悲しいお知らせ
これを書いてる最中に書いてるデータを誤って削除してしまったのでこの題名ですが、もともとこうなる予定でした。
存在自体が変わって約三週間。僕は『悲しいお知らせ』というタイトルで、配信を始めていた。
「あー、どうも澪です。今日はタイトル通り悲しいお知らせをすることになりましたんでこうさせてもらってます」
【チッス澪くん、って顔出ししてるだとぅ!?どうした!?天変地異か!?】
「そんな驚かなくていいですよ!まあ、今まで一回も顔出ししてませんでしたが!悲しいお知らせのためには顔出しが必須だったんですよ!」
【ほっ...死なないですみそうだ】
「リスナーの皆様は僕をなんだと思ってるんですか!」
【え?ダンジョンの申し子】
【世界を滅ぼす邪神】
「にゃぁぁぁああ!ほんっとうに失礼ですねぇ!」
【「にゃぁぁぁああ!」ここかわいい】
「...あ、ありがとうございます?」
少し照れたけど、早速報告して行くことにする。
「えー、前提としてですが...みなさん、〈存在せざる者〉をご存知でしょうか?」
【何それ?】
【俺は知ってるぞ。じいちゃんが若い頃にSSSランクダンジョンの最奥でエンシェントドラゴンを倒した時に針だらけの蜘蛛が出てきて、炙ったら大爆発して死にかけたって。それで攻撃手段をなくした蜘蛛を精密検査機にかけたら、〈存在せざる者〉っていう種族名が出てきて。それ以来俺の家の宝物として怪物グモが飾られてる】
「へえ。『特異なる棘蜘蛛の王』を倒してる人がいるんですか!Xランクの恥晒しですね!」
【いつもに増して毒舌】
〈蒼月 ルカ〉【澪くぅん、私の方もみてー!】
【吹っ切れやがったよ、ルカ様】
【時間の問題だったと思うぞ?知らんけど】
ルカの名前が見えるけど、無視無視。僕は、何事もなかったかのように続けた。
「それで、ですね。僕、こと蒼月澪はその〈存在せざる者〉になっちゃったんですよ!」
【( ゜д゜)(つДゞ)( ゜д゜)】
【証拠を見せろよぉ、証拠をぉ!】
そのコメントが来た瞬間、僕は不敵に笑う。
「ふっふっふ、用意していないとお思いで?」
そして、懐から一枚の紙を取り出した!...スキル詳細が書き込まれたせいで、70cmくらいになったものを。
【はっ!?これって精密検査機にかけて出したやつじゃねえか!】
【種族...確かに〈存在せざる者〉だ!...というか幼女じゃねえか!しかもステータス爆盛りの!】
「これが揺るがぬ証拠なのですよ!あと、幼女になったのは事情があるのでそれも話しながら説明しますね」
「えっと、僕が最後に出た時を覚えていらっしゃいますかね?」
【もちろん!三週間前の、ルカ様と赤鬼プレイだ!】
「ええ、そうです。あの時、多分違和感覚えたと思うんですよ」
【ああ、途中から声変わってたもんな】
「そうです!実はあの時、僕って女だったんですよ!」
【( ゜д゜)( ゜д゜)( ゜д゜)】
「あ、その説明もしなきゃ...!」
僕は頭をかいて、続けた。
「僕って、初期スキル4つ持ちだったんですよね」
【4つ!?なぜそれがわかる...って、精密検査機持ってたわ】
【一家に一台、精密検査機※1台500万】
「三つはみなさんご存知で、もう一つは僕が初めてのスキル保有者だと思うんですけど、〈破壊者の如く〉っていうスキルです。でもこれがなくなったんですよね」
【おし続けろ】
「どうも。...で、初めてダンジョンに潜った日、僕は出会っちゃったんですよ、〈存在せざる者〉に」
【ゑゑ!?】
【ウッソだろお前】
「なんか、wawawaーとかなんとか言って来て、襲いかかってきたんですよ!shiraishiが!」
【wawawa、白石...うっ頭が】
【忘れ物してそう】
「それで、〈破壊者の如く〉を無理やり力に変えて戦いました。元々敵対者特攻みたいな能力だったんでなんとか撃退できたんですけど、それって魂にダメージを与えてるのと同じわけで」
【まぁ、スキルは魂に根付くしな】
「だから、魔力を多く消費するスキルを使うと、寿命が縮む...一種の病気に罹ってたんですよ」
【ダンジョンに潜らなければいいだけでは...?】
【それは澪ちゃんに死ねというのに等しいぞ】
「ひどいなあ。...それと同時に、僕は極度の恐怖に襲われると女体化するようになってたんですよ」
【女体化!?】
「はい。だから、赤鬼で声が高くなったのは僕が女の子になったからですね」
【...まじか】
【で、今は違うと?】
「ああ、そうなりますね。今はさっきも見てもらった通り〈存在せざる者〉ですよ。三週間前に、なんかこのまま女の子でもいいやーって思って。それで女の子にしてくださいってお祈りしたら、本当に女の子になっちゃいました。そこで、もう1人の登場です」
僕は、入り口で待機してもらっていた少女を呼ぶ。
「やっほーっ、皆の衆!新人V配信者林屋 眩こと、碧屋 明だよっ!みんな、よろしくねっ!」
【可愛い】
「えへへ、ありがとねっ!」
嬉しそうにする明。...V配信者ってどういうこと?
