体育祭編6話 火神家の次女
胸ぐらいまでの長さのある髪をとかしながら鏡をみる。今日は兄さんの体育祭の日だ。
「りさー!!アタシのリボンのヘアゴム知らなーい!!?」
一階から元気な声が聞こえてくる。
「洗面台にあったー………!」
たくっ、よく朝からあんな大声が出せるな。私はそんなことを考えながら髪を二つに分けて結ぶ。
兄さんは嫌だろうな、学校行事に家族全員で来られるなんて………。私は数日前を思い出していた。
今日の夜ご飯はハンバーグ。私は一口サイズに箸で切ったハンバーグを口に運ぶ。美味しい。
「ねえ、お兄ちゃん!」
「んー?」
莉恋は明るい声で兄さんに問いかける。ハンバーグを頬張りながら返事をする兄さん。特に何かを気にしているような様子ではない。
「今度中学校で体育祭があるんでしょ!?行っても良い!!?」
「はぁ!?なんで知ってんだよ!?」
急に声を荒げる兄さん。それに私は少しビクッとす
る。
「リビングにプリント置いてあったから!」
「あー。ちゃんと母さんに手渡ししておくべきだった!」
兄さんは焦っている。まあ、中2の男子はこんなもんか。でも私は莉恋の言った言葉に少し反応する。体育祭、兄さんの学校での様子なんかが知れるってことだ。
「あら。今年も行くつもりはなかったけど莉恋が行きたいなら行く?」
『いいの!?
ダメダメ!!』
お母さんの提案に莉恋と兄さんは同時に反応する。それに対してお父さんは
「なんだ〜琉。そんなに恥ずかしいのか〜。恥ずかしがらなくても琉は父さんに似てかっこい______」
「ちょっと黙って!!?」
だんだんと顔あたりが赤くなってく兄さん。そんなの気にしないでおねだりをする莉恋。普段だったらそんな会話興味がなく、パパッとご飯を食べて部屋に戻る私だが、今回は違う。私は知っている。兄さんが私達家族に何か隠し事をしていることを。兄さん、やっぱり長男だし、思春期だし、何か家族には言えない悩みがあるんだ。何か役に立ちたい。だって私は兄さんの家族だし……。兄さんの秘密を知るためにはやっぱり兄さん自身を知ること………!
「私も…………行きたい…」
『……………………』
みんなが私を無言で見つめる。最初に話し始めたのはお母さんだった。
「珍しいわね、莉桜がそういうのに行きたがるなんて……………」
「ま、まぁ。」
「あぁ〜!莉桜が自分の意見を言ってくれるなんて!父さん嬉しいよ!!」
この人はほんとすぐに泣くな……。
「莉桜……何かあったの?」
兄さんが不安そうに聞いてくる。素直に兄さんのことを知りたいっていうのはまずいよな。
「別に……そういう気分なだけ………」
こんなことを言うと勘違いされそうだが、私は兄さんが好きだ。もちろん莉恋やお母さん、お父さんのことも。好きな人の役に立ちたいのは当然のことだろう。
「ね!りさもこう言っているし!体育祭!行ってもいい!?」
「…………………」
イエスともノーとも兄さんは答えず、ハンバーグを口に入れる。兄さん優しいし、普段はこんなこと言わない私が「行きたい」って言ったら「嫌だ」って言いづらいだろうな。でも、私は兄さんを知りたいんだ。
「…………だめ、かな……?」
「…………まぁ。好きにすれば………?」
はじめに軽くため息をついた後兄さんは目線を逸らしてそう言った。
今日私は兄さんの秘密を探る。少しでも…兄さんの役に立てるように。
***
ここが兄さんの通っている学校、確か正式名称は………中高一貫私立暁学園。確か兄さんが公立の中学校に入学せずにわざわざここに入学した理由は何だったか。私達が通っている小学校から暁にくる人はちらほらいるけど、そんなに家と近いわけでもないし、兄さんだって実際家から電車で長い時間をかけてここに通っている。あぁ、思い出した。「小学校の先生達に薦められた」って言ってたはず。兄さんは成績優秀だ。それこそこの暁学園は日本内でもかなりレベルの高い学校だ。先生達に薦められることなんてそうそう起きることじゃない。やっぱり兄さんはすごいな。私は少し頰が緩む。
「りさ何かあった?」
「え…?」
「なんかニコニコしてる!」
満面の笑みで莉恋はそう言ってくる。兄さんのことを誇りに思ってた、なんて言ってもただの変なやつだよね。まあ、実際私は変なんだけど……
「なんでもないよ、」
「ふーん。ならいいや!それより楽しみだね!」
「ちょっとだけね…。」
「素直じゃないなぁ〜」
莉恋はこんなふうに言ったけど、実際私は楽しみは少ししかない。私が今日ここにきた理由は紛れもなく兄さんの秘密を探るため。学校での兄さんの様子を知るんだ。
休憩時間に入った。お父さんが「少し琉の様子でも見に行くか?」と言ったことをきっかけに私たちはレジャーシートを敷いた場所から立ち上がり移動を開始する。兄さん、私たちがあそこの席で競技見てたって、気づいてたかな?莉恋がノリノリで前方を小走りで行く。
「あ!いたいた!お兄ちゃーーん!!!」
莉恋は通る声を響かせる。私もチラリと兄さんのいる方を見る。兄さんと、緑がかった髪をまとめている綺麗な女の人、その人とはまた違う緑がかったはねた髪をしている男の人、グラデーションのボブの少し小柄な女の人。仲良さそう…、よく一緒にいる人たちなのかな?
