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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
09 スタンピード編
107/269

107話 斥候について


ーーー 冒険者パーティ【炎帝】視点 ーーーーー


我々はレベルアップに励んでいた。

3日間草原で訓練し、3日間ダンジョンに潜る。そして1日休む。

これを繰り返した。

休日が1日で済むということは、ダンジョン内では怪我をしないように慎重に戦えていることの証左である。


訓練は、

前衛はひたすら体力向上と剣戟。

後衛は火魔法の精度と魔力量のアップ。

斥候は・・・ どうやって魔物探知を向上すれば良いかわからなかった。



全員地力が上がっている実感はある。

だがどうしてもトレントの探知ができない。

探知漏れが出る・・・ のではない。

殆ど探知できない。


不意打ちを喰らう。

火魔法でカバーする。

火魔法で倒したトレントは、魔石以外は価値がない。

悪循環に陥っている。


この訓練の仕方で良いのか?

効率が悪くないか?


一度ウォーカーのメンバーに聞いてみよう、と言うことになった。




冒険者ギルドでウォルフガングかソフィーへの面会を頼むと、すぐにウォルフガングがギルドに入ってきた。

事情を話し、アドバイスを頼んだ。


ウォルフガングは少し考え込んだ。



「お前たちは3層の安全地帯をベースキャンプにしているのか」


「はい」


「ソフィーに言われたことを憶えているか?」


「はい。まず索敵と剣を磨け、と言われました」


「そうだ。それには何も3層に潜る必要は無い」


「私たちにはまだ早いとでも言うのですかっ?」



馬鹿にされたと思って色めき立つ我々に対し、ウォルフガングが諭すように言う。



「剣と索敵を磨くには1層、2層で十分訓練になる。索敵漏れをしてもトレントほど危ない魔物じゃない」


「しかし・・・」


「これは訓練だ。草原をランニングするのと一緒だ」


「・・・」


「いきなり鉄火場で訓練することもあるまい。効率が悪すぎる」


「効率・・・」



効率といわれると黙らざると得ない。



「今日のお前らの予定は?」


「ダンジョンです」


「では少し一緒させて貰うか」


「「「 !!! 」」」

「「「 本当ですか!!! 」」」


「ああ」



◇ ◇ ◇ ◇



ビトーの視点に戻る。


そんなことがあって、今、炎帝の6名とウォルフガングとビトーとマロンでイルアンダンジョンに潜っている。


1層は冒険者が多く、訓練をしていると他の冒険者の皆様の邪魔になるので、2層へ真っ直ぐ行った。


途中の魔物スケルトンは炎帝の前衛(魔法剣士3名)が剣だけで片付けた。

多少時間は掛かるが安定している。

剣の腕を磨いたようだ。


2層に降りたところの広間でスケルトン達が熱烈歓迎してくれる。

炎帝の前衛3名が壁になってくれるが、それだけでは後ろに回り込まれてしまう。

いつもの炎帝は火魔法で蹴散らしているそうだ。


今回は炎帝の前衛3名の右にウォルフガングが立ち、左に私が立ち、私の後ろにマロンが立った。


さて。スケルトン先生は誰に群がるかな?