「ああ、それはねっ!なっかなか澪さまが動かないもんだから、ついついルカちゃんにやり方教えてもらって作っちゃった!ごめんよっ!」
「まあ、それはいいけど...。って、登録者3万人!?なぜ売れてるんだ...?」
「ああ、ルカ様が宣伝してくれたおかげっさね!あと、一発目に投稿したやつのインパクトが良かったんだろうねっ!...あ、澪さまは絶対に見ないでよっ!?」
真っ赤になって言う明。わかってるよ、言いたいことは。
「ほっ。良かった...。」
『みんな、初めましてかなっ?新人V配信者、林屋 眩だよっ!今日はね、澪さまの素晴らしさを語りたいと思うよっ!』
「「...。」
僕たちの中に、気まずい沈黙が降りる中動画は流れ続ける。
『澪さまはねっ、可愛らしくて愛おしいんだよっ!それに、私に甘えてくるのがいじらしくって...!私、気づいたらすっかし慕っちゃった!澪さまの『一番』になれるように頑張るから、応援よろしくねっ!林屋 眩でしたーっ!またねー!』
「...み、澪さま。みなかったことにしてほしい...。」
照れているのか、真っ赤になりながらいう明。でも、そんな表情されたら、僕っ...!
「明、かっわいー!」
「にゃぁぁぁああああ!?み、澪さまぁ!?」
そんな表情されたら、可愛がるしかないじゃないか!
「僕のこと慕ってるなんて、可愛らしい言葉言っちゃって!そんなに僕のことが好きなんだね!」
とっても嬉しい。慕ってるっていうのはちょっとオーバーな気もするけど、嬉しいことには変わりない。
ニコニコして明を見ていると、明は、さらに顔を赤くしてつぶやいた。
「...のに」
「え?」
すると明は真っ赤な顔をこっちに向けて、大声で言い放った。
「私は、冗談で言ってるわけじゃないのにって言ったんだよっ!!」
「...え?」
明?その言葉は...?
「私はねっ!澪さまが慕わしくてたまらないんだよっ!...あっ」
想いを吐き出し終わった瞬間恥ずかしくなったのか、明は再び頰を羞恥で染める。でも、さっきみたいに隠したりはせず僕をまっすぐ見つめていた。あ、あれ?なんだか、ドキドキするような...?
「...み、澪さま。わ、私は、澪さまの...『一番』がいいし、『一番』でありたい。だ、だから、その...わ、私のものになって...ください」
「えっ!?あ、あの...」
「へ、返答はここで欲しい...かな。わ、私...ここで聞けなかったら、一生後悔すると思うから」
「...っ!」
明の言葉に、僕は唾を飲む。ドキドキして呼吸が苦しい。心臓も、とっても早い。緊張してるのか、それとも...恋?
「ぼ、僕は...!」
僕が、焦って何かを言いかけた、瞬間。
『あ〝ーっ!私の澪くんが...!』
そんなルカの声が、聞こえた。
【る、ルカ様...!?】
【ま、まずいぞ。あれ、今すぐどうにかしなきゃ詰めかけてくるぞ...!?】
「ーーー!?」
『澪くぅん...澪くんは、私のもの...だよね?私のものだから、明ちゃんのもとに行ったりなんて...な〝い〝よ〝ね〝?』
「ヒッ!?」
隣の部屋から、ルカの僕に対する愛の怨嗟が聞こえる。
そして隣から、
「...わ、私を選んでくれるよね...?」
明が僕に対して愛の呪縛を掛けてくる。どちらを受けても、僕は束縛されるだろう。だったらーーー。
「ーーーんぐっ!?」
僕は、無理やり明の唇を奪った。そして、ベッドへ押し倒す。
「ーーー!?ぷはっ!み、澪さま!?」
僕に対して真っ赤な顔を見せてくる明の唇をもう一度奪って、僕は言う。
「...勘違いしないでほしいな。明はあくまで『僕』であって、僕と対等じゃないんだから。だから...明は、永久に僕のものだ。たとえ神々がいたとして、彼らが引き離そうとしてもーーー明は、永遠に僕のものだから」
「あっ...澪、さま...。」
恍惚とした目で見てくる明を抱きしめ、
「じゃ、今日の配信はここでおしまい。次の配信は少し間が開くかもだけど、進展があったらそれで報告するから。じゃーね」
一方的に配信を終わらせる。
「...澪、さま...。」
「なに?明」
「...忘れてた。私はあくまでも、〈思考補助ユニット〉だったから...。あくまでも私は、澪さまの僕。舞い上がって忘れちゃってた」
「そうだね。でも、明はもう間違えないでしょ?」
「...うん。澪さま...えへへ」
「なぁに照れちゃってんの?可愛いからいいけど」
「...!澪さまに褒められたー!」
すっかりいつもの調子に戻った明を見て、僕もいつもの僕に戻る。...と同時に、赤面。
「?どーしたの、澪さま?」
「ああ、いや...今思うと、すっごい大胆なことしたなって恥ずかしくて...!」
「あー。うん、確かに私はすっごい驚いたかな。...でも、あのかっこよさは犯罪だから」
「...できれば、忘れて欲しい」
「できない」
「じゃあ、主従関係じゃなくって、その...『恋人として』いて欲しいかな...?」
「ーーー!も、もちろんっ!澪さまぁ!」
「わっ!?」
抱きしめられたその後、僕は明と一緒に眠った。笑顔いっぱいの明は、僕の自慢の...『恋人』だ。
ま、悲しい要素なんてほとんどないですけどね。