「あ、」
兄さんが軽く小声で呟く声が微かに聞こえる。チラッと兄さんと一緒にいる人たちがは兄さんの方をみる。
「お兄ちゃん!この学校の体育祭、すっごいね!小学校と全然違う!去年は用事があって来れなかったから今年くるの楽しみにしてたんだけど、想像以上だよ!!」
「そ、そうかー、!それは良かったなー…」
少し気まずそうな兄さんに全く気づくこともなく莉恋は話し始めた。そんな莉恋に対して少し棒読みで兄さんが返事をする。
「ちょっと莉恋。そんなに慌てないの。琉のお友達だっているのに。」
お母さんが軽く注意をする。でも私はそんなことを気にしている暇はない。だって兄さんの秘密を知っているもしれない人たちが目の前にいるんだ。何か情報を引き出したい。
「あっ、そっか。ごめんなさい」
莉恋が3人にに軽くお辞儀して謝る。
「ごめんなさいね。うちの子が……」
お母さんも3人にに少し腰を曲げる。
「いえ!全然!気にしてないので!」
「うんうん!」
ボブの人と緑の男の人が言う。お母さんは「そう?」と、軽くいい、手を頬に当て首を傾げる。
「琉の家族?」
「あー、うん。」
まとめ髪の人が優しそうに微笑みながら兄さんに問うが、兄さんは歯切れの悪そうに頷くだけ。あー、やっぱ兄さんからしたら友達?と、家族が自分の前で会うのは嫌なんだろう。察しがお世辞にも良いと言えないお父さんは口を開く。
「なんでそんなに歯切れが悪そうなんだ!父さん悲しいよ!琉!」
「ほんとに父さんはうるさいなー!中学生男子ってこんなもんだよ!!」
兄さんはすごく優しい。だから私はこうやっていかにも思春期みたいな反応を兄さんがしているのは少し安心する。
「まあまあ、お父さん。琉もそう言う時期なのよ。お友達の前だしね〜。」
「母さんもちょっとやめてよ。」
いつも通り優しく微笑むお母さん。兄さんは少し顔を赤らめてジト目でそんなお母さんを見つめる。初めてだ。そんな兄さんの表情を見るのは。やっぱりきてよかった、知らないことが知れそう。そんなことを考えている内に兄さんは緑の男の人に肩を組まれニヤニヤしながら揶揄われる。
「何ぃ〜。琉ちゃん照れてるの〜!」
「うっさい!直人!後その呼び方やめろ!」
「ふふっ」
これも、知らない。似たような状況なら何回か経験あるけど、兄さん、何か違う。そんな2人の様子を見てボブの人もも笑っている。まとめ髪の人もだ。声には出さないがそんな3人を見て微笑む。あぁ、やっぱり、多分知ってるんだ。この人たちは。
「…………………お兄ちゃんの友達?」
莉恋が喋り出す。
「え、あ、うん。そうだけど……」
「良かった。兄さん友達いたんだ。」
「どういう意味だよ!!?」
思わず私は声に漏れる。兄さんはいつもの兄さんの反応を、見せた。やっぱり、何か違う、家族と友達では。でも、一体何が___
「私、青龍院里恵って言います。よろしくお願いします。」
急にボブの人が軽くお辞儀をして、自己紹介をする。里恵?さんは緑の人たちの方を見て、2人も軽く笑って話し始めた。
「オレは玄武直人。琉とは部活もおんなじなんです。」
「私は草薙祈です。」
軽く驚いたけど、これも兄さんを知る第一歩。多分数秒沈黙が流れたがすぐにお母さんが話し始める。
「まあ、丁寧にありがとうございます。わたしは琉の母です。みんなは琉のお友達?いつもうちの琉と仲良くしてくれてありがとね。」
「いえ、オレらも琉にはいつも助けられてるんで。」
「琉も友達の役に立ててるのか!父さん鼻が高いよ!」
お父さんが嬉しがって泣く。えっと、祈さんと直人さんは少し困りながらお父さんを見る。
「ごめんなさいね。この人少し親バカ?ってやつで。」
「いえ。。」
少し天然が入っているお母さんはニコニコしながら喋る。性格、多分里恵さんは社交的。明るくて、そう!学級委員長とかやってそうなタイプ。直人さんは確か兄さんと同じサッカー部、何だよね。じゃあそれなりの運動神経はあるだろうな。暁のサッカー部、中等部も高等部も強いし。逆に勉強は苦手そう(暁学園内での話し。入学できている時点でかなり頭は良い)、結構ヘラヘラしてそうな、里恵さんと真逆って感じかな。で、祈さんは…………。私は祈さんの方を見る。暗い灰緑色の髪。白く赤みがかった肌。少しピンク味がある青っぽい瞳。………綺麗な人。