スケルトンは前衛を迂回して、私も迂回して、後衛に回り込もうとした。

炎帝の後衛の誰かがターゲットらしい。


もちろん回り込ませる訳も無く、全て叩き潰した。

なんか、殆どのスケルトンをウォルフガングと私が潰してしまった様な気がした。


私だって集中攻撃を受けなければこんなもんさ。

・・・と威張る相手がいなかった。




炎帝の斥候からおずおずと聞かれた。



「ビトーさん、あなたは剣士ですか?」


「斥候です」


「斥候でそれだけ戦えるのですか?」


「???」



質問の意図を掴めずに困っていると、ウォルフガングが笑いながら補足してくれた。



「ビトーは斥候だがちょいと訳ありでな」


「訳・・・」


「理由は言えないが、コイツはソフィーから徹底的にしごかれている」


「「「 !!! 」」」


「緊急時には前衛でも後衛でも使える斥候だ」



それから私と炎帝の斥候が最前列に出て、索敵の訓練を始めた。

マロンは後方からの挟み撃ちに備えた。


私は頭の中に地図が入っており、「この辺で出るよな」とわかってしまっているので探知が早い。


炎帝の斥候は聞き耳を立て、気配を感じようと必死になっている。

やはり難しいようだ。



「そろそろあぶないよ」



そう言おうか迷い始めたタイミングで魔物の気配に気付き、手で合図して先頭を炎帝の前衛と交代。

前衛はすぐに交戦に入った。


炎帝の前衛だけでスケルトン共(スケルトン3+スケルトンナイト1)は退治できる。ただし少々時間が掛かる。


その間に炎帝の斥候の相談に乗った。


炎帝の斥候はヴェロニカといった。

女性だった。

私と同じくらいの背丈で、女性冒険者としてはやや小柄な部類。

火魔法が得意で、短剣はあまり得意ではないらしい。



「どこでスケルトンを感知しましたか?」



そう聞かれた私は答えに困った。



「正直に言って下さい」


「あなたが感知した場所から10mくらい手前、かな」


「そんなに?」


「ええ。あなたが感知した場所は、そろそろ敵を目視できる距離でした」


「・・・」


「ここは挟み撃ちエリアですので、ここまで敵に肉薄されると・・・」



後方でマロンのうなり声とウォルフガングが鞘から剣を抜く音が聞こえた。



「後ろは任せろ」



ウォルフガングの声が聞こえた。

私はヴェロニカと顔を見合わせた。


「というわけです」



◇ ◇ ◇ ◇



炎帝のメンバーがスケルトンの魔石を拾っている。

ヴェロニカはしょげている。

魔石を拾い終わった炎帝のメンバーがヴェロニカを慰めているが、なかなか立ち直るのは難しそうだった。


ウォルフガングが聞いてきた。



「ビトー、お前はどうやって斥候の技術を磨いたのだ?」


「私はマロンに教えられたのが大きいですね」


「マロンに?」


「ええ」



マロンは人間よりも聴覚、嗅覚が遥かに優れるので、誰よりも先にターゲットを見つけ、私に教える。

私は「そこにいるとわかっているターゲット」を何とか見つけようとして、五感を研ぎ澄ます内に徐々に索敵範囲が拡がった。



「つまり『あんちょこ』を見ながら勉強したのです」


「何だ、あんちょことは?」


「ああ、こちらの隠語にはなかったですか。 え~とですね、解答を与えられてから問題を解いたのです」


「?」


「マロンに『ほら、そこに魔物がいるぞ』と教えられてから、『どこだ?』と捜したのです。そのうちに慣れて、見つけられるようになるのです」


「ほー。そういうものか」



ウォルフガングが感心していたら、



「私にその訓練を授けてください!」


「え・・・」


「お願いします! 何でもします!」


「おい・・ ヴェロニカ・・」



茶化して良い雰囲気では無かったので、ひとまず了承して、今日は外に出ることにした。



◇ ◇ ◇ ◇



今日はウォーカーのメンバーと、ジョアンとヴェロニカでイルアンダンジョンに潜っている。


私の提案で、2層の階層ボス部屋の先の通路に行くことにした。


だが、まず2層の階層ボス部屋で宝箱探知の訓練をした。


ボス部屋の魔物(スケルトンメイジ×2、スケルトンナイト×3、スケルトン×9)は、ジークフリードとクロエが2人で叩き潰した。

私とソフィーが出張している間に2人とも強くなっている。



ジョアンに聞く。



「この部屋で宝箱を見つけたことはありますか?」


「いや・・・ ないな」


「そうですか。皆さん見つけられずに放置して行ってしまうのですね」


「そうなのか?」


「ええ」


「どうしてわかる?」


「今、この部屋に宝箱が2つあるからです」


「なんだって!」


「ヴェロニカさん。見つけて下さい」



必死に壁際を探るヴェロニカ。

でも見つけられない。


『ザ・宝箱』を見つけるつもりでいると絶対にわからないと思う。


私も最初はメッサーのダンジョンでフェリックスに教えられたっけ。


ヴェロニカに教えた。



「これです」


「岩・・・ でしょ?」



というので、泥棒の七つ道具みたいな奴を広げ、罠の有無を探り、開けて見せた。

中にあったのは初級ポーション×2と中級ポーション×1の詰め合わせ。

ここで出る標準的なアイテムだ。


ジョアンとヴェロニカがポーションを見ている。

ガン見している。

二人ともポーションから目を離せずにいるので、進呈した。



「そんな・・・ 倒したのも見つけたのもあんた達じゃ無いか」


「自力で見つけられなかったのに・・・」



とは言うが、ポーションの詰まった箱から手を離せずにいる。



「まあまあ。 もう一つありますよ?」



途端に真剣に探し始める2人。



「ウチのメンバーは全員わかりますか?」



ジークフリードとクロエは最初に開けた奴しかわからなかったらしい。


ウォルフガングとソフィーとマロンはもう一つもわかっている。


ヴェロニカはわからない。

なのでヒント。



「ヴェロニカさん。あなたの右斜め前にあります」


「えっ!」



ヴェロニカはしばらく目の前の岩壁を睨んでいたが、やがてわかったようだ。

岩肌を撫でている。

七つ道具で罠の有無を確認し、開けると同じ物が出てきた。


ヴェロニカが満面の笑みでポーションの『お返し』をしてくれた。



◇ ◇ ◇ ◇



2層の階層ボス部屋の先の通路。


ここでは3層の魔物、トレントが出てくる。

ここでヴェロニカに索敵の訓練をして貰った。


最初は全然探知出来なかった。

まあ、そうだよね。

私も最初は全然わからなかった。



「向かって左から2番目の木がトレントです」


「えっ」


「よ~く見てごらんなさい」


「・・・」


「・・・」


「ねぇ・・・ なんかおかしいわ」


「そうですね」


「ねぇ、なんて言えばいいのかしら・・・」


「木の魔物というよりも、魔物が木のふりをしているみたいですね」


「それっ! それだわっ!」




「では、一端下がってください・・・」


「はい」


「後ろを向いて、目を閉じて・・・」


「はい・・・」


「振り返ってもう一度索敵をしましょう」


「うん」


「感じるますか?」


「まだわからない」


「一歩近づきます」


「うん」


「どう?」


「まだ・・・」


「ではもう一歩」


「・・・わかった!」


「よくできました。では次ですよ」


「次?」


「一番右端の木は木でですか? トレントですか?」


「ええっ!?」



ヴェロニカは混乱している。



「じゃあ、1本ずつじっくり見ていきますよ。 いいですね?」


「は・・ はひ・・・」



こうして索敵の訓練をして行った。




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