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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
10 風変わりな依頼主編
108/269

108話 イルアンダンジョン7層


年が明けて季節は真冬。

外は寒い。

ベッドの中でソフィーにしがみついて外に出たくない。


貴族の場合、普通は夫婦別寝室だそうだ。

気分が盛り上がったときだけ夫が妻の寝室に通う。

そして妻の侍女にジロジロ監視されながら事に及ぶ。

なんかイヤだ。


でもその方が妻以外の女に通いやすいらしい。

偉い人って大変だ。



ソフィーは私の妻であり、護衛でもある。

一緒に寝て何が悪い。

私は偉くないからいいのだ。

イザというときは肉のたt・・・


締め落とされそうになった。



「私が何をしたというの?」


「お前が不埒なことを考えている時はすぐにわかる」



よろしい。

万難を排して私がソフィーの盾になりましょう。

愛する妻を私が守るのd・・・


また締め落とされそうになった。



「なんなの! なんなの?」


「お前が胡散臭いことを考えている時はすぐにわかる」



仕方がないのでソフィーの双丘に顔を埋めて甘えることにした。



◇ ◇ ◇ ◇



冬の間もダンジョン管理は順調である。


ダンジョン内は1年を通じて気温が殆ど変わらない。

冒険者にとってダンジョンは常春なので、むしろ潜りたがる。

これもダンジョン七不思議に数えられる。


元の世界でも洞窟内は温度が安定していた。

同じ事なのかも知れない。



炎帝のレベルアップは順調に進んでいるらしく、トレントの素材で稼ぎ始めた。

まだストライプドディアーには手こずるようだ。


炎帝は、今年は馴染みの客のクエスト(穀物、果物の輸送の護衛)を受けるので、長期間ダンジョンを離れる。

今のうちにレベルアップと蓄財に励んでいる。




ウォーカーは7層の攻略まで完了した。


予想通り7層はアンデッド階だった。

レイス、そして遂にグールが出て来た。


レイスはゴーストの上位種というイメージ。

相手をするのは私。

厳しい相手だが、後に紹介するグールの衝撃が大きすぎて、あまり印象に残っていない。

ごめんね。レイス。


だけどレイス。

ひとこと文句を言わせてくれ。

君らは生き霊だから、消えても魔石を残してくれない。

君らもグールが近づくと顔色を変えて逃げていったよね?

それでいいのか?



その問題のグールは・・・


正直、あまり思い出したくない。

でも忘れる事はできない。


とにかく臭いが凄まじい。

極悪。

兇悪。

凶暴。


タンパク質が腐った臭い。

悪しつこく、どこまでも追いかけてくる臭い。


鉄のように汚液が染みこまない素材なら洗えばよいが、服や手袋などの繊維に付くと何度洗っても臭いは落ちない。

グールの汚液が飛び散った服は捨てるしかないが、ゴミ箱に捨てるとゴミ箱が臭うので、燃やすしかない。


狭い空間で奴らと対峙すると、目がチカチカする。

涙がどばーっと出る。

鼻の奥が痛い。

息をしたくない。

奴らと同じ空気を吸いたくないっ!!!


