~出会い~
ヒロインとの出会いを描きます。
翌日から、学校が始まった。
荷物を取りに行くということもあって予定が早まった。
「悪かったな」叔父は目玉焼きを皿に盛りつけながら言った。
「いえ、ぼくの方こそ、朝ごはんまで作ってもらって」
「妙に大人っぽいと言うよな」
「中身は子ども……頭脳は……」
「アニメなら興味ないぞ」叔父は肩をすくめた。「今日は一人で学校に行ってもらうが、大丈夫か?」
「問題ありません」
「心細いということであればだな……」
健斗は首をふった。「ひとりで大丈夫」
「そうか」叔父は頷いた。「今日着ていく制服だけどな、来週にとどくから、私服で行ってくれ。それと今日は、書類を貰いに行くだけだから、授業は受けなくっていいぞ」
健斗は頷いた。
朝食を食べると、自転車を借りて学校へ向かった。学校までの道のりは、自転車で十五分程度の場所にある。街は住みやすく、公園が幾つもある緑豊か場所だった。
時計を見ると、七時四十三分。自転車でゆっくり向かっても、八時前には到着できる。
ふと見ると、公園に制服に身を包んだ少女が座り込んでいた。
「何やっているの?」
少女は顔を上げた。「見て分からない?」
「ぜんぜん」
「だったら説明してあげるけど、アリを観察しているのよ。面白いのよ。アリは自分の巣から出て行くと、巣の周りを探索して戻って来るの。一見したら真面目に働いているように見えるけど、よく観察していると、真面目に働いているアリもいるけど、サボっているアリもいるのよ」
健斗は観察した。「列から外れて行った」
「サボりよ。これがサボりなのよ」少女は笑みを漏らした。
「どこに行くんだろう」
「水辺に向かったみたいだわ」
「動かなくなった」
「水を飲んで休憩しているみたいね」少女は大きく伸びをした。「アリを見ていたら、なんだか学校に行くなくなったわ」
「サボりか?」
「この後、サボらない?」
「それは楽しそうだ」
「たまにはこう、カラオケにでも行ってみたい気分ね」
健斗は首をふった。
「ダメだ」
「どうしてよ」少女は唇を尖らせた。
「カラオケなんて退屈だ」
「だったら、ほかに何かあるの?」
「いまから山に行こう。そして、キャンプしよう」
少女は笑った。「今の季節なら、寒くはないし、ちょうどいいけど、テントは?」
「その場で調達する」
「あるかしら?」
適当に探すと、言った。
「あなた馬鹿よ」少女は腹をよじった。「あなたって変よ。でも、気に入ったわ。そうね。じゃあ、本当にやってみましょうよ。学校をサボって、突然キャンプをするの。それも出会ったばかりの男女がよ。こんなことが親や学校の先生に知られたら、大きなスキャンダルになるわよ」
健斗は思い直した。「やっぱり、ダメだ」
「怖気づいたの?」
健斗は首をふった。
「理由を言ってよ?」
「用事を思い出した」
「重要なこと?」
健斗は頷いた。
「また今度にしてくれたら、約束は必ず果たすから」
「信じていいのね」
「約束だ」
頷いてから、指切りした。
「絶対だからね」
健斗は、自転車に飛び乗った。
十分ほどして、学校にたどり着いた。時計を見ると、八時ニ十分を回っていた。すでに登校中の生徒たちは、ホームルームが始まっている。
職員室によると、用事を済ませ、プリント類を受け取った。
「すまんが、クラスの連中に、挨拶だけ済ませてくれないか?」
肩をすくめた。
クラスに移動すると、ちょうど一時間目の授業の支度をしていた。
「新入生を紹介する」先生は言った。
クラスの扉をあけて、教団の前に立った。
「じゃあ簡単でいいから頼んだぞ」
何を話そうか頭をひねった。
しばらく時間だけが過ぎた。
「早く話しなさいよ」少女は言った。
健斗はそのまま立ち尽くした。
「突然のことで、緊張していているの?」
「考え中」
「そりゃそうよね。いきなり、クラスに来て、みんながいる前で自己紹介白だなんて。そんなこと言われたら、頭がフリーズしてしまうものよね」
