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Trigger〜悪霊浄化異聞〜  作者: 藤波真夏
明智大学大学院襲撃編
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新しいヤタガラス〜Original appearance〜

新しいヤタガラス〜Original appearance〜



 驚いた。

 私たちの目の前に現れたのは、他でもない大浜先生とタイコウだった。今自宅待機中ではなかったの? タイコウに至っては軽い怪我をして病院へ通院中じゃなかったの?

 様々な疑問が私の頭の中で飛び交った。

 二人の口から飛び出した発言に、私たちはさらに驚いた。

 しかし同時に新しいヤタガラスになるきっかけになったのかもしれない。



 時間は遡って三日前。

 午後二十時。草薙館。所長室。

 所長室にある電話が鳴り響いた。ヒジリは受話器を取って耳に当てた。

「はい、日本御霊浄化組合です」

『夜分遅くにすいません。大浜です』

「大浜さん?! 今回の明智大学火災事件に巻き込まれたと綿津見から聞きました。ご無事でなりよりです」

 電話の主はアズミだった。突如としてかかってきたアズミからの電話にヒジリは驚いている。

 アズミはご心配をおかけしました、と続けた。

 ヒジリはアズミの無事に改めて安堵したが、電話の用件を聞いた。するとアズミはヒジリにあることを願い出た。

『明智大学の建物は崩壊し、あそこにあった浄化水晶は砕け散りました。多くの研究者が絶望することでしょう。貴重な水晶が塵になったんですから。だけど、私はこんなところで絶望するわけにはいかないのです。金山所長から阿部さんをお預かりしている以上、ここで停滞するわけにはいかない』

「確かに。明智大学大学院の悪霊研究は悪霊対策部が認めるほどに信頼度も高く、日本の中でも悪霊研究の第一人者が集まる。大事な研究機関が止まっては悪霊に殺られるばかりです」

 私から金山所長へお願いがあるのですが、とアズミは申し出た。改まったアズミの声色にヒジリはその申し出を待った。

 アズミの呼吸音が電話越しから伝わる。彼女がかなり緊張していることが伝わって来る。


『明智大学大学院が再建し稼動できるその日まで、私がヤタガラスの正式な研究者として所属してもいいでしょうか?』


 ヒジリは驚いた。

 長い間ヤタガラスは人員不足などの諸般の事情により研究者が長い期間就任していなかった。日本御霊浄化組合では研究者が必ず一人在籍しており、悪霊研究並びに浄化師の武器の調整なども行う重要な役回りを担う。

 組織にはいなくてはならない存在だった。

「しかし明智大学大学院にあった多くの書類は燃えたはず」

『その辺は心配ありません。書類は以前より私の自宅の方に移していました。燃えてしまったのは浄化水晶や薬品なので、大事な書類は全部無事です。研究場所があれば動けます』

「そうでしたか・・・」

『金山所長。私が一時的にヤタガラスに所属する根底には研究を続けたいなどの研究者が持つ追及力と解明欲を孕んだエゴに過ぎません。実際、私にもそのエゴは存在しています。しかし私にはツキヨミの力の謎を解明したいと思っています。もしこの申し出を受け入れてくだされば、私の持てる全ての知識をヤタガラスのために捧げ、お力になると約束します』

 アズミの言葉にヒジリは考えた。彼女の声色は本物だ。しかも星見アマツ事件でも彼女とタイコウの助けがなければ解決できなかった。それは紛れもない事実だ。

 ヒジリの口が動いた。

「分かりました。是非ヤタガラスへ来てください」

『本当ですか?! 感謝します』

「大浜さんには以前助けていただいたご恩や阿部のことをお任せしている手前があります。ヤタガラスは今後凶悪な悪霊と対峙することもあります。必ず研究者を迎えなければならない状況ではありました。大浜さんが来てくれるのであれば心強いです」

 ヒジリが快諾した。それに対してアズミは何度もお礼を言った。

 ヒジリはその話の流れでアズミの研究室に所属しているタイコウも「研究者見習い」という肩書きでヤタガラスに所属させることをアズミに提案した。

 アズミは最初あいつを巻き込むわけにはいかないと拒否したが、ヒジリはこう告げた。

「大浜さん。木俣くんは将来の研究者の卵のような存在です。しかも彼は知識を蓄え、経験を積む大事な時期だと俺は思います。だからこそ、俺は木俣くんを「研究者見習い」として迎えたいと思っているんです」

