特異なる少年
不定期投稿です。お許しください。
「...えー、今日はスライムを殺しつつ前宝箱からゲットした剣の紹介をしていきまーす」
〈タコ介〉【おっ、いつものダウナーボイスちっすちす】
「タコ介さんお久しぶりですね。前オフでもらった木彫りの梟は家で飾らせてもらってます」
【リア友で草】
「リア友じゃないですよ。僕のリアルでの職場の常連さんです」
【いや似たようなもんじゃねーかw】
「...そうですか...?」
【当たり前だろw】
【逆に今まで気づいてなかったのか...(焦 】
僕はコメントを見て落ち込み、「...じゃあ、スライム殺しにレッツダンジョン」と呟いてダンジョンに潜った。
ダンジョンは、太平洋戦争末期に生まれた存在で、いわば「異世界が現実世界にやってきた!」という感じのものだ。それの対処に国家予算の3パーセント(軍事予算の1割ほど)を捻出した為、太平洋戦争の敗退があったとされている。そんなダンジョンだけど、僕...草田 剛久のいるこの町にもダンジョンがある。
SランクからFランクまでに結構細かく分割されているダンジョンだけど、此処にあるのはA⁻ランクのダンジョンだ。Aランクというくらいだし、多分弱いダンジョンなんだろうけどここにいる魔物は例外なく強い。薄めの塩酸の様な溶解能力を持つ、包丁を持っていれば余裕で倒せるFランクのスライムもこのダンジョンでは金属を一瞬で溶かし3秒で人体を捕食してしまう超絶強化を施されているのだ。...あれ?もしかしなくてもこのダンジョン、やばい?
そう思った僕は、父さんにこのダンジョンのことを聞いた。結果...。
ものすごく強いダンジョンだということが発覚した。
嘘だよね!?僕が潜ってたところ、そんな魔境だったの!?
いつものスライムは、殺人スライムと呼ばれるd-ランクの魔物であり、しかもこれが一番下位である。この魔窟こっわ。
ただ、いいこともある。うちの家は雑貨屋をしているのだけど、稀に機械を直したり包丁の錆を取ったりといったことをするのだ。その時に、このマーダースライムは大活躍するのだ。マーダースライムは、「錆を捕食すると死ぬ」という特性がある。それを利用して、錆びた包丁をマーダースライムに食べさせるとサビが綺麗に取れて包丁が出てくる。あとは、それで一緒に溶けた持ち手部分を作れば終わりだ。...まあ、それを作るのが結構苦労するようだけど。
ダンジョンには、「特別危険物所持証」なるものを所持して、尚且つそのものに徳川家の家紋である三つ葉葵が描かれていれば(銃であればホルスター、剣などであれば柄や鞘など)銃や剣などを所持していても違法ではないという「魔窟特別危険物所持法」なるものが制定されている。ちなみに、他の国では魔物は愚おろかダンジョンすらないので認められるのは日本国内だけだけど。
もちろん僕も、上の「特別危険物所持証」を所持している。危険物として登録しているのは「ナイフ」と「頭陀袋」の二つ。ナイフにはガッツリ葵の紋所の家紋が彫られ、頭陀袋は三つ葉葵が焼き付けられている。
ちなみに、どちらもダンジョン製。
ダンジョンには、「魔道具」と呼ばれる類のものが存在する。有名なところで言えば、容量が物によって違う「アイテムポーチ」。僕が持っている頭陀袋がそれで、容量は30kmかける20kmかける5kmぐらいあるらしい。とてつもない大きさだけど、取り出す時は収納順に表示されるウィンドウのものから取り出せばいいだけなので今のところ困っていない。しかも時間経過はない状態なので、すごくいい。
ナイフは、マーダースライムに攻撃しても溶け落ちない特別品。いわゆるミスリル製で、攻撃すると逆に鋭くなっているまである。
そんな剣士な僕だけど、昔は結構「雑魚」扱いされていた。