「ほら、あなた達も。」
急に背中を押されて、びっくりする。私はすこし口籠もった後、自分の名を喋る。
「火神、莉桜………です……」
あまり初対面の人、それも年上の人と話すのは慣れておらず下を向いたままになってしまった。声も、聞きづらかっただろう。
「火神莉恋です!」
莉恋がいつも通り明るく話す。いいな、コミュ力あって。
「りさとは双子なの!今小学6年生!あ、りさとは双子だけど一応アタシがお姉ちゃんで!__」
「ちょっと莉恋。そんなことまで言わなくていいよ……」
長々と話す莉恋を止めに入る。ほんと、すっごい話すの好きだよね、莉恋。私はあんま好きじゃないよ。
「小6………じゃあ二人も来年から暁学園ここにくるの?!」
里恵さんが明るく私たちに聞いてくる。私はは里恵さんの方を見る。暁……。でも、私の成績じゃあ無理だよね。小学校内では学年でも上位の成績だけど、暁に入れるほどでもない。兄さんの秘密を知れる可能性も大きくなるし、興味はあるけど。それに_____
「いや、アタシたちは公立の中学校にそのまま入学するから暁あかつきには入学しないんだよね。」
「……………莉恋が、公立に行くなら、私もそこに行きます。」
「そうなんだ…………」
私と莉恋は双子だもん。一緒じゃなきゃ、変だよね?
「まもなく休憩時間が終わります。次の競技の選手、係の方は準備を始めてください。」
放送がかかる。お母さんはいつものように頬に手を当てながら口を開く。
「あら、もうそんな時間なのね。それじゃあわたしたちはお暇いとましましょうか。」
「そうだな。あんまり長居しても琉達に迷惑だろうし。」
「ほら莉恋、莉桜、レジャーシートのとこまで帰るわよ。」
『うん!
わかった……』
「それじゃあね。みんな頑張って、!」
私は軽くお辞儀をしてその場を後にする。何か手掛かりになりそうなものは掴めた。あの3人、里恵さん、直人さん、祈さんは兄さんの秘密を知る重要人物だ。おそらく普段もあの4人で行動しているのだろう。これはいい情報だ。
***
次の競技は借り物競走。SNSなんかでよく見るラブイベント、ってやつだ。そういう展開を楽しみにしている生徒も何人かいるんだろうな。
「お待たせしました。それではプログラムNo.6。借り物競争です!」
選手達が入場してくる。その中で最後尾にいる見覚えのある人を見つける。「あ」と、軽く声に漏れる。
「いのりちゃんだ!りさりさ!いのりちゃんだよ!!」
「そう、だね……」
莉恋がいつも通り通る声で騒ぐ。最後尾、アンカー、なのかな。
「一番後ろだしアンカーなのかしらねぇ。」
「中2でアンカーを任せられるなんて、あの子すごいんだな。」
お母さんとお父さんも盛り上がる。
祈さん、隣の緑団の人と喋ってる。祈さんの喋ってる感じとか、身長とか(座ってる中で)、祈さんとそんな歳が離れてるように、というか、年上には見えない。中1、なのかな。でも、だとしたらすごいな。6学年ある中で、一番下の学年なのにアンカーになるなんて………。
「誰か赤ペン持ってないー?」
「身長170cm以上の奴!!」
考え事をしている内にリレーは始まっていて、走者がお題を読み上げていた。すっごいお題の内容が幅広いな。物から人まで、多種多様だ。
「お題は水筒!合格です!」
放送でお題を読み上げられ合否が発表される。祈さんや兄さんの青団が今は一位で順調だ。
「がんばれー!」
莉恋が声をあげて応援する。ほんと、陽キャだな。
「緑団のお題はメガネをかけている人!合格です!」
緑団が次の人にバトンがまわる。って、何あの人、すっごい速い。一位だった青団とは簡単に抜かせるような距離じゃなかったのに……。あんな、速い人、初めてみた。
「ここで緑団が抜かしました!さぁ緑団のお題はキャップ!合格です!」
