~覚醒した光~
消えてしまった少女を追って、
異世界への調査を開始した二人。
そこでは、今までにない風景が二人を待ち構えている。
奥底にあったものとは?
最下層にたどり着いた。
「あ、居たわ」
健斗は地面に座る花咲紗希を発見した。
「大丈夫?」
健斗は駆け寄った。
「痛い……あたまが割れるように痛いです!」
突然、紗希は姿を変えた。
「何なの、あれ!?」ユメは驚いた。
「しまった。ここは彼女の心が反映される世界だ。もしかしたら、心の状態が不安定ないことによって、身体が変化したのかも」
「どうすればいいのよ」ユメは叫んだ。「彼女の体の周りから、黒い泡が沸き上がってきた!」
健斗はユメを庇って後ろに飛んだ。「触れちゃダメだ」
間一髪、二人は躱した。
そうこうしている間に、紗希は姿を完全に変化させた。
「まずいわ! 体全体が黒く染まって、全身から棘が突き出してきたわ」
「あれはもう、人間じゃない」
「救いましょう」
健斗は首をふった。「無理だ」
「無理じゃないわ。彼女は人間よ」
「だとして、方法がない」
「一端、距離を取りましょう」
「うぐ」健斗は、伸びてきた棘に腕を刺された。
「どうしたの!? ちょっと、腕に黒い痣が!」
健斗は自分の腕を庇った。「大丈夫。とにかく、今はここを離れよう」
二人は、その場から逃げ出した。
辺りは、岩場になっていて、クモの巣上に広がっていた。
「ここなら、なんとか隠れられそうだわ」
「このままじゃダメだ」健斗は息をひそめた。「彼女、僕らを追ってきている」
二人は大きな岩に身を隠した。
「腕の具合はどう?」ユメは声を殺して言った。
「正直にいうと、かなりヤバい。腕の感覚がない。直感的には、神経毒かなんかの一種だと思う」
「何よそれ」ユメは岩から顔をのぞかせて、辺りを観察した。
「簡単にいうと、もうすぐ死ぬかも」
「ウソよね?」
「感覚がない」健斗は首をふった。
ユメは笑った。「心配いらないわ」
「実際かなりヤバい」
ユメは胸を張った。「だから大丈夫よ。私が、解毒剤を手に入れるから」
健斗は微笑んだ。「解毒剤なんてないよ」
「あるわよ」ユメは手をとった。「ここはあの子の心が生み出し世界よ。だから、あの子が解毒剤があると信じれば、解毒剤はあるのよ!」
「だったとしても」健斗は首をふった。
「私ががどうにかするから」
二人に化け物が迫った。身体全身から棘を伸ばし、棘は伸びたり縮んだりさせた。
二人は、息を止めてその場に佇んだ。
健斗は痺れた体をどうにか動かし、石を向こうに投げた。
それは石を追いかけて、姿を消した。
「聞いてくれる?」ユメは言った。
「何?」健斗は壁に寄りかかった。
「これからは、私が一人で行って、解毒剤を取ってくる」
「無茶だ」健斗は霞む目でユメを見た。
「無茶でもやるの。ここへ誘ったのは、この私なんだから」
「ついて来たのは、ぼくだ!」
ユメは首をふった。「最後くらい、私の言うことを聞きなさいよ」
健斗はユメの腕をつかんだ。
「行くな!」
「このままじゃ、二人ともやられてしまうわ。だから、私が行くの」
「それならぼくが」
ユメは僅かに笑った。
「あなたじゃ無理」
ユメは走り出した。
健斗はだんだんと力が抜けていき、目を閉ざした。
健斗は夢を見た。
それは最悪な夢だった。ユメが闇に飲まれて行く……。
かろうじて目を開けると、それは現実のものとなろうとしていた。
ユメが、それに食われかけていた。それは大きな口をあけて、気絶した彼女を丸のみにしている。体半分くらい飲み込まれかけている。
健斗は壁に寄りかかアったまま動けない。神経毒が身体中に回っている。
健斗はふたたび、夢の中に落ちた。
「起きなさい」
何者かの声によって、目を開けた。そこは、地球でも、異世界でもないもっと別の場所だった。
「あなたは」健斗は起き上がった。
「私は、あなた自身の心です」
「ここは僕の心の中?」
「そうとも呼べますね」
健斗は頭に浮かんだことを尋ねた。
「いま僕は?」
それは言った。「あなたの身体には毒が回り、死にかけています」
「死ぬのは困る」
「なぜでしょう?」
「それは、守りたい人がいるからです」
「そうですか」それは光り輝いた。「あなたが何を望むかによります」
「何のこと?」
「あなたがいる場所は、精神世界のようなもの。つまり、あなたが望んだことが、現実に起こる場所なんですよ」
「僕は、彼女を救いたい」
「では、強く望むのです。これからあなたが向かう場所は、心によって、動く世界。そこでは、あなたが望むものが、形になる世界なのですよ」
健斗の体の中に熱いものが流れ込んできた。
「でも、どうやって望めばいいか……」
「つよく、ただ強く願うのです」
健斗は目を開けた。あれから時間は経っていない。今、目の前ではユメが喰われかけている。
健斗は、体を支えながらゆっくり起き上がった。
化け物となった紗希は、健斗を捉えた。そして、飲み込みかけていたユメを一度、吐き出すと、咆哮を上げた。
健斗は、吐きだされたユメを両腕で受け止めた。
そして、ゆっくり化け物と化した紗希に向かって、歩き出した。
次の瞬間、全身から伸びる棘を伸ばして、健斗に襲いかかった。
健斗は、目を閉じると、強く念じた。
強く。
ただ強く、念じた。
次の瞬間、千の光の剣が辺りを覆った。それは、光り輝き、邪悪なものを退けた。
健斗はゆっくりとユメを地面に降ろした。
「ちょっと待っていて」
ふらりと、よろけた。
健斗が振り返ると、紗希は、邪悪なエネルギーを口いっぱいに溜め込んでいた。
それは、一瞬で人間を消し飛ばせる力だった。
健斗はもう一度、目を閉ざすと、力を蓄えた。
もう、身体がぼろぼろで、動きが鈍くなってきている。
頭の中に、強く、何物にも負けない強い意思を凝縮させた。イメージしたものは、仲間を守りたい、という儚い思いだった。
それは咆哮を上げると、凶悪なエネルギーを解き放った。
千の悪意ある槍が、二人を消し飛ばそうと襲いかかる。
健斗は前線に立ち、それを受け止めた。
力は、盾となって変化し、仲間と自分を守った。
その間、盾は、力を吸収し、エネルギーとして取り込んだ。
健斗はため込んだ力を、最後の力によって打ち出した。
それは、聖なる奇跡となって、相手に襲いかかった。凄まじいエネルギーだった。ただ、それは人や化け物を滅ぼすための力ではなく、悪意だけを消し去る、聖なる加護を持った力だった。
化け物は閃光に撃ち抜かれると、霧散して消えた。
その後に、紗希だけが残された。
健斗は力を使い果たし、その場で崩れ落ちて、気絶した。
彼女は助かった。
健斗は、最後にそう感じて意識を失った……。
ここまで、お付き合い有り難うございます。
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