敗戦後生まれた子は、皆必ず一つ以上は「スキル」と呼ばれるものを持っている。例えば「狙撃」だったり、「豪剣」だったりとスキルと武器を結び合わせることが多いのだ。
僕のスキルは「ンソケ〝キッ」...狙撃じゃない。狙撃スキルはスキルレベルの上昇と共に命中率が上がるものだけど、「ンソケ〝キッ」は違った。これの能力を言うならば...「一射必中」。一発を確実に当てられるものだ。
そのせいで、僕は「狙撃銃を使用したほうがいい」と言われた経験を持つ。でも、銃ってあんまり自分に合わないと思って剣を使っていたのが気に障ったのか、よく「雑魚」と呼ばれていた。まあ、普通ならそうだよね。...普通なら。
通常一つの「可視スキル」...検査で判明するスキルのみを持っているのが一般だけど、たまに複数のスキルを持っている者が存在する。2つ持ちで25%、3つ持ちで3%...それいじょう持っている人は滅多にいない。
そして僕は、初期スキルを三つ所持している。
一つ目は、「ンソケ〝キッ」。能力はさっき説明した通り。
二つ目は「堕落の蒼剣」。魔力を消費して、〈蒼剣アインディーナ〉を召喚するスキルだ。使用した魔力によって威力は異なるけど、あまり魔力を込めなくても高威力を出せるのが魅力だ。
三つ目は「闇夜の翅棘」。魔力を消費して、細かい棘のような翅が集まってできた一対の翼を出現させられる。翼は魔力を込めるだけ増える。3年前に、高校の卒業と合わせて使ってみたときは12対まで翼を出現させられた。翅棘は飛ばせることができる他、隙間をなくして飛行することも可能。ちなみに、翅棘を飛ばす攻撃には「ンソケ〝キッ」が適応されるので全部命中する。マーダースライムに溶かされはするけど、溶かされたら溶かされたでスライムも一緒に死ぬから、実質さいきょー。
スキルレベルは今のところ、「ンソケ〝キッ」がLv.Ⅺ、「堕落の蒼剣」がLv.Ⅶ、「闇夜の翅棘」がLv.Ⅷ。
他にも魔物を倒して得たスキルが何個かあるけど、手に入れたのが最近だからLv.は低めだ。
「...じゃ、そろそろ配信再開しまーす」
【配信再開キタ、これを待ってた】
【40人に視◯される澪くんかっこえー】
「...それ、明らかに僕を貶してますよね?」
【はエス】
「せめて否定してくださいよ...。」
【w】
【しょぼんとしてる澪くんきた、これで勝つる】
「勝たなくていいんですよ!というか、何に勝つ気なんですか!」
【親、かな】
「働けクソニート!」
【お、ツンデレ味あってすこ】
【録画しますた】
相変わらずの視聴者たちは面白い。大体30人が毎回見てくれて、十人ほどはついクリックしてくる人たちだ。
【こんなの何がいいの?】
【おっ新参か、この配信はアットホームな感じがたまらんのだよ】
【おっさん声なのに?何言ってんだこいつら】
【この声でしか得られない何かがあるんだよ、知らんけど】
「僕はおっさんじゃないですよ!ピチピチの21歳の子供部屋おじさんです!」
【いや、それはおっさんじゃない気が...(困惑 】
今日も1人、アンチが生まれた。まあ、こういうものだと割り切ってるからいいけど。
「...お、スライムさんだ。じゃ、殺しまーす」
【発言物騒すぎw】
【相変わらずのマーダースライムちっすちす】
【マーダースライムにナイフで特攻とか、ほんとおかしいよな】
【でもそれでやり遂げるのが、澪くんクオリティ】
〈タコ介〉【さすが澪さん、参考にならない動画をありがとう!】
「黙れやこのダボ介!」
〈タコ介〉【おおう...。】
ミスリルナイフでスライムを滅多刺しにしたあと、僕は一呼吸置いた。
「...えー、今日は1区攻略を目指して頑張ります。9時までに帰らないと妹の配信が見れないので、大体8時までには1区攻略します。それと、今日はスキル使って行くのでお楽しみに」
【スキル?確か澪くんは「ンソケ〝キッ」だった気がするぞ?】