誰よりも速くゴールして、誰よりも速く立ち位置に戻っていく。一番レーンにいた時間が短かった。
「すごい………」
「…………だね!!」
思わず声に漏れたが、莉恋が少しびっくりした後明るく頷く。
「青団のお題は先生!国語の山田先生を連れてきて合格です!!」
抜かされちゃったけど、まだ追いつけない距離じゃない。
緑団、もうすぐアンカーにバトンがまわる。“あの人”は、やっぱ足速いのかな、アンカーだし。チラリと私は“あの人”の方を見る。あ、祈さんとグータッチしてる。それも、笑顔で。敵チームなのに……それにそういうのって終わってからやる物じゃないのかな?なんて考えながら私はまたリレーに集中する。
「緑団!お題はバスケ部の人で合格です!緑団が最初にアンカーにまわりました!!」
“あの人”は走り出した。すごい、さっきの人の方が多分速いんだろうけど、あの人もすっごく速い。うーん、運動部なのかな?
「青団もやってきました!お題はリボンのアクセサリーで合格です!青団もアンカーにバトンがまわりました!」
あ、祈さんも走り出した。緑団は今お題箱ら辺だから、お題次第、って感じかな。
緑団の人はお題の紙を見て軽くフリーズした後、生徒席の方まで走って行った。“あの人”はどんなお題をひいたんだろう。って、女の人の手首を掴んでいるじゃん。え、そ、そういうこと、?
「見て!りさ!緑の人!女の子の手を引いてるよ!」
「うん、そうだね。」
周りもキャーキャーと黄色の歓声を上げる。
その光景を見つけた祈さんもびっくりして少し困惑しているんだろう。周りをキョロキョロと軽く見渡した後、シャキッとし直し祈さんはお題箱に手を突っ込んだ。
祈さんは少し驚いた後、軽く目を瞑り考え、走り出した。
へ、兄さんの、前?祈さんが走って行った場所は兄さんの前だった。あまり表情を変えない祈さんとは反対に、困惑を隠せていない兄さん。お題……何だったんだろう。祈さんは兄さんの手首を掴んで走り出す。周りの同級生達も「え、え」と困惑しており、莉恋やお母さんは興奮し、お父さんは驚きが目に見えてわかりやすかった。
兄さん………。
「ちょ、ちょっと祈!」
「!!」
祈さんが掴んでいた腕を兄さんは振り解く。兄さんは何かに焦っているように見える。
「お題……なんなのさ!!」
「……いいから、ついてきて。」
でもそんなの気にしないかのように祈さんはまた兄さんの手首を掴み、下から兄さんを除いた。そこからは止まったりすることはなく、表情を変えないけど、真剣そうな表情の祈さんと、困惑や不安など様々な感情を抱いてそうな兄さんはゴールまで走りきった。
青団のゴール順は二位。一位は緑団。緑団も青団もお題が気になる。何かに私は気づきかけるが、それは気のせいだと思うことにした。
「さーて一着でゴールした緑団のお題はー?」
アンカーは全員が揃ってからお題があっているか判定をするらしい。全員がゴールをし、多くの人が緊張を抱えながら結果発表の時間がきた。緑団のお題は、何なんだろうか。
「大切な人です!」
ドワっと周りが歓声を上げる。大切な人ってだけでそんな盛り上がるの?その大切がどういう物なのかわからないのに?………………なんか、“あの人”可哀想だな。
司会の人はマイクを“あの人”に近づける。
「なんで彼女を連れてきたんですか?」
「…………………まあ、幼稚園入る前からの付き合いで、大切な幼馴染なんで………」
「幼馴染……?」
「はい」
ほら。勝手に盛り上がりすぎなんだって……。周りが少し静かになっていく。さっきまで不安そうにしていた女の人も軽く驚いていた。
「まあ、俺今日家族来てないし、クラスの人とかとあんま関わるタイプでもないんで………」
“あの人”は表情をひとつ変えないで首元に手をやり、話した。女の人は少し悲しそうな顔をした後にすぐに笑顔になり口を開いた。いったい、その短時間で何を感じて何を考えていたんだろう。
「急に手を引っ張られたからびっくりしちゃったよ!お題も教えてくれなかったし!」
