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プリマステラの魔女  作者: 霜月アズサ
1.一番星の乙女の章
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第6話『プリマステラ・ビーム!』

 こけつまろびつやってきた村長さんの言葉に、私とシエルシータとサイカの3人は顔を見合わせ、慌てて遺跡の壁によじ登った。

 周りを見てみると、村長さんの言う通り遺跡は、数百はありそうな数の赤い光に囲まれていた。全て、獣の目玉の反射だ。


 100匹近い狼達のうち、数匹が月明かりの下に姿を見せる。

 それは、真っ黒な毛並みをした狼だった。体毛が豊富でつい撫でたくなる大きな身体をしているけど、口から飛び出た牙の鋭さに可愛いなんて言ってられない。


「ファングウルフ……魔獣の一種だね。あの牙は鉄をも噛み砕くことで有名だよ。でも、村長さんの言う通り普通はこんな暖かい地域には居ない。極寒の雪山にしか生息していなかったはず……どういうことだろうね」


「鉄……鉄をも砕く……!?」


 絶望的なその言葉に、くらりと気を失ってしまいそうになって、私は慌てて耐える。こんな群れの真ん中で気を失ったら、ファングウルフの餌になってしまう。


「しかも、こんな群れで……自然に繁殖したって感じじゃなさそうだなー。近くに住んでるじーさんが気づいてなかったんだろ? つーことは……なんだ?」


「転移魔法を使える誰かが雪山からわざわざここに送り込んだ、っていうのが1番可能性としては高いかな。魔獣か、魔法使いか……なんにせよ、厄介者であることに変わりはない。そのうち対面することになりそうだ」


 そう言ったシエルシータは、小声で呪文を唱えた。直後、シエルシータの両手に1つずつ黒い物体が現れる。


「なんですか、それ?」


「拳銃〜。魔法工学の品は市井には出回らないだろうから、見るのはこれが初めてかな? ――サイカはタイマン特化だから、群れで襲ってくるアイツらとは相性が最悪だ。ここはボクがやるから、君は2人を安全なところに!」


「わかった!」


 言葉の応酬も少なに分かれる眷属2人。シエルシータが狼の群れのもとに走っていくのを見送り、サイカが呪文を唱えた。


「《アダブ・コブレガル・ラジェフス》」


 すると、私達が立っていた場所から突然、地面を割って木々が生えてくる。

 木々は遺跡の壁に立っていた私とサイカ、地面ですっ転んでいた村長さんを枝で掬い上げると、成長しながら絡み合って1本の大樹になった。


 気づけば、私達は遺跡を見下ろしていた。


「凄い……って、村長さん!?」


 さっきから声がしないような、と思って振り返った私は、泡を吹いて倒れている村長さんを見つけて絶叫する。

 太くしっかりした枝に乗せられているから、落ちることはなさそうだけど……ファングウルフで気が動転した上、突然身体が地上から離れたから、びっくりしすぎちゃったんだろうか。確かに、さっきからご老人の心臓に悪いことばかりだ。


 というか、


「シエルシータ……大丈夫なんですか、彼1人で……!」


「あー、多分大丈夫! アイツちっこいし細っこいけど、伊達に1000年プリマステラの眷属やってねーから。まぁ見とけって!」


「せんっ……!?」


 さりげなく飛び出した情報に声が出る私。魔法使いってそんなに長生きなんだ。いや、シエルシータが特別なだけ? わからない。こうなってくると、サイカやアサジローさんの年齢も気になってくるけど……。