マロンは悲鳴を上げて隊列の一番後ろに下がった。



ジークフリードとクロエの魔法(土と風)では奴らを止める事ができない。

ソフィーの氷壁でブロックし、ウォルフガングの火炎放射で対処した。



だが、後方に下がっていたマロンが悲鳴を上げた。

背後からグール3体が迫っていた。


最後尾はマロンと私。


一瞬で脳が沸騰した。

燃やして燃やして燃やしまくった。

奴らの周囲の空気ごと燃やした。


賢者に転職していて、そして炎杖を装備していて、これほど良かったと思ったことはない。



ソフィーが肩に手を掛けて止めてくれなかったら、魔力切れになるまで火炎放射し続けていただろう。


あとでソフィーに聞いたら、私は意味不明の奇声を上げながら、悪鬼のような表情で炎を撃ちまくっていたらしい。



「お前でもあんな顔をするのだな」



そう言われた。



メッサーのスタンピードを思った。

グールが草原いっぱいに拡がって平面で押し寄せてきたら・・・

その絶望感ときたら・・・

心の中でそっと手を合わせた。



グールの消し炭から魔石を拾うのが何とも言えずイヤだった。

でもこの魔石は貴重で高価だという。

解毒ポーションの材料になるという。

出来上がった解毒ポーションの質が全然違うのだという。


確かにあれだけの毒を持っている魔物の魔石だからね。

毒にも解毒にも絶大な効果があるのだろう。


魔石はうっすらと青みが掛り、臭いは無かった。



◇ ◇ ◇ ◇



7層階層ボスの部屋。

グール遭遇戦直後の途轍もないテンションのまま、ボス部屋の扉を開けた。



「頼もう!!」



階層ボスはワイトだった。

催眠の呪いを掛ける、脅威度Bの塚人。

身長が2.5mもある。

アンデッドのくせにパワーもスタミナもある。

オーガキング並み。


ワイトは不意打ちのように催眠の呪いを掛けてきた。


だがっ!

グール戦で頭に血が上りきって脳の血管がブチ切れそうになっていた私には、申し訳ないが丁度よいクールダウンにしかならなかった。


おもむろに『やつでの小箱』を取り出してスリングショットで打ち出し、ワイトの顔面にぶち当て、火を付けた。

多少悪意が籠もっていたことは否定できない。


わめき声を上げながら、転げ回って火を消そうとしているワイトに対し、ウォーカーの前衛が襲いかかった。


「ウラッ! ウラッ! ウラッ!」

「このっ! このっ!」

「お前がっ! お前がっ! お前が悪いっ!」

「・・ッ! ・・ッ! ・・ッ!」


グール戦の鬱憤を全てぶつけられ、あっという間にワイトは切り刻まれて息絶えた。

どちらが階層ボスなのか・・・




宝箱があった。

出て来たのは巻物。

巻物なんて初めて見た。

鑑定すると微かに魔力を帯びているが、罠ではない。

呪いの巻物でもない。

開いてみると魔術の巻物だった。



【スクロールオブスピリッツ】

 闇魔法:使い魔の呪文が記された魔術書

 闇魔法の属性を持つ者なら、魔物、精霊、動物などを支配下に置き、

 使役させることができる

 魔力が自分よりも高い魔物、精霊、動物は支配下に置けない



全て読むとスーッと文字が消えていった。

私は使い魔を使えるようになったらしい。


ほー。

すっかり感心して文字の消えた巻物を背負い袋にしまい込んだ。




ボス部屋を攻略してホッとするとグール戦の疲れを感じた。

聞くと全員疲れている。

一旦地上に戻ることにした・・・



がっ!


もう一度グールエリアを通るのか・・・

パーティ全体の気分が沈み込み掛けているような気がしたので、鼓舞した。



「さあ、みなさん。今回の探索は実入りが良かったので、地上に戻ったらボーナスを弾みますよ」


「おおっ!」


「さすがオーナー」



グールエリアを無事通過し、貴重な魔石も追加して、地上に帰還した。




冒険者ギルドに立ち寄り、7層で出てくる魔物と地図を報告。

グールの魔石もザラッと出した。



◇ ◇ ◇ ◇



私たちは臭ったらしい。


家に帰るとマリアンの命令で風呂に追いやられた。

マリアンが「よしっ」と言うまで、何度も全身を洗い、湯船に浸かった。


主人用の風呂と客人用の風呂と使用人の風呂があって良かった。

風呂が1個では到底間に合わなかった。


私はマロンと一緒に主人用の風呂に入り、じっくりとマロンを洗ってやった。

今回ばかりは風呂嫌いのマロンもおとなしく洗われていた。



風呂から上がるとマリアンから手紙を渡された。

差出人はユミだった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――

ビトー・スティールズ様


アイシャ様からお話しを頂きました。

ビトー様の噂を聞きつけた方が、アレクサンドラ様に紹介を

依頼されたようです。

アレクサンドラ様からアイシャ様経由で連絡が来ました。


いつでも古森にいらっしゃいと言われております。


マーラー商会本店 監査部 ユミ・オークレイ

―――――――――――――――――――――――――――――――――




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