「ごめん、目立つことして…」
「全然!!役に立てたなら良かったよ!だってわたしは優真にとって“大切な幼馴染”らしいからね!」
「うん。ありがとう」
今女の人、“大切な幼馴染”という言葉を強調するかのように話した?私がそう聞こえただけかな。
「合格、でいいですか?」
「へっ?あ、は、はい!!緑団!お題は大切な人で一位でゴールです!!」
“あの人”が司会の人に聞き、合格をもらう。緑団の人たちはワッと盛り上がる。まあ、想像とは違ったかも知れないけど、一位は変わらないし盛り上がるのも当然はだろう。
「ナイス成瀬!!」
「さすがサッカー部!」
そんなような歓声が周りから聞こえてきた。へぇ、“ナルセくん”って言うんだ。サッカー部なら兄さん知ってるかな。
「続いて二位でゴールしたのは青団です!連れてきたのはえっと…………」
あ、青団の番。どうしよう、私がすごく緊張してきた。
「中等部2年火神ひがみくんです!さーてお題は________」
「……………………」
兄さんも少し緊張しているようだった。莉恋もお母さんもお父さんもドキドキしていると思う。兄さんは不安そうな表情でお題の紙を見つめる。司会の人が紙を見て、少しハッとしたような表情を見せた後、すぐに笑顔になって明るく話し始める。
「“感謝を伝えたい人”です!」
「………!!」
兄さんは驚いてすぐに祈さんの方を見る。兄さんの表情は少し安心が混ざったような、でも驚きを隠せないようなそんな表情だった。
「草薙さん!感謝を伝えたい人とのことですが、一体どんな感謝を伝えたいんでしょうか!?」
「………………………」
兄さんに感謝………。何か、秘密の手掛かりになるかも、よく聞いとこう。
だが祈さんは長い間少し考え事をしているようだった。私はその間、勝手にドキドキが止まらなかった。
「あのー草薙さん?」
司会の人が待てずに聞く。正直私もこの気持ちのまま耐えるのはしんどかったので少しありがたかった。祈さんはいったい、なんて答えるの?
「私は一年の頃、人と関わることを避けていました。」
「!?」
兄さんはさらに驚いて祈さんの方を見る。司会の人は微笑みながら祈さんにマイク差し出した。
祈さん、目立つタイプにも見えなかったけど、そんなふうにも見えなかったから、意外。
「でも、そんな独りだった私に、琉はよく話しかけてくれました。なんてことのない話をよく私にしてくれて、孤独だった私の手を引いてくれたんです。」
兄さんが、手を…………。
「………………だから……ありがとう……琉!」
「!!」
軽く祈さんの声をマイクが拾う。相変わらず驚いたまま固まっていた兄さんの顔はフワッと微笑みに変わった。そんな表情、私見たことないよ、兄さん。
「…………あの時の君にとって、あれが救いになったのであれば、これ以上に嬉しいことはないよ」
兄さんの声も軽くマイクが拾う。兄さんは司会の人にマイクを渡し、司会の人は明るく話し始める。
「青団のお題、感謝を伝えたい人!合格です!!」
周りがワッと盛り上がった。拍手が所々から聞こえ、「いいお題だね。」とか、「素敵な関係ね」とか、そんな話し声が耳に入ってきた。
「うわー!琉!お前がいい子に育ってくれて父さん嬉しいよ!!」
「もう、あなたったら」
お父さんが泣き、そんなお父さんにハンカチを渡すお母さん。お母さんもとても嬉しそうな表情だった。莉恋も普段とは違う笑顔で兄さんを見ていた。
みんなは気づかないのかな?結構分かりやすかったと思ったんだけど………。
緑団の2人と話しながら笑っている兄さんと祈さんを見て私は少し不思議な気持ちになる。
兄さんは多分、ううん、絶対、祈さんのことが好きなんだ。とはいえ、まだ秘密は分かってない。あの3人、特に祈さんは兄さんにとって大きな存在。多分秘密にも大きく関わってくると思う。祈さん達ともっと関わりたい、そのためには何だってする勢いでいかないと。私は兄さんの助けでないといけない。
だって私は兄さんの家族なのだから。