 ともかく、今は観戦に集中する。

 大樹の下で戦うシエルシータは、遺跡の半壊した壁を足場にして、ひょいひょいと壁から壁へ飛び移りながら、拳銃とやらを撃ち続けていた。

 ファングウルフが大胆に上から飛びかかってきても、虎視眈々と足元をすくおうとしていても、踊るように回避して撃ち殺す。


 その度に発射される弾丸は、青白い光の玉みたいな見た目をしていて、命中するたびに霧のような光を散らしていた。

 綺麗で見惚れてしまいそうになるけど、撃たれたファングウルフも爆散しているものだから、プラスとマイナスでゼロといったところ。


 しかし不思議なことが1つあった。既にシエルシータは50体近く殺しているはずなのに、襲ってくるファングウルフの数があまり減っていないようなのである。

 むしろ増えているような気さえしてくるし、どれだけ同胞を殺されても一向に怯まない彼らに恐怖と、少しの違和感を覚えてくる。


 と、不意にサイカに名前を呼ばれた。


「ステラ。夕方、竜と戦った時に撃ったアレ……もう1回できるか?」


「え、アレって……シエルシータとやった光線のことですか?」


「あぁ。見てた感じ、あの狼達は普通じゃない。なんか……上手く言えねーけど、どす黒いもんにまとわりつかれてる。多分、呪われてんじゃねーかな。だから、普通より凶暴でおっかなくなってる。数が減らねーのもそのせいだと思う」


 見ろ、とサイカはある一点を指差した。そこに居たファングウルフ達は次の瞬間、シエルシータの魔法弾に撃たれて爆散する。シエルシータは飛び散る血にも構わず、すぐに別方向のファングウルフのもとへ向かっていったけど、


「あ」


 私は声を漏らす。弾けたファングウルフの身体がもぞもぞと動いて、2つの塊に分裂した。塊はそれぞれ肉塊を繋ぎ合わせ、変形し、元の狼の姿を形作る。変形直後は小型だったけど、ゆっくり元のサイズまで膨張しているような……。


「あぁやって、殺されても分裂して再生してるんだ。だから、殺しても殺してもキリがない。多分、何も残らないように殺さないとダメなんだ。シエルシータもそれに気づいてんだろうけど、対抗策が思いついてねー感じでさ」


「そうですね……」


 ファングウルフの数が多いからだろう。シエルシータは彼らへの対処でかかりっきりで、考え事をする余裕がなさそうだった。

 弾の1発1発が大きくなっているから、骨も残さず殺そうっていう意思は見えるんだけど……弾のサイズに加工を加えている分、ちょっと動きが鈍くなっているみたい。火力では圧勝しているようだけど……このままだとシエルシータが危ない。


「思い出せるか? あん時の感覚」


 そう言われて目を瞑る。あの時、シエルシータに言われた言葉を思い出す。

 『全身の力を杖に集中させて、アイツをぶち抜く強烈な1発を想像するんだ』。彼はそう言っていた。


「……いけます、やりましょう!」


「よしきた! 攻撃は頼んだぜー、プリマステラ様!」


 力強く答えた私にニッと笑って、大樹を猿のような気軽さで飛び降りていくサイカ。シエルシータのもとに向かっていった彼は、遺跡の壁をアクロバティックに飛び移りながら何かを唱えると、箒を召喚し、箒に飛び乗った。


「シエルシーターー!!」


 大声で叫ぶサイカに、ギョッとした様子の少年。彼の隙を狙って後ろからファングウルフが跳ねてくるが、ノールックで撃ち落とした。凄い。

 私が驚いていると、箒をかっ飛ばすサイカは攫うようにシエルシータを抱き上げて、夜空に向かって上昇していった。


 これで2人の避難は済んだ。あとは、私が頑張らなきゃ。


 私はワンピースのポケットから杖を取り出し、地上に見えるファングウルフ達に向けて構える。

 彼らの数はいま、何百匹なんだろう。個が見えなくなって、黒い波のようになった獣達を前に、私は息を呑んだ。


 ていうか、今思い出したけど。魔法を使う時って呪文が必要だったはずだ。前回はシエルシータの呪文を使ったけど……今、魔法を使おうとしてるのは私だけ。シエルシータは今、サイカと一緒に上空に居る。


 ……なんて詠唱すべきなんだろう?


