いったんの死亡
「寂れた洋館からこんにちは!今日も元気なルカちゃんでーす!」
【こんにちは!赤鬼なんて珍しいですね!】
「えへへ、今回は〈赤鬼〉やって行くんだけど...今日プレイするのは私じゃありません!さあ、出でよ蒼月澪!」
【誰?】
【ルカ様の兄君だ、まあルカ様を見る前から配信はしていたがな】
【目立とうともしないけど、あのアットホームな配信は癒されるんだよなあ...。】
「...ほら、澪くん。出てきてよ」
「...分かったから、押さないでよ。僕は別に逃げも隠れもしないよ?...ホラゲーじゃなきゃ」
オーク肉の焼き肉を楽しんだあと、僕は妹のルカ、こと草田瑠依に押されてこの配信室へと押し込まれた。
家の地下にこのスペースがあることは知らなかったけど、ルカが蒼月ルカの名前でバーチャルな姿を晒して配信する配信者だということは前から知っていた。僕の自慢の妹だけど、ネットで誹謗中傷されていないかが心配でもある。
まあ、聞いたら絶対「アンチが3分の一以上いなければ大丈夫」っていうけれど。
【僕っ娘!?(ガタッ 】
【いや、男だ。...ん?なんだかいつもと姿が...】
「...ってことで!生物学上は男、でも正直妹に欲しいくらいのツンデレなお兄ちゃん!澪くんでーす!」
「あ、どうも澪です。ホラゲーだけは死んでも嫌ですが、よろしくお願いします。...ホラゲーじゃないよね、ルカ?」
僕は真横にいる青髪のアバター、蒼月ルカ...ではなく、黒髪の少女をジト目で見る。モニタに映る僕の姿...白銀の髪を持った、いつもとは違う髪色の少女が、ルカをジト目で見ていた。
【ジトめ、かっわいー!】
【言語能力無くしてやがる、こいつ】
「...澪くん?あとで撫でてあげるから、ジト目やめてね?」
【そんなんで止めるはずが...】
「わかった。...早くプレイしようよ」
【止まった!?】
【さすがはルカ様の兄、流れを分かってらっしゃる】
撫でられると分かって顔が一瞬蕩けそうになったのは内緒。
「...寂れた洋館?これってホラゲーな気がするんだけど...?」
「だいじょぶだいじょぶ、怖くない!」
「ほ、ほんとぉ...?」
【「ほ、ほんとぉ...?」かわええ】
【「ほ、ほんとぉ...?」】
【同じ言葉で返すなw】
「...寂れてるっていう毛けど、いうほど怖くないよ?もしかしてほんとに怖くないのかな?」
「うんうん、そうだよ!あ、台所は右手にずっと進めばつくからね!」
「はーい。...あ、割れた皿?」
「はーい、戻ろうねー」
【初心者と経験者、可愛い】
【割れた皿、それは絶望の...】
【それ以上言うと澪ちゃんが泣かないのでNG】
「あれ?みんないないよー?」
「うーん...。確かどこかになんかの鍵が...。」
「わぁ、椅子だ!あれ、図書室の鍵?図書室ってどこだろ...。」
【心配だなぁ】
【赤鬼来ないかなぁ】
「図書室の鍵を使う、と。...!?」
「どうしたの?」
何事もないようにいうけど、何かいた。そう、あれはまるで...
「ブドウみたいな色の人がいたよ!あれ、なんなの?」
【ぶwどwうwいwろw】
【うんうん、まあそうだよな。初見であれが赤に見えるやついないし、実際足は紫だし】
「えっと、あのぶどういろのひとね?きっといい人だから話しかけてみる!」
【やめとけw】
【話しかける...!?】
「えっと、紙をどかして...寝室の鍵?何これ...ってあれ!?なんか突然死んだよ!?」
「あー...やり直しだよ」
「...まぁ、かぎとるまえにせーぶしてたし?多分鍵取ったら何か出てきて殺されたんでしょ?しっかり、エンターキーを押したら確認するよ」
そして、エンターキーを押す。出てきた謎の生物。
「......キャアァァアアァー!?」
Game Over。
「うっぅううぅ...!だましたね、ルカ!信じてたのにー!」
「いやー、ごめんね?澪くんホラゲーダメなのは知ってたけど、ついついやりたくなっちゃった」
「むぅぅう...!撫でられても許さないから!せっかく僕が出演して欲しいって言われて魔力欠乏状態で出てるのに!」
【なんか声高くなってね?】
【多分悲鳴で声がモードチェンジしたんだろ、知らんけど】
「キャァァアアー!?もう嫌だー!?」
「おってこないで!?私は食べても美味しくないからー!?」
「...もうやだー!私おうち帰るー!」
【悲報:澪くん、男なのにビビりすぎて精神退行して女の子になる】
【朗報じゃね?】
「...ルーカー!もうやりたくないー!あんな赤い化け物と追いかけっこしたくないよー!」
「でも、始めちゃったから仕方ないでしょ?それに、さらっと5階まで行って鍵も取ってきたし、あとは脱出だけだよ?」
