3.王女の存在
大会は無事に何事もなく終わった。
周囲の反応を見るに、結果も良好だったのだろう。笑顔で各々の楽器を片付けていた。
大会中に分かったことがある。
それは、有馬が出来ることは俺にも出来るということだ。
実際にラッパを吹いたことなどない俺でも大会を完璧にやり遂せたのだ。不思議なことに、何も意識せずとも勝手に指は動くし、唇は震えて柴田と同じように美しい音を鳴らした。
俺にしてみれば都合のよい話だ。
荷物をまとめていると、佐々木に声をかけられる。
「有馬、来月からの練習予定送っといたからな。ちゃんと見とけよ」
どうやらメッセージを送付されているらしい。その手段は先程から何度か周りの者たちが電話を使っているのを見て把握済みだ。
電話を起動させ、緑色のマークを押し、『佐々木』の文字を探す…すぐに見つけることができた。
彼の名前は佐々木賢介というのか。たしかに何かの紙が送られてきている。
「ありがとう。この後はすぐ解散かな?」
「あぁ。俺も柴田ももうすぐ支度終わるから、ちょっと待ってろ」
有馬たちは随分と仲が良いようだ。柴田と有馬は険悪に見えたが、あれも親交ゆえなのだろうか。
そういえば前世でもそういう関係の奴らがいたな。
騎士団の英雄二人はいつも作戦会議でいがみ合っていたが、一度戦場に出れば彼らの右に出る者はいなかった。
互いへの信頼が強く魂を結んでいた。
そういう関係を少し羨んだ日も…あったかもしれない。
佐々木の言葉通り、二人は数分で荷物をまとめた。
「この後どっか寄ってくか?」
「俺は別にいいけど」
「柴田が来るなんて珍しいじゃん。ゲームキャラで言ったらSSR並だな」
「うるせぇ」
二人の会話を聞いている限り、柴田はどうやら口数が少なくて多少…いや、かなり口が悪いだけのようだ。危険人物ではないだろう。
これからこの世界でやっていくには、どうしたって気を許せる相手がほしい。
この二人なら信頼できるだろうか。
「てことで、有馬も行くよな?」
「…え?あ、悪い、よく聞いていなかった」
なんだよーと言いつつも、佐々木は電話の画面をズイッと俺に差し出した。
「ここ。ついこないだ新しく出来た店なんだけど、めちゃくちゃ美味いって評判なんだ。俺と柴田はこれから行くけど、お前も来るよな」
見れば、なるほど、たしかに美味そうな料理の絵が並んでいる。
「うん、俺も行くよ」
昼に食べた妹の弁当はなかなかだったが、あれだけでは少し空腹だったところだ。ちょうどいい。
そう思っていると、ふいにフッと電話の表面が黒くなった。
「…あ」
「ん?あぁ、落ちたのか。悪いけど画面つけといてくんねぇ?」
起動する、ということだろうか。
先程と同じように右端の出っ張りを押してみる。
——すると。
「ッ!?」
思わず電話を取り落とす。四肢が震えて上手く動くこともできない。
こんな、ことって。
「うわっ!急に落とすなよ。画面割れるだろ」
危ねぇなぁなどと愚痴を言いながら、佐々木は電話を拾い上げる。その表面に描かれた絵は。間違いない。
「ッ…これ、は…」
「ん?なんだよ。俺がコイツ待ち受けにしたら悪いかよ」
「…お前、昔から鈴瀬のファンだもんな」
「い、いいだろ別に!」
鈴瀬。そこにいる彼女は、今はそういう名前なのだという。
信じられない。どうしてあなたがこの世界に。
そこにいたのは、俺が復讐を誓った相手——王女ベルタだった。




