体育祭編 1話まだまだ知らない
「___で______だから____」
「…………………………」
黒板の前で堂々と話すのは里恵。流石学級委員。私は感心する。里恵の話している内容をほどほどに聞き、私は外の景色を見る。
時期はまだ5月だっていうのに、昼間は暑くてたまらない。クラスのほとんどが制服のブレザーを脱ぎ、ブラウスやカーディガンなど、薄着になってきた。かくいう私も長袖ブラウスを捲っている。私の席は窓際で日が当たりやすいから暑いのだ。
今クラスで話しているのは体育祭について。私が聞き取った情報と、去年の感じからして、今年も4チーム。中高合同で行い、開催は土曜日の1日。色決めはまた今度の中高合同会議の時に決めるらしい。種目は大きく分けて3つ。団演技、選抜リレー、選択種目。選択種目は1人必ず1つは出ないといけないらしい。
めんどくさーい。私はそう思い、姿勢を崩す。何もこんなあっつい時期にやらなくてもさー。
「それじゃあ、起立」
ガタ
「!」ガタッ
里恵の号令……気づかなかった……。
「気をつけ、礼」
『ありがとうございましたー』
キーンコーンカーンコーン
同時にチャイムがなり次々に教室から出て行く。私はまた席に座り外を眺める。
「いっのりー!!」
「!?もぉー直人!?」
「イッヒヒー!」
直人は面白そうにニコニコとこちらを見てくる。
「もぉ、部活は?今日ないの?」
「あぁ。まぁな。」
「祈ちゃん!?」
『!!』
振り向くとそこには里恵がいる。私は少し呆れて口を開く。
「ほんとに人の後ろに立つのが好きだねー。どっちも。」
「そんなことどうでもよくって!ちゃんと話は聞いてたの!?」
「聞いてたよー。私をなんだとおもってるの?」
「聞いてたのならいいんだけど……じゃあ!選択種目は何に出る?!」
里恵は目を輝かせながら聞いてきた。
「うぇー。まだ決めてないよ……。」
「ふーん。直人は?」
「よくぞ聞いてくれました!!オレは綱引きと台風の目に参加します!!」
「りょーかい。一応言っとくけどまだ確定ではないからねー。人数には限りがあるからー」
「んなことわかってるワイッ!!」
「………琉と直人は確か応援団もやるもんね。」
「そうだよ。」
『!!』
琉はいつものようにニコニコしながらこちらにきた。
「里恵は実行委員だもんね」
「そうよ。学級委員は全員実行委員になるの」
「絶対勝とうな!琉!!」
「あっはは!直人がいつにも増して熱いねー!」
「ほんとだよ。一緒にいるだけで汗が出そう……」
そんなどうでもいいような、当たり前のようなことで私達は笑い合っている。この時間が、私はすごく愛おしい。でもまぁ、できることならそんな風に感じたくないけど。
「_りちゃん……いのりちゃん…………!祈ちゃん!」
「!」
びっくりした。里恵が私の名前を呼ぶ。
「な、何?」
「いや、なんかぼーっとしてたっていうか、いつもと少し違ったっていうか……」
里恵は琉や直人と目を見合わす。二人も少し心配そうにこちらを見てくる。
あぁ。学校であんなこと考えるのはミスったな…。
「ごめんごめん。ちょっと考え事!」
「なら、いいけど。」
「なんかあったらすぐ言えよー。」
「うんうん」
優しいな。みんな。
「ありがとう。」
でも、今度からはミスらないようにしないと。
ピコン!
