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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
01 異世界召喚編
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001話 異世界召喚


県立川良高校。

ここは様々な事情を抱えた生徒が通学する定時制高校。

俺、美島鋼生みしまこうせいもここに通学する一人だ。

年齢は22歳。小さな工場で働く実務経験7年の中堅社員である。

個人的事情で中学卒業と同時に働き始め、かつての同学年が大学を卒業する年齢になって、遅ればせながら高校生を始めた。

そんなことから俺はクラスの異分子ジジイとして存在しており、話題も合わないことからボッチであったが、年齢も年齢なので特に気にならない。

他の生徒も俺同様それぞれの事情を抱えており、それが壁となって同級生同士で広くつるむことは無い。



◇ ◇ ◇ ◇



20XX年の夏休み明け初日。

外回りをこなしてから直接教室に入った俺は、一番後ろの席に陣取り、登校してくる同級生をぼんやりと眺めていた。

スーツ姿だったので違和感があるが実害は無い。教師もうるさいことは言わない。

5名ほどで駄弁りながら教室に入ってくるグループがいた。

それ以外の生徒は三々五々教室に入ってきた。



“それ” が始まったとき、俺は明日の仕事の段取りを考えていた。

ウチの工場で初めて作る試作品がある。

技術的、素材的には一般的な物なので、下っ端の俺が担当する。

用意する材料の種類と個数、機械を占有する時間、発生する音・振動、試作品の精度の測定方法、重量の測定方法、強度の測定方法、合否判定、清掃などを親方と合意する必要がある。

同じ機械を使う正規品の製作工程と被らないように摺り合わせるのが大変だ。


最初は教室内にうっすらと靄が掛かったような気がした。

みるみるうちに靄が霧になり、スモークのようになり、何も見えなくなった。

駄弁っているグループが笑いながら何か大声で叫んだような気がしたが、すぐに静寂に包まれた。

俺は思わず腰を浮かせかけた。

しかし霧が濃すぎて自分の足下すら見えない。

足を踏み出したら奈落へ落ちそうな気がして中腰のまま固まった。


視界ゼロのまっ白な世界。

右も左も、前も後ろも、全く見えない。

だが右隣に誰かいる気がする。

思わず右に振り向いた。だが何も見えない。

正面から誰かに話しかけられたような気がした。

正面に向き直って声のした方に目をこらす。だが何も見えない。

しばらく待ったがもう何も聞こえない。

言葉は日本語ではないような気がした。


霧が立ちこめていたのは2~3分くらいだったろうか。

霧は徐々に晴れていった。

俺の率直な感想は「ずいぶん高性能な霧発生装置だな。服がびしょ濡れになるぞ」だった。

中腰のまま固まっていたことに気づき、改めて立ち上がると・・・ 何か変だった。



ここは教室ではない。

やたらと豪華な部屋だ。

赤坂離宮がこんな雰囲気だろうか。

ひょっとして映画のセットだろうか。

壁、天井、燭台、椅子、テーブル、マントルピース・・・ セットでは無い。

すべて本物だ。重厚感が違う。マントルピースなんて初めて見た。

さっきまで俺が座っていた、学校の簡素な椅子はどこにも無かった。


そして俺を見つめる2つの集団がいた。


1つめの集団は間違いなく貴族。

肩まである豪奢な金髪。

やけに整った目鼻立ち。

生まれてから一度も日に焼けたことがないと思われる白い肌。

東洋人の顔立ちではない。

背は・・・ 男性はみな190cmはありそうだ。

女性は髪を高く結い上げている。

カツラかも知れない。

服装がまた・・・ なんと言えば良いか・・・ ザ・お貴族様。

コントのような服だ。

ひときわ威厳のある男性が巨大な椅子に座り、その背後に護衛らしき者が立つ。

威厳のある男性の右側に非常に有能そうな人物が控えている。

壁際に十数人ほど護衛らしき男たちと女官がいる。


2つめの集団は恐らく宗教関係者。

顔立ちや背格好は1つめの集団と似ている。

だが、申し訳ないが人品は1つ目の集団より一段劣る。

女性が一人。あとは全員男性。

その女性が一番偉そうに見えて、一人だけ椅子に座っている。

女性が纏う服は白一色だが、1つ目の集団よりもっと豪華に見える。

なぜなら白い服に微妙に色合いの異なる白いデコレーションがこれでもかと付けられているから。

男性達の服装は全員修道服で黒を基調に統一感が見られる。

階級によってスタイルが異なるのだろう。服は3種類くらいある。

いずれにせよ黒い集団の中に白一色の女性がいるのだから、その艶やかさが際立っている。


2つの集団は無言で俺たちを見ている。

何だろう?

