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~心の中へ~

部屋の人物を見つけた。

だが、その人物は失踪していた。

現実世界にはいなかった。

二人が向かったのは、異世界だった。だが、そこは暗く、牢獄がある変わった場所だった。

その奥にあるものとは一体……。


 健斗は立ち止まった。

「道が、ループしていて進めない」

 健斗は辺りを見た。薄暗い商店街が続いている。「このままじゃ、抜け出せない」

「困ったわね。ここって、彼女の心が生み出した世界なのよね?」

「僕たちがそう思っているだけかも」

「確かにね。なにか現状を打開する手立てを探さないと」

 視界の先に、少女が横切った。

「あれは!?」

 健斗は走り出した。たどり着いた場所は、商店街のはしにあるマンホールの前だった。

「入るつもりなの?」

 白い服の少女はすうぅと、消えた……。

「行こう」健斗はマンホールのふたを開けた。

「どこへ繋がっているのかもわからないわよ」

「それでも行ってみたい」

「案内してくれたように見えたけど、あんがい騙そうとしているだけかも?」

 健斗は頷いた。「可能性はある。だから、まずぼくが先に行く」

「ダメよ。あなた一人を行かせるられないでしょ」

「他に、確認する方法はないよ」

「いいわ。わたしも一緒に行く!」

 健斗は手すりを伝って、下まで降りた。中では、地下に向かって下水が伸びている。曲がりくねって、幾つか分かれ道があった。

 奥へ向かって降りていくと、やがて頑丈(がんじょう)(とびら)の前にたどり着いた。

「うそだろ」健斗は絶句した。

「これ、牢獄(ろうごく)よね」

 健斗は扉に手をかけた。

 次の瞬間、とびらが開いた。牢獄(ろうごく)は、螺旋階段(らせんかいだん)を描いて、さらに地下へ向かって()びている。

「進もう」

 ユメは体を(ふる)わせながら、一歩()み出した。

 健斗は、カギで閉ざされた監房(かんぼう)の一つを見た。中には、(がく)に入った絵が(かざ)られている。

「これは?」

「思い出だ」

「何?」ユメは聞き返した。

監房(かんぼう)の中、それぞれに、彼女の過去の思い出が詰め込まれている。絵には、彼女の幼少期の思い出が描かれている。家族旅行に行ったときの、『夏のひまわり』があった。他の部屋も、べつに絵が(かざ)られている。それは、彼女にとって楽しかった時の、思い出に違いない」

「あっちには鉄扉の部屋があるわ!」

 健斗はその(とびら)の前に向かった。

「開けてみよう」

「何か出てきたら?」

「ぼくが(たて)になって守るよ。開くかな……」

 健斗はとびらを開いた。中は暗闇に(つつ)まれている。壁は黒く()りつぶされ、角に机と、イスだけが置かれていた。

「ここは、どんな部屋なの?」

 中に入った。「ここは、彼女の心の奥底が表現された部屋だ」

「深層心理ってことね」

「きっとそう。この場所自体すべてが、彼女の心を反映させた場所なんだ」

「他の部屋と違って見えるのは、ここが重要な部屋だからだわ」

「ここは、彼女がもっとも(ふた)をしたい場所なのかもしれない」

「何かあるわ」

 健斗は机の上に置かれた羊皮紙を見た。羊皮紙には、彼女の絶望が記されている……。当時の彼女は、幼少期に、両親を失い、親戚中をたらいまわしにされて、生きる希望を失っていた。彼女は苦しんだ。生きるのをやめようと思うほど。だが、そのとき、生きようと思ったきっけけがあった。それは、当時、偶然見た映画があった。主人公はあらゆる苦難を受けても、前に突き進もうとした。どんなに苦しくて、どんなに理不尽でも、負けなかった。それを見たとき、彼女はその主人公のように、もう少しだけ頑張ろうと思った。

 そうした苦難を味わった先に、現在に至っている。

「彼女は相当苦しんだんだ」

 ユメは二度頷いた。「気持ちわからなくもない。両親がいなければ、小学校の遠足のとき、お弁当は誰が作ってくれたかしら? きっと、彼女だけお弁当がななかったのよ」

「辛さは、僕にだってわかる」

「簡単に言わないで」ユメは健斗を睨んだ。「遠足だけじゃなくて、運動会、クリスマス、お正月。そのすべてのイベントにおいて、彼女は一人だった。あなたに、独りの苦しみが分かるの?」

「それは……」

 ユメは思い描いた。「明日がもし、保護者会だったら?」

「ぼくには想像できない」

「私には経験あるわ。親がいると分からないのよ。いい、保護者会には、保護者が参加するか、しないのかは関係ない。学校でプリントを配られでしょ。ふつう子どもは、どちらかに丸をして、学校に提出する。だけど、親のいない子は、そのサインする貰うことができない。だって、親がいないから。そもそも、選ぶ権利すら与えられていないのよ。だって、はじめから、不参加しか選べないんだもの。だから、実際に親が、保護者会に参加するか、しないのかは、その子には関係ないの。さらに、その後だって問題よ。次の週になれば、子どもたちの中で、両親がいない子供だと(うわさ)になるわ。子どもたちは、親のいない子だと、口々に叫ぶ。それも、悪気はなしに。そう言ったことが、本人にとっては、これ以上ない苦痛となって(おそ)う……。それは、学校にいる間、ずっと、ずっと、続いていくのよ……」

 健斗は耐えられない気持ちになった。

「きみは経験があるの?」

「わたしも、お母さんやお父さんが仕事で忙しかったから」

 健斗は頷いた。「なるほど、僕もだ。ぼくも、お父さんとお母さん、仕事で忙しいから」

「引っ越してきたわよね」

「そう。両親が主張に出かけてしまって、叔父(おじ)の家に引き取られている」

「あなたにも、いろいろ事情がありそうね」ユメは頷いた。「とにかく、幼少期の彼女……現在もだけど、ずっと孤独を抱えてきて生きたのよ。この部屋は、その彼女の思いが封じたられた部屋なのよ」

 サイレンが鳴り響いた。

 健斗ははっとした。「まずい」

「長居し過ぎたわ」

「彼女の心が侵入者を感知したのかも」

「早く逃げないと」

「でもどこに?」

 健斗は部屋を出て、辺りを見回した。

「下に向かいましょう。まだ行ってない場所があるわ」

 二人は走り出した。


ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

毎日、投稿を目指しますので、

よろしくお願いいたします☆


次回の投稿は、九月八日、午後五時ころです。


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