7.お話があるそうです
鈴瀬と話してから数日。
依然として俺の心は晴れなかった。
俺を裏切った王女。俺はベルタを生かす代わりに処刑されたはずだ。
しかし、ベルタは今俺と同じ世界にいる。
…どういうことだろう。
全く関係のない人間の体に乗り移った俺とは違い、ベルタは容姿すらも変わっていない。
俺とは違う方法で転生したのか…それならばどうやって。
とにかくこれはいい機会だ。
俺は有馬菊として鈴瀬の弱みを探しだして、その身を滅ぼす。
——前世、彼女が俺にしたのと同じように。
それから俺は鈴瀬の弱点を探しまくった。
何か一つでいい。鈴瀬を破滅させるに足る情報はないのか…。
しかし俺の求めるようなものは一向に見つからない。
友人たちは口を揃えてあんなに良い人はいないと言うし、成績も優秀で、おまけに良家のご令嬢なのだそうだ。
完全なるチート…同じ転生者なのに俺とは大違いだ。
有馬菊はたしかにトランペッターとして優れているのだが、その他の面においては…いや、やめておこう。
部活後の誰もいない音楽室で一人悶々としていると、不意にガラリと扉が開けられた。
「何一人で唸ってんだ?」
そこには欠席の柴田に代わって終了報告を済ませた佐々木が立っていた。
「あ、いや、これは!か、考え事だよ」
「そうか?最近お前変な時あるよなぁ。何か悩んでるなら言えよ」
「…ありがとな。大丈夫だよ」
そう言った俺に、佐々木は少し訝しげな目を向ける。
まさか正体を疑われているのだろうか…。
というのも、俺からしてみたら佐々木の方が最近変なのだ。
それも俺に対する時に限って。
二人でいる時には会話に視線を泳がせたり、何かを打ち明けようとして思いとどまるような節さえ見せる。
「お前こそ何か…隠してるんじゃないのか」
チラリと顔を伺うと、佐々木はまたしても思い詰めたような色を浮かべている。
しかし俺の視線に気がついたのか、また少しためらうような仕草をして、結局諦めたようにため息をついた。
「…有馬、この後時間あるか」
「え?今日はそのまま塾行くんじゃ」
「俺のことはいい。それより、お前に話さなきゃいけないことがあるんだ」
硬い声と真剣な表情に、俺はつい首を縦に振ってしまった。
道中も無言のままに連れて行かれたのは、先日の大会の帰りに寄った店だった。
一瞥してアイスコーヒーを頼んだ佐々木は、指先を微かに震わせながら俺に早く注文を済ませろと催促してくる。
仕方がないから大してメニューも捲らずに同じものを頼んでしまった。
「それで、俺に話っていうのは?」
指を顔の前で組んだままたっぷり間をあける。そして佐々木はようやく声を絞り出した。
「…鈴瀬のことなんだけどさ」
——鈴瀬紫音。
その名前は嫌でも俺の脳を揺さぶった。
ピクリと動いてしまった手は、佐々木には見えていないはずだ。
あくまで表情は変えない。
「最近お前鈴瀬のこと聞いて回ってるらしいじゃん。もしかして、鈴瀬のこと好きなのかな…なんて」
…なんだ、そんなことか。
佐々木には悪いが拍子抜けしてしまった。
てっきり鈴瀬の正体についてだとか、俺と鈴瀬の関係を問いただされるものかと思っていたから…ただの若者の青春かよ。
「ほら、こないだ鈴瀬と二人で話してただろ。たまたま見かけてさ」
しどろもどろになりながらこちらを伺う。
そんな佐々木がなんだか幼くて、ついプッと吹き出してしまった。
「な、なんだよ!」
「いやぁ、悪い悪い。そんなこととは思わなくてさ」
「そんなことって…」
「お前、鈴瀬のファンなんだっけ?待ち受けも鈴瀬にしてるんだよな。お前の方こそ鈴瀬のこと好きなんじゃねーの?」
俺がそう言った途端、佐々木は顔を真っ赤に染めた。
そして恥じらうように目の前にあるテーブルの隅を見つめている。
なんだお前は、恋する乙女か。
そんなツッコミは胸に留めておいて、俺は先程までの緊張した空気を吹き飛ばすように軽く言った。
「鈴瀬は芸能人だからなぁ。一般人と付き合うなんて難しいか…あ、でもお前女子にモテるんだっけ。顔は良いし、案外いけるかな」
俺の言葉に佐々木は少し俯いてしまった。
…言い過ぎたかな。
頼んでいたアイスコーヒーが二つ運ばれてきた。グラスの表面に結露した水滴がテーブルを濡らしていく。
カランと爽やかな音をたてる氷の隙間にストローを刺して、グッと喉を潤した。
「…それなんだけどさ」
佐々木はアイスコーヒーには手をつけず、居心地が悪そうに椅子に座り直した。
そのまま彼は何も言わずにスマホの画面を数回タップし、スッと俺に差し出してそれを見せた。
「——!?」
そこには俺の全く予期しない写真が映っていた。
冬空の下、カメラを持つ佐々木に満面の笑みで抱きつく鈴瀬。二人の首には揃いのマフラーが巻かれていた。
画面を覗き込んだまま固まってしまった俺に、佐々木は小声で告げた。
「俺、鈴瀬と付き合ってるんだ」
シフヰです。
第5話を投稿した際にブックマークのお話をしましたが、今回は加えて評価ポイントをいただいてしまいました…!
いや、他の作家様の素晴らしい作品なんか見てるとたくさんポイントついてるじゃないですか…でも私の拙い作品じゃ1ポイントがせいぜいかな…なんて思ってたので!すごく!嬉しい!
ブックマークして下さった方、そして評価して下さった方、心から感謝申し上げます。
そしてもちろん最後まで読んでくださった方も!閲覧ありがとうございました!




