~一歩前へ~
ヒロインの提案により、学校の七不思議を調べることに。
深夜の学校にやってきた二人。
二人に待ち受ける運命とは……?
二十一時の学校。
「ちゃんと遅れずにきたわね」七夕は言った。
「まあ、いちおう」
「これから学校を調査するわ。目的は、学校の階段の七番目を見つけ出す為よ。いちおう言っておくけど、七番目の不思議は、異世界に生徒が消えてしまうというものよ。それ以上詳しい情報はないから、いつ、どのようにして生徒が、消えてしまうか調べるわよ」
「もし、異世界に飛ばされそうになったら?」
「その時は、喜びなさい」
「どうして?」
七夕はにやりと笑った。「異世界生活ができる」
「期待したような場所とは違ったら?」
「私なら、どんな場所でも生き抜いて見せるわ。そもそも、わたしたちは退屈しているのよ。だから、もし噂が本当なら、喜ぶべき事だわ」
七夕は、校門を飛び越えると、校舎の中に入って行った。
健斗は、持ってきた懐中電灯をともした。
それから、校舎の中を調べ始めた。校舎は想像以上に真っ暗で、薄気味悪い。ドアを開けたり閉めたりすると、反響音が奥まで響いた。
「本当に、気味悪いわね」
健斗は肩をすくめた。「考え方によれば、楽しい」
「恐怖も、絶交のスパイスって訳ね」七夕は強がった。「やっぱり、あなたを仲間に引き入れて正解だった。並の人間なら、怖がって逃げ出していたものね」
健斗は尋ねた。
「以前に、学校に忍び込んだことがあるの?」
「誰かから聞いたみたいね」七夕は髪を払った。「本当よ。わたしは、学校と、警察署の二つに、忍び込んだことがあるの」
「本当に!?」
「そうよ」
「理由は?」
「当時は小学五年生だっわ。もう、そのときから、現実世界に飽き飽きしていたの。そんな時、あることを閃いたの。何かを、ただ茫然と待っていたも、楽しい事やおもしろことはやってこと無いんじゃないかって。じゃあ、どこに行けば、楽しいことや、面白いことが隠されているのかって考えたの。そして、出てきた答えが、学校の教師が隠しているんじゃないか。もしくは、警察所には、秘密の書庫があって、そこに秘密が隠されているんじゃないかって思たの」
健斗は声を上げて笑った。「アホか」
「笑わないでよ。その時の私は、本当にそれを信じていたのよ」
ふと疑問に思った。
「でも、ふつうはそこまでやらないだろ」
「そうね」七夕は頷いた。「私にも分からない。なぜ、私がそこまで行動できたのか。でも、思ったのよ。わたしは、私の中に、核があって、その私と呼べる核が、内側から、突き動かしたんだって信じてるの。今回の事だってそうよ。私は、誰が何と言おうと、くじけないし、立ち止まるなんて考えないのよ」
健斗は頷いた。
それからしばらく校舎内を探索した。音楽室、理科室、美術室。どこを訪れても、何も起こらない。ただ不気味と言うだけで、平和そのものだった。
「はぁ」
空気の中に失望が混じり始めた。
七夕は無言で前を歩いている。
「私帰るわ」七夕は、突然立ち止まった。
「おい、もう少し調査しようよ」
七夕は首をふった。「わたし分かっていたのよ。現実ってこんなものよ。本当は、いくら探したって何も起こらないのよ」
健斗はやりきれない気持ちになった。子ども時代、サンタクロースがいると信じていたのに、それがいないと分かった時のような気持ちだ。
「もう少し探せばきっと」
七夕は、背を向けた。
「もう、帰りましょう」
健斗は見た。視界の先に影があった。
「何かいた?」
「もう、いいのよ」
健斗は走り出した。「信じて」
「あれ、消えてしまった……」
「本当にいたの?」七夕は立ち止まって肩で息をした。
「本当にいたんだ」
健斗は屋上へ続く階段を見上げた。
「これ以上は先はないわ。この先は鍵がかかっているし、何もないわよ」
上の階から、扉の開く音がした。
二人は、走った。そして、屋上へ続く階段を上ってくと、そこには扉の代わりに黒く真っ黒な|穴《あな|》《・》が開いていた。
「うそよ」七夕は、立ち尽くした。「これ、現実なの?」
健斗も同様に立ち尽くした。
「昼間にはなかった」
「当たり前よ。こんなこと、現実では起こり得ない。わたしたち夢を見ているの。それとも、これは夢で、今は眠っているとか?」
健斗は頬をつねった。「どうしよう?」
「勿論は行ってみたいけど、だけど怖いわ」
健斗は大きく息を吸って一歩踏み出した。
「ぼくはこの先に行ってみたい」
七夕は立ち止まらせた。
「ダメよ。危ないかもしれない」
「弱腰になってない?」
「私が思い描いていたものいは、いつも空想だったもの。でも、今目の前にあるのは、きっと現実で、それは途方もなく危険なものかもしれないのよ」
「死ぬかもしれない?」
「そうよ。もし、そうなったら怖いわ。親や、家族や兄弟が心配するじゃない」
「でも、ぼくは踏み出すよ」健斗は一歩前に出た。
「なぜよ」
健斗は薄く笑った。「なぜかな。ぼくは、君と同様に、退屈して生きていた。つまらないと感じて、人生を生きてきた。そして、いまそれが覆る事が起が起こるかもしれない。そして、ぼくは気づいたいんだ。僕の中の何かは、いま自分が死ぬことや、危険なことよりも、何もしないで生きてる状況が怖い。つまり……、何もしないで、チャンスを逃したくないんだ!」
「もしかしたら、本当に死ぬかもしれないのよ?」
健斗は大きく息を吸った。「たとえ死ぬことになっても後悔はしないよ!」
「私だって本当は……」
健斗は七夕の手をとった。
「ぼくが君を守るから」
「本当に危険が迫ったときでも同じことが言えるの?」
「ここに来るために、君に出会ったんだと思う」
「何よ」七夕は顔をそむけた。
健斗は手を握った。
「行こう」
二人は、一歩、穴の中に踏み込んだ。
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