健斗は気づいた。その少女が、公園で出会った少女だと。
「さっき会った?」
少女は首をふった。「あなたのような臆病者は知らないわ」
健斗は呆然とした。
「私がお手本見せてあげるわ」少女は立ち上がった。「わたしは、七夕ユメ。好きなものは、デスソースの入ったロシアンたこ焼き。好きな言葉は、伝上天下唯我独尊。これからやってみたいことは、世界征服。でもその前に、この学園を、我が手にをモットーに、アイドルとして活動するの!」」
クラスメイトたちは固唾をのんで見守った。
「なぜ、アイドルに?」
「あなたには関係ないわよ」
「ちょっとくらいいいだろ」
「仕方ないわね」少女はうすく笑った。「わたしの最終目的は世界征服よ。その為には、まずはこの学校の生徒たちから、わたしの仲間になってもらおうと思ったの。最初の活動はアイドルで、学校をわたしのファンで満たしていくことにしたの。そうすれば、世界征服もやりやすくなるでしょ」
「すごい作戦だ」健斗は頷いた。「人は集まりそう?」
「それが難しいのよ。昨日、校門のまえに立ってビラ配りをしていたわ。そしたら、先生たちが何人もやってきて、生徒指導室に連行されたわ」
「ビラ配りだけなのに、大げさだな」
「まあ、理由があるのよ。ただちょっとだけ、丈の丈の短いキラキラした服を着て、太ももと胸の辺りが露出した格好で、活動していたのよ」
「先生、鼻血ださなかった?」
「そりゃあ、年頃の娘がそんな格好でビラを撒いているんだから、驚いた先生もいたわよ」
思わず笑った。「それはうけるな」
「馬鹿にしてないでしょうね?」
「しないよ。でも、なぜそこまで?」
「やるべきことがあるのよ」
「世界征服の他に?」
ユメは頷いた。「私だって少しくらい常識はあるわ。だけどそれだけじゃ、叶わないの目標だってあるのよ」
「重要なこと?」
「あなたには教えてあげない」
「協力できるかも」
ユメは、大きく息を吸い込んだ。「そんなの無理よ」
「そんなの分からないだろ」
ユメは突然俯いた。
「どうしたの?」
「私は、やると決めたらどんな事だっで出来る子なの!」
「失礼なことでも言った?」
ユメは制服のボタンに手をかけた。
「どういうつもり!?」
クラスメイトや先生は、理解が追いつかず、フリーズしている。
「まさかな!」
「はったりだと思う?」
「信じる!」
ユメはボタンを外すと、制服を天井へと向かって投げつけた。制服は天井にあたって、ひらひらと舞い落ちた。冷静だった健斗だけが、その出来事に対応した。
すぐさま自分の上着に手をかけると、ダッシュし、何が起こったか理解できないクラスメイトや、先生を無視し、彼女のもとまで駆けよると、上着をかぶせた。
「何するのよ」
健斗は無言で立ち尽くした。
「どういうつもり!」
「きみが、普通じゃないのはよく分かった」
「みんなと同じように、わたしを変人って呼ぶの?」
健斗は首をふった。「何だか面白かった」
「きっと、わたしは変人よ……」ユメは俯いた。
「違う。きみは、特別でかわいい」
「信じない」
健斗は彼女の瞳を真っすぐ見た。
「ぼくが、君を守る!」
「意味不明だわ!?」
「ぼくと友達になってくれない?」
「そんなの嫌よ」
健斗は優しく笑った。「初めて出会った公園で約束しただろ。友だちになろうって。だから、あの時の約束を、今ここで果たそうと思う」
「もう忘れてたわよ」
健斗は、クラスメイト達の前で、誓った。
「ぼくは、彼女と学園生活を共にしていく! だから、みんなよろしく」
クラスメイトと先生たちは何が起こった理解できなかった。
それから、一時間目の予鈴が鳴った。
そして、止まっていた時間がゆっくり時間が動き出していく。
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