「ぜっっったい外に出たら赤鬼出てくるから!しかもゴールにももう一体いて挟み撃ちされるから!私わかってるよ!?」
「まあまあ、お姉ちゃんのいうこと聞きなさい」
「やだー!妹に急かされてPTSDになってダンジョンに潜れなくなったらルカのせいだからなー!」
【などと言いつつ、出る模様】
「...!ま、まあ後ろから出るよね!でもまっすぐいけば問題なし!...キャァァァアアアーーーッ!?出たー!?出たー!?」
「とか言いながら回避するってすごいね、澪くん」
エンディングが流れ始め、ようやく地獄から抜け出すことに成功した僕。そのまま配信も締めに入って行く。
「えー、澪くん。プレイしてみてどうだった?」
「2度とやってやるもんかぁぁぁああーっ!」
【そりゃ当然だな】
【まさか当日にプレイさせられるなんて思ってなかったんだろうなぁ】
【そもそもコメ欄見てないに一票】
【俺も同じく】
「では、またいつか蒼き月が登る日に。蒼月ルカと、」
「蒼月澪でした。シーユー」
「澪くんは、またいつか出てもらいます。ホラゲーとバカゲーでね!」
「できるなら全部バカゲーでお願いします!視聴者諸君、悪ノリするなよ!」
【乙!大丈夫、信用してくれw】
配信が切れたことを確認すると、僕は脱力する。
「...ルカー?」
「な、何?お兄様」
「わかってるよね?言いたいこと」
「ナ、ナンノコトカサッパリダナー」
「白々しい」
ドン、と僕が机を叩く音に合わせてルカの背もビクッとした。
「...ホラゲーじゃない、って言ったよね?ルカ」
「で、でも、最初はホラゲーじゃないし...」
「言い訳許すと思う?僕はね、「ホラゲーじゃない!っていうからやったんだよ?」
「で、でもネタバラシすると本気の恐怖が視聴者に届かないっていうか...。」
...確かに一理あるかも。
「でもさ、ホラゲーやらせて何も見返りなしっておかしいよね?ねえ?」
「...エッチはダメだけど、キスまでなら...いいよ?」
「はぁ?なんで貧相なお前の体に欲情しなければならないの?ねえ、胸に脂肪がたっぷり搭載されたビッ◯が」
「だ、誰がビッ◯だ!私はお兄様以外に欲情しないもん!それに、そっちはぺったんこなくせに!」
「はぁ?この姿だから女になってもばれないんだよ!しかも生理もないし、ただ生物学的に女になっただけだから当たり前だろ!しかもこの感じ、3ヶ月はこのままだよ!どうしてくれんだ!」
「自業自得だよ!一生女のままになればいいんだ!このー!」
「...まあ、一生女のままでいいならいいけど?その分、ルカに欲情されないで済むならね!」
「欲情しないわけないでしょ!私は近親相◯もレズもありな人間だよ!むしろレズなら合法的にお兄様を可愛がれるからそっちの方がいいよ!」
「はぁ!?レずなんてお断りじゃこのアマ!」
「こっちこそはぁ!?だよ!」
「フシャー!」
「シャァー!」
「「...なんか、ごめん」」
一通り口論して落ち着いた僕とルカは、一旦状況を整理する。
「こんな姿じゃ、ダンジョン行っても弱いよ。どうしてくれるんだよ!」
「...でもさ?お兄様、スキル晒したしスキル使って行けばいいんじゃない?」
「あー...なるべく使いたくないんだよねー」
「なんで?」
首を捻っているルカに、僕はクイズをしてみる。
「じゃあ、問題。僕は生来、スキルを何個持っていたでしょーか?」
するとルカは即答した。
「4つ!」
「うん正解、じゃあ、4つ目はなんで消えた?」
「え?えーと、最初強いのと戦った時にすり減らし切った?」
「うんそうだね。僕だけが持っていた原初スキル〈破壊者の如く〉はもとより、全部のスキルは使い潰して莫大なエネルギーに変換できる。〈破壊者の如く〉の残滓は特殊能力〈人体赤化〉となって時間限りの強化スキルになったけど...もちろん、その変換のためには代償が必要なんだ」
「代償?」
そう代償、と言ってから僕は続けた。
「スキルを使うと、僕はスキルが欠けた器にダメージを与えて使用することになるんだよね」
「器にダメージ?それが何と関係するの?」
「結構密接な関係だよ、何より僕は、スキルをある程度以上で使うと、
寿命が縮む」
「...え?」
戸惑っているようだ。
「そもそも、最初に会ったのが〈存在せざる者〉だからね。生きてるだけいいもんさ」
「え?え?」
「性転換も、僕がこの姿でいいやって思うならこの姿で固定になる。一回の変身で3ヶ月くらい寿命が縮むし、性転換が決定したら〈人体赤化〉は確実になくなるね。ただ...ま、こっちの姿の方がめんどくさくなさそうだしいいや。よし、僕は女の子として生きる!オーダー!」
《〈世界の意志〉へ確認...承認。これより、草田 剛久を蒼月澪として再構築します》
声が聞こえた瞬間、視界は消滅した。でも、なんだか嬉しい気がする。