『!』
誰かのスマホの通知がなる。
「わりぃオレだわ」
「アンタ、話し合い中は通知ちゃんと切ってたでしょうね?」
「切ってた切ってた!」
ま〜た里恵と直人が言い合ってる。少し笑えてくる。
「それで、なんだったの?」
琉が直人に尋ねる。私も気になり直人の方を見る。
直人はポケットからスマホを取り出し、確認する。
「あ〜。ばあちゃんから。スーパーで卵買ってこい!って!」
直人はクシャッと笑う。
おばあさんと暮らしてるなんて、知らなかった。
「へぇ〜。じゃあどうする?もう解散でもいいけど……」
「そうね〜。直人。アンタあの家から1番近いスーパーに行くつもり?」
「?そうだけど……」
「そう。じゃあ解散にしましょ。今日火曜日でしょ?だったらあのスーパー5時半から卵が安くなるはずよ。売り切れないように早めに手にとっとくのよ。」
「あぁ〜。そう言えばそうだったな。ありがとな」
「!……………いや、別に…」
里恵は直人から目線をずらす。まあ私も少しびっくりしたけどね、だってあの直人が爽やかに礼を言うもんだから。琉も、多分同じでしょ。
「じゃあ帰ろうぜ」
「うん。そうだね」
琉の言葉を聞いて私も机から立ち上がった。
帰り道
琉と直人とは別れ、里恵と帰路に立っていた。私はふと直人の言っていたことを思い出し里恵に聞いた。
「そう言えば、直人っておばあさんと暮らしてたのね。」
「あぁ〜。昔はご両親と3人暮らしだったわよ。でもお父さんが仕事の都合で結構遠くまで行くことになって家を出るから、それでおばあちゃんがきたっていってたわ。」
「へぇ〜。じゃあ今は3人暮らし?」
「いや、おばあちゃんと2人だった気がさるわよ?お母さんがいつ家から出たのかは知らないけど………小学校の卒業式に参加してたのはおばあちゃんだったし、お母さんも結構仕事バリバリにこなすタイプの人だったから、出張とかかもね。」
「ふーん。」
ご両親と暮らしてないんだ。悲しくなったりしないのかな?まあ、悲しむタイプにも見えないけど………。みんな多分、何かしら抱えている。優しい琉も、しっかりしている里恵も、おちゃらけている直人も、みんな。
「あ、そうだ祈ちゃん!」
「?」
里恵はほんとに急に喋り出す。結構慣れたが、かなりびっくりする。
「ちょっと荷物置いて、着替えた後私の部屋に来てくれない?」
「?いいけど……」
数分後
「わぁ!」
私は里恵の部屋のキッチンに連れ出され、置かれていたそれに目を見開かせる。
「美味しそうでしょ?」
「うん!」
ずらりと並ばれていたそれは刺身。里恵一人暮らしの量にしてはかなりの種類と量があった。
「親戚に漁師がいてね。旬だからって、たくさん送ってくれたのよ。刺身として食べるのがおすすめだって言ってたんだけど、流石に1人でこの量はきついじゃない?でも、刺身で食べるならあまり日も持たないしって困ってたの。」
「え、いいの?こんな豪華な…」
「いいのいいの!むしろ食べてください!手巻き寿司パーティーしよ!?」
里恵はニシシッと笑う。少し、似ている、直人と。
「うん。ありがとう。」
私はそう言って、準備を手伝う。
私達は手巻き寿司を食べる。
「すごく美味しいよ!」
「ほんとよねー!」
「そういえば、親戚が漁師って言ってたわよね?ここから海って結構離れてると思うけど……。」
里恵はもぐもぐしながら私の話を聞き、私が話し終えて少し経った後にゴックンと飲み込み口を開く。
「あぁ!お母さんのお兄ちゃんなの!私からしたら叔父にあたる人ね〜!」
「へぇー。」
「もとは結構名家で、本家分家とか結構気にする家柄だったんだけど、叔父さんが本家とか分家とか気にする必要ないって、人はみんな等しく愛おしいんだよって」
「へぇー……すごい人だね。」
「うん。まだあっちの漁師チームの中では結構若い方なのに、頼りにされている人なの。叔父さんの息子、私の従兄弟も父さんみたいなすごい人間、すごい漁師になるんだ!って頑張ってるの。」
「ふふっ。そりゃ憧れるよね」
「本当に。お母さんもすっごい慕ってるよ。もちろん私もね。」
「………そっか。」
里恵の部屋、玄関
「ご馳走様でした。」
「いえいえ!片付けまでありがとう。また学校でね!」
「うん。また明日。」
私はそういい、振り返りながら手を振る。里恵は長い間こちらに手を振る。私が見えなくなるまで。笑顔も絶やさないで。私は……里恵のこともすごく尊敬できる人間だと思うし、しているよ。私は少し懐かしい気持ちになる。
“_____________”
「!」
私は嫌なことを思い出し、その場でしゃがみ込む。
「っヒューッ、ヒューッ………」
呼吸、上手くできない……。
「ハァッ、ハァッ…………………………………」
手も、足も震えてる……?
ポタッ
何か水のようなものが頬をつたって地面を濡らす。汗なのか涙なのかはよくわからない。それよりも、息が…………
ドンッ!
