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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
09 スタンピード編
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103話 アノール陥落


メッサーダンジョンを監視していた騎士団員が警告を発した。



「スタンピード発生! サードラッシュ確認! 魔物の主力はオーク」



監視役はすぐに伝書鳥を騎士団本部へ飛ばし、引き続き監視を続けた。


オークはすぐにメッサーあるいはアノールに向かうのでは無く、ダンジョン背後の森をウロウロしていた。



3時間後、騎士団員が再度警告を発した。



「スタンピード発生! サードラッシュに追加あり! 魔物の主力はコボルト」



監視役はすぐに伝書鳥を騎士団本部へ飛ばし、今度は馬に乗ってアノールへ退却した。

コボルトは足が速いため、退路を断たれる恐れがあったためである。



◇ ◇ ◇ ◇



ヨーゼフ国務大臣とミハエル騎士団長の間で作戦会議が持たれた。


「ゴブリンを殲滅した作戦で行きましょう」


「う・・む、コボルトの足の速さが難点なのだ」


「それは一体どのような・・・」


「弓隊が矢を射る間に、魔導部隊が魔法を撃つ間に、肉薄されてしまうだろう」


「では作戦はどのような・・・?」


「今回は弓隊、魔導部隊は城壁の上に配置し、1箇所だけ門を開けて、徒士隊で敵をおびき寄せるのです」


「上からの攻撃で殲滅するのですな」


「ええ。ある程度これでいけると思います」



戦いはミハエル騎士団長が描いた通りに進んだ。


騎馬隊の出番は無く、徒士隊は決して突出せず、自分を守ること、味方を守ること、怪我を負わぬ事だけを念頭に、東門の前で戦いを展開した。


積み上がった魔物の死体は風魔法で門の前からどかし、火魔法で燃やして嵩を減らして戦いやすくした。


魔物は一時の狂騒状態から覚め、城壁に近づくと魔法や矢で一方的に攻撃されることを知り、アノール街を遠巻きにし始めた。


時間は掛かるが、このままサードラッシュも撃退できそうに思えた。



◇ ◇ ◇ ◇



予想外の警報は王宮の厨房からもたらされた。


ヨーゼフ国務大臣を、おずおずと王宮総料理長が尋ねてきた。



「戦時下にこのような質問をすることをお許し下さい」


「うむ。何かな?」


「次の食材の搬入はいつ頃になりそうでしょうか?」


「・・・当方では制限をしていないが・・・」


「さようでございましたか。では商務庁長官殿の方へ確認致します」


「うむ」



商務庁長官と王宮総料理長が話した結果、王宮に食材を搬入していた商人は、全員1ヶ月以上前にアノールを去っていたことが判明した。


王宮総料理長は、最近搬入業者が来ないな、と思っていた。

だが、まだ食料庫に食材があるから良いだろう、と様子見をしていた。


いくつかの食材が底を突きそうになった為、出入り業者に連絡を取ろうとしたが連絡が取れなかった。


なんらかの粗相があって王宮から出禁を受けたのだろうと思った。

以前にもその様なことがあった。

大方「戦だから」といって値段を釣り上げたのだろう。

そう思った。


代わりの業者はいつから納品を始めるか確認しようとして、事態が明るみに出た。


急遽アノールに残る全商人を王宮に集めたが、片手で足りる数しか集まらなかった。

複数の仕入れルートを持っている商人は既に一人もおらず、王都で細々と小売り業を営む零細商家に過ぎなかった。

先日商務庁長官が事情を聞いた “貴族に慣れていない商人” すらアノールを去っていた。


その場にいた全商人に、王宮へ食材調達の指示を出したが、全員首を振った。


この期に及んで足元を見る気か!

