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17.

一夜明け、王宮は騒ぎになっていた。


 王太子妃候補を出した家であるフォーコネ男爵家は、国内に怪しげな薬を広めたとして逮捕され、王太子妃候補でもあるレシャも同様に逮捕された。


 イブリースとアンジュは、レシャをかくまおうと提案したが、彼女自身が、自らの罪は自ら濯ぐと言い、男爵の元へと帰ったのだ。


 レシャが戻るまで彼女の母を大切に保護する。と約束したアンジュに膝まづき許しを請うた彼女は、晴れ晴れとした顔をしていた。


 イブリースに薬を飲ませた王妃は、取り調べのため宮に謹慎となる。


 しばらくは、イブリースも飲ませれていた薬の影響を調べるために王宮医の元から離れられなそうだ。



「試験までには学園に返してもらえそうだよ」



「そうですか」



 薬の影響で、しばらく意識が混濁するときもあったイブリースだが、王宮医とアンジュの献身的な看病で、今は持ち直している。



「ラベー公爵に課せられた条件も、達成しなくてはならないし。頑張らなくてはね」



 と、戻ってしまったお腹をポンと叩く。



「絶食などはしてはなりませんよ。健康的な食事でお痩せくださいませ」



 枕元でアンジュが剥いたウサギ型のリンゴを一口齧る。


 謹慎が解けたら王妃にも会いに行くというアンジュに、口の中が苦くなる。


 王妃が、あそこまで乱心したのはラスールを喪ったことだけが原因ではなかっただろう。


 今回の事件を裁くとき、王妃の夫である王は、何の関心もなさげに彼女に謹慎を言い渡した。


 王と王妃は、イブリースが覚えている限り冷えた間柄だった。


 仮に、王妃がラスールを喪った時。王が王妃に少しでも寄り添う姿勢をみせていれば、まだ、希望はあったのではないか。としゃりしゃりとリンゴを噛みながら考えてしまう。



「アンジュ……僕たちは、仲のいい夫婦になろうね」



 夢中になってリンゴを剝いていたアンジュは、突然の台詞に、きょとんと顔をあげ、不敵に笑う。



「試験の結果によりますわね」



「そ……そんなぁー」



「わたくしに婚約破棄を突きつけ、傷つけたのですもの。この程度の試練、当然ですわ」



 剥いていたリンゴを脇に置き、情けなく眉の下がったイブリースの頬に手を当てる。



「アンジュ……僕を捨てないで」



 いたずらっぽく呟かれた言葉に、ふふっと笑ったアンジュは、唇に唇を重ねることで、答えを示した。



「試験のラスボスはわたくしですからね。わたくしを倒してくださいませね」



 ほんの少し触れただけで、パッと唇を離したアンジュは、その場に立ち上がり戦線布告する。


 イブリースは、真っ赤になりながらコクコクと幾度も頷いた。


 よし。と呟いてぷいと後ろを振り向いたアンジュの耳も、ほんのり赤い。


 自分だけがアンジュに翻弄されているのか。と思っていたイブリースは、赤くなっている彼女の耳を見て、笑い出す。



「な……なんでお笑いになりますの?」



「いや、僕の未来のお嫁さんは、可愛いなって」



 笑い出したイブリースに、アンジュは珍しくうろたえる。


 そんな姿も可愛くて、思わず笑顔が零れた。



「まだ、未来の嫁とは決まっておりませんわ!」



「はいはい。僕の愛しの、ラベー公爵令嬢」



 ボン。という音がして、アンジュが真っ赤になり、覚えてらっしゃいませ。という捨て台詞と共に、その場から逃げ出した。


 しばらく寝台の上で笑っていたイブリースは、はぁと息をつき、再び参考書に取り組み始めた。


 欲しいものを手に入れるために、自分自身で努力するために。



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