた。これは異常だ」


う~む。

前の世界の科学的な知識は重要なのだな。

もっと理系の勉強しておけば良かった ・・・って言ってもなあ。


誰も異世界に召喚されるなんて思わないもんな。



◇ ◇ ◇ ◇



治療を求める冒険者が1日に1人は来るようになった。

施術中に冒険者たちの話を聞くのが日課になった。

特に私の場合は自分のことを話せないので、聞く一方だった。

話題は冒険者のランク、生い立ち、社会的地位、過去の冒険、人生設計(将来の夢)など。

こちらの世界を知る良い機会になった。



冒険者はG級からスタートし、最上級はA級。

ちなみにA級の上にS級もあるらしいが、実態は謎に包まれている。


「噂の噂程度でS級の話を聞いたことはあるが見たことはねぇ。おとぎ話だな」

「A級とS級で実力はどう違う? と聞かれても誰も答えられねぇな」

「A級とS級ならS級の方が儲かるか? と聞かれてもわかんねぇな」

「一人で竜を退治してこい、と言われればS級クエストだろうな。だが報酬はいくらだ? そもそも可能なのか? A級パーティで退治しちゃ駄目なんか?」


なるほど。


誰もがA級冒険者に憧れるが、本当にA級になれると思って冒険者をやっている者はほんの一握り。たいていはB級まで行ければ御の字だと思っている。


冒険者のランク付けは各地の冒険者ギルドで行う。

レベルは多少のバラつきはあるものの、概ね納得できるらしい。


ちなみに冒険者のクラスと魔物の脅威度のクラスはリンクしているのかと尋ねたら、全然リンクしていないという。

これは初耳だった。

目から鱗だ。


「B級冒険者が一人で脅威度Bの魔物、例えばレッドサーペントを倒せるかと問われりゃ、そりゃ無理だ」

「常識で考えてみろ。全長8m、毒持ち、速さとパワーを兼ね備えたレッドサーペントを剣士のB級冒険者が一人で倒せるかと問われりゃ無理に決まってる」

「そうだな。剣士のB級冒険者が2名と魔術師のB級冒険者が2名くらいのパーティなら行けるんじゃ無いか?」

「だがよ。剣士のB級冒険者が2名と魔術師のB級冒険者が2名のパーティなら、そりゃもうAランクパーティだ」

「じゃあこのAランクパーティが脅威度Aのワイバーンを倒せるかと問われりゃ、無理に決まってる」

「冒険者と魔物との相性もある」

「一筋縄じゃ行かんのさ」

「一つ言えることは、魔物の脅威度がCになったらBランク以上のパーティで当たらないと駄目だ」

「冒険者個人のランクは冒険者仲間内だけの評価だ。魔物の脅威度に当てはめたらイカン」


なるほどねぇ。



冒険者の出自は農家の次男・三男が多い。

親の農地を継げず、新たに開墾するほどの資金も無い。

そんな連中が地方から浮いて都市部に集まってくる。

そして冒険者ギルドの門をたたく。


「俺もそうだ」と笑っていた。


都市部の次男・三男は、たとえ家業を継がなくても、家に金があれば学校に通って下級官僚になる。

目立つほどの体格と膂力、魔法の才能があれば騎士や騎士団所属の魔術師になる。

ただし騎士は馬鹿では務まらないので、やはり教育が重要になる。


家に金が無ければ商売人か職人の見習いになる。

才覚があれば新たに商売を始めることもある。

もちろん冒険者になる者もいる。

都市のスラム出身者は犯罪者になるか、冒険者になるか、ほぼ二択だそうだ。


冒険者は人気が高い。

ダンジョンを探索して一攫千金を狙えるから。

冒険者の間口は広く、敷居も低いのでなりやすい、というのも人気の理由だ。

今住んでいる世界はご多分に漏れず階級社会だが、力のある冒険者は階級の外にいる。

そこも魅力だ。


冒険者の死亡率は高い。

毎年かなりの数の冒険者が生まれるが、冒険者の総数はほとんど変わらない。

鍛錬を怠ったり、情報収集を怠ったり、勉強をサボったり、装備をケチったりするとあっけなく死ぬ。

準備万端でも運に見放されれば簡単に死ぬ。


大怪我を負えば引退する。

冒険者としての将来を見限り、転職する者もいる。

犯罪に走るものもいる。



「過去の冒険で印象深かったのは、トロール退治の合同クエストだな」

「トロールの群れが2つ同時に出たんだ。20体の大きい群れを騎士団が始末してな、5体の群れの始末を冒険者ギルドが引き受けたんだ」

「ギルドが8パーティを指名してな。俺もその中に入っていたんだ。あれは晴れがましかった」

「クエストは成功したが、俺が所属していたパーティはリーダーが怪我をしてなぁ。あんたがいてくれたら助かったのだろうが、結局リーダーは冒険者を廃業して、パーティも解散した」



「将来の夢か・・・」

「わかんねえなぁ」

「とりあえず体が動く間にいっぱい貯めて、引退後は何をするか、その時に考えるんだろうな」



◇ ◇ ◇ ◇



私に注意する冒険者が増えてきた。


「あんたの噂は徐々に広がっている。あんたを教会に売る奴も出てくるかも知れないから気をつけな」

「一応、施術された方には秘密保持魔術が使われているのですが・・・」

「他領から流れてくる冒険者で、まだ治療を受けていない奴らはどうかな」

「・・・」


マロンは横で聞いている。

きっとマロンも勉強しているのだろう。




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