商務庁長官がそう問い詰めると、



「いえ、王家に逆らうなんて滅相もありません。無理なんです」


「城外の野菜や家畜は取りに行けません」


「もう魔物に食われちまったでしょう」


「今、城壁の内側にある肉と野菜しかありません」


「魔物に囲まれちまったので、他の街から運び込むこともできません」


「わっしが今晩楽しみにしていたステーキ肉を献上するくらいならできまさぁ」


「いつ頃魔物を退治できますかね」



可能な限りの食材を納入させ、商人達を帰した。



◇ ◇ ◇ ◇



コツコツと魔物を減らしていく作戦は頓挫した。

ミハエル騎士団長は早期決戦を立案し、即実行に移された。



◇ ◇ ◇ ◇



作戦行動は犯罪奴隷隊から始まった。


犯罪奴隷に落とされ、個人の意思を縛られた者達。

これらを2隊に分けた。

数は多いが戦闘は未経験のミリトス教徒隊。

数は少ないが戦闘経験豊富な犯罪冒険者隊。



作戦第一段階。


ミリトス教徒隊をコボルトが多い西門から城外へ出し、西門を閉じ、陣地を構築させ、専守防衛を命じた。


ここの戦場の目的は、


1 個々の戦闘能力は低いが、数が豊富な隊に拠点防衛を命じ、時間を稼ぐ

2 コボルトを西門周辺に引きつける


十分に目的を達した。




作戦第二段階。


東門周辺のコボルトが西門までおびき寄せられたのを確認し、東門から犯罪冒険者隊を突出させ、続いて騎士団も出た。


こちらはオークが集中している。

ゴブリン同様にオークを壊滅させる作戦だった。


オークはゴブリンよりも頑丈なため、遠矢攻撃がゴブリンほど有効に働かない。

そこで犯罪冒険者隊を弓隊の盾役にした。


当初戦況は予想通りに推移した。

遠矢攻撃、魔法攻撃を受けたオークの先鋒が壊乱し、後続の部隊に雪崩れ込んだ。

後続部隊の混乱に拍車が掛かる・・・ はずだった。


だが後続の部隊は混乱とは無縁の連中だった。

奴らは感情を持っていないので混乱のしようが無い。


そこにいたのは大量のゾンビ、そしてグールだった。



作戦が裏目に出た。


弓隊は矢を打ち尽くしており、魔導部隊は魔法を撃ち尽くしていた。

ゾンビ、グールとの戦いは、接近戦は悪手。

接近戦をして傷を負うと毒にやられる。

前衛は専守防衛で傷を負わないのが鉄則。

そして後衛の間接攻撃で討ち取るのが基本。


間接攻撃を使い果たしていた騎士団には攻め手が無かった。

そして数はゾンビ、グールのほうが多い。



城壁の上に配置した戦場監視隊が警鐘を鳴らした。


騎士団と東門の間に入り込むべく、スケルトン部隊が移動していた。

このままでは騎士団は戦場で孤立する。



ミハエル騎士団長は犯罪冒険者隊をゾンビ、グールに突撃させた。

騎士団はスケルトンに突撃した。


騎士団とスケルトンでは、個々の能力は騎士団の方が圧倒的に高い。

特にダンジョンでは無く、屋外なので、騎馬隊がスケルトンを蹴散らす。


スケルトンは数で勝負。

膨大な犠牲を出しながら、騎士団と東門の間に入り込もうと悪戦している。


コボルトはまだ来ない。

西門のミリトス教徒隊は責務を果たしているようだ。


騎士団はスケルトンに突撃。

また突撃。

更に突撃。

もう一度突撃。


力ずくで血路を切り開き、東門に雪崩れ込んだ。

東門を閉めるため、少なくない数の騎士団員が外に残り、門を閉じる時間を稼いだ。


東門を閉じた。

生き残った騎士団は約6割だった。


犯罪冒険者隊は全滅した。




西門から、ミリトス教徒隊は任務を全うして全滅した、と連絡が入った。



この日、アノール攻防戦の趨勢は決まった。




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