やっば……よりにもよって扉にもたれかかっちゃった。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ」
全然…止まらない。どうし…よう……。
ガチャッ、バタン
持たれていた扉が開き私は倒れる。
「!?ちょ、ちょっとアンタ!大丈夫!?」
私の視界に映った女の人、それは……
「あ、ま……きヒューッ………先…ハァッ……ぱ、い…………」
振り絞って声に出したがやらなければよかったと私は後悔する。
「ハァッ、ハァッ。」
「ちょっと!何無理して話してるのよ!!?」
天鬼先輩は私の近くに駆け寄る。
「ほら、448呼吸でしょ!?」
?448呼吸?何だそれ?顔に出てたのだろう。すぐに先輩は察して合図してくれた。
「ほら、4秒かけて息を吸って、そしたら4秒息を止めて、それから8秒かけて息を吐く!ほら!1、2、3____」
「っフゥー…………」
先輩の合図を頼りに呼吸をする。だんだんと落ち着いてきた。息、ちゃんとできる…。
「かなり安定してきたわね。それじゃあその体勢あんま良くないから壁にもたれかかって座っておきな。呼吸もゆっくり、自分のペースをちゃんと維持して!わたしは水持ってくるから」
「…………………は……い……」
私が返事をすると天鬼先輩は優しく微笑んで部屋に入って行った。私は言われた通り起き上がり、壁にもたれかかる。呼吸、安定してるよね………。
ガチャッ
天鬼先輩が部屋からコップを持って出てくる。
「大丈夫そ?ほら、」
「!」
私の近くにコップを差し出してくる。私は受け取り、中の水を見る。
「いい?少量ずつ、ゆっくり飲むのよ?分かった?」
「…………はい。」
そういえばこの人、何でこんなに対処に詳しいんだろう。私は水を少し飲みつつ考える。ていうかそういえばこの人叶那ちゃんと話し合い?をしたんだよね?どんなこと話したんだろう……。
「あなたねぇ。」
「!……?」
先輩は私の隣に座り込み私に話しかける。私は少しびっくりしたが、すぐに目線を先輩にやる。
「何あの時呼び出してくれちゃったのよ。ほんとに」
「!、あぁ〜、あの時ってぇ……?」
「旧校舎に呼び出したあれ!春夏冬の!」
「あ、あぁ〜、確か話し合いをしたんですよね?何を話したんですかぁ…………?」
「……………………………。別に、すごっい笑顔で詰め寄られただけよ。」
「…………………」
私はあの時のメールのやり取りを思い出す。
「あぁ〜。やっぱ怒ると怖いですか?叶那ちゃん。」
「怖いってレベルじゃないわよ…。」
「ふっふふ。でもまぁ、それって先輩のせいですしね!」
「いやな後輩ね。あなたって。」
私は笑顔を先輩に向けながら喋る。先輩も、口ではこう言ってるし、あんまり表情は変わらないけど、すこし、微笑んでるのが見えた。
「先輩はぁ、やっぱり“男性”が好きなんですか?それとも、“モテてる自分”が好きなんですか?」
「どっちかっていうと後者ね。」
「え!認めるんですか。」
「完全にそれってわけじゃないわよ。誰かに愛されてる、目立ってる、存在価値のある、そんな自分が好きなのよ。」
「へぇ〜。」
「女よりも男の方が単純だからね。上手く使いやすいの。」
先輩はそう言いながら立ち上がる。
「そんなことしてると、誰からも好かれなくなっちゃいますよ?」
「そうね。じゃあそうなった時は…………」
「!」
先輩はこちらを振り返る。長い髪を風に揺らしながら普段とは少し違う目でこちらを見て口を開く。
「あなたが私を愛してくれる?」
「……………………………私、男性じゃないですよ?そういうのは彼氏に言ったらどうですか?」
「いないのよ」
「なんかすいません」
「謝るんじゃないわよ」
少し間があく。私はコップの水を飲み干す。ふぅ、と一息ついた時、先輩も口を開く。
「もう大丈夫そうね。どうする?管理人さんにいって病院行く?」
「いえ、もう大丈夫なので。」
「…………そう。」
先輩はまた優しく微笑む。
「あなたA組でしょ?なら体育祭のチーム一緒ね。」
「え。」
「私3年B組。」
「そっか、A Bで一緒か。」
「頑張りましょうね。」
「………………はい」
先輩が微笑んだから、私も微笑み返す。私は先輩にコップを渡して立ち上がり部屋のドアの前に行く。先輩もそうだ。あっ、そういえば……
「なんで過呼吸の対処知ってたんですか?」
「………………………」
先輩は扉のノブに手をかけていたがびっくりした表情をこちらに向けた。だがすぐに微笑んで言う。
「私カウンセラーになりたいの。ただ、それだけ。おやすみなさい。」
「……あっ、おやすみなさい」
カウンセラーに驚いていたら先輩がほとんど部屋の中に入ってしまっていたので私は慌てて挨拶する。いい、夢だな。私はそう思い自分の部屋に入っていった。