何か文句があるのかな?

映画の撮影中に邪魔をしたのかな?

でもいち早くすっ飛んでくるはずのスタッフ連中が見えない。

照明器具、音声器具、大道具、小道具が見えない。

何よりも雰囲気が違う。

痛いくらい張り詰めた緊張感。

耳が痛くなるほどの静寂。

俺から声を掛けるような雰囲気ではなかった。



突然俺の右手から同級生の声が聞こえた。


「おい、一体これは・・・」


おお、お前らの存在を忘れていた。

お前らもいたのだったな。


「一体これは何のマネ・・・」


「控えろっ!」


貴族と思われる集団から怒号が上がった。



◇ ◇ ◇ ◇



一触即発になるかと思われた。

実社会では一度も見たことが無いが、安い作りの学園ドラマでは耐え難いほど軽薄な男子生徒が登場し、周囲をわざとらしく挑発し、大立ち回りが始まるパターンだ。

だがそんな雰囲気は一切無かった。


それはそうだ。

貴族の集団、聖職者の集団と、我々県立川良高校の高校生では、体格が大人と子供ほど違う。

そして貴族の集団、聖職者の集団からにじみ出る雰囲気が、日本人のそれとは全く異なっていた。


うまく言えないが、


『不始末があれば命で贖わせるのは当たり前』

『お役目の為に人を殺すことは当たり前』

『既にお役目で何人もの命を奪っているが何か問題あるか?』


とでも言えば良いだろうか。


ガサツな口のきき方をした男子生徒を大声で黙らせたが、さほど咎める口調ではなかった。普通の顔で普通の注意をしただけのようだ。

それを聞いた私が怒号を浴びせられたように感じただけだったようだ。



最初に場を支配したのは貴族の集団だった。

言葉、所作などが高度に洗練された一人の貴族が進み出て、我々の置かれた状況を説明してくれた。なんだか声までまろやかだった。

簡単に言うと、我々は異世界に召喚されたらしい。

転生ではない。

召喚だ。

たしかに体も意識も元のままだ。

極めて高度な技術が使われ、想像を絶するエネルギーが費やされたに違いない。

そして彼の話す “日本語ではないどこか外国の言葉” が自然と理解できた。


ただし「召喚された」と聞かされてもピンとこなかった。

眼前の貴族の集団、聖職者の集団から『未来』を感じられないのだ。

むしろ過去のような気がする。

大昔の地球に飛ばされたのではないか?

それとも火星か?

ひょっとするとパラレルワールドか?

違う星だとしたら、この星は銀河系にあるのか?

いや、そもそもここは星なのか?

宇宙ステーションかスペースコロニーのような場所か?

ここの空気は我々にとって安全か?

食べ物は安全か?

水は安全か?

スギ花粉は?



地球以外の星で生物が生まれた場合、地球の生物と同じような姿形に進化することは100%ないと聞く。

確かに目前の貴族の集団、聖職者の集団は、県立川良高校の高校生とは比較にならないほど美しく、偉丈夫だ。だが同じ人間だ。

目は2個、耳は2個、鼻の穴も2個、腕は2本、足も2本、指は5本。

言葉も通じる。

なぜ言葉が通じるのかわからないが、言葉が通じて内容が理解できると言うことは、脳の構造が同じなのだろう。


後で聞いたら俗称「異世界パック」という異世界召還の仕様らしい。

異世界の話し言葉、書き言葉が理解できるように、脳の言語野に必要な情報が書き加えられる。

ここでポイントなのは、書き加えられる、ということ。

日本語で使っていた言語野に上書きされるのではない。


ああ、もうわからない。

考えることを放棄したくなった。




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