 首を捻っていると、私の気持ちもつゆ知らず、サイカが遠くから手を振ってきた。


「ステラーーッ! ビーム! ビームぶちかませーーッ!!」


「……!」


 私は目を見開いた。


「……これだ」


 手にしていた星の杖を握り直す。息を整え、強烈な1発を頭に思い描いた。

 杖の先端に、赤い光が集まってくる。前回は青色だった気がするけど、今回はシエルシータが居ないから色が違うみたいだ。赤。私の目の色。


 集まる光は球体になって、今か今かと放たれるのを待っていた。


 どこからか吹いた風が、私の髪を巻き上げる。


 これで不発だったらどうしよう。正直竜と戦っていた時はシエルシータのおかげで魔法が使えた節があるから、私1人で出来る自信がない。ただ呪文を唱えた人になっちゃったらどうしよう。絶対恥ずかしい。


 最後の最後で不安が押し寄せる。でも、私は前回学んでいる。違うことに意識を使うと多分、失敗するのである。不安は声に出して消化しよう。


「……不発は嫌だ」


 ――私はただ、魔法を使うことだけに集中する。


「不発は嫌だ、不発は嫌だ、不発は嫌だ――くらえっ、プリマステラ・ビーーーーーーーーーーーム!!!!」


 叫んだ瞬間、収束し続けて私の頭ほどの大きさになった光の球が、一直線にファングウルフの群れの真ん中に飛んでいった。

 光が尾を引いて、見事なビームになる。着弾した球は爆発を起こし、ファングウルフ達を飲み込んだ。それと同時、一帯の大地を粉々に粉砕し、砂塵を巻き上げる。


 熱風が弾けて、森の枝葉が一斉にざわめく。大地が揺れて、私の身体が大樹から投げ出された。


「うわっ!?」


 突然の浮遊感に肝を冷やす私。え、これは流石に死ぬ。


 予感した私はぎゅっと目を瞑る。走馬灯が見えた。最初に見えたのは、高かった紺のワンピースを奮発して買ったことだ。あれ高かったな。2万したもん。でも、初めてのデートだったからどうしても――待って、これなんの記憶!?


 突然脳内再生された光景に、私は目を開ける。めっちゃ気になる。ちょっと待って、まだ死にたくない、死にたくない、どうにかなりませんか!? プリマステラ・時間停止とか出来ませんか!? プリマステラ・時間停止!


 そう、よくわからないことを考えながら慌てふためいていると、不意にその音は聞こえた。


 な……なんだろう、この音。

 ブゥゥゥゥゥゥンみたいな、バルルルルルルルみたいなエンジン音。


 気になって、ふとその音の方向を見ると、そこには2つの影があった。


 片方は乗り物に乗った男の影だった。乗り物は前後に車輪がついていて、男の人は頭に防具を被っているみたい。乗り物――私が知っているものの中だと自転車が1番それに近いんだけど、なんなんだろう。自転車より速いし、重そう。


 もう1つは箒に跨った少年の影。シエルシータよりも少し長いくらいの、金髪ミディアムヘアが特徴的な男の子だ。服装や背丈からして、10代後半から20代前半って感じの雰囲気だけど、ツンとした鼻が愛らしい。


 2人とも、猛スピードでこちらに突っ込んでくるけど――誰なんだろう。


 主に前者の男性のせいで、かなりカオスなことになっている光景を前に、落下中であることも忘れ、ぼんやりと考え込む私。すると、金髪の少年がこちらに向かって手を伸ばしながら、必死の形相で叫んだ。


「姫ーーーーーーッ!!!」


 ……え、姫?

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― 新着の感想 ―
[良い点] ファングウルフの凶悪さと厄介さが尋常ではないですね。人為的なものも感じられて、なんで襲ってきたのか。とても興味深かったです。プリマステラビームや失われた記憶など、少しずつ明らかになる謎や能…
[一言] あまりに周囲とは違う詠唱にずっこける暇もなく、急展開へ! バイクと箒? 姫様が初デート?? なんだか時代も場所もバラバラなような……
[良い点] まだ全然前の違和感消化できてないのに、ここに来て「姫」とか、また気になる単語をーッ! これ、一体どうなってるんだろうか。そして一体、どうなっていくんだろうか。私、気になりますッ! ('◇…
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