【説明プリーズタコ介、略してpst】
〈タコ介〉【うぇーん、侮辱されたよぉ!あ、説明しますね。澪くんは三つスキル持ってるので。残りの二つは一個持ってるだけで勇者レベルの武器ですよ】
【ファッ!?】
「あ、ダボ介余計なこと言うな!お前が僕の家族だってことバラすぞ!」
【自分で言ってて草】
〈タコ介〉【やめてくださいお兄様何でもしますから】
【えっ...(引き気味 】
【まさか...ルカ様?】
【っぽいな...。】
〈タコ介〉【身バレしたぁー!どうしてくれんだこのクソ澪!ネカマ!ビッチ!】
【あーあ、喧嘩始まったよ】
「...コメ欄でダボ介がなんか言っていますが、そろそろ移動しますねー。【闇夜の翅棘】」
その言葉と共に、僕の背に5対の棘翼が生える。僕は棘翼を一枚の翼として機能するように折りたたみ、飛ぶ。
「はっはっは、みよ哀れなゴミども!俺がこの空の支配者なるぞー!あーはっはっはっは!」
〈タコ介〉【あーはっはっは!】
【ルカ様吹っ切れてて草】
【言ってやるな、一種のブラコンシスコンの行き所だ】
【というか、「闇夜の翅棘」?って聞いたことないんだけど?pst】
〈タコ介〉【はぁ...。説明しますと、お兄様のあれは一種の特殊能力みたいなものです。元々は、〈存在せざる者〉の一体、『特異なる棘翼の王』の、「特異なる翼」というスキルだと思われますが、生来のスキルの一つですね。まあお兄様ですので当然ですが!】
【誇らしげなルカ様がいると聞いて】
「っと、1区守衛地点到着です。こっからはスキルフル活用で行きますね」
飛び始めて3分程度。ついに、ついた。場所知ってるから近いなあ、やっぱり。
【早スギィ!】
【ここの1区から守衛区までの距離pst】
〈タコ介〉【約23kmです。お兄様は、時速にしておよそ460kmで飛行していたことになりますね。さすがお兄様!】
【あ、やっぱりブラコンだ】
【誇らしげなルカ様prpr】
〈タコ介〉【穢らわしい愚民のくせして舐めようとするな!私を舐めていいのはお兄様だけだ!】
【ええ...(困惑 】
【ちょっとこれはなぁ...。】
「【闇夜の翅棘】、分離。『ンソケ〝キッ』、『ンソケ〝キッ』、『ンソケ〝キッ』、『ンソケ〝キッ』、『ンソケ〝キッ』!【堕落の蒼剣】、威力最大!...ふぅ。終わりましたよ」
【( ゜д゜)(つДゝ)( ゜д゜)】
【今聞いたらこのスキルこの◯ばのアレじゃねえか!】
【堕落の蒼剣pst】
〈タコ介〉【お兄様のスペッシュゥァァアルなスキルです!魔力消費量で威力が変わりますが、今回のSSランクモンスター、『オークジェノサイダー』の場合だとうちでオーク肉の焼き肉しようとするはずなので、おそらくは首チョンパの20分の1威力でしょう】
「おお、あってるよルカ!首チョンパ20分の1!今日はオークジェノサイダーの焼き肉だね!僕はこいつのハツがいいかなー!魔力回復にはもってこいでさ!...っと失礼、話し込んでしまいました」
【ええんやで】
【配信者に優しい世界】
【...ま、まあ、またみてやろうかな】
【朗報:アンチ、見終わった瞬間俺たち側の人間になる】
【アンチだったら最後まで見ないんだよなぁ】
「ありがとうございます。では、第2区の入り口の転移ポータルまで移動して終わりにします」
そう言って、僕は下へ続く螺旋階段を下って行く。程なくしてついた第2区で、青く光る転移ポータルに魔力を通して...これで次回からはここへ直接来れる。
「ご視聴ありがとうございました。次回もまた、蒼き月が上がる頃に」
【乙!きっとこいつには毎日月が蒼いんだろうなあ】
〈タコ介〉【よし決めた、今日はお兄様に赤鬼をプレイしてもらおう!】
何か嫌な予感がコメ欄からしたけど、多分気のせいだよね。...気のせい、だよね?