出会い
ここはランダの森の中。一人の少女が魔物から逃げていた。
「ハア、ハア・・・。どうして、この森にデスウルフがいるの!?」
少女の名前はナタリー。彼女は女剣士のDランク冒険者である。このランダの森はギルドがDランク冒険者を推奨しているクエスト地だ。今、ナタリーを追いかけているデスウルフというモンスターは、難易度Bランク級のモンスターで、ナタリーでは歯が立たないから逃げているのだ。
「そ、そんな!!」
逃げるナタリーの眼前には地面が見えない程の崖。落ちれば命の保証はないだろう。ナタリーは逃げるのを諦めて、デスウルフに立ち向かう決心を固めた。
「ガルル・・・!!」
デスウルフは、凶悪な鳴き声を発しながらナタリーを睨む。ナタリーは装備の剣を両手で構え、デスウルフの攻撃に備えている。
「デカい・・・!!高さは5メートル以上あるけど、気迫もあるからそれ以上に大きく見えてしまう。」
ナタリーはデスウルフの強さを目の前でひしひしと感じてしまい、攻撃をためらっていると、デスウルフが攻撃を仕掛けてきた。デスウルフは猛スピードでナタリーに突進していく。その直後、デスウルフの頭上から何者かがもの凄い速さで落ちてきた。
「な、何なの!?」
辺りは砂煙に包まれた。ナタリーは目を閉じるしかなく、砂煙が無くなるのをただ待っていた。
「あんた、大丈夫だったか?」
突如、砂煙の中から声が聞こえてきた。そして、その中から黒髪の男が出てきた。顔は生気が無く、脱力感に満ちた雰囲気をまとっている。そして、砂煙が消えていくとデスウルフが気絶して横たわっていた。
「だ、大丈夫です。あの、助けていただきありがとうございました!!」
ナタリーは、男に感謝を告げ、頭を下げた。
「いいって、気にすんな。」
そう言って男はその場から立ち去ろうとする。
「あの、せめてお名前だけでも!!」
ナタリーの言葉を聞いて、男は一瞬立ち止まった。そして、振り向いてこう言った。
「俺の名前はルーク。またどっかで会えるといいな。」
男はそう言って、もう一度あるきはじめた。
「カッコいい・・・。」
ナタリーはルークを羨望の眼差しで見つめていた。しかし、突然、ルークは再び振り返ってナタリーのところまで走ってくる。
「ごめん、道に迷った。帰りの道案内して。」
ルークは冷や汗をかきながら必死の顔でナタリーに懇願した。ナタリーは白い目でルークをガン見しながらこう言った。
「ダサい・・・。」
二人は会話しながら森を歩いていた。
「そういえば、ルークさんお強いですね。あのデスウルフを一撃で倒すなんて。」
「ん?さっきの狼のことか?うーん、よく分からん。」
「あの、ルークさんて冒険者ですよね?」
「ああ、まあ一応そうだけど。」
「やっぱり!!あの強さならBランクですか!?それともAランク!?」
「俺は、・・・Fランクだ。」
「え!?冗談はいいから本当のことを教えてくださいよ。」
「それよりも聞いてくれよ。ランダの森でしか採れないサンダーキノコ!!この口の中で痺れる味わいのキノコ!!帰ったら食べさせてやるよ!!」
ルークはそう言うと、小走りで先へ歩いて行った。
「あ、ちょっと待ってくださいよ!!(今ごまかした?)」
ギルドへ戻ると、受付係の女性から報酬を受け取るナタリー。
「これで・・・、マジックソードが買える!!」
マジックソードとは、剣から魔法を繰り出せる武器である。装備者のチカラにより、使える魔法の種類と強さが変わる。
「へえ、良かったじゃねえか欲しいのが買えて。」
「ルークさんは報酬はどれくらい貰いました?」
「俺は報酬は貰ってない。何故なら、クエストは受けていないからな。」
「じゃあ、何のためにランダの森に?」
「ただの採取だ。欲しいモノは現地で探して手に入れる。だから報酬は必要無い。」
(何だか変わった人だなあ、ルークさんは)
ナタリーは不思議そうにルークを見ながらそう思った。
「あの、ルークさん。」
「ん?何だ?」
「その、今度から一緒にクエストに行きませんか?」
「ああ、別にいいよ。」
ナタリーはルークの人となりに興味が涌いていた。このルークと名乗る謎の冒険者の正体を知りたいと言う好奇心に充ち溢れていた。
その頃、ギルドを領内におくビルサス王国の王の間にて、兵士が国王にある報告をしていた。
「ランダの森にて、デスウルフが倒れているのを発見しました。」
「今度はデスウルフか。先日のガルバ海に現れたブルークラーケンといい、クエストランクを超えるモンスターが続々と目撃されておるのう。」
国王は困惑した顔で兵士に話す。
「やはり、魔王が復活したという噂は本当なのでしょうか?」
「それは分からんが、その可能性は充分ある。だが、今ここでその噂を国内に広めても混乱するだけじゃ。まずは情報を出来るだけ多く集めて確証が得られるまでは、魔王復活のことは内密じゃ。」
王国から遠く離れた空は暗闇が広がっていた。