『・・・そうですか。金山所長がそう言うなら、私から木俣に伝えます』

「お願いします。あくまで彼の意思を尊重してあげてください」

『分かりました。ではありがとうございます』

 互いに挨拶をして電話を切ったのだった。



 時間は進み現在。

 パブリックルームに集められたスセリたちにヒジリは電話での会話を説明した。

「じゃあ大浜先生と木俣がヤタガラスに期間限定で配属されることが決定してるんですか?」

「ああ。大浜さんたちが来る前に綿津見に連絡して許可はもらっている。近いうちに悪霊対策部から正式に日本御霊浄化組合研究者証明証と腕章が届くはずだ」

 ヒジリはそう言った。

 スセリはミホに耳打ちをした。

「ミホ。日本御霊なんとかって何?」

「日本御霊浄化組合研究者証明証(にほんみたまじょうかくみあいけんきゅうしゃしょうめいしょう)。うちら浄化師と同じように組織に属する研究者も悪霊対策部が発行した証明証が必要なんや」

「へえ・・・」

 スセリが頷いた。

 勿論各研究施設で悪霊や浄化水晶の研究をすること自体は証明証の発行は不要だ。しかし、日本御霊浄化組合に所属するとなると話は変わってくる。必ず悪霊対策部に話を通して手続きを踏み、研究者証明証を発行してもらわなければならないルールがある。

 日本御霊浄化組合に所属している研究者の証である腕章は研究者にとってみれば誉にも近い名誉なのである。

「というわけなんだ。このヤタガラスにも期間限定ではあるが、研究者が配属となった。これで悪霊の脅威からカワグチをより守れるようになった」

 ヒジリの言葉にスセリ、ミホ、サトミ、ヨシキの順で席から立ち上がり、口々に言葉をしゃべる。

「大浜先生。タイコウ。これからよろしくお願いします!」

「すごい人が仲間になって嬉しいわあ! サトミ先輩! そう思わんですか?!」

「ええ。私たちにとってみれば心強い仲間に変わりはないわ」

「確かに。これは心強い。シュンさん、どうしたんですか? あまり良く思ってないとか?」

 ヨシキが目を移したのは、席に座りアズミとタイコウをまっすぐに見つめるシュンの姿だった。ヨシキはシュンがアズミとタイコウの加入を良く思わないのではないか、と憶測を立てた。

 見えてくる未来は真っ向反対からの散り散りの最悪の姿だ。

 ヨシキはシュンに恐る恐る聞くとシュンはゆっくりと立ち上がった。

「とんだよそ者が来るよりよっぽどいい。何より俺たちの武器を改造してくれた恩人でもあるからな。俺は反対しねえよ」

 シュンはそう言った。

 それを聞いたヨシキは胸をなでおろしたのだった。

 ヒジリは全員が認めてくれたと踏んで改めてアズミとタイコウに挨拶をするように言った。

「改めて私は私の持っている全ての知識と技術をヤタガラスに捧げ、悪霊浄化に貢献することをここに約束します。木俣共々よろしくお願いします」

「正直ここに所属してよかったのか僕はまだよく分かりません。でも、皆さんのお役に立てることができるなら僕も全力で頑張る所存です。よろしくお願いします」

 タイコウが頭をさげるとシュンがニヤリと笑った。

「これはシバき甲斐のある新人が来たもんだな」

「シュンさん。新人いじめはやめてください」

 ヨシキがシュンに言った。



 午後十八時。草薙館。パブリックルーム。

 パブリックルームではアズミとタイコウのヤタガラス加入祝いパーティーが行われていた。テーブルには大量のご馳走が並び、全員が舌鼓をしていた。

「大浜先生。これからは草薙館で一緒に暮らすんですか?」

 スセリが聞くとアズミは答えた。

「いずれはそうするつもりよ。一週間後には草薙館に荷物を搬入して暮らせるようにすうるわ。それまでは色々と手続きもあるからまだ通いになるわね」

 アズミは一人暮らし、タイコウは実家暮らしをしている。アズミとタイコウはヤタガラスの慣習に従い、草薙館での共同生活をすることを決めた。

 荷物の片付けなどがあるためしばらくは草薙館へ通い研究を重ねることになる。

「ここでの生活が楽しみだわ。そして何より、阿部さんが近くにいるから何かあったら聴けるものね。ツキヨミの解明にも近づく。なんて手っ取り早いのか」

「大浜先生。なんか目がギラギラしてて怖いです・・・」

 スセリがそう言うとタイコウが小さい声で言った。

「これじゃあ、マッドサイエンティストと同じだよ」

「おい、木俣。なんか言ったか?」

「・・・いいえ。何も言ってないっす」

 タイコウは萎縮して返事をした。ならいい、とアズミはそう言って食事を再開した。



 こうしてヤタガラスに研究者として大浜アズミが、研究者見習いとして木俣タイコウが加入し、本来のヤタガラスの姿になった。

 新しい仲間を加えたヤタガラスは活気にあふれ、今後の活躍を楽しみにしながら一日が過ぎ去っていったのだった。



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